オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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束の間の休息

ダンジョン14階層。

 

「アミッドさん、こっちの回収終わりました」

 

「ありがとうございます。この調子ならもう少しで終わりそうですね」

 

メレンから帰還して2日、総司は無事Lv.2へランクアップを果たした。いつもの様にディアンケヒト・ファミリアの治療院にて回復ポーションを買い漁っていたらディアンケヒトに冒険者依頼(クエスト)を受注した。

冒険者依頼(クエスト)と言えば聞こえは良いが実際は「以前18階層まで救助に行ったアミッドの分までお前が働け!」とディアンケヒトに言われたので総司は素直に納得し格安で引き受けた。

 

そして今日総司とアミッドの2人で中層へ赴いたという状況だ。

 

「中層へ総司さん達を助けに行った日、急遽とは言えちゃんと休暇を取ったのですが・・・付き合わせてしまって申し訳ありません」

 

「アミッドさんにはお世話になってますから、これくらいさせて下さい」

 

冒険者依頼(クエスト)の内容は薬の調合に使う薬草やモンスターのドロップアイテムと言った素材集めだ。

格安で総司をこき使ってる現状に罪悪感を覚えたのか謝罪するが、総司はアミッドに恩があるため全く気にしていない。

 

「それにLv.2になってからまともに動いていなかったので丁度良いです。利害の一致って奴ですね!」

 

「そう言って頂ければ此方も気が楽です」

 

無邪気に集めた素材を受け取ったアミッドは背負っていた大きめのバックパックに収納する。リリが普段背負っているバックパックに比べたら小さいが見かけによらず収容量はそこそこ。

 

「それにしてももうLv.2ですか・・・何度聞いても耳を疑いますね。尤も私は既にLv.2ですが」

 

「でも戦闘能力は僕のが上ですよね」

 

「わ、私は治癒師なので戦闘は通常の冒険者よりも不向きなだけです。適材適所です!」

 

「あはは、冗談ですよぉ」

 

そんな雑談をしながら総司も散らばった魔石やドロップアイテムの回収を続ける。

 

「ん?」

 

「総司さん、どうされました?」

 

「この壁・・・何か感じませんか?」

 

魔石回収の最中に何かの気配を感じ取った総司はダンジョンの壁に視線を向ける。総司の化物じみた第六感で嗅ぎとったその気配は朧気ではあるが、確実にその先に存在している。

 

「私には唯の壁に見えますけど・・・」

 

アミッドは気づいていない。しかし壁の向こうには人ならざる何かがいる。この階層に出現する既存のモンスターとは異質。

 

「この気配は・・・」

 

壁の中でも移動しているのだろうか? この速度なら数分で18階層へ到達するだろう。

 

「流石に追えませんね・・・」

 

諦めた総司は臨戦態勢を解除し、帰ったらフィン達に報告する事にした。

 

「っ・・・・総司さん、来ます!」

 

アミッドの声に反応した総司は再び抜刀し構える。モンスターの数は10、20とまだ増えるようだ。

 

「これは・・・怪物の宴(モンスター・パーティ)!」

 

総司も以前、経験したダンジョンの罠である。あの時はどうする事も出来ず最終的には逃げることを選択した訳だが。

 

「不思議ですね」

 

最初に飛び出して来た4匹のアルミラージを刹那の間に斬り捨てる。

 

「あの時ほど脅威を感じられない」

 

一度経験したからかLv.2へランクアップしたからか、何にせよ食人花に比べたらこの階層のモンスターは羽虫に等しい。

 

「総司さん、作戦は?」

 

「じゃあ、“僕が斬ってアミッドさんが治す“で!」

 

「そんな雑な!?」

 

総司が【鬼子(おにご)】を発動させ消耗する度にアミッドが回復するという作戦とは言い難い無茶な作戦だが、2人しかいないこの状況では理にかなっている。

 

そんなこんなで約30分が過ぎた頃、最後のモンスターをその刀で屠る。

 

「あの数のモンスターをたった1人で・・・」

 

地面や壁をモンスターの鮮血で汚し辺りは惨劇後の地獄絵図。しかしそこに佇む総司は静かに刀に付着した血液を払い落とし納刀する。顔、髪、着物、隊服、これら全てに汚れは無く一滴の返り血も浴びていなかった。

 

「アミッドさんが回復してくれたので休まず戦えました。感謝します! いやぁ、やっぱり役割分担するのは良いですねぇ」

 

唖然とするアミッドを余所に総司はせっせと魔石やドロップアイテムを拾う。

この一連の出来事で総司は完全にLv.2の感覚をものにしていた。

 

「総司さん、これだけ取れれば十分です。引き上げましょう」

 

「む、了解です!」

 

バックパックを満タンギチギチに詰め、地上へ帰還する事を選択する。

 

「あ! てめぇは沖田総司!」

 

帰還の準備を進める総司達の前に現れたのは3人の冒険者。進行方向からして15階層から上がって来たようだ。

 

「総司さん、知り合いですか?」

 

「いえ、全然知らない人です」

 

「て、てめぇ! 俺の事忘れたのか!?」

 

この吠えている冒険者の名前はモルド・ラトロー、長年Lv.2の平均的な冒険者だ。その後ろで気まずそうにしている2人もモルドと同じような第三級冒険者でパーティを組んでいるようだ。

