オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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怪物の死線 肆

中層16階層を彷徨う事約三時間。上層と似た様な洞窟タイプのダンジョンが続いていた。特に収穫も無く時間だけが浪費する中4人に悲報入り込む。

 

強臭袋(モルブル)の効果が切れました・・・」

 

遂に強臭袋(モルブル)の効果切れてしまい、これまで殆ど戦闘せずに進めたがこの先はモンスターと対峙する事は避けられない。それを自覚した一同は静かに受け入れる。

 

「おいおい・・・ふざけろ!」

 

ドスドスと足音を立てて接近するモンスター、足音の大きさからヘルハウンドやアルミラージの様な小型のモンスターではないと悟る。

 

「ミノタウロス・・・!」

 

明らかに今まで見て来たモンスターとは格が違う。その雰囲気を肌で感じた総司は【鬼子・半】を発動させる。ベルと対峙したあのミノタウロスに比べたら数段弱いが、それでも脅威は変わらない。

 

「そ、総司様! ダメです!」

 

ゆっくりと近くミノタウロスに対して総司は全速力で向かう。リリ達の声も届く間もなく鞘に手を掛ける。鋼の刀身が数C程度顔を出した瞬間、総司の耳にした音はベルやヴェルフ、リリの声ではなかった。

 

 

『ヴオォォォォォ!!!!!』

 

 

ミノタウロスから放たれた咆哮(ハウル)はLv.1の総司の足を止めるには十分だった。思わず地面に片膝を着き左手で頭を押さえる。辛うじて打刀はあの咆哮(ハウル)の衝撃に晒されても手放さず持っていた。

 

振り上げられたミノタウロスの拳が総司襲い掛かる。強制停止(リストレイト)から立ち上がるには時間が足りない、脳裏に死の文字が過ぎる中、真横から飛び出した白い一閃がミノタウロスを切り刻む。

 

(くっ・・・僕は何をやっているんだ!)

 

体調、焦り、不安要素等、様々な要因が重なり総司は冷静さが欠損して判断力が鈍っていた。

 

「総司! くっ、また・・・!」

 

ミノタウロスに止めを刺したベルは総司に駆け寄ろうとした瞬間、前方から三体のミノタウロスが斧を持って走って来る。ベルはヘスティアナイフで迎撃する構えを取る。

 

(これは・・・鐘の音?)

 

突如鳴り響く”鐘の音”。ふとベルの方を見るとヘスティアナイフを構える腕が光を帯びていた。光の粒子が纏わり付く様に輝くとベルから発せられる剣圧が増幅する。

そしてこの鐘の音が総司の荒れた心を正常に戻す。元々そんな作用は有はしないが総司はこの瞬間心地好い音色をきっかけにヴェルフ達の後方から迫るミノタウロスに逸早く気づく。

 

「ヴェルフ様、後ろからミノタウロスが!」

 

「何ッ!?」

 

前方は三体のミノタウロス、後方に一体のミノタウロスで完全に挟まれてしまった。左右は壁で逃げる事も出来ない、ベルが前方のミノタウロスを倒すのを待っていたら殺られてしまう。そんな思考が過る二人の間を総司の投げた脇差しが通過する。

 

『ーーッッ!?』

 

遠投した脇差しがミノタウロスの片目に突き刺さる。

怯んでいる隙に総司は即座にミノタウロスに斬り掛かる。しかしミノタウロスの肉はこれまで遭遇して来たモンスターよりも頑強で断ちにくい。今の総司では単純に”力”が足りず核心部分までダメージが行き渡らない。

 

「くっ・・・浅いか!」

 

怯みから立ち直ったミノタウロスは持っていた斧で反撃に出る。鬼気迫る勢いで振り回しまくるが鳴るのは空を切る音のみ。スピードは総司の方が上だがパワーは圧倒的にミノタウロスの方が上だ。故に防いでも打刀諸共骨を砕かれるだろう。だから総司は避けに徹する。

 

しかし討伐を諦めた訳では決してない。

 

(今・・・!)

