オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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帰還

「ほらよ、特効薬だ」

 

「ご苦労だったな。助かったぞ、ベート」

 

「ありがとう、ベート。これで皆の治療が出来る」

 

「なんじゃ、録に休憩も取らんで来たのか」

 

地上に特効薬を買い占めに行ったベートが帰って来たようだ。装備がボロボロで目の下にクマが出来ている事から殆ど不眠不休で突っ走ったのだろう。ベートは口には出さないが仲間の為に一秒でも早く特効薬を届けたかったのかもしれない。

 

「確かに届けたぞ」

 

「何処へ行くんだい?」

 

「忘れもんだ」

 

帰って来て早々またダンジョンに戻るようだ。その行動を不思議に思ったフィンは少し考える。確か昨日のヘルメスの話しではロキとヘスティアがベル、総司のパーティの捜索依頼を出していたらしい。

 

「因みにベート。総司達ならこの18階層にいるよ」

 

「なんだと!? って事はあの“兎野郎“もいるのか!?」

 

フィンの睨んだ通り地上で捜索依頼の話しを何処かで聞いたようだ。18階層に来る途中も急ぎつつも出来る限り捜索していた。

 

「あぁ、総司もあの少年もパーティメンバー達も全員無事だ。今頃リィヴラの街にいるんじゃないか? アイズ達が昨日リィヴラの街に行くと言っていたからおそらく一緒の筈だが」

 

「なッ! アイズと街にだと!?」

 

「そう言えばさっきウチの若い連中が『白髪野郎がアイズさんの水浴びを覗いた』とか言っておったのぉ。若いと言うの良いもんじゃのう! ガハハハ、冗談じゃからなリヴェリア!」

 

「ーーーーーッ! あ、あの野郎・・・オレでもできねぇ事を易々と・・・」

 

ベルがヘルメスに連れられて覗いた事実を知ったベートはショックを受けている。

 

「確かリヴィラの街だったな! 待ってやがれ兎野郎!!」

 

「いや、もうリヴィラの街には・・・・・行ってしまった」

 

リヴェリアの言葉も聞かずにベートは飛び出して行った。

 

「ふふっ、やっぱり探しに行こうとしていたんだね」

 

「全く、素直じゃないのぉ」

 

「違いない」

 

普段から憎まれ口を叩くので他人から誤解を受けやすいが、いざという時は仲間を絶対に見捨てない男だと言う事は少なくともフィン、リヴェリア、ガレスは理解している。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

翌日『ロキ・ファミリア』が地上に向けて出立する準備をしていた。総司はと言うとアミッドとともにテントの片付けをしている。

 

「そういえばアミッドさんも僕達と一緒に帰るんですね」

 

「えぇ、他の団員がいるとは言えこれ以上お店を空ける訳には行きませんから」

 

ディアンケヒト自らアミッドに任せている様なものなのでかなりの責任感があるようだ。

 

「それに総司さん。もうポーションも無いですよね。明日お店に来てください。総司さん用のポーション包んでおきますから」

 

「ありがとうございます! 結局リィヴラの街ではポーション1つしか買えなかったので・・・」

 

「お気持ちお察しします」

 

据わった目で手元のポーションを見つめる。案の定かなりの値段を吹っかけられ泣く泣く購入に踏み切った。いつか必ず一人一揆を行うと心に誓うが総司の性格上2、3日で忘れているだろう。

 

(わざわざ買わなくても私が治したのに・・・)

 

と喉まででかかったが、総司の前でそれを言うのはあまりにも酷な事だったのでそっと口を閉ざした。

 

「おーい、総司ー!」

 

「む?」

 

そんな哀愁漂う総司の背後からベルが近づいて来た。

 

「アイズさん達が今18階層の入口に向かってるからそろそろ行った方がいいよ」

 

「そうなんですか!? アミッドさん、急ぎましょう!」

 

慌ててテントや持ち物を持ってアミッドと一緒に走り出す。

 

「あーーー・・・・・」

 

別れの言葉を言おうと走り去る総司を呼び止めようとした手をグッと堪えて下げる。何だか総司の背中が遠く儚く見えた。物理的にと言うわけではなく総司が何処か遠くへ行ってしまう、そんな気がして止まない。

 

 

「ーーーー僕も、もっと強くなるよ・・・総司!」

 

 

別れの言葉も礼の言葉も不要。それらは全て強さで示す。

 

不吉な気持ちを押し殺して静かに総司を見送る。総司と出会ってから死にかける事も多々あったがそれ以上に彼はベルを成長させた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ出発の時間だ。普段なら幹部以外の者に経験を積ませるところだけど、今回の遠征は異常事態続きで消耗が激しい。万全を期して最初からアイズ達を参加させる」

 

フィンが率いるアイズ、ヒリュテ姉妹、ベート、二軍メンバーに総司とアミッドを加えた先鋒隊が突入前の会議をしている。先の遠征で何があったかは総司の知るところでは無いが形容し難いイレギュラーに見舞われたようだ。

 

「そろそろ君達も地上の光が恋しくなって来ただろう? 実は僕も早くホームへ帰って自分の寝台で思いっ切りくつろぎたいんだ」

 

冗談で場を和ませ皆の緊張を解す。と言っても『ロキ・ファミリア』にとって中層など余裕で攻略出来るがこれまでのイレギュラーもあり“ダンジョンに常識は無い“と再確認されたため油断ならない。

 

「と言うわけで前衛はベート、ティオナ、ティオネ、中衛はアイズ、攻守両面の支援だ。ラウル達は後衛を守れ。魔道士達は大広間に突入したら詠唱を開始しろ。準備が整い次第一斉放火だ、合図はレフィーヤが出せ」

 

各々フィンから指令を出され戦闘準備を整える。

 

