オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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鬼の目

町外れの廃墟の屋根の上で地平線に太陽が沈むのを眺めながら2人の姉妹はこれから起こる戦いに覚悟を決めていた。ティオナはバーチェとティオネはアルガナと『儀式』を行う事になる。

かつての自分達がやって来た同胞殺し、その日々に今日決着をつける。

 

「ティオナ、体は?」

 

「え? ポーションで治ったけど?」

 

ヒリュテ姉妹が姿を消してから2人で組手を行い、Lv.6へ上がった事による身体のズレを調節していた。漸くこれでまともに戦える。昨日のアルガナと戦った時も本調子ではなかったが今回は違う。

 

「そうじゃなくて」

 

「・・・うん、良い感じ!」

 

ティオナは拳を強く握り自身の力を再確認する。力が溢れてくる様だ、今なら誰にも負ける気がしない。

 

「変わったわね、私達」

 

「うん、大切な人が増えた」

 

テラスキュラにいた頃では考えられない環境。新しい世界、大切な仲間、居心地の良い居場所、そして仲間内で殺し合わずに済む国。

 

「守るわよ、私達の居場所を」

 

「うん」

 

太陽が海に沈み切るのと同時に姉妹は静かに拳を合わせる。カーリーから、アルガナとバーチェから、テラスキュラの呪いからロキ・ファミリアを守ると2人の姉妹は決意し指定された場所へ駆け出す。

 

「じゃあ行くわよ」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「・・・ん」

 

月明かりが宿の部屋を照らす。ロキ・ファミリアが泊まっている部屋でベットから起き上がる青年がいた。リヴェリアから数日は起きないと診断された総司が目を覚ました。

 

「ッ・・・!」

 

やはりまだ怪我が完全に治り切っていないのか身体に激痛が走る。堪らず総司は懐に忍ばせておいたポーションを飲み干した。幾らかマシになった気がしたが焼け石に水だろう。

辺りを見渡すと誰かが使っていたであろうベットが3つ。おそらく総司と同じくバーチェに襲撃されたラクタやエルフィ達が使用していたのだろう。此処にいないという事は既に目覚めたのか・・・

 

 

『お前は何に怯えている?』

 

 

バーチェの言葉が脳裏から離れない。

 

「怯え・・・僕が・・・」

 

本当に分からなかった、自分が何に恐怖し怯えているのか。仲間の死の事なのか、いや違う・・・それだとしたらこれ程まで深く脳に刻み込まれていない。もっと別の恐怖がある筈だと考えた。

 

 

 

ドオォォォン

 

 

 

突如街の方で轟音が鳴り響く。しかもそれは一箇所ではなく数十箇所でほぼ同時にだ。急いで窓の外を見るとそこには宿敵である食人花が蠢いていた。

建物が破壊される音、住民の悲鳴を聞いて我に返りベットから飛び起き椅子に掛けてあった新撰組の隊服に袖を通し打刀と脇差しを腰に装備し部屋から飛び出す。

 

「総司、目が覚めたの!?」

 

宿から出たら直ぐそこの道にいたエルフィが一番最初に反応する。続いてロキとリヴェリアも総司に気づく。

 

(バカな・・・動ける筈が無い!)

 

この短時間で目を覚ます事は予想外だった。総司の自己治癒力の高さに驚愕しつつ食人花へ向かおうとする総司を取り押さえようと行動に移す。

 

「待て! 何処へ行くんだ!」

 

「離して下さい! 僕はあのモンスターをーー」

 

リヴェリアは右腕を総司の首へ左腕を腹部へホールドし羽交い締めの様な形で総司を静止させた。肉弾戦が主体ではない魔術師だがレベル差があるので総司は抗えない。その際杖が手から滑り落ち地面に転がる。

 

「モンスターへの対処はアイズ達に任せる。我々は別の現場へ行く。目が覚めた以上仕方がない、お前も着いて来い」

 

「しかしーー!」

 

「総司! 今のお前では食人花には勝てん!」

 

「ッ!!」

 

はっきりと言われた言葉は総司の心に大きな傷を作った。しかしそれは事実で、Lv.1の総司では個体差はあれど基本Lv.3以上の力を持つ食人花には勝てないのは当然だ。今はフィンに代わりリヴェリアが監督役のため団員1人の我儘を聞くわけには行かないのだ。

 

「総司、状況が状況なんや。分かってくれるな?」

 