 

頭に血が上り愚直に上から振り下ろされた斧を総司は完璧なタイミングで受け流しに成功する。鈍い音と共に地面にめり込む斧、再び反撃に出る間に数十太刀入れる事は可能だ、致命傷になるかは別として。

 

隙を利用して瞬時に指を数本斬り落とす。

指を斬り落とされた事によって斧を掴めなくなり地面に落としてしまう。

 

「なるほど、これなら倒せなくても戦闘能力を削ぐ事が出来ます!」

 

殺すだけが戦いでは無い。

 

「うおぉぉぉ!!!」

 

ヴェルフの大刀がミノタウロスの脇腹を正確に捉える。しかしヴェルフの攻撃力では断ち切れず筋肉で止めれてしまった。反撃の裏拳がヴェルフの顔面に迫る。

 

『ーーーッ!?』

 

ミノタウロスの裏拳を掌底打ちで上に逸らし外させる事に成功した。直線運動は横からの衝撃に弱い事を利用した事でミノタウロスの裏拳は空を切り隙が生じた。

 

総司は足で大刀を蹴り無理矢理斬撃を押し進めた。だが完全に断つよりも早くミノタウロスの攻撃が来る。どうしても間に合わない時間の差を埋めたのはなんとリリだった。

 

「このぉぉ!!」

 

大刀をリリが両手で押す事によってミノタウロスを討伐することに成功した。Lv.1の冒険者が3人で力を合わせて漸く一体倒したミノタウロス。勝利の余韻に浸る前にもう一体のミノタウロスが接近する事にヴェルフは気づく。

 

「まだだァァ!!」

 

反応が遅れたリリと総司の首根っこを掴み後ろへぶん投げる。瞬時にミノタウロスの拳がヴェルフにクリーンヒットし壁に激突する。辛うじて大刀を盾にしてダメージを抑えたが今ので大刀は破壊されヴェルフ自身も暫く動けそうになかった。

 

「ッーーー頼みましたよ・・・」

 

後方に投げれた総司は地面に着地する間、ミノタウロスの”死”を確信する。小さく笑みを浮かべた総司はいち早く地面を蹴り飛んでくるリリをキャッチする。

 

「ベル様!」

 

ベルが繰り出した連斬がミノタウロスをあっという間に切り刻む。息を切らしたベルは3人の安否を確認する。

 

「ヴェルフ!」

 

壁に背中を預けて座り込むヴェルフを見たベルは急いで駆け寄る。先程の攻撃でかなり消耗した様で辛そうだ。辺りには大刀の破片らしき物が散らばっていた。

 

「しっかりして!」

 

「大・・・丈夫、だ・・・」

 

「ベルさん、これを使って下さい!」

 

総司が持っていた回復ポーションをベルに手渡し、ベルはその回復ポーションをヴェルフに使う。しかし右腕と脇腹の骨が数本折れている。これ程の怪我は回復ポーションでは治しきれない。

 

「くっ、僕がもっと早く助けてれば・・・」

 

自分を責めるベル。もちろんベルが悪い訳ではない。あの状況でよく三体のミノタウロスを1人で倒しメンバーの助けたと、リーダーとして最善の筈だ。しかしそれでも自分を責めずにはいられなかった。

 

「ベ、ル・・・」

 

「新手が来る前に先を急ぎましょう。一刻も早く18階層へ向かわなければ」

 

「総司様の言う通りです。18階層でヴェルフ様の治療をしなければいけません」

 

ヴェルフのを支えながら歩き出す総司を見たリリは反対側を支える。そんな様子を見たベルは拳を強く握り締め、辺りを警戒しながら先に進む。

 

(皆が頑張っているのに僕がこの調子でどうする! しっかりしろ、誰も欠ける事なく帰る為に最善を尽くせ!)

 

とは言えベルの体は新スキル《英雄願望(アルゴノゥト)》によって体力も精神力(マインド)も多く消費してしまい歩くのがやっとだ。ミノタウロス三体を一瞬で倒す程の力、代償が無いわけが無い。

 

(そろそろ限界が近いですね・・・)

 

力の代償に関しては総司も同じだ。半減されているとは言えかなりの時間発動させているので蓄積ダメージが大きい。

 

「あ! 2人とも、あれを!」

 

「見つけた、縦穴だ!」

 

真っ直ぐな道の先に大きな縦穴が空いている。

 

「此処を飛び降りれば・・・」

 

やはり高さは計り知れない。落下地点も見えない上に皆は体がボロボロで足に力が入らない。無事に着地出来るかも分からないが、ここまで来たら行くしかない。

 

「皆様、覚悟はいいですね?」

 

リリの合図と共に穴に飛び込む。

 

 

 

ーー

ーーー

ーーーー

ーーーーー

ーーーーーー

 

 

 

「ーーッ!!」

 

