アルガナの襲撃事件から数時間後、辺りはすっかり夜になり酒場に活気が出てきた頃だ。そんな酒場にロキとリヴェリアが椅子に座っていた。
「ティオネの様子はどうや?」
「かなり心を乱されているな。アイズやティオナが傍については居るが・・・あれは少しまずいな」
事件以来ティオネはいつ襲って来るか分からない状況でより一層荒々しくなっている。常に周りを警戒して不用意に背後に立った者は攻撃を仕掛けようとする危険な状態だ。
「食人花が出た以上、調査は続けなきゃあかんのやけど・・・ティオネ達だけでもオラリオに帰した方がええかもしれんなぁ」
「ティオナはともかくティオネは大人しく従うとは思えないな。それと・・・」
2人はヒリュテ姉妹の事で悩んでいるがリヴェリアはまだ不安要素があるようだ。
「なんや、まだ何かあるんか?」
「あぁ、総司の事だ。昨日から様子がおかしいんだ、何か心当たりは無いか?」
聞かれたロキは少し考え込む。総司の異変には当然ロキも気付いているが今はカーリー・ファミリアやティオネの方が危険度が高いため後回しにしていた。
「んー、本人から聞かへんと何とも言えんが・・・」
「何か知っているのか?」
「おそらく“食人花“や」
総司がオラリオへ転生した日、つまり
実際にそれで合っている。総司にとってオラリオに来て最初の敗北が食人花だ。
「アレに負けた事が総司にとってどの敗北よりも特別なんやろなぁ」
「昨日現れた食人花を見て・・・なら総司もオラリオに帰した方がいいな。あの様子では次また食人花が現れたら真っ先に飛びかかるぞ」
リヴェリアの予想は間違っていない、現に昨日食人花が出現した際は宿敵と認識した瞬間真っ直ぐ食人花へ走り出した。目の前に広がる湖には目もくれず。直ぐに食人花は討伐されたので水上に足を入れる前に静止したが、あのまま討伐されなかったら構わず湖に入っただろう。
「しかし素直に帰ると思えへんな・・・」
確かにあの様子なら素直に言う事を聞かせるのは難しいかもしれない。無理矢理オラリオへ帰還させる事も可能ではあるが出来ればそういう事はしたくないのが本音だ。
「ならせめて常に私かLv.4以上の者と行動させるしかあるまい」
カーリー・ファミリアが接触するとしたら1番確率が高いのがヒリュテ姉妹だろう。姉妹以外の団員と総司を組ませればアルガナは寄って来ない筈だ。
「ところでロキ、そちらは何か収穫はなかったのか? ニョルズのところに行ったのだろう?」
話しを切り上げ捜査の報告を共有する。するとロキは数秒ほど沈黙し糸目を開きリヴェリアに質問をする。この時のロキはふざけた様子を一切見せない真剣そのものだった。
「なぁ・・・ニョルズは“黒“だと思うか?」
「ニョルズを疑っているのか!? 馬鹿な、彼は神格者だぞ!」
ロキの思わぬ言葉にリヴェリアはつい声を荒げる。短い交流とは言え今回の件でニョルズはロキ・ファミリアの為にかなり尽くしてくれた。それに港街の漁師達の話しを聞く限り
但し人間ならの話しだ。
「子供相手とは違って神の目から見ても同じ神の嘘は見抜けん事も多いけど・・・ニョルズはまだ嘘が下手や。ウチからして見ればな」
同じ神でもロキほどの神の目は誤魔化せない。
「ニョルズはウチに何か隠し事をしとる。それが食人花や闇派閥に関係しとるかは分からんが・・・やましい事があるのは確実や」
「信じられん・・・」
ニョルズはメレンで唯一の漁業系派閥の主神、この港街の常在戦力としては最大最強だ。
ギルド支部長のルバートはオラリオと太い繋がりを持つ。これは逆に言えばギルドの目を誤魔化すのもお手のものだろう。
マードックは古くから続く街の名誉であり自治権の半分を持つ街の長だ。住民からの信頼も暑くマードックに知られず街の裏で動くのは至難の業だろう。
そしてロキ・ファミリアが追っているのがかつてオラリオに暗黒時代を齎した
これらのどれかが繋がっているとロキは睨む。少しややこしい話しになってしまったがつまりメレンの三勢力のうち闇派閥イヴィルスと繋がっている者がいると推理した。
