人工迷宮《クノッソス》ではロキ・ファミリアが分断され全滅の危機に陥っていた。特にアイズやガレスと言った幹部達とはぐれた団員、そしてたった一人で気絶している総司は絶対絶命だ。
そんな中
「ティオナ!? ちくしょう!!」
焦るティオネは冷静に状況を分析する。姉妹が離れた瞬間丁度良く扉が閉じたという事は扉を操作している者が近くに潜んでいる、もしくは何らかの方法で此方の状況を把握し遠隔で操作している者がいる。
(怪しいのはさっきの髭男! どっかで見てやがんのか!?)
「ーーそこっ!」
背後から殺気を感じたティオネは咄嗟に武器を投げて対処する。それに気づいた他の団員は天井に目を向けると、そこには黒装に身を包んだ暗殺者の様な集団が襲い掛かってきた。
「
「犯罪派閥・・・
「くっ! ティオネさんーーーえ?」
暗殺者と戦闘していた団員はティオネの方へ視線を向ける。
「っ、体が重い・・・
複数のイバラ鞭が拘束されたティオネは武器を落とし膝を地面に着ける。
勝機と見るや暗殺者達は一斉にティオネに向かって刃を振り下ろす。
「ティオネさん!!」
他の団員は自分の事で手一杯である為救出に行けない。
「ーーぜぇ・・・」
この状況で団員が聞いたのは泣き言でも諦めでもない。
「クソうぜぇんだよ、このカス野郎ども!!!」
ーーー“怒号“だった。
力技でイバラ鞭を引き千切り押し寄せる暗殺者を素手で一蹴する。
「落とし穴にモンスターの大軍、ティオナとの分断に今度は暗殺者だぁ? こっちは団長と離れ離れでそれどころじゃねぇんだよ・・・空気読めやこの
弱体化を受けてこの実力・・・と言うよりはティオネのスキル《憤化招乱》のお陰だ。効果はダメージと怒りの丈で攻撃力が上がる。メレンでの戦いで身につけたスキルだ。
「それって
「ティオネさん心強いけど怖ぇ・・・」
怒りのままに暗殺者を粉砕して行くティオネをドン引きしながら傍観していた。それはそうとこの状況は打開できたので良しとする事にした。
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ティオネと分断されたティオナ側では天井の穴から
解毒には専用の特効薬かアミッドの治療魔法が必要なのだが、後者はもちろん今ここに特効薬は無い。
「ぎやぁぁぁぁぁ!!!!!」
「アークス!?」
団員の内一人、アークスが
「あたしが前を切り開く! エルフィ、シンシアはアークスを抱えて走って!」
触れても✕
斬っても✕
潰しても✕
狭い通路で猛毒の体液をぶち撒けられたら全滅必至だ。
はっきり言って詰みの状況だがティオナはウルガを振り回し、
「やばっ、扉が!?」
「ティオナさん、後ろから!!」
前方の扉が閉じたと思ったら後方から
「なろおぉぉぉ!!!」
咄嗟に全力でウルガを振り回し体液の軌道を逸らす。
「エルフィ、魔法!!」
ティオナの意図を察したエルフィは困惑しつつも詠唱を初め、天井にはりつく
「ティ、ティオナさん、手が・・・!」
体液を防ぎきったティオナはウルガを落として膝を着く。両手には毒を受けた跡がくっきりと残っており、痛みで痙攣しているのが見てわかる。
「大丈夫! メレンでもっと強い猛毒を浴びながら戦ってたから!」
痛みで全身から脂汗を噴き出しながらそれでも笑顔を絶やさないティオナに皆は安心していた。
「お、俺も・・・もう立てる。自分で、歩けるぞ・・・」
「アークス、無理したら・・・!」
「甘えてられる状況じゃないだろう・・・?」
重症の身体を押してアークスは自分の力で立ち上がる。そんな姿を見てティオナはそっと笑みを零し静かに口を開く。
「ーーーあたし一人じゃ、皆を助けられない。だから・・・皆、あたしを助けてくれない?」