「はい・・・」

 

ロキに優しく宥められ大人しく諦める。食人花によって街は混乱に包まれている、自分の要求を優先させる時ではないと総司も分かっている。分かってはいるのだが・・・挑戦すら出来ない事に対する悔しさを何とか押し殺す。大人しくなった事を確認したリヴェリアは総司を解放し地面に落とした杖を拾う。

 

「うっし! 食人花を湖に放っとる黒幕にとってもこの状況は予想外の筈や、後は尻尾を出すのを待つしかないんやが・・・」

 

そうこうしている内に空へ花火が上がる。あれはロキ・ファミリアが使用する閃光弾だ。それを見たロキは的に矢が当たった時の様なニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「堪らず巣穴から飛び出しおったで・・・言い逃れ出来ん証拠と現場を押さえたる。“探偵ごっこ“開始や!」

 

ロキはエルフィとアリシアはリーネとリヴェリアは総司と指示された場所へそれぞれ三隊に分かれて向かう。次々と討伐される食人花を尻目に総司は自身の責務を真っ当する事を選ぶ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

街が食人花により混乱に包まれている中、ギルド支部はもぬけの殻だった。それはルバートの指示で住民の避難誘導を行っているからだ。

そんな灯りも付いていないギルド支部内で怪しい動きをする人影を見つける。

 

 

ガチャ、ガチャ・・・

 

 

棚から何かの“機材“を運び出している様だ。なるべく音を立てず慎重にそれでいて迅速に事を運ぼうとする動きはまず間違いなく表立って行動出来ない類いのものだろう。

 

「ーーーやはりお前が・・・いや、“お前達“が黒幕か」

 

「ッ!」

 

リヴェリアの声で過剰に反応する人影は灯りが着いた事によってその正体が明るみに出る。

 

「仲が悪いふりをしていたのも、共犯関係を悟られないようにする為のフェイクだったようだな・・・ルバート」

 

人影の正体はルバート。バレた事で狼狽を隠せていない。

 

「な、何を言って・・・言いがかりはギルドへの侮辱として・・・」

 

「ならばお前が抱えている機材は何だ?」

 

その機材はメレンに有事があった際すぐさまオラリオから冒険者が派遣させる為の信号弾だ。それを全てルバートが持ち出していると言う事は今冒険者がメレンに来るのは不味いと言っているようなものだ。

 

「その信号弾で冒険者が来ると自分が犯している後ろ暗い事が明るみになる。例えば・・・食人花の一件だ」

 

解説するとニョルズ、ギルド支部、マードック家は全員が共犯だったという事だ。アイズがマードック家で見つけた『魔法の粉』の中には“魔石“が散りばめられてあった。そして食人花は人間よりも“モンスターの魔石“を優先して喰らう習性がある。

つまりニョルズ・ファミリアが湖に食人花を放ち、放たれた食人花は湖に繁殖しているモンスターを食べまくる。そして船は魔石入りの魔法の粉をばら撒く事によって食人花は魔石に夢中になり襲われないと言う事だ。カーリー・ファミリアだけが襲われたのは魔法の粉を持っていなかったからだ。

 

「ニョルズ・ファミリアが食人花の密輸を行いギルド支部が魔石を横流し、食人花の密輸の隠蔽をしマードック家が魔石入りの粉を加工する。そして粉と食人花を湖に放つ・・・大方この辺りだろう」

 

次々と暴かれて行く悪行の数々、それを横で聞いていた総司にはもう食人花など脳裏に無かった。目の前にいるのは唯の罪人だ、その認識が脳を埋め尽くした。

 

「もう言い逃れはーーーッ!!」

 

リヴェリアの尋問の最中、総司が突然ルバートへ駆け出す。そして肉体レベルは一般人のルバートでは反応出来ない程の速さで接近しその首へ打刀の刃が迫る。一寸先、首に到達するであろう刃はリヴェリアがルバートを突き飛ばし杖で防ぐ事によって静止する。

 

「総司、お前何をーー」

 

「何故止めるんです?」

 

殺気に反応したリヴェリアによってルバートの命は守られたが、総司にとっては罪人を助けたリヴェリアの考えが理解出来ないと言った様子を見せる。

 

「僕はただ賊を斬ろうとしただけですよ」

 

