オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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暴走

(痛み・・・太刀筋・・・踏込み・・・)

 

幾多の攻撃を防ぎ、剣の切れ、相手の戦闘能力を分析する。

戦闘に入ったからだろうか、宿敵の食人花を目の前にしても全く動じず至って冷静だ。ここら辺の戦闘に対する意識は生前で培われたもの、流石は幕末を生きて来た侍と言った所だろう。

 

約一分が過ぎた頃、丁度ロキ・ファミリアの団員達が総司を応援し始めたくらい。食人花の放った蔓が総司に直撃し、樽や木材置き場に激突した。

 

「反応速度・・・良し。うん・・・僕、ちゃんと強くなってる」

 

砂埃が晴れた木材置き場には総司が平然と立っていた。攻撃が脇腹に入る瞬間、打刀でしっかりとガードしていたようだ。

 

「さて・・・遊びは終わりだ・・・!」

 

【鬼子】を発動させ、全身に漲る力を感じ取りながら駆け出す。ロキ・ファミリアの団員曰く、その速度は音速を超えていたのではないかと言う。

凄まじい突風と共に食人花も迎撃体勢を取る。“獲物を狩る捕食者の殺気“に反応した食人花に手加減は無かった。

総司の突っ込んで来るタイミングに合わせて数本の蔓を鞭の様にしならせ、不規則的に総司に襲い掛かる。

 

相手が勝手に突っ込んで来るならそこに攻撃を置けば良いと食人花は判断したのだろうか。だとしたら良い判断だ、至って普通の戦法だがいざやられると厄介なものだ。

 

「予想通りですね」

 

総司は初めから分かっていたかのような動きで飛んで来た蔓を踏み台にし、一気に食人花の顔面へと飛び上がる。

咄嗟に身を躱すと総司から距離を取るために移動した。

 

「一枚貰いましたよ」

 

地面に着地すると同時に食人花の花弁が一枚落ちる。それに気づいたのか、食人花は落ちた花弁に顔を向ける。

 

 

『オオオォォォォ・・・・!!!!』

 

 

ーーーー咆哮

 

それは斬り落とされた事により矜恃が傷つけられたからなのか、総司を強敵と認めたからなのか、それともその両方なのか、言葉を発さないモンスターの気持ちなど分かりはしない。

 

「ふふふ・・・はしゃいじゃってまァ・・・」

 

故に総司はこの咆哮を“悦び“と受け取った。

達人同士の立ち合いでは、互いの感情を読み取るという事が稀にある。今回はそれとは全く異なるものだが。

 

実際このメレンで育ったであろう食人花には“天敵“というものが存在しない。餌である水中モンスターはせいぜいLv.1〜2程度、食人花の敵では無い。おまけにオラリオのダンジョンと違い、上級冒険者が来る事はまず無いだろう。これまでメレンの食人花の件がオラリオに浮上して来なかったのがその証拠だ。

 

だからこそ食人花は今、自身を脅かす総司の存在に悦びを感じていると仮説を立てる。

 

「教えてあげますよ。弱肉強食の世界という奴を・・・!」

 

ニタリと笑い総司は駆け出す。それに反応した食人花も今度は前進し迎え撃つ。再び刀と蔓の攻防が始まるが、先程とはまるでレベルが違う。蔓の手数が増え、スピードも段違いだ。一撃一撃に殺意が込められているのが分かる。総司も【鬼子】を発動させていれば対処可能だ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

観戦していたロキ・ファミリアの団員達は言葉を失っていた。総司が【鬼子】を発動させてからずっとこの調子だ。最初は声を出して声援を送っていたのだが、あまりにも予想外で“常識外れ“の出来事に言葉すら忘れている。

 

「な、なんなのですか。あの動きは・・・」

 

総司の殺気で重苦しい空気が漂う中、最初に口を開いたのはアリシアだった。彼女は事あるごとに総司の無邪気に振り回されている。故に総司という人物を理解している気でいた。そのイメージは現在進行形で崩れ去って行く。

 

「何が起きてんだ!?」

 

「Lv.1がしていい戦闘じゃねぇ!」

 

