オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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怪物の死線 壱

何体何十体モンスターを屠ったかもう覚えていない。言えることはただ一つ、目の前の畜生共を殲滅するまで動き続けなければいけないと言う事だ。

 

『キュイ! ギィィッ!』

 

3体のアルミラージが同時に総司目掛けてトマホークを投擲して来る。ヘルハウンドの火炎ブレスも迫っていた為空中へ逃げる他道は無かった。

 

「くっ・・・!」

 

空中で飛び上がった総司に2体のヘルハウンドが襲い掛かる。瞬時に頭を斬り飛ばしたが、屍の陰からアルミラージの蹴りが飛んで来る。

空中で身を翻す事で衝撃を和らげ地面に着地すると数体のアルミラージ、ヘルハウンド、ジャイアントエイプが総司を取り囲む。

 

「・・・・・・」

 

ジャイアントエイプの拳が迫って来るので【虚狼(うつろ)】で躱しそのままジャイアントエイプの腕を伝って包囲網から脱出する。その際ジャイアントエイプの首を斬りつける。他のモンスターよりも太く頑強な為飛ばす事は出来ないが、命を奪うくらいは容易い。

 

「リリちゃんッ! 後ろッ!!」

 

ボウガンを放つリリの背後からヘルハウンドが2体迫っていた。咄嗟に総司は脇差しを投げるが1体しか足止め出来なかった。

 

「あぐぅ!」

 

「リリッ!」

 

ヘルハウンドの突進に地面に倒れるリリにベルが助けに行った。サポーターにこの大量のモンスターを相手するのは厳しいものがある。

 

「大丈夫!?」

 

「は、はい・・・」

 

「ヴェルフは!?」

 

「何とか生きてる・・・」

 

リリとヴェルフの生存を確認すると一度安心するが2人とも疲弊している。早くこの状況を打開しなければ・・・

 

「ベルさんッ!」

 

「総司ッ!」

 

脇差しを回収し周りのモンスターを片っ端から屠りながらベル達の下に戻る。【鬼子・半】の反動と連戦による疲労でかなり消耗している。回復ポーションを飲んでいる暇も無い。常にアルミラージの投擲を警戒せざるを得ない。

 

「・・・ここは僕が引き付けます。だから、その間に逃げて下さい」

 

「なッ・・・総司、一体何を! そんな事出来る訳ーーー」

 

「これしか方法は無いッ! この中で時間を稼げるのは僕しかいないんです!」

 

ヴェルフやリリでは中途半端な時間しか稼げない、ベルも全員を引きつけるのはほぼ不可能。しかし総司なら全員引きつける事が可能だ。どうやら【鬼子】を全開で発動させるとモンスターを引きつける効果があるようだ。

 

「でもそれじゃあ総司が・・・!」

 

「・・・良いんですよ、僕は死んでも。死に方も選べず死ぬのが一番辛い・・・でも今回は討死に、武士として誇りを持って死ねるなら本望なんです」

 

生前病死した総司は仲間共に戦死する事を望んだ。しかしその願いが叶う事はなかった。その悲願が漸く叶えられそうなのだ。

 

「それに僕は・・・もう二度と仲間を失いたくないんです。もしこのまま戦って誰かが死んだら・・・僕は、僕は・・・!」

 

耐えられない。総司がこれまで見て来た様々な死、それは人の心を壊すくらい容易いものだ。それに耐えきれず逃げ出した仲間も”鉄の掟”に従って沢山殺して来た。

オラリオで天下を取る”夢”を果たせなかった事は心残りではあるがーーー

 

「総司ーー「ふざけろッ!!」ーーヴェルフ!?」

 

ベルの言葉を遮ってヴェルフが怒鳴り声を上げる。初めて見せた怒りは敵に対してではなく味方に対してだった。それ程までに許せなかったのだろう。

 

「討死にが本望? 誰も失いたくないだぁ? 馬鹿な事言ってんじゃねぇッ!!」

 

「ッ!」

 

驚いた総司は思わずヴェルフの方に顔を向ける。

 

「残されたオレ達がどれだけ悲しむか考えてから言えッ! 死なせたくないのは俺達も一緒だッ!!」

 

情熱に満ちた言葉が総司の心に響き渡る。

 

「誰も欠ける事なく、全員で生きて帰るんだッ!! もう一度そんなふざけた事言ってみろ、ぶっ飛ばすぞッ!!!」

 

息を切らしながら怒鳴るヴェルフは真っ直ぐ総司を見据えている。

 

「そうですよ、総司様。一人だけカッコつけないで下さい」

 

「死んでも良い人なんてこの世には居ない。総司が僕達の為に命を懸けるって言うなら、僕達も総司の為に命を懸ける。それが仲間ってものでしょう?」

 

認識や仲間としての在り方は人の数だけある、しかし総司の考えは仲間の事を考えているようで自身の事しか考えていなかった。自分よりも歳下の人間に気付かされた。

自身を恥、そして断ち上がる。

 

「すみませんよりもありがとう、ですね。皆さんのおかげで自分の歪みに気づけました」

 

一点の曇りもない清々しい笑顔で総司は呟く。

 

「守る為に死ぬのではなく、何も失わない為に戦う・・・僕はーーー」

 

総司は仲間と共に生き抜く為、生まれて初めて己を律する”鉄の掟”を破る。

 

「それで、どう切り抜けるんだ?」

 

「逃げ切れないにしても、もっと距離を取りましょう」

 

「突破口なら・・・」

 

「魔法で強引に突破するッ!」

 

互いに背中を預け固まって武器を構えながら「逃げる」事を選択する。

 

「《ファイアボルト》!!!」

 

