「申し訳ありませんでした!」
「その・・・ごめんなさい」
ベル達が借りたテントに戻って来た総司達と救助隊だったが、開幕命が土下座して謝罪するのでその場にいた全員が驚く。因みにヘルメスはフィンに協力要請をしに行っているので不在だ。
「・・・いくら謝られても簡単には許せません。リリ達は死にかけたんですから」
「まぁ確かに割り切れるものじゃないな」
「あれは俺が指示した事だ。お前達には悪いと思っているし責任も取るつもりだ。だが、俺は今でもあの指示が間違っているとは思わない」
桜花の発言にキレたヴェルフは食ってかかる。自分達を囮にした張本人にそんな事を言われれば誰だって頭にくるだろう。
「それをよく俺達の前で言えたな。大男?」
(ま、不味い! 何とか平和的にこの場を収めなくちゃ! 総司、何か良い案ない?)
(任せて下さい!)
ベルは何とか平和的に解決する為に小声で総司に問い掛けると、自信あり気に返事をして睨み合う桜花とヴェルフの間に入る。
「責任を取るというのなら、切腹でしょう」
「総司!?」
「介錯なら僕がやりますよ!」
「総司、平和的って言ってるよね!?」
「苦しむ間もなく斬首してあげますよ!」
「ちょっと待って総司君、話し聞いて!?」
こうして冷めきった空間が少し緩み事態は解決に向かう・・・わけもなくヴェルフは総司を睨む様な目を向けた。
「総吉、今はふざけてる時じゃないんだ。分かるよな? 俺達はこいつらに囮にされたんだぞ?」
「そうですよ。どんな事情があれど“リリ達は死にかけた“と言う事実は変わりません」
「まぁまぁ2人とも落ち着いて。総司は場を和ませようと冗談を言っただけで・・・」
「ーーー僕は至って真面目ですよ」
先程のまるで別人の様な冷たい雰囲気を漂わせる。ヴェルフとリリ程ではないにしろ多少の怒りはあるのか、少なくとも面白くないと言うのは確実だろう。
「正直に言って頭である貴方の判断は正しい。兵を率いる大将はどんな手段を使っても生き残る道を示さなければならない。
あの状況下であんな事をすれば非難されるのは明白です。なのにそれを実行した・・・いえ、実行出来たのは貴方に責任を取る覚悟があるから。その覚悟に僕は敬意を評して誉れある死を与えます。
なのでーーーー桜花殿は立派な大将のまま・・・・・
死んで下さい」
総司は自身の脇差しを差し出すと桜花は黙ってそれを受け取る。その手や顔には汗が滲み出ておりかなり緊張しているようだ。
「俺が腹を切れば・・・2人は見逃してくれるのか?」
「桜花殿!!」
「桜花!!」
「えぇ、貴方が全ての責任を負うのなら」
「そうか・・・」
安心したように返事をしてその場に座ると脇差しを抜く。手の震えや冷や汗は止まっていた事から覚悟は出来たようだ。
「おいおい・・・」
「本気・・・なのですか・・・」
ヴェルフとリリも戸惑っている。まさか責任の取り方が切腹になるとは夢にも思わなかったからだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ総司! 何もそこまでーー!」
「桜花殿は覚悟して受け入れた。なら僕達も見届ける側として覚悟を決めなければなりません」
脇差しを腹に構える桜花に合わせ総司は打刀を抜くと桜花の横に待機する。その目は桜花への敬意以外、一切の感情を宿していない。
介錯人そのものだ。
「命、千草・・・これは俺の役目だ。後の事は任せたぞ」
「「ーーーーーッ!!!!」」
命と千草が涙ながらに止めに入ろうとした瞬間、桜花は脇差しを振り下ろす。それを目の当たりにした2人は頭が真っ白になった。
「ーーー貴方の覚悟、確かに受け取りました」
「こ、これは・・・」
自身の腹に突き刺そうとした刃は既の所で止まっていたので桜花は驚く。刺さる筈だった刃が停止した理由は直ぐに分かった。総司の刺突が脇差しの刀身を貫いていたのだ。
「試すような真似をしてすみませんでした!」
突然謝罪する総司に誰もが驚き理解が追いつかない。
「まさか・・・最初から止めるつもりで!?」
「えぇ、彼の本音を引き出すにはこれしか方法が思いつかなかったので」
ベルは全て総司がヴェルフとリリを納得させる為の演技だった事に気がついた。
「2人も桜花殿が本気だったと伝わりましたよね?」
「あぁ、ありゃマジで自害するつもりだった」
「あんなものを見せられては納得するしかないですね。借り1つって事で手を打ちましょう」
「それで構わない。それと・・・すまなかった」
「謝罪はもういい。俺らも少し言い過ぎた。悪かったな」
ヴェルフは頭を掻きながら照れ臭そうに謝罪する。リリも許せたようで総司とベルは安心した。
「因みに僕とアミッド君は予め総司君から説明されていたよ」
「じゃなきゃお腹を切らせるなんて事させません」
