会場であるシュリーム古城跡地では守備側であるアポロン・ファミリアの眷属が城に荷物を運び込んでいた。中身は武器や食料等だろう。
『神の鏡』と呼ばれる神の力によりオラリオの各地で今回のゲームは観戦できる為、酒場等では賭けが行われている。全体的に九割はアポロン・ファミリアが勝つ方へ、残りの一割はベルや総司をよく知る者しか居なかった。
一部を除くオラリオ全体の誰もがアポロン・ファミリアが勝つのだろうと確信している。しかし今日、それは全て覆りこの地に輝かしい『英雄』が誕生する事となる。
「始まったな。奴らいつ攻めて来ると思う?」
「さぁな、何日もあるんだ。気長に待とうや」
「俺はリトル・ルーキーが泣きを入れに来るに一票」
「はっ、そりゃ傑作だ。ロキ・ファミリアとは言えLv.2、まず負けないだろ」
「神ロキは気が触れたらしい。こりゃ世も末だな」
「はっはっはっ、ヒュアキントスが居れば楽勝だろ!」
こんな具合で北門の見張りは緩み切っていた。
談笑しているそんな時ーーー
「おい、あれ・・・」
見張りの1人が指差した先には此方に突っ込んで来る影が一つあった。
「て、敵襲ぅぅ!!」
「馬鹿か!? 一人で来たぞ!?」
「弓兵、撃てぇぇぇぇ!!!!」
号令と共に約二十本の矢が狙い撃ちにする。それを確認した男は薄く笑みを浮かべて更に加速する。それのよって矢の着弾地点を通り過ぎ的を外す。
「は、速ぇ!?」
「第2射、速くしろ!」
弓矢を引き絞るよりも速く男が持っている魔剣が門や外壁を手当り次第攻撃して行く。
凄まじい威力を誇るこの魔剣はヴェルフが作製したもので通称《クロッゾの魔剣》と呼ばれる代物だ。嘗てエルフの森を焼いたと言い伝えられている。
数秒の出来事。男の剣速も相俟って魔剣は使用限度を超えて朽ち果てる。しかし出した被害は大きく、負傷者は0人だが門は破壊され外壁には大きな亀裂が何ヶ所も出来ていた。
「へぇ、魔剣と言うのは凄いですねぇ」
魔剣に感心する男の名前は沖田総司。
「あ、あいつ魔剣を使い切りやがった!」
「今がチャンスだ! 全員外に出て奴を仕留めるぞ!」
20人程の部隊が門から総司を討ち取らんと出て来た。
「バカめ! 魔剣を使い切った事を後悔させてやる!」
「死ねぇ!」
先鋒2人が斬り掛かる。だが総司は一切慌てる事はなく容易に2人の間を横切ると、2人はその場に倒れ込む。
その様子を見ていた眷族達は驚愕し足を止める。太刀筋は疎かいつ抜刀したかも視認できていなかった。
「ヘスティア様も我儘ですねぇ。誰も殺すな、なんて・・・」
総司が持っている武器は打刀ではなく木刀一本のみ。開始前の作戦会議で殺す気満々な様子を見せていたのでヘスティアに止められた。渋々納得して指示に従う総司を見てベル達は冷や汗をかいたのは言うまでもない。
「来ないんですか? ならこっちから行きますよ」
総司は駆け出し目に付く敵を片っ端か相手取って行く。しかしかずか多いせいか攻め切れないと言った様子を見せると、眷族達は勝機があると勘違いする。
「この数に勝てると思ってんのか!」
「どうしたロキ・ファミリア! 大した事ねぇな!」
(はぁ・・・作戦とは言え、手加減するのは面倒ですねぇ)
内心で溜め息を付く総司は気だるそうに時間を稼ぐ。
そんな時、門からアポロン・ファミリアの増援がやって来た。その数は約60人。
(リリちゃん、上手くやってくれたようですね)
ヘスティア・ファミリアの作戦
①総司が魔剣を持って速攻を仕掛け敵の注意を引く。
②魔法で敵に化けたリリがヒュアキントスの名前を使って増援を寄越し総司の所へ戦力を集中させる。
③手薄になった反対側の門をリリが開けてベル、ヴェルフ、命が侵入。
④命は外で敵を引き付け、ベルとヴェルフは城内に侵入、ヴェルフは雑兵を相手にし、ベルはヒュアキントスを狙う。
(大将首は僕が取りたかったんですけど・・・ベルさんの希望となれば仕方ないですね)
ベルは一度ヒュアキントスに負けている。そのリベンジを果たす為に今日までアイズやティオナと訓練して来た。この事は限られたごく一部の者しか知らない(総司は知らない)。
そもそも総司が受け持つ役回りはベルを除く総司以外には出来ないので必然的にこうなってしまうのだ。
「増援・・・? へっ、俺達だけで十分だってーーーうごぁっ!!??」
余所見をしていた眷族の一人が頬に木刀一閃を食らい宙を舞う。それを見て明らかに先程より強くなった総司を見て眷族達はたじろぐ。
「貴方達は運が良い。今日僕と戦っても・・・死ぬ事はないんですから」
据わった目を見た眷族達はこれまで総司が実力を隠して戦っていた事を確信した。そしてこれから行われるのは戦いではなく一方的な蹂躙だという事も・・・
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現在はフェーズ④に移行しておりベルがヒュアキントスと対峙している場面が映っていた。
