オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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怒り狂う蛇

「食人花のモンスター・・・? ふぅむ、存じませんなぁ」

 

昨日出現した食人花が流れてきた可能性を考えオラリオ下水道出口を調査していたアキとリーネだったが排水路には異常が無かった。という事は食人花は排水路を使っていない事になる。侵入口が水路でないなら陸地だと考えたアキは闇派閥(イヴィルス)もしくはその協力者がいると推理した。

 

港街メレンのギルド支部長、代々メレンの長を務めるマードック家の現当主、《ニョルズ・ファミリア》の主神ニョルズ、この3つに的を絞り調査を進める。

現在はリヴェリアと総司でギルド支部長のルバートに聞き込み調査を行っている。

 

「ギルド本部にもそのような新種の情報は伝わっておりません」

 

「だが確かに出現した。調査と対策に乗り出すべきではないのか?」

 

「ニョルズ・ファミリアの連中に任せておいてよろしい。こちらが下手に介入すると水辺は自分達の領分だから口出しをするなと言い返して来るでしょうから」

 

食人花については何も知らない様子を見せる。しかしここで数々の悪人を見てきた総司のセンサーが反応する。一晩寝て殺戮衝動も抑える事が出来たようで、今は比較的落ち着いているがいつもの愛嬌は無くまるで戦場にいるかのような雰囲気だ。

 

「本当に知らないんですか?」

 

「そうだと言っているでしょう」

 

「ーーー食人花について何も関与していない。闇派閥(イヴィルス)とか言う賊とも関わりは無いと、そう言い切れますか?」

 

「も、勿論ですよ。いい加減くどいですよ!」

 

「総司、そこまでだ。すまないな、慣れない土地に少し戸惑っているようだ。許してくれ」

 

刺し殺すかの如く冷たい視線を向けられたルバートは背筋が凍る。そんな目を向ける総司をリヴェリアは手で静止を促しルバートに対して謝罪を行う。

 

「ま、まぁ、それよりもあの異国のアマゾネスどもを何とかして頂きたい。恐ろしくて外を出歩けないと住民から苦情がありました」

 

「・・・入港を許可したのはそちらではないのか?」

 

「迎え入れたのはあくまで街側、あのいけ好かないマードック家の当主です。尤も“カーリー・ファミリアの入港に異議を唱えなかった“という意味なら我々の責任でもありますがね」

 

港街メレンはオラリオの玄関口出会って厳密に言うとオラリオではない。自治権は街と二分されている為、ギルドと領主に異国民の入港を決める権利がある。今回の場合は領主のマードック家が許可したようだ。

 

「とにかく・・・猛獣が街を彷徨いてるようなものです。今のメレンは」

 

これ以上は無意味と判断しギルドの調査を切り上げる。

取り敢えず他の団員と情報共有する為の待ち合わせ場所へ移動を開始しているがリヴェリアは後方から着いて来る総司の事が気掛かりだった。

 

(今朝から・・・いや、昨日から総司の様子がおかしい。妙に殺気だっている・・・ティオネは分かるが何故だ?)

 

ティオネが荒れているのはカーリー・ファミリア、特に主神のカーリーと再開した事が原因だろう。日常的に同胞との殺し合いを強制し続けられたのだから当然と言えば当然だろう。ティオナの場合はそこまで気にしていないようだった、寧ろティオネの心配をしているくらいだ。

 

「総司、さっきの男をどう思った?」

 

総司への疑問はさて置き調査について総司に見解を求める。

 

「僕らの関心を食人花からカーリー・ファミリアにすり替えようとしてました。随分と分かりやすい人でしたね」

 

「やはりお前もそう思うか。何か後ろめたい事があるからそうしたのだろうが・・・」

 

いまいち確証がないので派手な事が出来ない。取り敢えず今は情報共有が先だ。

 

「リヴェリア様!」

 

「アリシアか。マードックの方はどうだった?」

 

マードックの調査を終えたアリシア達がリヴェリア、総司と合流する。皆の顔を見れば大体の予想は着く。ギルド支部と同じく収穫は少なそうだ。

 

「ギルドとの関係を疑われて取り合って貰えませんでした」

 

「そうか、マードック家とギルド支部は犬猿の仲と言うのは本当らしいな」

 

ギルドとの繋がりはあるとは言えこうも一方的に打ち切られてしまう、これは逆に怪しんでくれと言っているようなものなのだが此方も確証が持てない。

 