「カーリー・ファミリアはどうだ?」
「ウチは白やと睨んどるが・・・時期が時期やし全くの無関係とも思えんが・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーー
翌日改めてメレンの三勢力の調査を再開する。
周辺調査として人通りの少ない路地の様な場所にレフィーヤやエルフィと言ったLv.3以上の団員が数名、そしてその中に沖田総司の姿があった。
「総司君、迷わないようにしっかり私に付いて来て下さいね!」
「レフィーヤ過保護過ぎだよ〜」
「リヴェリア様に任されたんですから当然です!」
昨日の内に総司はレフィーヤ達と行動させる事に決めたらしい。リヴェリア本人はティオネと行動しているようだ。ちなみにアイズはティオナと一緒にいる。
「・・・・・」
緩い空気を漂わす女性陣に対して相も変わらず殺気をばら撒きながら辺りを警戒している。いつ敵が現れても良いように常に左手を打刀にかけている。
「ね、ねぇ・・・総司はまだご機嫌斜めなの?」
「いつもの愛らしい総司は何処行ってしまったのか・・・」
「やっぱりレフィーヤが子供扱いするから・・・」
「わ、私ですか!? エルフィさんも大概ですよ!」
総司から少し離れた場所で女性陣がこそこそと話し合う。総司には聞こえていないようだ、と言うより聞いていないと言った方が正確なのだが。
「リヴェリア様からは『先走らないように見ておけ』と言われてますし・・・私が頑張らないと!」
「ーーーねぇ、お姉ちゃん」
音も無く背後に立っていた少女。その存在に気づくと思わずレフィーヤは身構えると他の団員にも警戒が移る。褐色の肌、アマゾネスの特徴と一致しているようだが眷属特有の体捌きが無い為レフィーヤ達は警戒を解く。
「お姉ちゃん達はオラリオの冒険者様?」
「え・・・あっ、はい! そうですよ」
「あのね? ずっと前から遊び場所で変な鳴き声が聞こえるの」
話しを聞くと少女が普段遊んでいる場所で不審な鳴き声が聞こえるようだ。そしてその鳴き声は先日湖に現れた食人花と一致しているらしい。
「大人の人は内緒にしてって言われてたんだけど・・・・私怖くなっちゃって」
「それは何処から?」
食人花の可能性を考え調査する事に決めた。鳴き声がする遊び場所まで少女は案内してくれるようだ。
「こっちだよ」
路地から更に細い路地裏の様な道を進み少女の後を追う。この時点では褐色肌の少女はカーリー・ファミリアでは無いと思っている。悪人を感知する総司のセンサーにも引っ掛からないようだ。そのセンサーの精度はフィンやリヴェリアと同等かそれ以上である事から信憑性は高いと言える。
「ねぇねぇ、あなたお名前なんて言うの? 私はエルフィ」
「チャンディ」
「チャンディさんはお友達とどんな遊びをするんですか?」
「それはね・・・・」
向かう途中談笑を行う。隙間の時間で仲を深められる女子特有の空気が流れている。和やかなムードの中総司だけが“何かの接近“に気がつく。
「ーーーー襲撃ごっこ・・・だよ」
「ーーえ?」
レフィーヤの頭上を一つの影が覆う。その影に向かってもう一つの影が飛び出す。
「ッ!」
頭上からの奇襲に誰よりも早く気づいた総司が飛び上がり打刀による一閃を繰り出す。襲撃者は空中で身を翻し総司の斬撃を躱す。両者着地するとレフィーヤ達は武器を構え臨戦態勢に移る。
「貴方は・・・昨日の?」
「やはりお前は気づいていた。昨日のはまぐれではなかった」
昨日のアルガナの襲撃事件発生の現場に向かう途中総司が見た影はこの“アマゾネス“だと確信した。
「貴方がバーチェ・カリフ・・・ですね」
「私を知っているのか」
テルスキュラの頭領姉妹の妹バーチェだ。姉のアルガナと同じLv.6、総司は顔は知らなかったが昨日見たアルガナと同じ
「ーーーなら・・・」
瞬間、目の前のバーチェが消えたと思ったら総司以外の団員が壁に激突し地面に倒れ伏す。
(速い・・・!)
