現在15階層、数時間彷徨い続け上に繋がる階段もなければ縦穴も見つからない。しかしここまで殆ど戦闘を行わずに済んでいる。ダンジョン中を歩き回っていたので全員の足に疲労が蓄積されいるのが分かる。
「・・・なぁリリスケ、”それ”どうにかならないのか?」
「我慢してください。お言葉ですが、リリの方がこの”悪臭”に悩まされているんですよ!?」
リリが身に付けている物は
物凄い悪臭で皆堪えるのに必死だ。総司に至っては余りの激臭にくらくらしていた。しかし改めて辺りを見渡すとアルミラージが数体こちらの様子を伺っている。この袋の効果は本物だと確信する。
(・・・とは言え、出来る限り交戦は避けたいですね)
「ッ! ヘルハウンドです!」
間髪入れずに火炎ブレスの攻撃が放たれようとしていた。
「ここは僕が・・・!」
「総吉、俺に任せろ」
一瞬で殺しきる為に【鬼子】を発動させようとした総司の肩を叩くヴェルフ。この距離で三体のヘルハウンドを倒せる程の実力が無い事は知っているが、この自信・・・ハッタリではないのは分かる。
『燃え尽きろ、外法の業ーーーウィル・オ・ウィスプ!』
するとヘルハウンドは爆ぜる。まるで内側から弾け飛ぶ様に爆発した事によって危機を回避した。
「爆発した!?」
「これは・・・
一定の魔力の反応を火種に相手を自爆させる魔法。言うなれば”魔法封じ”だ。詠唱も短い為発動させやすく長文詠唱魔法に合わせて放つ事も可能。但しベルの『ファイアボルト』と言った”速攻魔法”はそもそも詠唱を必要としないので相性が悪い。長文詠唱魔法もヴェルフよりも早く完了していれば意味がないので、結局はヴェルフの度量によるものが大きい。
「前回の戦闘で使えれば良かったんだが・・・あの時は崩落直後でタイミングを逃しちまった」
一息ついて額の汗を拭う。魔法を使うのは久しぶりだったらしく
「魔法を潰す魔法ですか・・・奥が深いですね。魔法って言うのは・・・」
単純に敵を攻撃するだけが魔法では無い。回復魔法や自身を強化する魔法、罠をはるタイプや状態異常にさせる魔法等々、総司の知らない魔法はまだまだ沢山ある。
「あ、あれは!」
ベルが指さした先に大きな穴が空いていた。おそらくこれがリリの言っていた縦穴だろう。穴の奥を見てみるが先が全く見えない。
「この深さから推定するに、おそらく16階層に繋がっています。皆様、覚悟はよろしいですね?」
静かに頷く3人は離れない様にガッシリと腕を組み何処までも続く闇の中に身を投じる。
「ーーー見えました、地面です!」
リリの掛け声で何とか着地に成功した一行は無傷で16階層に辿り着く。正直ここまで来れたのはリリの的確な采配によるものが大きい。戦の場ならかなり優秀な軍師になれただろう。
「一先ずは安心ですが、ここからが難関ですよ」
「確かに、”あいつ”がまだ出てないのが幸いだな・・・」
「ミノタウロス・・・」
かつてベルのトラウマだったモンスター、駆け出しの頃に殺されかけた思い出が蘇る。それと同時にアイズとの出会い、そしてそのミノタウロスを先日打ち破った事も鮮明に思い出す。苦くもあり有難くもある経験だった。
「このパーティでミノタウロスとまともに戦えるのはベルと総司しかいないな」
「実力だけで言えばそうかもしれませんが・・・ミノタウロスは
雄叫びをあげることによって、対象を竦ませて動きを封じるというもの。 Lv.2以上なら耐えることは可能だが、Lv.1では耐えるのは難しい。よって総司では
「この臭いが続く限り安全ではありますが、そう長くは続きません。先を・・・総司様、聞いていますか?」
先程から静かにしている総司に違和感を覚えていた。どこか上の空でフラフラしている。こんな状況で気を抜くなんて総司らしくないとリリは思っていた。
「あぁ、大丈夫です。急ぎましょう!」
「なら・・・良いのですけど・・・」
腑に落ちない様子のリリだが
ーーーーーーーーーーーーーーー
総司達が16階層に到達して数時間が経過した頃、ダンジョン上層ではアスフィが率いる捜索隊がモンスターを蹴散らしていた。霧が発生しており、草木が生えている事から10階層辺りだろうか。
タケミカヅチ・ファミリアの桜花、命、千草、ディアンケヒト・ファミリアのアミッド、そしてこの捜索隊の最高戦力と言っても過言ではない戦士が一人、リュー・リオンだ。
「上層のモンスターならまず問題が起こる事はない。迅速に進みましょう」
ヘルメスが半ば強引に呼んだリューは《豊穣の女主人》の仕事を休んで参加してくれた。ヘルメスの思惑通りと分かっていてもシルの頼みでもあった為、非常に癪ではあるがヘルメスの策に乗る事を承諾した。
複数のモンスターを身の丈程の長さの木刀を軽やかに振り回しバッサバッサと薙ぎ払って行く。
「前衛は彼女に任せて問題無いでしょう」
結果的にアスフィは楽できているようだが油断は出来ない。寧ろ前衛のリューよりも面倒な役回りをしているのがアスフィだ。
「ぎゃあぁぁぁ!!! コウモリの大群だぁぁぁ!!!」
「アスフィ〜!!! 助けておくれぇぇぇ!!!」
バットバットの大量出現によって大混乱のヘスティアとヘルメス。溜め息をつきながらアスフィは
「だから言ったんですよ。”神”がダンジョンに入るなんて無茶だって・・・」
元々ベルや総司に会いたがっていたヘルメスはこの事態はチャンスと思いクエストを受けた。そして捜索隊にヘルメスが加わると知ったヘスティアも連れて行けとせがむ。
「し、死ぬかと思ったぁ〜」
「流石アスフィ、頼りになるなぁ〜」
因みに神がダンジョンに入る事は禁止事項だ。しかしヘルメスはギルドに気付かれない内に帰ってくれば大丈夫だと言うが、この時点でアスフィの胃に穴が開きそうだったのは言うまでもない。
「この調子で中層ですか・・・」
「大丈夫ですよ。仮に内臓をぶちまける様な致命傷を負っても私が必ず治しますから」
「もしヘスティア様とヘルメス様が死にかけたらヘスティア様を最優先で治してあげて下さい」
そんな物騒な会話を聞いていた千草は怯え腹部を押さえる。自分の内臓を地面にぶちまける想像をしてしまった様だ。
地上では神も一般人と変わらないのでモンスターの一撃でも致命傷になりかねない。そんな神が二柱もいる中で守りきるのは至難、だがアミッドが居れば死んでいなければ治せる。
「ねぇ桜花・・・これ、私達いる?」
「いや、中層まで行けば俺達も何か出来る筈だ。おそらく・・・」
「いざと言う時は、私達がヘスティア様の盾になりましょう!」
中層の恐ろしさを思い知った命達はリューとアスフィでも手に負えない状況になったら自らを盾にヘスティアを庇う覚悟をしていた。当のヘスティアはそんな事望まないのは分かっているが、せめてもの償いとしてそれくらいはやりたい。
「それに、彼らに直接謝罪しないと私の気が済まないのです」
「うん、そうだね・・・!」
そんな想いを胸にベル達を助ける決意を固めた。