足に力が入らないせいで勢いよく地面に激突する。恩恵が無ければ即死の高さだ。だが生きているとは言えダメージはしっかり受けている。体中に激痛が走る最中いち早く立ち直ったベルが辺りを確認する。

 

「これが、あのーーー」

 

長方形の岩肌に横の一面だけ変に綺麗な大壁がある。違和感しかないこの不気味な壁の名はーーー

 

「”嘆きの大壁”・・・」

 

ダンジョンで最初の階層主《ゴライアス》が生息する場所、つまりここは17階層だ。そして長い通路の向こうに見えるのは18階層への入り口、此処さえ抜ければ助かる。

 

 

しかし、此処からが一番の鬼門だった。

 

 

「後、一息・・・皆、早くーーー」

 

 

 

ビキッ・・・!

 

 

 

不吉な音が鳴り響く。気の所為だと思いたかった。空耳であって欲しかった。そんな願望を容赦なく打ち砕く様に入った壁の罅に目を向ける。

 

「まさか・・・」

 

「ふざ、けろ・・・」

 

罅はどんどん大きくなり音も次第に大きくなる。何が近づいて来ている予感が4人を支配する。

 

 

迷宮の孤王(モンスターレックス)《ゴライアス》の登場だ。

 

 

推定レベルは4相当、今戦ってもまず勝ち目は無い。ベルとリリはいち早くヴェルフを支えて走る。総司もその後ろを追い掛けるが突然立ち止まる。

 

「総司! 早くッ!!」

 

「僕が奴を引き付けます。今のうちに行って下さい」

 

このまま走っても18階層への入り口には間に合わない。総司はそれを分かっていた、もちろんベル承知の上で走った、奇跡的に逃げ切れる事に一縷の望みを賭けて。

 

「そんなーー」

 

「大丈夫です、今度は死ぬ気はありません」

 

笑顔を向ける総司がとても遠くに見えた。

 

「助け・・・呼んで来て下さいね?」

 

「まっーー!!!」

 

ベルの言葉も聞かずには総司はゴライアスへ駆け出す。【鬼子】を発動させ全神経をゴライアスに向け、それ察知したゴライアスも総司の剣圧に反応して攻撃を仕掛ける。

 

「総司・・・!」

 

「ベル様、急ぎましょう! 早く街の冒険者に助けをッ!!」

 

「くそ・・・」

 

ベルとリリが必死に走る中、ヴェルフは自分のせいで逃げる事に困難していると思っている。さぞ自分を責めているのだろう。力が入らなくなった拳を握る。

 

 

『オオオオォォォォ!!!!』

 

 

轟音の様な雄叫びと共に繰り出されたゴライアスの拳を全力で躱す。反対側の壁を走りベルから距離を取る。

 

それを見たゴライアスは左の大振りを繰り出し壁を削りながら総司を飲み込もうとする。

 

「ぐあッ!」

 

ギリギリで地面に逃げるが受け身を取り損ね転がりながら着地すると、間髪入れず右手に持っていた岩の礫を投げる。

 

「くっ・・・!」

 

避けきれず左腕に被弾する。ミシミシと握り拳程の石がめり込むが、総司は足を止めることはなかった。

 

(まだだ! まだ、時間を・・・!)

 

再び投石するゴライアスだが、総司は飛んで来る礫を足場として上手く利用しゴライアス目の前まで接近する。目を狙い脇差しを投げようとした瞬間、ゴライアスから発せられた咆哮(ハウル)が総司を襲う。

 

「がはッ!!」

 

衝撃波の如く放たれた咆哮(ハウル)を受け向かいの壁に激突する。背中を強打し何本か骨が折れた感覚が走る。

 

 

カツン・・・

 

 

油断していたゴライアスの額に何が当たる。それは総司が投げた脇差しだった。しかし力が入らず威力も無ければ狙いも録に定まらなかった。

ふと入り口を見ると奥に消えて行くベル達が見えた。

 

「良かった・・・逃げきれた様ですね・・・僕も、逃げなければ・・・」

 

壁から這い出ようとした総司に向かって無慈悲の投石を再び開始する。

意識が落ちかけていた今の総司にそれを避ける余裕は無く何発何十発もの礫が総司に着弾する。

 

土煙の中から地面に落下する物体が出て来る。全身血まみれでもう意識など無いに等しい青年、しかし打刀だけは頑なに離さなかった。

地面に倒れ伏す総司を見下ろすゴライアスはとどめを刺さんと拳を振り上げる。

 

意識が途切れるまで0.5秒、彼が最後に感じたのは”風”だった。

 

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