「行くぞ総司、特別講習だ!」
此方を警戒している食人花と対峙するリヴェリア、その後ろで今だ刀すら構えていない総司。その目には今までとは違う闘志が揺らめいていた。
「リヴェリアさん。此処は僕一人にやらせて下さい」
あれほど食人花に拘っていたのだ、正直こう言うだろうと予測はしていた。
「駄目だ。さっきも言っただろう、まだ勝てないと。今はまだ時期じゃないんだ。お前がLv.3くらいになったら挑戦させてやるから今はーーー」
「それじゃ駄目なんです! それじゃ・・・僕の魂は納得しない! ここでアレに勝てないのなら、この剣で天下を取るなんて出来ない!」
出会って数ヶ月しか経っていないが、こんなにも必死になる総司を見るのは初めてだった。
その言葉を聞いてあの日ーーーベルとミノタウロスが戦ったあの日の事を思い出す。自分を含む第一級冒険者達が胸を熱くし、感動したあの戦い。
(もしや総司も・・・いや、それは“あの少年“だったから有り得た事だ。総司とは違う)
確かに総司はベルと同じく規格外だろう、しかしそれだけで通常なら勝ち目の無い戦いを許すのも違う。
「アレから受けた敗北を乗り越えない限り、僕は一生前には進めない! そんなのは、僕が“志す道“じゃない!!」
刀を置き、両手両膝を地面につけて頭を下げる総司にリヴェリアは強い信念を感じ取る。
唯のリベンジ戦ではない。
「・・・・・・幸い今は人気は無い、か・・・」
小さく呟くと総司から目を離し、食人花に目を向ける。
「ーーー10分だ。それ以内に決着をつけろ」
「ッ・・・リヴェリアさん!」
「それを過ぎれば私が奴を片付ける。良いな?」
「はいッ!」
戦闘許可を得た総司は立ち上がり、羽織っていた新撰組の隊服とマフラーを脱ぎ捨て刀を帯刀する。
深呼吸で意識を目の前の食人花に集中させーーー全速力で駆け出す。
「さぁ、お前の“道“とやらを見せてみろ。総司」
総司の接近、正確には殺気に反応して食人花は臨戦態勢を取る。知能があるかは不明だが、この時食人花は総司を敵と認識していた。
ここに一騎討ちは成立した。
刃と蔓がぶつかり合い、命の削り合いが始まった。
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港から少し離れた街道。そこには待ち合わせ場所に向かっている集団、アイズとティオナ、そしてロキとエルフィだ。
アイズはティオナとバーチェの儀式*1を止め、カーリー・ファミリアから救出する為に駆け付けた。そしてロキは捕まえたニョルズから抜け道を聞き出し、神威で2人を拘束しようとしたカーリーを無力化する事に成功した。
ティオナはバーチェとの戦いで毒による攻撃を受けてはいるものの命に別状はなく、いつも通り元気な姿を見せている。
「ちょ、ちょっと待っ・・・走るの、はやっ・・・」
神威を解放しない限り生身の人間と同等の力しかないロキにとって、冒険者の走るスピードに付いて行くだけでも大変らしい。
「ぜぇ・・ぜぇ・・・これ以上、走ったら・・・そ、送還してまう・・・」
「ロキ、遅い・・・」
「あはは、ロキ頑張れ〜」
手を膝に付き肩で息をする。もはや疲労困憊な姿を見てアイズは罵り、ティオナは楽しそうに応援している。そんな2人の鬼の所業を見てエルフィは苦笑いを浮かべずにはいられなかった。
「あ、アイズさん!」
十字路からやって来たのはレフィーヤとガレスだった。カーリー・ファミリアの団員達を数十人は纏めてぶちのめして来たであろうガレスはやはり無傷、しかも疲労している様子を一切見せていない。
「なんじゃ、ワシらが一番乗りと思ったのじゃが・・・」
「おおう、ガレス・・・ちょっと、おぶってくれ・・・」
満身創痍の様子でガレスの背中によじ登っていると、今度は別方向からこちらを呼ぶ声が聞こえて来る。
「皆さんご無事で!?」
「負傷してる方はいますか!?」
アリシアとリーネ、そして救出に来た男性陣だ。これでベート以外は全て揃った。
それぞれ現状報告を済ませ残るはティオネだけだと言う事を認識し、一斉に港へと駆け出す。
待ち合わせの港まで残り僅かの所で不穏な音がメレンに木霊する。
『オオオオオォォォォ・・・・!』
「こ、この声・・・」
「間違い無い・・・食人花や!」
素早く民家の屋根に登ったアイズは声の方に目を向けると、ロキの言った通り食人花が一匹出現していた。
「待ち合わせの港にリヴェリアの氷魔法の痕跡と食人花が一匹・・・他の所には出現した様子は無い・・・」
アイズの報告で港の状況を悟ったロキは次の指示を出す。
「おそらくアレはリヴェリアの魔力に釣られて出て来ただけや。あっこにリヴェリアがいる以上、問題無い。予定通り、待ち合わせ場所へ行くで!」
