オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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邪神

レヴィス、ヴァレッタの罠により散り散りになったフィン達とは別の班。ガレス達はと言うと、此方も同じような広場に到着していた。

 

「お初にお目にかかる。ロキ・ファミリアの冒険者達・・・」

 

ガレス達の目の前に現れた猫背の男性はバルカだった。

 

「あ! あの顔!」

 

「メレンで取り引きしていたヒューマンで間違いなさそうね」

 

メレンで手に入れた情報とバルカの特徴は一致していた。

 

「そんな事もあったな・・・私を探していたのか? 私は会いたくなかった。そもそもこうしている時間すら惜しい。我らが始祖の悲願は遠大にして壮大、時はいくらあっても足りぬ・・・私の代では成しえないだろう、しかしいつの日か完成させてくれる世代が現れる・・・せめてエルフの血さえ授かれば・・・あぁ、口惜しい・・・」

 

「ちょ、ちょっと! 自分の世界に浸ってないでさぁ!」

 

「一体何なの、あんた!」

 

ブツブツと独り言を呟くバルカにヒリュテ姉妹はイライラする。

そんな中、ガレスは冷静に周りを見渡す。

 

(モンスターの気配は無い。ワシらを相手をあの男一人でする気か?)

 

それほど強そうには見えない。しかしこの広場に罠があるかもしれない以上警戒を解く訳には行かない。

 

「私はバルカ。君達を闇の淵に招待する任を命じられている・・・」

 

名乗る共にガレスは床の装飾が扉と似ている事に気がつく。

 

「全員跳べーーー」

 

「もう遅い」

 

ガコンと床が開き全員落ちて行く。その時見たバルカの左目はヴァレッタが持っていた鍵と同じ形をしていた。

 

「アイズ!」

 

「っ!『目覚めよ(テンペスト)』!」

 

意図を理解したアイズはガレスの斧を足場に風で飛び上がり、バルカに追いつく。

 

「これは驚いた。始祖の罠を躱す人間がいるとはな。だが私も捕まる訳には行かないのだ」

 

アイズがバルカを捕まえようとする直前で扉は閉じてしまい逃してしまう。床の扉も閉じているのでガレス達を助けにも行けない。

 

「皆・・・!」

 

この場でアイズは一人になってしまった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「団長! しっかりしてください!」

 

レヴィス達から逃れたラウル達はフィンの手当てをしていた。

 

「駄目だ。傷が塞がらない!」

 

「どうして・・・あんなにポーションを使ったのに・・・!」

 

幾ら回復薬を使ってもフィンの傷は治らない。それどころかどんどん悪くなっているようにも見える。

 

呪詛(カース)・・・!」

 

アキが呟くとラウルは気づいた。

フィンがレヴィスから受けた一撃、あの剣には呪詛(カース)が込められていたのだ。

呪詛(カース)は文字通り呪い。解呪には特殊な治癒師やアイテムが必要でこの場にそれは無い。そのためフィンは解呪しない限り復活どころか治療すら受けられない。

 

「一刻も早くこの迷宮を抜け出さないと!」

 

(脱出? 私は本気で行っているの? 出口どころか此処が何処かも分からないのに・・・)

 

アキは言葉とは裏腹に半分諦めかけていた。

ヴァレッタはLv.5、レヴィスはLv.6以上、無尽蔵に出現する極彩色のモンスター、闇派閥(イヴィルス)の残党には上級冒険者もいるかもしれない。

対して此方はLv.4とLv.3がそれぞれ2人、Lv.2が1人と重傷者を抱えている。万に一つも勝ち目は無いだろう。

 

(私には何も無い。この状況を覆す特別な力なんて無い。私じゃ・・・英雄(フィン・ディムナ)にはなれない!)

 

そんな心境を察したラウルはアキの怯えを感じ取る。

 

(団長・・・自分はどうしたら・・・!?)

 

 

「フィ〜ン! 何処にいやがる!? まだくたばっちゃいねぇよなぁ!? 目の前で子分どもを血祭りに上げてやるからなぁ!」

 

 

ヴァレッタがそこまで来ている。

通路に鳴り響く下品な嗤い声はラウル達にとって恐怖でしかなかった。

 

「ぜ、全員移動するっす!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

クノッソスのとある場所では無数の剣撃が鳴り響いていた。何十人もの冒険者が戦っていると思わせる程の戦闘音はたった2人の怪物から発せられているものだった。

 

「鬱陶しいな。そろそろ死ね」

 

殺す気で振り下ろされた一撃は総司がまともに受ければ打刀ごと真っ二つにされるだろう。しかし対人に特化した総司は冷静に太刀筋を見極め、レヴィスよ斬撃を受け流し反撃を加える。

 

「ほう・・・唯の羽虫ではないらしいな」

 

「侍を舐めて貰っては困りますよ」

 

レヴィスの頬に刃を掠らせ、傷から赤い血が滴る。一見余裕そうに見える立ち回りだが、内心ではかなり焦っていた。フィンの負傷、仲間ともはぐれ、目の前に聳え立つ覆す事も不可能と思わせる巨大な敵、いやそれよりも・・・

 

(何だこの剣圧・・・人というより、まるで・・・)

 

レヴィスから発せられる剣圧はどちらかと言うとモンスターに近かった。

 

(あれがフィンさんが言ってた怪人かな・・・それにあの剣、多分一太刀でもまともに浴びたら不味い)