そんな様子を神の鏡で見ていた酒場の連中は静まり返っていた。楽勝だと思われた
「な、なんなんだ。リトル・ルーキーのあの魔法は!? 天井ぶち抜いてヒュアキントスとタイマンに持ち込んだぞ!?」
「絶†影の魔法で何十人も足止めしてやがる!」
「あいつ魔剣打つようになったのか!?」
「あの
「ロキ・ファミリアの奴、本当にLv.2か!?」
口々にヘスティア陣営への感想を述べる。それは他の場所で観戦している者も同じ様子を見せていた。
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南門では侵入した命が発動させた《フツノミタマ》による重力魔法によってその場にいた15人ほどの眷族達を足止めしている。
確かに強力な魔法だがそれ故に消耗も激しい。そう長くは持たない。
「やはり北門が開けられている! 先程の爆発・・・っ! あそこに敵が居るぞ! 弓矢を構えろ!!」
東門を担当していたエルフの男性リックスの部隊は弓を構え命に狙いを定める。
「例えこの身が朽ちようとも! 受けた温情を返す為!私は使命を真っ当する!!」
放たれた数十本の矢が空を切りながら命に迫って来る。この矢が何本自身の体を貫こうが命尽きるまで魔法を発動させ続ける覚悟を決めたところで、射線の前に立ちはだかる男がいた。
「桜花さんと同等の覚悟、見せて貰いましたよ。命さん」
全ての矢を打ち落としたのは総司だった。
「総司殿!」
「な、何故お前が此処に!? まさか北門に送られた兵力全て倒したのか・・・!? 計80人だぞ!?」
リックスは有り得ないと言った表情で総司を見る。北門に配置された20人、増援60人はものの数十分で全滅させられていた。
「僕の役目は残党狩り・・・対象は勿論、貴方達です」
「くそぉっ! 化物め!!」
一直線に駆け出す総司にリックス達は迎撃体勢を整える。しかし勝てないのは分かっているので半ばやけくそ気味だ。
ーー
ーーー
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暫くすると
それを悟った総司は目の前に倒れ伏すリックスに視線を送る。
「貴方のお陰で退屈せずに済みました。機会があればまたやりましょう・・・今度はお互いもっと強くなって」
手足をへし折られ、血塗れのリックスに意識があったかどうかは分からないが、今回の敗北は心の奥底まで刻まれただろう。それを活かすか殺すかはリックス次第だ。
「総司殿! お疲れ様です!」
「あ、命さん!」
総司と命が合流する。総司がリックスと戦っている間、命の魔法は解除され解放された眷族達を相手取っていた。だが流石はLv.2、15人程度のLv.1なら苦戦はしたが勝てたようだ。
「あれほどの軍勢をたった一人で・・・あの、どうすれば総司殿の様に強くなれますか!?」
「そうですねぇ。剣に生涯を懸ければ貴方はまだまだ強くなれますよ」
リックスとの戦闘中、命の戦いぶりを見ていたが、彼女を見る限り才能はあるし太刀筋も悪くない。もう数十年もすれば総司が唆る剣士になれるだろう。
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時を同じく、バベルにてヘスティア、ロキ、アポロンや他の神々はこの
まさかの結果にアポロンは青ざめ、ヘスティアとロキは邪悪な笑みを浮かべながらアポロンを見る。
「アーポーローンー?」
「覚悟はええなぁ?」
「ひっ、ま、待ってくれ! ヘスティアの子があんまり可愛かったものだからついちょっかい出しただけなんだ! ロキの子もかなり可愛らしいが流石に手を出すつもりはない! ど、どうか温情を!」
ヘスティアとロキに懇願するが当の二柱は一切容赦するつもりは無さそうだ。
「本拠と財産は没収! 君は追放! 二度とオラリオの地を踏むなぁ!!」
「ウチからは、そうやなぁ・・・じゃあ『龍鋼結晶』を貰うわ」
「な、何故それを持っていると知ってるんだ!?」
「最大ファミリアの情報網、舐めたらアカンでぇ?」
龍鋼結晶とはダンジョン深層でしか採取出来ないとされている鉱石。しかも深層でも中々生成されず希少性が非常に高く、ロキ・ファミリアの遠征でも運が良ければ発見できる代物だ。
硬度は最硬精製金属『オリハルコン』に次ぐと言われている。
アポロンがどのような手段で龍鋼結晶を手に入れたかは知る由もないが、ロキはそこに目をつけたようだ。
文字通り全てを取り上げられたアポロンは条件を飲み、数日後このオラリオを去って行ったという。しかしアポロン・ファミリアの眷族達はアポロンを慕っているものが多く、追放後もアポロンに着いて行く者もいた。アポロンは変神だが眷族に対する愛は本物なのだ。
オラリオを去った後も何処かの地で暮らして行くには困らないだろう。
因みにこの
今度こそ次回からクノッソス編です。