イメージが崩れたのはアリシアだけに留まらず、他の団員達も同じ気持ちだ。

 

「総司ってあんなに強かったの・・・?」

 

この前、総司に「弱そう」という評価を下したエルフィも固唾を呑んでこの戦いを見ている。

 

「話しには聞いておったが、ここまでとはのぅ。これは数年後が楽しみじゃわい!」

 

「総司、初めて会った日より強くなってるね! あ、食人花の蔓ぶった斬った!」

 

「これなら食人花なんかに遅れは取らないですね!」

 

「それは、分からない・・・」

 

驚愕と疑問が飛び交う中で賞賛を送る者も数人いた。しかしそれと総司が食人花に勝てるかは別の話しだ。以前、【鬼子】を使った総司と正面から対峙した事のあるアイズでさえ、勝敗は分からない。

 

そんなロキ・ファミリアを他所に近くの倉庫の屋根にベートが佇んでいた。フリュネとの戦いの後、直ぐに食人花の出現に気づきやって来たらどういう訳か総司が一人で戦っている。

ある程度の状況は把握した。リヴェリアが手を出さない以上、ベートは何もしない。ただ黙ってこの戦いの行く末を見守る。

 

(チッ・・・温い戦いしやがって)

 

ベートは総司がまだ“力を全て使っていない“事に気づいていた。初見である筈のベートが見抜けた理由として、総司から放たれる血の匂いを嗅ぎとったからと言える。

 

(確証は何も無ぇ。だが、俺の血がそう言ってやがる)

 

それは本能に近いものだった。

ベートに眠る狼の血が総司に眠る鬼の血を文字通り細胞レベルで嗅ぎ分けたとでも言うべきか。

 

「チッ・・・・」

 

髪や服が風に仰がれながら苛立ちの音を漏らす。

弱い相手を見下し罵るベートだが、つい最近まで罵る対象だった総司は“強者“の条件をクリアしつつある事を認めてしまっている。

素直になれないベートが“ツンデレ“と言われる所以はここにあった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

上手く攻撃を捌いているが本体には中々近づけないといった様子を見せる。【鬼子】の発動時間は無限ではなく有限、それも数分とかなり短い。一刻も早く倒さなければならないのだが、次第に体力を削られもう数秒で暴走してしまう。総司もそれは自覚しているから余裕が無い。

 

ベートの考察では総司はまだ本気を出していない。

しかしその考察は間違えであると総司が自ら否定した。何故なら今発動させている【鬼子】は正真正銘、総司の全力なのだから。

余力など無い、全身全霊で刀を振るっている。

 

「まずいですね・・・・グッ!」

 

余裕の無い総司の隙を突いて左脇腹に蔓が直撃する。

そのままなぎ払われ、地面を転がる最中、総司の世界は暗転した。

 

「そ、総ーーー」

 

倒れ込み、ボタボタと血を地面に落としながら起き上がる動作を見ていたロイドは咄嗟に手助けしようと動いた瞬間、とても瀕死の状態とは思えない程の禍々しい剣圧が総司から放たれる。

 

その剣圧は乱気流の如く荒々しく、活火山の如き熱を錯覚させるに至る。

 

それを間近で肌に触れたリヴェリアとガレスといった幹部連中は冷や汗を、他の団員達は呼吸すら困難になる。Lv.2のリーネに至っては立って居られない程だ。

 

 

「キル・・・キル・・・コロス・・・」

 

 

どうやら食人花は触れてはいけない羅刹の(誇り)に蹴りを入れてしまったようだ。

 

 

ーーーー暴走

 

 

地獄の業火を連想させる赤黒い眼は闇夜に揺らめき軌跡だけを残して食人花へ跳ぶ。遅れて暴風が発生し食人花を斬りつける。

 

『ーーーーーッ!!!!!????』

 

瞬時に全ての蔓を斬り落とした事により食人花は予想外と言いたげに反応が遅れた。

 

「コロス・・・コロス・・・コロス・・・」

 

今度こそ食人花の命を刈り取らんと跳躍すると、二度目で冷静になったのか食人花は瞬時に新たな蔓を作り出し迎え撃つ。

 

 

四度目の激突ーーーー決着まで、残り六分。

 

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