オラリオの中心に聳え立つ摩天楼施設『バベル』その最上階は頂点に君臨するファミリアの主神のみが使用を許される。
そのファミリアはロキ・ファミリアに非ず。
単体最強と謳われるLv.7の冒険者、複数の第一級冒険者を従えるーーー
《フレイヤ・ファミリア》
今日も美の化身フレイヤは退屈そうに最上階からオラリオを眺めている。
「ねぇ、オッタル。“あの子“の様子はどうかしら?」
「Lv.2へ昇華してから急激的に強さを手に入れたようです。おそらく新たなスキルを発現させたのかと」
唯一フレイヤの隣りを許されたLv.7《猛者》オッタル。フレイヤはとある冒険者の情報を欲していた。相手は自身のファミリアと同等の実力者が揃うファミリアの眷属。そこの主神から釘を刺されているので迂闊には近づけない。だから間接的に情報を得るだけでも他派閥の冒険者や神の手を借りる必要がある。
「へぇ・・・ねぇ、オッタル」
「なりません」
「まだ何も言ってないわ」
「あの“小鬼“に会いに行くと仰るのでしょう? 何度も申しますが、立場上表立って接触するのは悪手かと」
「なら秘密裏に招待状をーーー」
「フレイヤ様、それこそ悪手です。明るみに出たら神ロキの怒りを買うかと」
実はと言うとフレイヤは何度か抜け出して総司への接触を謀っていたのだが、尽くオッタルや他の眷属が止めに入る為全て失敗に終わっている。
「とにかく自分はこれから本拠にて定例会議がありますので、どうか大人しく景色をお楽しみ下さい」
「まるで鳥籠ね・・・」
その目は退屈と悲哀を帯びているようにも見えた。
美しき美の神は一つの愛では決して満足しない。否、無数の愛ですら彼女にとっては物足りないのだろう。
「・・・失礼します」
何も言えないままオッタルは一礼して退出する。
「はぁ・・・ごめんなさいね。私、我儘な神なのーーー」
誰も居なくなった部屋で一人、フレイヤは不敵な笑みを浮かべながらオラリオを見下ろす。
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「またねー、総司ー!」
「また遊んでねー!」
人通りが少ない裏路地、その空き地で時より総司は町の子供達と遊び相手になっている。帰って行く子供に手を振る総司は擦り寄って来た猫を撫で回す。
前世では帯刀し新撰組の羽織りを来た総司に子供どころか大人すら近づかない、それほどまでに評判が悪く恐れられる存在だった。なのでこうして友好的に接して来る子供は新鮮に思えた。
「子供に大人気ね。尤も子供だけじゃなく大人にも人気なのだけど・・・」
突如現れた女性は背後から両手で総司の頬むぎゅっと包み込む。
「ーーーもちろん、“神“にも」
総司は驚いた表情でその女性を見詰める。そんな様子を知ってか知らずか女性は総司に微笑みかける。
「あの・・・貴方は神様、ですよね?」
総司の質問に一瞬目を見開き、両手を顔から離した。
「何故、そう思ったの?」
解放された総司はゆっくり立ち上がる。
「神様から感じる独特な
メレンでのカーリーの1件で“神威を0にした神から発せられる独特な気配“は覚えた。尤もその気配の的中率は八割程度なので宛になるんだがならないんだか。
「・・・末恐ろしい子ね」
そっと漏らした声は焦りや戸惑いの他に興奮のようなものを帯びている様にも見えた。
「貴方の言う通り、私はちょっとした神なの」
「その神様が僕に何のご用で?」
人間と偽って近づいて来た神、疑うのは当然だろう。総司の警戒レベルは上がり続けている。
「そう警戒しないで。たまたま通りかかったからちょっかい出したかっただけなの。ほら、貴方って有名人じゃない? 」
ベルの評判に上手く埋もれて総司は有名人止まりで済んでいる。
「・・・まぁ、いいでしょう」
確かにこの神は怪しいが悪意は感じ取れない。取り敢えず警戒レベルは下げても良いと判断する。
(どうやって警戒を解かせようかしら・・・)