「総司は今回無理に戦闘を行う必要は無い。後衛でアミッドを守ってくれ」

 

「はい!」

 

作戦を知らされた総司はアミッドと共に行動する事となった。

 

「という事なので行きましょう、アミッドさん!」

 

「わ、わかりましたから手を引っ張らないで下さい!」

 

無邪気にアミッドの手を引く総司に周りの『ロキ・ファミリア』の男性団員は血の涙を流していた。アミッドはアイズ達にも引けを取らない美少女なのでオラリオでも人気が高い。そんなアイドルと今も手を繋ぎ後衛に並んでいる。

 

 

「ーーーさて、総員戦闘準備・・・三分で終わらせるぞ」

 

 

こうして『ロキ・ファミリア』先鋒隊はゴライアスの討伐に乗り込むのだが数分後彼らの前に思いもよらない光景が広がっていた。

 

「何だ、これは・・・」

 

フィンの第一声でこの異常事態が団員に伝わる。

17階層に突入しそこには“嘆きの大壁“が広がっているのだが“ゴライアスの姿がなかった“。

 

「アイズ、2日前君が総司を助けた時倒したりは?」

 

「腕を切断しただけ・・・倒してはいない」

 

事実確認をするがアイズが先日報告された通りの答えしか出て来ない。性格上アイズが嘘を言っている可能性は低い、という事は原因はアイズではない。

 

「・・・妙だな」

 

この2日間17階層で戦闘が起こったと言う報告も受けていない。

 

(壁の罅、壁から落ちて来たであろう瓦礫・・・ダンジョンの修復が始まっていない。確実に此処にゴライアスはいた・・・もしや誰かが?)

 

ゴライアスを倒す手間が省けて幸運と思うべきか、不安要素が増えたと思うべきか、何にせよフィンの苦悩はまだまだ続きそうだ。

 

(これ以上のイレギュラーは勘弁願いたいものなんだけどね)

 

フィンの考察を他所に総司はなんとなく悪寒がした。本当に何の確証も根拠も無い唯の直感だ。

 

「フィンさん・・・嫌な予感がします」

 

「同感だ。しかし此処にはもう僕達以外の気配が無い。捜索も無駄だろう」

 

この広大なダンジョンでは原因を突き止めるのは難しい。第一本当に犯人がいるかも怪しい、単なるダンジョンの突然変異かもしれない、証拠不十分で捜索すら厳しい。

 

「予定通り地上へ向かう!」

 

フィンの一言で全員疑問を一旦捨てダンジョンを進む。

8階層まで帰って来た時地響きが鳴る。階層主が現れた時と似ている。しかし此処は上層なので階層主が出る筈もないし辺りを見てもそれらしきモンスターはいない。先鋒隊から数名後続隊に様子を見に行かせフィン達は地上へ帰還を優先する。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ダンジョンから帰還した団員達がギルドから出て来る。周りの冒険者は『ロキ・ファミリア』の帰還に注目している。もう夕陽が出ていて正直眩しい。2日間だけとは言え久しぶりの太陽に伸びをしている。

 

「では総司さん、店に総司さん専用のポーション束を用意しておきますから、明日いらして下さいね」

 

「はい。アミッドさん、今回は助けに来てくれてありがとうございました!」

 

改めて頭を下げるとアミッドは嬉しそうに微笑み風に靡く髪を抑えながら口を開く。

 

「私は殆ど何もしてませんよ。ですがその言葉は受け取っておきます」

 

「僕も有事の際は直ぐに駆けつけます! あ、リューさんとアスフィさんにもこれ言わないと」

 

「えぇ、期待してますよ」

 

そう言ってアミッドは帰って行った。

後方隊のリヴェリアやガレス、ヘファイストス・ファミリアの面々も到着し挨拶を終えたフィンは総司に帰宅を促す。気づいた総司はフィンの隣りを歩く。

 

「総司、2日後の夜ロキにステイタス更新の予約を入れておくから忘れずにね」

 

「わかりました!」

 

遠征直後は大量の団員がステイタス更新に来るのでロキも大忙しだ。総司は若干貧血にならないか心配している。

 

「今回で総司はかなりステイタスが上がっている筈だ」

 

「って事はベルさんと同じLv.2になってますかね?」

 

「流石にそれは・・・だが、総司ならそう遠くない内にランクアップ出来る。そんな気がするよ。ベル・クラネルに関しては僕の推測に過ぎないが、おそらく成長促進系のレアスキルを発現させている可能性があるな」

 

ベルの成長の速さに関してはロキもフィンと同じ考察を神会でしている。と言うよりそうでなければ説明がつかない。

 

「やっぱりベルは凄いです。僕も負けてられませんね!」

 

(僕から言わせればベル・クラネルも凄まじいが総司の方が驚異的と言えるな。Lv.1でありながら実力はLv.2並・・・その上“あの力“で戦闘能力が底上げされている。彼ならあのオッタルの領域にも手が届くかもしれないな。おっと流石に身内贔屓が過ぎたか)

 

「ねぇねぇ聞いて総司! 深層でね! すっごいモンスターがいたんだよ!」

 

「え! どんなモンスターですか!? 勿体ぶらずに教えてくださいよぉ!」

 

「えへへー、良いよー! 今日の夜あたしの部屋集合ね! アイズとレフィーヤもおいでよ!」

 

「うん。わかった」

 

「総司君にアイズさんのご活躍を全て教えてあげます!」

 

「あんまり煩くしないでよ。睡眠不足で肌荒れしたら団長に嫌われちゃうわ」

 

フィンの考察を他所に賑やかな彼女達を見て少し安心した。総司がロキ・ファミリアに入団して約1ヶ月、他の団員達とも仲良くやっているようだ。

 




今回以降からソードオラトリアの内容がメインになります。
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