オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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武士道

「総司、お前は俺の代わりに試衛館を継いで欲しい」

 

近藤勇の言葉だった。

江戸を離れ京へ上り新撰組となる前に言われた勇の願い。総司を拾ったその日から自分の子の様に接して来た。だからこそ命より大事な試衛館を総司に任せたかった。

 

「嫌です」

 

「えっ? い、嫌・・・?」

 

様々な思考を巡らせ試衛館を任せる事を決意した勇に対する答えは拒絶だった。しかも若干食い気味の拒否、その即答に豪胆と言う言葉をそのまま擬人化させた様な人物ですら目を丸くし戸惑っている。

 

「置いてけぼりは嫌です。皆と一緒がいいです」

 

少し照れくさそうに答えた総司に、勇はこれ以上何も言わなかった。

 

 

 

(近藤さん、ごめんなさい・・・僕は負けてしまいました)

 

 

 

「俺はいつか、お前より強ぇ剣客になってやるからな。覚悟しろよ!」

 

「誰を越えるって、歳三? おめぇが総司に勝てるわけねぇだろうが」

 

「んだとテメェ、斎藤! 調子くれてんなよコラ!」

 

歳三と(はじめ)のいつものやり取り。歳三は毎日総司に試合を挑むがいつも返り討ちに合う。そんな様子を見て試衛館の皆は歳三をからかっていた。

 

「土方さんが僕を越えるなんて100万年あっても足りないですよ〜」

 

「ハァ!? 100万年どころか10年で越えてやるよ! てか100万年も生きれるわけねぇだろ!!」

 

「つまり一生越えられねぇって事だよ。気づけバカ」

 

「よぉし上等だ、表出ろや斎藤。総司の前の前菜にしてやるよ!」

 

この頃の歳三は《狂犬》と呼ばれるほど煽り耐性が無く売られた喧嘩は全て買っていた。だからことある事に(はじめ)と歳三は喧嘩をしていたが、総司にとってはじゃれ合い程度の認識だ。

 

そんな日常が走馬灯の様に思い出される。

 

 

 

(そうか・・・僕、死ぬのか・・・)

 

現在体は海に沈み続けている。しかし水流を肌で感じ取れても水圧による圧迫感は感じ取れない。感覚が麻痺しているようだった。

 

脳裏に浮かぶ“死“、これは初めてではない。総司が亡くなったあの日と同じだ。

 

(やっぱり僕は一度死んでいた・・・)

 

半信半疑だった死の疑問は死の瀬戸際で確信に変わり、同時にこれで漸く仲間の下へ行けると安堵する。

薄らと開けていた目を閉じ、死を受け入れ流されるままに身を委ねたその時だった。

 

 

(ーーー総司さん!)

 

 

刀を握っていた右手に力が入った。

 

「ーーない・・・」

 

脳裏に浮かんだのはベルやフィン、アミッド達と言ったオラリオに来てからの仲間の顔だった。

 

「僕はまだ死ねない!」

 

フィンを越えるまで、オッタルを越えるまで、この世界で天下一の強さを身につけるまでーーー

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

その頃地上では食人花とロキ・ファミリアの両者とも膠着状態が続いていた。

 

「ねぇ、リヴェリア。まだ手を出しちゃダメ?」

 

ティオナにしては珍しく冷静に声を震わせリヴェリアに問い掛ける。海に漂う総司の血液を見て今にも逆上しかけているが、ギリギリで制御していた。

 

「・・・まだ時間は残っている。我々は手を出すべきではない」

 

「リヴェリア様!」

 

この状況でも時間厳守のリヴェリアにレフィーヤは抗議の声を上げた。誰もが今すぐにでも総司の救出に乗り出そうとするも、ベートの殺気によって牽制されていた。

 

「ベートは総司の事が嫌いなの!?」

 

その殺気に痺れを切らしたティオナがベートを睨む。

 

「“チビ野郎“がじゃねぇ、俺は“弱者“が嫌いなんだ! あんな雑魚にも負ける奴なんざどうでもいい。だがな、アレに勝てねぇでウチの看板背負うのは俺が許さねぇ!」

 

実際ロキ・ファミリアの中でも食人花を一人で倒せない者はいるだろう。ベートがそう言い放つ理由はそれだけ総司の実力を買っているという事だ。“総司の力ならあの食人花を倒せる“とベートは密かに認めていた。だから負ける事は許さない。オラリオ最強派閥の幹部としてこの戦いは最後まで手を出さないつもりだ。

 

「てめぇも幹部なら黙って見てろ、バカゾネスが」

 

「ベートの拘りなんて聞いてない! あたしは仲間として総司を助けにーーー」

 

「ティオナ、どうやらそれは杞憂だったみたいじゃぞ」

 

ベートの静止に関係無くティオナは飛び出そうとするすんでの所でガレスが異変を知らせる。

この場にいる全員が感じ取った剣圧、これには身に覚えがあった。

 

『・・・・!』

 

食人花は総司を海に投げ捨ててからと言うもの、そこから一歩も動かず沈黙していた。しかし水中から発せられる強い力、総司が・・・敵が来る事を確信し臨戦態勢を整える。

 

水音共に水柱が上がる。水飛沫が葉や顔に当たるのを気にもとめず、静かに地面に着地した敵を見ていた。

 

「お待たせしました」

 

立ち上がりニコリと笑い食人花に顔を向ける。

 

「時間も無いので手短に済ませちゃいましょう」

 