スピードに自信がある総司が目で追う事すら出来なかった。Lv.1の中なら間違いなく最速、しかし相手はフィンやアイズと並ぶLv.6だ。経験の差でフィンの方が勝るだろうが総司にとっては遥か格上の存在。
「ーーー私のチカラも知っているな?」
Lv.3〜4の団員を一蹴し総司をじっと見据える。辛うじて意識があるレフィーヤは起き上がろうにも身体が言う事を聞かない。Lv.4のレフィーヤですらそれ程のダメージを受けている。
「ふふふ、神様達の中にはね・・・纏っている神威をゼロにできる神もいるの。ゼウスやオーディンと言った大神や一部の神々、“妾もその一部“じゃ」
少女はウィッグを取り無造作に放った。地面に倒れるレフィーヤは目を疑った。先程まで何も感じなかった少女が今度は神威を纏わせ目の前にいる。総司もこれは予想外で驚愕している。
つまり今ここに神の嘘は人類には見抜けない事が証明された。
「一つ利口になったなぁ、ロキの子らよ。お主の身柄は預からせてもらうぞ。なぁに、悪いようにはせん。バーチェ、男の方も片付けるのじゃ」
「総司・・・君、逃げ・・て・・・」
遠退く意識の中レフィーヤは最後まで総司の安否を気にかけそこで意識が途切れる。
カーリーの指示でバーチェの掌底が総司に炸裂し追撃の回し蹴りで路地裏に置いてあった木箱に激突する。
「くッ・・・」
他の団員と同じ様に倒れ伏すが根性のみで意識を保っていた。以前オッタルから受けたダメージに比べれば安い物だが立ち上がれない位のダメージは受けている。
「まだ意識があったか」
バーチェも驚いている様子を見せる。とどめを刺そうと歩いて近づき此方を見上げる総司の苦痛に耐える顔を見てある事に気がつく。
「お前の目は私と似ている・・・」
突然意味不明な事を言い出すので総司は困惑している。
「お前は何に怯えている?」
「・・・?」
この状況ならバーチェに向けられていると思うのが普通だろうがそれは違うとバーチェは見抜く。
「私も恐怖を知る者だ。だからお前の恐怖も分かる」
「訳の・・・分からない、事を・・・」
「無自覚か・・・だがーーー」
バーチェの言葉を遮り総司は斬り掛かる。動ける筈はないとそう思っていたバーチェは一瞬反応が遅れ右頬を掠る。頬に伝う血液を肌で感じながら総司を見て目を細める。
「殺す・・・殺ス・・・コロス・・・」
両眼が赤く輝き邪悪な笑みを浮かべている事から【鬼子】を発動させているようだ。しかも初めから暴走している。これは
今の総司は殺戮本能で動く傀儡と化した。
目の前の生き物を殺さんと再び総司は斬り掛かる。しかし何度も言うが相手はLv.6の格上、そのスピードに対応出来ない訳がない。
「チカラに逃げるかーーーそれも良いだろう・・・」
超スピードで接近する総司に合わせてカウンターが腹部に炸裂する。そこで総司の【鬼子】は解除され再び地面に倒れる。
「チカラが無ければ・・・恐怖には抗えない」
意識が途切れる瞬間に聞いたその言葉は冷たく重く・・・それでいて悲しみを含んだものだった。