「そんじゃ、そろそろ本来の目的に移ろかー」
今回の目的は慰安旅行と言う訳では無い。ロキは2日ほど前、ヘルメス・ファミリアとディオニュソス・ファミリアからの依頼でメレンの湖の中にある『
かつてダンジョンの下層と繋がっていた大穴、ここから多くの水中モンスターが進出し生態系を荒らし尽くしていた。15年前、ゼウス・ファミリア、ヘラ・ファミリア、そしてポセイドン・ファミリアの三派閥が協力し穴は完全に塞がれた。
「ティオナ、ティオネ。後は頼んだでー」
「わかった!」
「清々しいほど丸投げしたわね」
対極の反応をしたヒリュテ姉妹はゴブニュ・ファミリアに作らせた水中用武器であるナイフを手に取る。2人は軽くナイフを振り使用感を確かめ湖に飛び込み物凄い速さで水中を泳ぐ。
「すっごい速いですね」
「あれは多分、『ウンディーネ・クロス』・・・」
ヒリュテ姉妹が来ている水着はサラマンダー・ウールと同じ様に精霊が魔力を編み込んだ護布。ウンディーネ・クロスの場合は水性攻撃や熱波への耐性や防暑効果もある。水の抵抗や水圧にも強くなり水中での移動速度も増加する。
「さて、食人花は姿を現すんかなぁ」
「食人花?」
ロキがポロッと口にした言葉に総司は反応した。食人花は別名ヴィオラスと呼ばれ総司がオラリオに転生した日に出現したモンスターだ。ただ総司は名前を知らなかったようだ。
そして今回、このメレン近海に食人花の目撃情報があったらしいとディオニュソスから聞いている。
「あ、総司君。ティオナさんが持って来たリュックに総司君の戦闘衣と武器が入ってましたよ。そろそろ着替えましょう」
「ありがとうございます! では早速・・・」
「は〜い総司、あっちで着替えようね〜」
エルフ組が暴走する前にエルフィが総司の背中を押して移動を促す。
現地点から少し離れた大きめの岩陰で寝巻きを脱ぎ、褌姿をエルフィの前に晒している。
「総司ってさぁ。全然強そうに見えないよね」
「え?」
ロキ・ファミリアでも限られた者しか知らない総司の実力。普段の総司を見ていればフィンが推すほどの実力を感じないだろう。そう思っているのはエルフィだけでなく他の団員も同じだ。中層に来たのもパーティメンバーであるベル達、そして余程運が良かったから来れたと思っている。
実際に運が良かったと言うのは間違ってはいないがそれだけでは無いと言うのも事実。ただそれを知る者がベル達しかいなかっただけだ。
「私らのとこLv.3〜4がゴロゴロいるからそう見えるだけかもしれないけどさ」
分かりやすく言うと舐められている。もちろんエルフィ達に悪気は無いし
「こーみえて僕強いんですよー!」
「あはは、ごめんごめん。ほら、刀持って」
むくれる総司を優しく宥めて刀を手渡す。買い足した脇差しと打刀を腰に差すと新撰組の隊服に袖を通す。
「ちょっと良いか。君達ってロキの所の子だよな?」
木箱を持った半裸の男神がやって来た。気さくそうなで爽やかな風貌な様子を見せるこの神は《ニョルズ・ファミリア》の主神ニョルズだ。メレンの漁港を運営している派閥で眷属達も海に出て漁を行っている。因みにその海の幸はオラリオにも出回っている。
「さっきロキに渡し損ねてなぁ、これ差し入れの魚だ。良かったら食べてくれ」
「お魚だぁー!」
「ハハッ、今朝獲れ立ての魚だぞ!」
艶々の新鮮な魚を見て涎を垂らす総司の脳内には様々な魚料理が浮かんでいた。そんな様子を見たエルフィは苦笑を浮かべニョルズは嬉しそうな顔で笑っていた。
「わざわざすみません」
「ハッハッハ、良いんだ良いんだ。気にしないでくれ」
親しみやすい神に気を取られていると突然海の方から只事ではない大きな音が響き渡った。3人が海を見てみると一隻の船に食人花が巻きついているのが目に入った。
「ッ!」
「あ、あれは・・・食人花!?」
「・・・・ッ!」
食人花を視認した瞬間それぞれが反応を示す。特に総司は食人花が以前敗北を喫したモンスターだと知り強い“殺戮衝動“が湧き上がる。