「ーーー総司!」

 

刀を構えようとする総司を呼び掛けると同時にロキがある物を投げ渡す。

 

「これは・・・」

 

「せっかくの最終局面なんや。それが無いと締まらんやろ!」

 

投げて寄越されたのは新撰組の羽織りだった。

 

「ロキ様、ありがとうございます!」

 

新撰組の象徴とも言える羽織りを身につけ、改めて刀を構える。

 

「新撰組一番隊組長 沖田総司・・・参るッ!」

 

真っ直ぐ駆け出し瞬時に【鬼子】を発動させる。冷静さを取り戻したとは言えダメージをかなり受けている今の総司のコンディションならば暴走まで三分程だろう。そして残り時間は約三分、つまり【鬼子】の暴走が戦闘終了即ち総司の敗北となる。

 

「良かった、総司生きてた・・・」

 

「けど、だからと言って・・・」

 

「確かにこのままじゃな・・・」

 

総司が復活したとは言え、総司の強いに変化がない限り戦況は変わらない。勝利は絶望的と誰もが思ったその時だった。

 

一番最初にその変化に気づいたのはアイズとベートだった。

 

「あの光・・・」

 

「ありゃヒキガエルの・・・!」

 

食人花との攻防の最中、総司から漏れ出す光の粒子は徐々に数を増し、遂にはオーラの様に総司の体を覆った。

それは先程フリュネを強化していた魔法と同じ光だ。実際に戦った2人だからこそいち早く気づけた。

 

『ーーーーッ!!?!?』

 

突如数十本の蔓が瞬時にして斬り落とされた事によって食人花は後方へ下がる。

 

「どうしました? 自分が傷をつけられるのがそんなに恐ろしいですか?」

 

邪悪な笑みで食人花を瞳に映す。それによって食人花はすぐさま蔓を再生させ本数も増やす。どうやらなりふり構っていられない状況と判断したようだ。

 

『オオオオオォォォォォ!!!!!』

 

咆哮を上げ地面を抉る程の全速力で総司に突っ込む。身をうねらせ蔓で無差別に攻撃しながら総司との距離を詰める。

 

「そこッ!」

 

攻撃をすり抜けると同時に食人花の全身を斬り刻む。変則的とも言える食人花の動きを完全に見切っていた。

 

傷だらけの食人花は必死の抵抗として蔓を大乱舞させるが、総司はものともせず防御、回避を続ける。

すると総司の足下の地面が盛り上がり蔓が飛び出して来た。

 

「侍に二度、同じ手が通じると思わないことです」

 

瞬時に振り向き横一閃で蔓を斬り落とす。

 

「終わりにーーーくっ・・・!」

 

反撃に転じようとした時、総司は膝を着き吐血する。

 

「こんな時に・・・!」

 

それは【鬼子】による反動かダメージによるものか、或いは両方か。その一瞬の隙を食人花は見逃す筈が無い。まともに打たれれば即死するであろう一撃が総司に迫り来る。

 

『ッ!』

 

何かが飛んで来た。

 

飛んで来た“それ“によってその蔓は総司に届くこと無く消失した。食人花も困惑しながら飛んで来た物に顔を向けるとそこには一本の槍が地面に突き刺さっていた。反対方向には遠くに一隻の船があるのみ。

 

 

 

「すまないね、総司。これくらいはさせて貰ったよ」

 

 

 

有り得ない。遠く離れたあの船から文字通り横槍を入れたと言うのか。食人花には理解不能の出来事だった。

 

『ッ!?』

 

船に気を取られていたら今度は正面から何かが飛んで来る。これは刀、いや脇差しだ。当たったとしても食人花にとっては大したダメージにはならないが、自身の意識とは裏腹に条件反射で思わず避けてしまった。

 

「つい見てしまいますよね。何が飛んで来たのか」

 

総司が投げた脇差しは唯の囮。それはかつて芹沢鴨と戦った時に引っかかってしまった、拭い難い敗北の戦術。

 

「あの男と同じ戦術を使う事になるとは・・・・ムカつきますね」

 

鴨が常時浮かべる薄ら笑いが脳裏に過ぎると腸が煮えくり返るほどの怒りが込み上げて来る。

怒りの感情とは裏腹に冷静かつ迅速に食人花の下へ駆け出した。それに反応した食人花は慌てて全蔓を集中させて総司へ打ち込む。しかし纏っていた光の粒子だけを置き去りにして総司は消える。

 

「どこ見てるんですか?」

 

その声は信じられない場所から聞こえた。食人花自身の口の中だ。

 

打たれる瞬間、総司は【虚狼(うつろ)】を使い蔓を伝って急所のある口の中へ飛び込んだ。

急所である魔石に向かって刺突の構えを取る。

 

「この地には大切な人が出来過ぎました。だから僕はこんなところで死ぬわけには行かないーーー」

 

 

 

 

【神速の三段突き】

 

 

 

 

「僕のーーー武士道にかけて!」

 

噛み砕くよりも速く総司の得意技が食人花の魔石を穿つ。閉じた口から光の粒子が漏れ出し全身が爆散する。

着地した総司と一拍子遅れて落ちて来た極彩色の魔石に目を向け、地平線の彼方から太陽の光が照らす中、刀を納刀し勝利を噛み締める。

 

戦闘時間 9分48秒、メレンの戦いは総司の勝利で幕を閉じた。

 

 

 




次回でメレン編は最終話ですかね。次は・・・
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