「ロッド、急いで手当てしろ!」
「分かりやした! てめぇらはそっちの嬢ちゃんを頼む!」
「はい!」
バーチェ襲撃事件発生から数十分後、騒ぎを聞き付けてニョルズ・ファミリアの漁師達とニョルズが現場に辿り着き総司達の救助を行っている。怪我の具合は軽症とは言えないが命に別状はない程度だ。
「・・・あぁん? これはどう言うこっちゃ!?」
遅れてロキが到着したが現状を把握し切れていない様子を見せる。
「ごめんロキ、やられた・・・」
「ラクタ! 何があったんや!」
「カーリー・ファミリアにいきなり襲われた・・・あいつらLv.3以下のあたし達狙って来たんだ・・・! レフィーヤが連れて行かれた・・・!」
大体の事情を察したロキは優しくラクタへ微笑み掛けた。攫われたレフィーヤが心配だが取り敢えず死人は出ていない事を安堵する。
「わかった・・・後はウチらに任せて休んどき」
内心に宿る怒りを抑えつつ冷静にレフィーヤの救出とカーリー・ファミリアへの対策を考えていると背後から声が聞こえた。
「おい! こっちにも怪我人がいるぞ! 大丈夫か坊主!」
漁師の男の声が聞こえたので急いでロキも向かうとそこには総司が血塗れで倒れていた。ラクタ達より少し離れた位置に倒れていたため若干発見が遅れたようだ。
「総司ッ!」
「これは酷い・・・おそらく内臓が破壊されてる、慎重に運べ!」
襲撃されたロキ・ファミリアの誰よりもダメージを受けていたのは明らかだった。ニョルズの指示で最優先で運び出され回復ポーションで治療を試みるがこれ程の大怪我では完治は難しい。
「ロキ・ファミリアのリヴェリアだ! 診せてくれ、私の魔法で治療する!」
駆け付けたリヴェリアは真っ先に目に入った総司を見て自身の魔法で治療する準備を整える。詠唱の最中周りを確認し全員怪我をしているが総司ほど重症ではないと判断し最初に総司を治療する事に決めた。
「ロキ・・・」
心中を察しているニョルズはどうにか励まそうと言葉を選んでいると、ロキは確かに笑っていた。しかしそれは喜びの類いでは無い事は容易に分かる。
「あンのクソチビィ・・・ウチに喧嘩売りよったなァ」
その笑顔は確かな怒りを表していた。そんなロキを間近で見たニョルズは悪寒が走り固唾を飲む。だがロキはその怒りを保ちつつ今回のカーリー・ファミリアか行った行動を分析していた。
(しかし気になるな・・・何故レフィーヤを攫った? 宣戦布告か、それとも人質のつもりか・・・)
「ロキ、エルフィの団章が無い! それに私達が此処に来る前にバーチェが姿を表したの。多分何か関係してる!」
治療に務めていたアキがロキ・ファミリアの団章が紛失している事と再びバーチェが姿を表した事をロキに報告する。するとロキは何かに気がついた様に声を荒らげる。
「まさか・・・ティオナとティオネは何処や! 2人を行かせたらあかん!」
リヴェリアと共に行動していた筈のティオネが姿を消した事に今気づいたようだ。状況が状況で急いで此処に駆け付けるのにかまけて見逃していた。
「ロキ・・・これは・・・!?」
そこへアイズが到着した。それを見たロキは目を見開きアイズに問いただす。
「アイズ・・・ティオナはどうした?」
「ッ!」
アイズもリヴェリア達と同じくティオナが居ないことに気づけなかった。しかし起きてしまった事は仕方がないと次の行動に出る。
「カーリーの狙いは十中八九ティオナとティオネをカリフ姉妹にぶつける事や! 団章やレフィーヤは“2人で来させる為の工作“、奴らの習性からレフィーヤが“人質“になる事はまず無いと思ってええやろ」