「リヴェリアー!!」

 

報告を受けている途中にティオナとレフィーヤ、アイズが血相を変えて此方に向かってくる。

 

「ティオネがいなくなった!!」

 

「何だと!?」

 

ティオネが行方不明になった事を知ったリヴェリアはカーリー・ファミリアと関係があると脳裏に過ぎった。

 

「聞いたか? 大通りでアマゾネス達が騒ぎを起こしてるらしいぜ」

 

「マジ? 物騒になっちまったな」

 

通行人の会話を聞いたリヴェリアは予想が確信に変わった。大通りで暴れているアマゾネスはティオネ、相手は十中八九カーリー・ファミリアの連中だ。

 

「お前達急いで行くぞ!!」

 

そう言ってリヴェリアは走り出す。ティオナ達も戸惑いながらも遅れてリヴェリアを追う。

最後尾を走る総司は目の端に“何か“を捉えた。

 

「ッ!!」

 

路地に隠れる様に佇む影が一つ。総司は思わず立ち止まり咄嗟に路地の方へ目を向けるがそこには既に誰もいなかった。

 

「総司! 何をしている!」

 

リヴェリアの怒鳴り声で我に返り再び走り出す。

 

(今のは・・・?)

 

その者の姿形、それどころか性別すら視認出来なかった。一体誰だったのか気になるが一つだけ言える事がある。

 

(凄まじい程の剣圧(ちから)を感じた・・・)

 

自身よりも遥かに強い、分かった事はそれだけだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

港街メレン《大通り》ではリヴェリアの読み通りティオネとカーリー・ファミリアの姉頭領アルガナが殴り合いを繰り広げていた。先の遠征でティオネやティオナもLv.6に上がった事で互角の勝負をしている。

 

「強くなったなティオネ。ティオナも同じくらい強くなったのか?」

 

「てめぇには関係ねぇだろ!!」

 

否、アルガナの方がやや勝っている。加えて今のティオネは冷静ではない為動きが単調で読まれやすくなっているようだ。

 

「聞いたぞティオネ? 外のセカイでお前はワタシと同じ【怒蛇(ヘビ)】になったと」

 

「てめぇと一緒にするんじゃねぇよ、戦う事しか能がねぇ猿が!!」

 

いつも以上に荒々しいティオネだがアルガナはそんな彼女をおちょくって楽しんでいるようだ。2人の連撃が生々しい打撃音を大通りに響かせる。

 

共通語(コイネー)を覚えて良かった。外界のエモノが死ぬ前に何を叫んでいるのか知りたかったんだ!」

 

数百の打撃が交わる中アルガナがティオネの拳を弾いた。

 

「怒りか? 命乞いか?」

 

アルガナの鋭い拳が正中線を捉え防御を固めたティオネの両腕ごと体を民家の壁まで吹き飛ばした。

 

「クソーーーッ!!」

 

反撃に出ようとしたティオネの足下には怯える少女がいた。そんな事にはお構い無しのアルガナは少女ごとティオネに蹴りを加えんと振りかぶる。

 

「グッ!!」

 

咄嗟に少女を突き飛ばしアルガナの蹴りから守ったがそれによってティオネはまともに攻撃を受けてしまった。

 

「ティオネ!!」

 

丁度ティオナ達が到着し止めに入ろうとしたのだが、アルガナは追撃の意思を見せない。どうやらティオネが少女を庇った事に驚いているようだ。

 

「何だイマのは・・・? 庇ったのか・・・アレを?」

 

興が削がれた様子で地面に倒れ伏すティオネを見下ろす。

 

「変わったな、変わった・・・強くなったが弱くなった。お前は戦士ではなくなった」

 

そのまましゃがみ込みティオネの髪を鷲掴みにして顔を上げさせる。

 

「お前、まだ“セルダス“を殺した事を後悔しているのか?」

 

「ッ!!」

 

アルガナの言葉で数年前の出来事が鮮明に蘇る。自分が手に掛けた同胞の血は妙に暖かく濃い赤色をしていた。何度洗っても血の匂いがこびりついて離れない。殺せば殺すほど血の匂いは濃くなっていくが空は醜いほど青かった。聞こえるのはモンスターや仮面越し同胞の断末魔、客席からの歓声、気が狂いそうだ。

 

しかしそんな日々にも光はあった。

 