「やばい、行かなきゃ!」
「・・・・」
急いで皆の所に走り出すエルフィにワンテンポ遅れて総司が駆け出す。その目は先程までの無邪気さは無く完全な臨戦状態に入っていた。
しかし次の瞬間、船に巻きついていた食人花の口が吹き飛んだ。遠目からだったのでよく見えないが船のすぐ近くで浮かんでいる2人はおそらくヒリュテ姉妹だ。
「・・・・・・」
討伐された事を確認した総司は立ち止まり言葉では表現しづらい感情に襲われていた。だが少なくともそれが怒りや悔しさを含んでいる事は確かだ。潮風に髪や隊服を仰がれ悲壮感が漂っていた。
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その日の夜、予約していた宿泊施設でヒリュテ姉妹を除くメンバーでミーティングをしている。
「明日から昼間に出た食人花の調査を開始するが・・・それを前に無視できない来客だ」
リヴェリアの会議を進める中、昼間起こった事を鮮明に思い出す。
「カーリー・ファミリアはテルスキュラと言う国に君臨する女神の眷属だ」
「まぁ、アレスんとこと同じ国家系ファミリアと言っても差し支えないなぁ」
昼間出現した食人花を討伐したのは《カーリー・ファミリア》と言うアマゾネスだけのファミリアでヒリュテ姉妹の故郷でもある。
「閉鎖的で外界の者が得られる情報は限られているが・・・近年とある噂がオラリオまで聞こえて来た」
リヴェリアの緊張感が一気に上がる。その噂と言うのはオラリオ最強派閥の第一級冒険者でも戦慄するほどのようだ。
「カーリー・ファミリアの頭領姉妹アルガナとバーチェが“Lv.6“に到達した・・・と」
Lv.6と言うとフィンやリヴェリア、ガレスと言ったロキ・ファミリアの中枢、果てはアイズやベート、ヒリュテ姉妹と言った幹部達と同じレベルと言う事だ。
その事実を知った女性団員達は動揺を隠せない。
「そ、そんな・・・」
「ダンジョンもないのに・・・・どうしてそこまで強く・・・?」
アイズの疑問にリヴェリアは目を鋭くなる。
「オラリオは・・・あの迷宮都市のダンジョンに全てが集約されている。冒険者の存在だけでなく産業や経済活動、日常生活から娯楽に至るまで全て行き着く先はダンジョンだ。我々の様なファミリアもダンジョンにより深く潜るために強くなるそれがオラリオの“強さ“だ」
「じゃあテルスキュラは・・・・?」
『強くなる』
「その一点のみに全てを捧げたのがあの国だ。モンスターを殺す強さ、人を上から喰らい殺す強さ、全てを捩じ伏せる強さ・・・それのみを求めそれ以外は何も欲っさない、但しその為なら何だってする。例えそれがアマゾネス同士であってもな」
「あ、あの・・・カーリー・ファミリアの人達とティオナさんとティオネさんが知り合いみたいだったのは・・・?」
女性団員達が戦慄する中今度はレフィーヤが質問を投げ掛ける。ロキとリヴェリアはその質問に対して言いづらそうにしつつも重い口を開く。
「・・・あの姉妹がこのファミリアに
5年前
「私達さぁ、数え切れないくらい同胞を殺しているけど・・・それでも勧誘するわけ?」
この頃の2人の目は据わっており完全に人殺しの目をしていた。
「テルスキュラの出身であの国が故郷。2人は元カーリー・ファミリアの団員だ・・・」
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ミーティングが終わり夜も深けた頃、総司は1人バルコニーで物思いにふけていた。
「・・・・・」
カーリー・ファミリアの来航、テルスキュラの方針、ヒリュテ姉妹の過去、正直な話しそれらの全てが総司にとってはどうでもいい事だ。
仲間殺しなど生前幾らでも経験している。
そんな事よりも・・・・
「斬る・・・斬る・・・キル・・・」
今は殺戮衝動に駆られたこの状態を鎮めなければ行けない。この赤い眼光が夜の闇の中に朧気に揺らめいていた。