ヒリュテ姉妹以外の者が指定したであろう行けば人質に変わる可能性がある為、下手に手出しが出来ないが街でカーリー・ファミリアを見かけたら問答無用で叩きのめす方向で話しが進む。
「リヴェリア達は引き続き総司達の治療と搬送、アイズ達はティオネ、ティオナの捜索、アリシア達はカーリー・ファミリアが宿泊しとる宿とガレオン船の調査や。アマゾネスが潜んどるかもしれへんから単独行動は控える事、油断せんように気ィ引き締めてな!」
ロキの指示で団員達は任務に取り掛かる。それを聞いたニョルズ・ファミリアの漁師達も負傷者の搬送に協力してくれるようだ。
ーーーーーーーーーーー
約数時間後、太陽が海に沈みかけた時ヒリュテ姉妹の捜索をしていたアイズ達がロキ・ファミリアが泊まっていた宿に帰還する。
「ただいま」
「2人は見つかったか? アイズ」
「ダメ、見つからない・・・」
この数時間でアイズ達は必死に探した。一緒に行動していながら目を離してしまった事に責任を感じているようだ。
「ごめん、私・・・ティオナと一緒にいたのに・・・」
「いや、私も現場に向かう事に意識を割き過ぎてティオネの様子を見てなかった。ティオナを連れて行ったのもあの娘だろう」
リヴェリアも注意が散漫になっていた事を反省している。そんな中、団員の1人が忙しそうにメレン全体を写した地図を広げ初め、それを他所にロキがリヴェリアに質問をする。
「総司達はどうや?」
「治療は済ませた。直ぐにとは行かないがじきに動けるようになるだろう・・・しかし総司に関しては数日は目を覚まさないかもしれん」
第一級冒険者の回復魔法でも治しきれない怪我だ、ロキ達は直接戦闘を見た訳では無いのだがバーチェから受けたダメージはそこまで深いようだ。
「ロキ! カーリー・ファミリアはダメ! 今日まで泊まってた宿ももぬけの殻だった、手掛かりなし!」
「メレンまで乗って来たと思われるガレオン船にも誰もいませんでしたわ!」
ドタドタと慌ただしく足音を鳴らし部屋のドアを勢い良く開ける。急いで走って来たらしく肩で息をしていた。
その報告にロキは違和感を覚えた。
「訪れたばかりの場所で上手くかくれんぼ出来るとは思えん・・・やっぱり協力者がおるな・・・」
肝心なのは何処の誰がカーリー・ファミリアに協力しているのかだ。食人花がカーリー・ファミリアのガレオン船を襲った時点で
(そういえば街で見かけないアマゾネス達がおるって聞いたな。それもカーリー・ファミリアが来る前から・・・)
以前からアマゾネスの目撃情報が度々上がっていたらしい。特に悪さもしていなかった為あまり重要視されていないようだが、ロキは“アマゾネスを主体とするファミリア“を一つだけ知っていた。
「あ、そうだ・・・これ、渡し忘れてた・・・」
アイズが取り出した一つの袋。ロキとリヴェリアは得体の知れない物に若干警戒心を抱く。持ち上げた感触は一言で言うと“粉末物“のようだ。
「ティオナと忍び込んだマードックの家にあった・・・」
ロキは何が入っているのか確認する為に袋を開けると物凄い悪臭が部屋に充満した。急いで窓を開け全員鼻を塞ぐほど酷い匂いで毒そのものだった。これはおそらく以前中層でベル達が遭難した時リリが使用した
「モンスター避けの魔法の粉だって、漁師や街の人に配ってた・・・」
「ーーーでかした、アイズ」
涙目になりながらロキは袋の中を注視していると“何か“を見つけたらしい。するとロキはニヤリと笑いアイズを褒める。
「アキ、ちょっとお使い頼まれてくれんか?」