 

歪で醜く気持ち悪いその強さは総司に恐怖の念を抱かせる。打刀がカタカタと震えているのは武者震いだけではない事は総司も理解している。

 

「怖いか? お前らの頭を殺した、この私が・・・」

 

「フィンさんがあの程度で死ぬわけがないでしょう」

 

「私の一撃で死ななくてもこのクノッソスでアレは死ぬ。そしてお前も、お前の仲間も・・・一人残らずな」

 

一息でレヴィスは間合いを詰めて剣を振り下ろす。受け流そうと打刀を構えると、直前で剣は止まり総司の腹部を蹴り上げる。

 

「ぐっ!」

 

何とか着地し前を見ると既にレヴィスは追撃を放っていた。豪雨の如く放たれた刺突に総司は慌てて対処するが、実力の差があり過ぎるので徐々に総司の体に掠り始める。するとレヴィスの回し蹴りが総司の頬に炸裂し床に転げ落ちる。

 

「お前、いつまで弱いままでいるつもりだ?」

 

「何、を・・・?」

 

「分からんか? なら言い方を変えよう」

 

訳の分からない言葉に総司は苦悶の表情で耳を傾ける。

 

「もう抗うな、自由になれ。繋がりも仲間も矜恃も全て捨て衝動のままに進め」

 

「・・・話しに、なりませんね」

 

レヴィスの言葉に間を開けて総司は答える。

呼吸を整えつつある総司は立ち上がり打刀を構える。力の差は歴然、絶対に勝てない事は誰の目から見ても明らかだ。それは本人が一番分かっている事、それでも総司は逃げる訳には行かないのだ。

 

「矜恃を捨てた者が辿り着ける領域などたかが知れている。捨てる事でしか得られない強さは脆い」

 

「価値観の相違だな」

 

多少回復した総司は全神経を集中させレヴィスの次の行動に備えた。

 

 

「ーーーなら、もう死ね」

 

 

耳元で告げられた宣告は静かで酷く残酷なものだった。完全に意識の外から死神の手刀が総司を貫く。

 

この攻撃に剣を使わなかった理由は特に無い。レヴィスにとってこの戦いはどうでもいいのだ。だから殺し方に拘りは無く、総司への興味など最初から無い。殺そうと思えばいつでも殺せた、気まぐれで会話し気まぐれで殺される。

 

口や傷口から血を吐き出しその場に倒れ込む総司に一瞥もくれることなく歩き出す。

 

「そう死に急ぐな。お前はもう助かーーー」

 

背後に感じ取る禍々しい熱気はレヴィスの怪人としての本能に警告音を鳴らした。その結果・・・

 

「ッ!!」

 

立ち上がろうとする総司を後ろ蹴りで壁まで吹き飛ばす。アダマンタイトの壁の表面が崩れ落ち、跳ね返った総司は限界を迎えそのまま気を失う。

 

(こいつ・・・)

 

この時レヴィスは攻撃する気は無かった。総司を見下ろした後、かかってくるならとどめを指した。そうでない場合は何もせず放置するつもりだった。

 

(今ここで殺すかーーー)

 

怪人として、モンスターとして総司を殺せと脳を刺激する。

 

「ねぇ、レヴィスちゃん。そろそろあの子の所へ向かって欲しいんだけど」

 

通路の影から一柱の神が姿を現す。

 

「邪魔をするな。タナトス」

 

「邪魔だなんてとんでもない。でも時間が押してるのも事実なんだ。ほら、愛しのアリアちゃんも君を待ってるよ?」

 

「・・・」

 

タナトスの言葉を聞いたレヴィスは総司を一瞥する。

 

「チッ・・・分かった。だが二度とのそんな言い方をするな。気色悪い」

 

そう吐き捨てると剣を納めその場を立ち去る。レヴィスが去った後、タナトスは総司の所へ足を進める。その場にしゃがみ顔を覗き込むとニタリと笑う。

 

「やっぱりかぁ〜。いるんだよねぇ・・・数百年に一度(偶に)、遊び半分で下界に君みたいな子を転生させる神々(バカ)が・・・全く、仕事が狂ってしょうがない」

 

タナトスは『死』と『転生』の神。天界での仕事は死んだ人間の魂を漂白し新たな『純白の魂』を生まれ変わらせる事だった。嘗てタナトスは仕事に真面目な神で通っていた。

 

「あ、いい事思いついた・・・ねぇ、君。闇派閥(イヴィルス)に来なよ」

 

謎の提案をするが総司は気を失っているため届いていない。それはタナトスも承知の上で、独り言として話しているに近い。

 

「そうすれば・・・君の死後、大切な存在と一緒に転生させてあげるよ。君にもいるだろう? もう一度会いたい人が」

 

闇派閥(イヴィルス)の残党がタナトスに従う理由は正にそれだ。

彼らはタナトスと『死後の進路』を約束している。オラリオが崩壊しタナトスが天界に戻ったら、死に別れた大切な存在と一緒に転生させる事。

 

「今回と違って転生したら前世の記憶を失うけど・・・まぁ、覚えてたら考えていてくれよ。悪い話しじゃないと思うからさ」

 

それだけ伝えてタナトスは立ち上がりその場を後にする。この事を覚えているか否かは分からないが、神の言葉は確実に総司の魂には刻まれただろう。

 

 

 

 

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