 

そしてこのモルド達は《豊饒の女主人》でベル達に絡んで来たチンピラだったのだが、そこいた筈の総司は全く記憶にないらしい。

 

「リューさんの店で・・・?」

 

「そ、そうだ! まぁ、それは忘れてていいんだが・・・」

 

後ろの2人と同じように顔を掻いてバツが悪そうにしている。

 

「あ! もしかして18階層でベルさんを返り討ちにされたおじさんですか?」

 

「何で知ってんだ!? いやほぼあってるけどよぉ!」

 

メレンに連れて来られる前に街で偶然会ったリリにロキ・ファミリアが帰還した後、18階層で起きた出来事を教えて貰った。

ベルに嫉妬したモルド達や他の冒険者がヘスティアを誘拐してベルとモルドで一騎討ちをした結果、マジックアイテムによって透明化したモルドに翻弄されていたが敵意で察知する事によりベルが逆転し始めたが、リリ達に救出されたヘスティアが“神威“を発動させその場を収めた。

それによって“黒いゴライアス“が18階層に現れ、その場にいた冒険者全員で討伐する事に成功した。それ以来モルドはベルを認め一目を置いているようだ。

 

「ベルさんの次は僕って事ですか?」

 

「違ぇよ!? 俺達はただ帰りーーー」

 

「返り討ちにされに来たんですね。良いですよ、最後の晩餐は済ませましたね?」

 

「《帰り・返り》違いだ! とにかく俺達はもう何もーーー」

 

「遺言はそれだけでいいですか?」

 

「くそぉ! 何でこいつは俺の話しを聞かねぇんだ!!」

 

絶叫するモルドを他所に刀に手を掛け今にも斬り掛かろうとする総司にアミッドは溜め息をつく。

 

「お止めください」

 

持っていたロッドで殺気立つ総司の脳天を小突く。

 

「痛っ!」

 

「怖がらせ過ぎですよ、総司さん」

 

モルド達に向けた殺意が虚偽のものだと言うことはアミッドは見抜いていた。総司の行為は今後ベル達に危害を加えないか試したのだ。何が起きたか分からないモルド達は焦り気味に困惑していた。

 

「いてて・・・まぁ、最初から僕やベルさんに悪意が無い事は分かってましたよ」

 

「そうなのか!?」

 

「えぇ、ただ思い出したらムカついたので脅かしただけです」

 

心臓に悪い冗談にモルド達は寿命が数年縮む思いをした。前世とは違う世界とは言え、仕掛けられた訳でも無いのに他派閥の人間を手に掛ければロキ・ファミリアの立場も悪くなる、それは総司だって分かっている。だからこれで全てチャラにした。

 

「でもーーー今度僕達に刃を向けるのなら、脅かすだけでは済みませんよ」

 

モルド達が見た去り際の総司の鋭い瞳は数秒から数十秒、意識を恐怖で支配させるには十分だった。体はまるで蛇に睨まれた蛙の様に膠着し、人間として、生物として、戦う者として格が違うと確信させる。

 

「ッはぁ〜!!」

 

総司の姿が見えなくなって漸く時間が進み出す、同時にモルド達の呼吸も再開する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・なぁ、モルド・・・」

 

「あ、あぁ・・・二度と悪さはしねぇ・・・」

 

「さ、賛成・・・」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ディアンケト・ファミリアの治療院に帰る頃には空はすっかり暗くなっていた。少数だがドロップアイテムを回収していた総司もアミッドと共に治療院の扉を潜る。

 

「アミッド、ただいま戻りました」

 

ドロップアイテムを机に置いていると、部屋の奥からディアンケトが歩いて来る。帰還したアミッドを見るや声をかけてきた。

 

「戻ったかアミッド・・・ん? 古臭い匂いがすると思ったらまた来たのかお前は!」

 

「ディアンケト様、請負人なのですから納品しに来ますよ」

 

当然のツッコミが入る。相変わらず手厳しいディアンケトだが総司は全く気にせず笑顔を見せる。

 

「あ、おじいちゃん! 飴玉くださいよぉ!」

 

「おじい様と呼べと言っておるだろう! 全く罰当たりな貧乏人め! お前はこれでも食っとれ!」

 

文句を言いつつディアンケトは総司に飴を手渡し速攻で口に放り込む。

 

「新作の抹茶ステーキ味だ!」

 

「ディアンケト様!? 絶対不味いですよねそれ!?」

 

正体不明の新作が出て来た事でアミッドは思わず声を上げる。

 

「それよりもディアンケト様、総司さんが来る度に新作作るの辞めてください。地味に経費が掛かっているんですよ!」

 

「美味し〜! また食べに来ますねぇ〜!」

 

「総司さんは何を食べたらそんな味覚になるんですか!?」

 

新作の味を堪能した総司は報酬金を受け取り帰って行った。その一部始終を見ていたディアンケト・ファミリアの団員達の思いは一つ・・・

 

((((餌付けが完了している・・・))))

 

ーーーだった。

 

因みに総司の味覚が歪んだ原因の最有力候補として近藤勇の手料理が新撰組内で上がっていたのはこの場にいる誰も知らない事実であった。

 

 

 




次回からクノッソス編です。

アポロン編?(絡みようがほぼ)ないです。
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