「今から?」
「あぁ、大至急や」
ロキは紙にお使いの内容を書きアキに手渡す。意図が分からなかったがメモをサラッと読んで大体の内容を理解したようだ。
「やる事はそこに書いといた」
「了解!」
駆け足で部屋を出て行くアキを見送り窓の外の景色に目を向ける。
「後は、ティオナ達やな・・・」
ーーーーーーーーーーー
メレンの港からかなり離れた宿の最上階にワインを横に煙管を加え街を見下ろす紫色の髪と褐色の肌を有する美しい女神が一柱。
「盤上の外から蟻どもを見下ろすと言うもの悪くないな」
見るからに高級なロッキングチェアで寛ぐ女神の名はイシュタル。オラリオの歓楽街を支配する娼館ファミリア、《イシュタル・ファミリア》の主神だ。性愛の女神でありフレイアに並ぶもう一柱の美の女神である。
「ロキの幹部を1人でも減らせれば得と言うものだ。私怨を買ったとしても矛先はあの
肉感的、蠱惑的な雰囲気を纏い、抜群のスタイルを誇る。 髪は毛先が綺麗に巻かれ、後ろ髪は全体的に纏められている。化粧を完璧にこなし、手足や首元には金色の装飾がちりばめられている。
「ゲゲゲゲッ、イシュタル様ぁ〜。アタイの出番はまだなのかい?」
イシュタルの横で下品に笑うアマゾネスが1人いた。この人物はイシュタル・ファミリアの首領フリュネ・ジャミール、Lv.5の第一級冒険者だ。実力は確かにあるのだが人間離れした醜悪な容姿に相応した傲岸不遜な性格で協調性も皆無。 他のファミリアだけではなく仲間からも煙たがられている。
「アイシャ達が“アレ“を仕掛け終わってからだ。もう少し待てーーーっと噂をすれば何とやら」
「イシュタル様、言いつけ通り配置したんだけど・・・何だいありゃあ?」
イシュタル・ファミリアの幹部、Lv.3のアイシャ・ベルカと大荷物を背負ったLv.2の少女レナ・タリーが辛そうに立っていた。2人ともアマゾネスで冒険者兼戦闘娼婦だ。
「あぁ、お前達は初めて見るのか・・・私もよくは知らん。ただアレを使ってこそこそ動き回る連中と繋がりがあるだけだ」
「・・・・・」
「何か言いたい事があるのか? アイシャ」
「・・・持ち場に戻るよ」
「あぁ、頼んだぞ」
明らかに怪しい組織との繋がりを仄めかしているのだがアイシャにはどうする事も出来ず納得の行かない様子を見せるが大人しく引き下がる。
「フリュネ・・・これ、斧と鎧・・・」
「ったく、遅いんだよ。ブサイクがよ〜」
「ご、ごめん・・・」
自分の装備を運ばせた挙句その言い様、これだけでも仲間から煙たがられている理由が分かる。とは言え相手はLv.5、誰も逆らう事が出来ないのが現実だ。レナはただ謝る事しか出来なかった。
「ゲゲゲゲッ、今日こそぶっ潰してやるよぉ。剣姫ぃ〜。準備しなぁ、春姫ェ!」
この場に唯一アマゾネスでは無い人間が1人いた。白い衣に身を包んだ金髪の獣人、その名前は春姫と言うらしいがそれ以上の情報は確認出来なかった。
「・・・・・はい」
か細い声で返事をするその表情には優しさと哀しみが現れていた。鎧を着たフリュネの姿はまるで蛙そのものなのだが本人は自身がこの世で最も美しいと錯覚している為、この事実が他の者による嫉妬だと本気で思い込んでいる。そんな事はさて置きフリュネ達は持ち場に向かう。
「さて、私はのんびりこの
残されたイシュタルはワインを口に運び街で人間が踊る様を観賞している。どうやらこの女神には別の目的がある様だ。その目的とはフレイア・ファミリアの壊滅、全ては嫉妬から始まった計画なのだが本当に勝てるのか見物だ。