「あ、そうだわ。この近くに新しいお店が出来たの。何でもそこのパフェが絶品らしいわよ。ご一緒にどうかしら?」
「わ〜い、行きまぁ〜す!」
(ちょろ過ぎて怖いわこの子・・・)
ものの数秒で警戒が解かれた事により拍子抜けする。顔には出さないが内心は苦笑いを浮かべているだろう。
2人でカフェを訪れ総司はパフェを、神は紅茶を啜っている。店は北欧の様な内装で、新しいだけあってかなり綺麗だ。
「美味しぃ〜!」
「うふふ、今日は私が奢ってあげるから好きなだけ食べていいわよ」
「え、良いんですか!?」
「勿論、私から誘ったんだもの」
パフェに夢中になっている総司を見て神はニコニコと微笑んでいる。
「それにしても不思議な子ね。こうして私と向かい合わせで座っても、私よりもパフェに夢中なのだから」
神威を抑え、全身を黒のローブに身を包んでも隠し切れない美貌に周囲の客や店員が釘付けになる。それはこの神も分かっており、自身が誰もが振り向く女神だと自覚している。さきほど総司の顔を両手で挟む行為も常人なら赤面しあっという間に一目惚れするだろう。
だからこそ自身の虜にならない総司の存在に興味が尽きない。
そしてそんな彼女を独り占めしている総司に嫉妬の念を送る周囲の人間がいるが、当の総司は全く気にしていない。
「ねぇ、貴方に恋人はいるのかしら?」
「いません!」
「即答ね」
会話終了。引き続き総司はパフェを食す。
(色恋に興味が無いのかしら。まさか・・・まだ思春期が?)
一人衝撃を受ける神は置き、総司は単純に女性に興味が無いのか、性別という概念を認識していないのか真実は誰にも分からないのであった。
「あの・・・僕からも良いですか?」
「ん、何かしら?」
緩みきった笑顔でパフェを食べていた総司が何かを思い出したように神に声を掛ける。考え事をしていて上の空だった神は一瞬驚いた。
「僕達って何処かで会った事ありましたっけ?」
「っ!」
初対面の筈なのに総司には見覚えがあった。しかし何処で見たか思い出せない。
「う〜ん、何処かで見たような・・・」
「ごめんなさいね。私そろそろ行かなくちゃ」
「あっ、ちょっとーーー」
思い出せないまま神は店を出て行ってしまった。
「名前聞こうと思ったんだけどなぁ・・・」
名前を聞けば何か分かると思ったていたら帰ってしまったので結局分からずじまいだ。追い掛ける事も考えたがおかわりのパフェが来てしまったので諦めてパフェを食べる事を選んだ。
「まぁ、良いかぁ。後、三つ来るから早く食べないと!」
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「予想以上に勘が鋭い子ね・・・」
不敵な笑みで街を一人歩く。人目を引いているが神は一切意に介さない、それほど今は総司に夢中だった。
だからこそあまり会話が出来なかった事が心残りだ。
「もしかしたら、なり得るかもしれないわね。貴方は・・・」
そう言いかけた神は前方に佇む7人の影を視認するや否やローブを脱ぎ捨て宙を舞う。
そのローブを何処からともなく現れた8人目の男が回収し女神の隣りを陣取り、残りの7人は気に入らないと言った顔をしつつもその後ろをついて行く。
「勝手な事をされては困ります。貴方はーーー」
ローブを手に持つ
「ーーー女神なのですから。フレイヤ様」
「うふふ、偶には外へ出て羽根を伸ばさなきゃ」
満足した顔を見せる神基フレイヤにオッタルはもう反論する事を諦めた。それは後ろの7人にも伝染し小さく溜め息をつく。
どうやらオッタルはフレイヤが総司と接触した時から見ていたようだ。忠誠を誓う女神に一瞬でも不浄な視線を送ろうものなら塵一つ残さず粉砕するつもりだったが、今回はそうはならなかった。
(でもまだダメ。もっと高みへ・・・強くなりなさい。天下までーーー私が、欲しくなるまで・・・!)
先頭を歩くフレイヤは邪悪な笑みを浮かべる。
簡単ですがフレイヤ回でした。
アンケートは11月6日に締め切ります。