と、ガレスの背中から吠える。
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斬撃、斬撃、斬撃ーーー
刃と蔓の攻防を月明かりだけが照らす。
食人花の二本の蔓を総司は打刀一本で防ぐ、体躯の差を技で補い、こうして戦況は均衡を保っていた。
しかしここはまだ小手調べ程度だ。言うなればウォーミングアップに過ぎない、それは食人花にとっても同じなのか定かでは無いが、まだ本気ではないというは確かだろう。
(以前より格段に成長している・・・Lv.1にして食人花とここまで戦えるとは・・・だが勝負はここからだ、油断するなよ。総司)
黙って見守っているリヴェリアは先程総司が投げ捨てたマフラーと隊服を回収し、時間が経つのをじっと待っていた。勿論、周りの警戒も怠らない。
「リヴェリアー!」
「む、ロキか」
「食人花ーーーって、総司!? な、何してるんや!?」
このタイミングでロキ達が駆け付けた。ロキを含めリヴェリア以外が、何故食人花と総司が戦っているのか検討が付いていない様子だ。
「総司ってまだLv.1だよね・・・勝てっこないよ!」
エルフィが叫ぶ。
「リヴェリア様、直ぐに止めさせて下さい! 総司君が死んでしまいます!」
レフィーヤがリヴェリアに抗議する。
「あたし、総司を助けて来る!」
ティオナが前に出ようとした腕を掴むのはアイズだった。
「待って・・・よく見て・・・」
アイズの目線の先には食人花と互角に渡り合う総司の姿があった。ガレス以外の団員達の理解が追い付いていない。
見た限りではあの食人花は比較的に弱い個体、それをLv1の総司が相手をしている。*2
「まぁ、総司も頑張ってるしなぁ」
「ここは皆で応援してやろうぜ!」
「総司ー! 頑張れー!」
漸く状況を理解した団員達は食人花の力量を見て“弱い部類“だと捉えた。まだ双方とも力の半分も出していない事も知らずに・・・
「ティオナ、これは私が許可した戦いだ。この戦いに手を出す事は何者も禁ずる」
その言葉を聞いたロキはガレスの背から降りてリヴェリアへ質問する。この戦いがまだ序章に過ぎない事を理解した上での質問だ。
「リヴェリア・・・それ、フィンは納得しとるんか?」
その表情は何処か冷徹で、明らかに威圧している。団長に無断で団員を命の危機に晒しているのだ、ましてやそれが組織の中枢である人物がしているのだから、下手な回答は許されない。
「今日の監督は私だ。フィンは私に総司の全てを任せて行った。なら私に出来ることは、総司を信じる事だ」
ロキには目もくれず戦いの行く末を見守るリヴェリアの様子を見て、ロキは大人しく引き下がる。
「ほな、主神であるウチも信じてやらんとな」
内心ではロキも総司の戦いに胸を躍らせていた。娯楽に飢えた神にとってこれほど面白そうな戦いはそう無い。
他の団員達も緊張が解けたようで、最早子どもの演劇を見ている気分になっていた。
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一方その頃カーリー・ファミリアのガレオン船では、ティオネのピンチに駆け付けたフィンによってアルガナが倒され、船内に残っていたカーリー・ファミリアの残党は戦意を失い、フィンとティオネ同様に総司達の戦いを眺めていた。
殺気立っていたティオネもすっかりいつも通りに戻っている事から、これで全ての問題が解決したようだ。
「団長・・・あのままやらせて良いんですか?」
「今日の監督はリヴェリアだ。リヴェリアが許可したんだろう」
任せたフィンも状況は理解していた。伊達に長年ロキ・ファミリアの中枢として組んではいない。
「とは言え、団長としては見過ごす訳には行かないかな」
「では、止めに行きますか?」
チラリと水面を見るとリヴェリアが放った魔法からかなり離れているのが分かる。これでは氷の上に飛び移れない。
「そうしたいが、生憎手が届かない。この距離じゃ声も届かないだろうし、お手上げかな」
「悪い人・・・」
本当は総司の意思を尊重したくて手出ししないのはティオネにとってお見通しだった。
団長としては止めるべき案件だが、フィン個人としては総司に思う存分戦って欲しい。そんな願望があった。
「さて、過去の泥を濯ぎ落とせるかな? 総司」
次はクノッソス編と思ったのですがアポロン編みたいですか? アポロン編なら無理矢理助っ人として総司を戦争遊戯にねじ込みます。
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アポロン編
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クノッソス編