セルダスとはティオネにとって姉の様な存在で、それはティオネだけでなくティオナを含めた石部屋の同胞達の姉、親代わりだった。

そして同じ石部屋の仲間同士で殺し合う事はなかった。テルスキュラにもまだ良心が残っていたのだと思っていた。そう思うと心が楽になり、殺し合わなくて済む存在が愛おしくなった。

 

しかしそんな日々は突然崩壊し闇に叩き落とされた。

 

ティオネが五歳になる頃、今日もいつものように戦い、いつものように殺した。ただいつもよりも激闘だった為、ティオネの仮面が戦闘中に剥がれた。途端に相手の動きが鈍くなったのでティオネは顔面に拳を叩き込み手に持っていた剣を胸に突き立て刺殺する事に成功した。

 

殺した同胞の叩き割った仮面が外れた。

 

 

 

「セル・・ダス・・・?」

 

 

 

この仮面も同室同士では殺し合わせなかった事も、全てはこの時のためだったのだ。Lv.2への昇格(ランクアップ)には“特別な相手“との極限の戦いが条件。怒りを超克し涙を枯らし闘争に身を委ね“真の戦士“へと至る。

 

 

 

汝こそ真の戦士(ゼ・ウィーガ)

 

 

 

このテルスキュラは勝者(ティオネ)を称賛し祝福し認めてくれた。聞こえて来る歓声は相変わらず狂気じみている。手にこびりついたこの鮮血だけは一生に消えない、この匂いも死ぬまで忘れないだろう。

 

 

だから少女(ティオネ)は、この国(テルスキュラ)の全てを呪った。

 

 

「ーーー殺す!!!」

 

鷲掴みにされている髪などお構い無しにアルガナの顔面に拳を叩き込む。その衝撃で反対側の民家にぶっ飛んで行くのが見えた。

 

「ティオネを止めるぞ! アイズは奴を抑えろ!!」

 

リヴェリアの指示でアイズはアルガナの方へ向かう。土煙が晴れる頃にはアルガナはもう立ち上がっており自身の血を舐めて不敵な笑みを浮かべていた。

 

「今の一撃は良かった・・・続けるぞ!」

 

それを聞いたティオネも立ち上がりアルガナを睨みつける。

 

「上等だッ!!!」

 

一秒後、確実に街に甚大な被害をもたらす死闘が繰り広げられるであろう、その殺気でアイズだけでなくリヴェリアすら一瞬動きを止めた。

 

「はい、そこまでや」

 

2人殺気を遥かに上回る神威、神ロキの登場だ。

 

「街中ではっちゃけ過ぎやで、自分ら。洒落にならんわ」

 

普段は巫山戯ているロキが真剣そのものだ。そんな神を見たティオネとアルガナは完全に戦闘から意識が外れ冷や汗を流す。

 

「アルガナ、お主もじゃ」

 

2つ目の神威の正体は《カーリー・ファミリア》主神カーリーだ。店のベランダのような場所から此方を見下ろしている。

 

「お初にお目にかかる。妾がカーリーじゃ」

 

「・・・・ロキや」

 

二柱の神の邂逅に辺りの雰囲気は氷海の如く冷えきっていた。

 

「ウチが今のこの子らの親や・・・よく覚えとけ」

 

「知っておる。そなたらの名声は妾のテルスキュラまで轟いている」

 

オラリオにテルスキュラのアマゾネス姉妹の噂が聞こえて来るようにテルスキュラにもオラリオのアマゾネス姉妹の噂は聞こえて来る。

 

「はて、ロキは男神じゃったか?」

 

「女神や!! 見たら分かるやろ!! どこ見て判断しとんねん!?」

 

ロキの局部見て男神と勘違いしたカーリーにブチ切れる。先程までの雰囲気をぶっ壊していつものロキに戻る。

 

「ティオネもティオナも久しぶりじゃのう」

 

「無視か! ええ度胸してるなドチビ2号の分際で!!」

 

「ロキ、黙って・・・」

 

話しが進まないと判断したアイズはロキを強制的に黙らせる。そんな事は気にせずティオナが口を開く。

 

「カーリー、何しに来たの!?」

 

「何、ただの観光じゃ。しばらくこの街で過ごす、そなたらもいるならまた会おうぞ。愛する子供達よ」

 

そう言ってカーリーはアルガナを連れて去って行った。それでヒリュテ姉妹に残された疑問は解消されるわけがなく姉は憎悪、妹は不信の念が残り続けた。

 

 

 

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