慈愛の女神とオラリオ最高の治療師が切腹に異議を唱えず離れてただ傍観していた事には理由があったようだ。
「本当に良かったですよ。もし桜花殿が切腹を拒否するなら生かす価値無しとして今頃は胴と首が泣き別れしていましたね!」
「自分の責任感に命拾いしたな大男」
「あ、あぁ・・・」
尤もヘスティアやアミッドは切腹を受け入れる事を確信していた。短い付き合いながらも彼らが本気で助けたいと思っている事は伝わったからだ。でなければわざわざこの地獄に自分から向かう事もヘスティアやヘファイストスの所に謝罪しに行く事も無かっただろう。
「ごめん・・・本当は僕がやるべき事だったのに。総司に全部任せて・・・」
「気にする事はないですよ。ベルさんには経験が無かっただけです。“責任を取らせる“と言う経験が・・・」
いつもの笑顔を見せた総司だが、ベルにはその横顔が何か含みがあるように見えていた。
そして総司がとても遠い存在に感じている自分がいた。
「やぁやぁ、今帰ったよ。
出かけていたヘルメスとアスフィが帰ってくる。てっきりお通夜の様に静まり返っているか怒声が響き渡っていると思っていたヘルメスは少々驚く。
「あぁ、たった今解決したよ。それにしても総司君、君も役者だね! 遅れたけどヘスティアだ。よろしく!」
「改めて初めましてヘスティア様、沖田総司と申します!」
「ウム! ロキの所の
身長が低い総司よりも更に身長が低いヘスティアが総司の頭を撫でている。ややこしいがそうなのである。
「ところで総司君、ベル君はまた変な女に唆されてないかい?」
「う〜ん・・・・・」
総司にだけ聞こえるような声でヘスティアが聞くと総司は少し悩む。緊張した様子で総司の返答を固唾を呑んで待っている。総司の脳内には夕食の宴の光景が浮かぶ。
「みんな良い子ですよ!」
「ベールーくーん・・・?」
低音ボイスと不穏な雰囲気でゆっくりとベルの方に振り向く。
「か、神様?」
「みんなってどういう事だぁーーー! サポーター君やヴァレン何某だけでなく、君ってやつはぁーーー!!!」
「か、かかか神様!? い、息が・・・!」
逆上したヘスティアから繰り出されたヘスティアダイブによりベルの顔面が低い身長の割に巨大すぎる胸に押し潰されそうになる。
「ベル様に何するんですかヘスティア様ぁーーー!!!」
それを見たリリは急いでヘスティアを引っペがそうとする。
「ベルん所のファミリアっていつもこんな感じなのか?」
「そろそろ本格的に止めてやれ。このままじゃ窒息死するぞ」
「ベルさん・・・ご愁傷様」
「死んでないからね!?」
その後騒動は納まり男女別々で泊まるテントに向かう。異常に疲れた様子のベルの隣りを総司は歩いている。
「そういえば総司は明日どうするの?」
ヘルメスとアスフィの話しにでは二日後にゴライアスを討伐しそのまま帰還するらしい。なので明日一日は暇がある、そこでヘルメスの提案で観光する事になりベルはヘスティアとリリ、アイズ達と共に街に行くようだ。そこにヘルメスとアスフィもついて行き、タケミカヅチ・ファミリア組はと言うとそっちはそっちで観光するようだ。
「良かったら僕達と一緒に回らない?」
「(アイズさん達と一緒って事はレフィーヤさんも来ますよね。良し、近づかないでおこう)・・・すみません、明日はアミッドさんと観光するので」
「今の間が気になるけどわかったよ」
「おーい、総司君!」
呼ばれた方を振り向くとヘルメスが爽やかな笑顔でこちらに近づいてくる。
「さっきはゴタゴタしてたから言いそびれちゃったけど・・・二日後に出発するロキ・ファミリアとともに帰還命令が出されたよ」
「えっ!? という事は総司は・・・」
「ここで一旦お別れですね」
「レフィーヤちゃん伝で聞いた話しによると“そろそろステイタスの更新をしろ“だそうだよ」
「フィンさんからではなくレフィーヤさん伝で・・・?」
フィンから直接聞いたのではなくレフィーヤを一度挟んで伝えたことに違和感を感じた。何故そのような手間を加えたのか・・・
(んー、流石は最強派閥の団長、警戒心が強いな)
神は嘘を見抜けるのでどんなに言葉や表情、仕草で取り繕ってもまるで意味を成さない。なので何も話してないレフィーヤに偽の内容を伝えさせた。ヘルメスの巧みな話術で情報を掠め取られる事を警戒しての行動だ。
(でも逆に言えば“
「ヘルメス様?」
「ん、あぁごめんごめん。まぁ、確かに伝えたよ」
話しが終わるとさっきまでいたテントに戻って行く。中でアスフィがいるのが見えた。周りを警戒している様子だったので悪巧みでもするのだろうか。
(それにしても沖田総司か・・・さっきの件もそうだが噂通り面白い子だ)
実は切腹を勧めた時既にヘルメス達は戻っていた。テントの入口で隠れて盗み聞きしていたので内容も全て把握している。
(そして一目見て確信したよ・・・君は・・・)
ーーー英雄にはなれない