「「「はいっ!!」」」
互いに支え合う団結力がロキ・ファミリアの強さだ。
ともあれこれで分断されたヒリュテ姉妹は絶望的状況から盛り返した。
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フィン達からはぐれたベート班は《イケロス・ファミリア》の団長、ディックス・ペルディクスの
イケロス・ファミリアはかつて探索系のファミリアでダンジョンの深層にも辿り着いたオラリオでも上位の派閥なのだが、ある時から到達記録が途絶えており話題にもならない為、ギルド側も活動が把握出てきていない。今回の件で
「べ、ベートさん。どうしましょう!?」
「うるせぇ、黙ってろ」
(アイツらを助けに出て行けばあの野郎の
見た目以上に厄介な状況に内心で悪態をつく。
「おい、どうした? 本当に仲間を見殺しにするのかぁ!?」
(この様子だと俺をブチのめせば解呪できると気づいていやがるな)
ディックスはLv.5、ベートはLv.6。まともに戦っては勝ち目が無い。なのでまともに戦わず、仲間を見殺しにするなら持っている鍵で扉を閉じて逃走、仲間を助けるなら今度こそ
勝利を確信したディックスは邪悪に笑う。
するとベートは隠れるのを辞め堂々と錯乱した仲間の前に姿を現す。
(勝ったなーーー)
ディックスが
(は・・・? 張り倒したのか? 仲間だぞ!? そりゃ一蹴できるだろうが・・・分かってても普通やるか!?)
集団戦術に長けたロキ・ファミリアが味方を躊躇なく倒せるとは思っていなかったディックスは一瞬思考が停止する。
(固まってる場合じゃねぇ! 大丈夫だ、間に合う!)
我に返り再び詠唱を始めるがーーー
(ーーー待て。こいつを暴走させたとして、最初に襲い掛かるのは・・・)
現在動いている者、一番近い者はーーー
(ーーー俺!?)
全てを悟ったディックスは後方へ跳び急いで扉を閉じる。ベートの指先がディックスの鼻先まで届く直前で完全に扉が閉まり切る。
「は、はははは!! 残念だったなぁ!」
助かったと一安心してその場から立ち去ろうと扉へ背を向ける。
「ちくしょう、とんだ災難だ! だがこれで・・・あ?」
背後から物音が聞こえて来た。嫌な予感が走り恐る恐る振り返る。
「馬鹿野郎・・・その扉、どれだけの重量があると思ってやがる!」
閉じ切る直前に指先を扉に挟めていたようで、そのまま力技でこじ開けるベートの眼は
「冗談じゃねぇ! こんな化け物の相手は二度とごめんだ! バルカの野郎覚えてやがれ・・・!」
「逃げやがったか。おい、この先に行くぞ! そいつら全員連れて来い!」
「む、無茶言わないで下さいよ〜!」
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薄暗い《クノッソス》の通路に赤い水滴が落ちる音が響く。銀色に鈍く光る“それ“は敵が来れば瞬時に迎撃できるよう抜き身にした刃。その足取りは千鳥足気味で息遣いも荒い、先刻受けた傷の影響をもろに受けていた。
彼の通った道には
(君にも居るだろう? もう一度会いたい人がーーー)
記憶に無い、しかし総司の魂には確かに刻まれていた。
思い出す度に鋭い眼光は赤く揺らめき出現した敵を容赦なく斬り殺して行く。
回復ポーションを使用し
(君、
この胸に宿る感情。喜怒哀楽のどれか、この暗がりでは表情までよく見えない。
「っ! 居たぞ! ロキ・ファミリアだ!!」
五人の刺客が正面から襲い掛かって来る。この連中が総司の背後にある死屍累々を認識した時には全てが遅く、気づいた時にはその仲間になっていた。
「殺す・・・必ず・・・」
その怒りの矛先は一体ーーー