ベルの魔法攻撃が包囲網の一角に炸裂し道が開く。その道を4人は進むと撃ち漏らしたモンスターが襲いかかって来る。

 

「総司は右をお願いッ!」

 

「了解ですッ!」

 

ベルは左のモンスター、総司は右のモンスターを斬り倒しながら只管前進する。また囲まれては元も子も無い為必死にモンスターを倒しまくる。

 

「逃げ切れないにしても、もっと距離をーーー」

 

広場を抜ける寸前、ビキビキと聞き慣れた音が聞こえて来た。天井を見上げると無数のバットバットが天井から生まれ落ちて来た。それによって天井が崩壊する。

 

「やばッーーー!!!」

 

逃げる間もなく天井の崩落に巻き込まれた4人。

 

「うっ・・・」

 

「くっ・・・」

 

幸運な事に瓦礫で押し潰されたり大きな怪我をする事はなかったが、それぞれ身体中に鈍い痛みが走る。

 

瓦礫の上で此方を見下ろす数体のヘルハウンド、あろう事か同時に火炎ブレスを放って来た。

 

ダンジョンとは狡猾だ。少しづつ体力と精神を削り、消耗し疲弊して弱みを見せた瞬間、牙を向いてくる。

単純な戦闘能力ではどうにもならない数の暴力。理不尽なまでの負の連鎖が重なり現在窮地に立たされている。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

総司達が中層に入って1日経過した頃、ギルドの掲示板にて、ベル・クラネル、沖田総司とそのパーティの捜索、冒険者依頼(クエスト)が発注されていた。文字通り冒険者へ依頼する、だから冒険者依頼(クエスト)と呼ばれている。

 

発注者は神ロキ、報酬は140万ヴァリス。

 

「・・・どういう風の吹き回しだい? ロキ」

 

「喧しい。ウチかてドチビを助ける様な事したないわ。ただあの子は今失う訳には行かへんのや」

 

犬猿の仲と神々の中でも有名な二柱の神、ヘスティアとロキ。

ヘスティアが冒険者依頼(クエスト)を発注しようとした所ロキが報酬金を上乗せした。

正直《中層》での捜索にしては過剰なまでの報酬金だが、ヘスティアが40万ヴァリスと聞いて腹が立ったので100万ヴァリスを上乗せした。

 

「それにあの子なぁ・・・パーティメンバーの話しをする時、いつも楽しそうに自分の物を自慢するみたいに話しおるんよ」

 

(同じだ・・・ベル君も総司君やサポーター君の話しをする時が一番楽しそうだった)

 

奇しくも似たような経験をしていた事にシンパシーを感じていた。

 

「だから、ついでに助けたる。但し今回だけや! 次は総司きゅん以外助けへんからな!」

 

「な、何だとぉ! この貧乳神!!」

 

「こっち来んなや貧乏神!!」

 

街中のど真ん中でいつも通り取っ組み合いを始める。

 

「こんな所で何をやっているんだ?」

 

「あ? お前は・・・」

 

「ミアハ!」

 

ミアハ・ファミリアの主神ミアハ。現在は《青の薬舗》という店を出している。因みにベルの行きつけの店で、団長のナァーザ・エリスイスとアミッドは仲が悪い。というか一方的にナァーザが嫌っているのだが。

 

「ヘスティア、タケミカヅチが話しがあると言っていた。ロキ、お前も無関係ではなさそうだぞ?」

 

「・・・ウチは遠慮しとくわ」

 

「え? 良いのかい? ロキ」

 

「あぁ、ドチビと違ってウチは忙しいんや」

 

「はぁ!?」

 

そう言ってロキはその場を立ち去る。神々の中でもかなり切れ者のロキは総司達が行方不明になった原因はタケミカヅチ・ファミリアにあるとミアハの口振りと目線で確信した。

 

(おそらく怪物進呈(パス・パレード)やな・・・タケミカヅチん所が無関係だとしたら怪物の宴(モンスター・パーティ)の可能性も・・・)

 

「ロキー!」

 

後方から自分を呼ぶ声が聞こえたのでヘスティアだとわかっていながら思わず振り返る。

 

「ありがとうー!」

 

ヘスティアが見せた笑顔が何故か総司と重なる。一瞬目を見開くがすぐさまポーカーフェイスに戻る。

 

(けっ・・・善神が!)

 

内心では悪態をついているがヘスティアの事は善神だと認めている。天界ではぐうたらでついこの前まで眷属が一人もいなかったダメ女神であるが少なくとも悪い神ではない。

 

「ん? あれは・・・」

 

ダンジョンへ向かうであろう荷物を抱えた集団が一つロキの目に止まった。

 

「ベート〜!」

 

「あ? てめぇこんな所にいやがったのか!」

 

遠征中のベートが残ったロキ・ファミリアの団員を連れていた。戻ったばかりのベートが団員を連れて再びダンジョンへ向かう事に疑問を持った。

 

「手短でええ。聞かせてーな」

 

話しによるとどうやら遠征中”厄介な毒”を貰ってしまい、最も速いベートがディアンケト・ファミリアや他の店から解毒薬を買いフィン達が滞在している18階層へ向かう途中だった。

そしてこの遠征で起こった出来事を綴った手紙もロキは受け取る。

 

「おい、アイツは何処だ?」

 

「アイツ?」

 

「チビ野郎の事だ! アイツも連れて行く、問題ねぇだろ!」

 

「あぁ〜、それなんやけど。今中層で行方不明なんや、パーティメンバー全員」

 

「何だと!?」

 

総司を連れて行こうとしたが既に中層で失踪している為それは断念せざるを得ない。

 

「もし見かけたら助けてあげてくれんか?」

 

「知るか!」

 

そう言ったベート達は急いでダンジョンへ向かう。

 

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