賊・・・国家を乱す者。不忠不孝の者。謀反人。今のルバート達にぴったりの言葉だ。そう認識した瞬間の総司の行動は迅速だった。これは生前数多の賊、罪人を粛清して来た『新撰組一番隊組長』の姿そのもの、一切の慈悲を持たない“鬼の目“をしていた。

 

「・・・落ち着け。今こいつに必要なのは極刑ではない、処罰と贖罪だ」

 

食人花を見た時よりも暗い深淵の様な総司の目はリヴェリアでさえ一瞬言葉を失わせるほどの圧力があった。

 

「処罰は死、贖罪はあの世ですればいい」

 

「殺すなと言っているだろう。これは命令だ!」

 

頑なに粛清する事を譲らない。そんな様子に苛立ち少し大きめな声を上げる。

 

「わかりました」

 

一瞬不満そうな顔をしたが素直に納得し刀を鞘に戻す。あれ程までにルバートの処刑に固執していた総司の聞き分けがいきなり良くなった事にリヴェリアは疑問に思った。

 

「上官の命令ならば致し方なしですね」

 

「・・・分かってくれれば良いんだ」

 

上官の命令、その言葉に違和感を覚えたが納得してくれたみたいなのでそこは突っ込まないでおこう。総司の殺気に気圧されて腰が抜けているルバートはリヴェリアの手によって捕縛された。

 

「お前はこれからの人生、自らの罪を懺悔して生きろ。この街を私欲で弄んだ事をな・・・総司、行くぞ」

 

「はい」

 

ルバートを置いて立ち去るリヴェリアの後をついて行く総司だったが背後から嫌な視線を感じた。それは紛れもない怒りの感情、この期に及んでルバートは反省などしていなかった。寧ろリヴェリアと総司に憎悪を向けるくらいだ。そんな視線に痺れを切らした総司はルバートの髪を鷲掴みにし顔を上げさせ真っ直ぐ目を凝視する。

 

「さっきはリヴェリアさんが止めたから貴方は生きていますが・・・本来なら死んでいる事をお忘れなく」

 

「こ、この・・・冒険者の分際で・・・・ヒィッ!」

 

この時ルバートの目に入ってきたものは瞳が赤黒く染まった鬼の目だった。リヴェリアが見せていた侮蔑の目が可愛く見えるほどの眼光に思わず情けない声が漏れる。

 

「次また貴方が自分の利益だけの為に街や人を混乱に陥れる様な真似をしたら、今度こそその首を切り落としに行きます。例え貴方が地の果てまで逃げようと、必ず・・・」

 

その言葉を最後にギルド支部から出て行ったリヴェリアを追って総司も外へ出る。一人残されたルバートは過呼吸になり冷や汗を感じる間も無く先程見た眼が脳裏にフラッシュバックしていた。これは暫くの間夢に出るだろう。

 

『ルバート・ライアン、本当に密輸に関わっていたとは・・・嘆かわしい』

 

突如聞き慣れない声が耳を掠める。

 

『君は野心家な反面優秀でもあった。支部に行っても結果を出して返り咲くと期待していたのだが・・・寧ろ堕落してしまったか』

 

項垂れるルバートの目の前に現れたのは嘗て10階層で疲れ果てた総司をアイズの頼みで警護していた『愚者』と名乗る者だった。今の口振りからオラリオのギルドと深い繋がりがあるようだ。

 

「ーーーれ・・・・」

 

『何だ? 聞き取れなかった』

 

「ーーー助けてくれ!!」

 

余程恐ろしい目にあったのだろうか、助けを乞うその声と表情には鬼気迫るものがあった。どうやら捕縛された状況を指しているわけではないと愚者は悟る。

 

「頼む、もう二度と悪事を働くような真似はしないッ! 罪を償い、真っ当に生きる! だからお願いです、殺さないで下さい!!」

 

『一体何を・・・!?』

 

「こ、ここ、殺される・・・あの“鬼“に殺されてしまう!! 」

 

泣きながらそう懇願する姿はまるで閻魔の前で命乞いをする罪人の様だった。少し動揺を見せる愚者だったが、一度落ち着かせる為にルバートの額に指先を当て眠らせる。

 

『これほど人に恐怖心を刻め込められるのか・・・沖田総司、君は一体何者なんだ・・・』

 

体液で顔を汚しながら悪夢に魘されるルバートを見下ろしながら、愚者の心にも畏怖の念を抱かせた。

 




やり過ぎましたかね? これもうルバートさん再起不能なのでは?
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