オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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嗜虐の毒牙

クノッソス中に広がった風はロキ・ファミリアの団員をアイズの元に集めた。

 

「アイズ、無事!?」

 

「無事じゃねーだろ、バカゾネスが!」

 

レヴィスにトドメを刺される寸前でアイズは到着した仲間に助けられた。ガレスの命令で現状を報告し合い呪詛(カース)や傷の治療を行う。後衛が治療をしている中、前衛はレヴィスと対峙している。

 

「タナトスの眷族どもは何をしている・・・まぁいい。ここで全員片付ければ済む事だ」

 

「この数とやろうっての?」

 

「手負いのお前らなどわけない。お望みなら食人花も呼んでやろう」

 

この場にいるロキ・ファミリアのメンバーはクノッソスの毒牙にやられ全員が満身創痍、団長であるフィンも戦える状態ではない。そこに他のモンスターも呼ばれたら本当に勝ち目が無くなる。だからその前に倒す。

 

そんな考えが脳裏に過ぎる。そんな時、突如として“それ“は現れた。

 

壁を突き破り、レヴィスとロキ・ファミリアの中間から飛び出して来た化け物。幹部達ですら混乱する中、アイズとレヴィスがいち早く正体に気づく。

 

「「精霊の分身(デミ・スピリット)!」」

 

おそらく孵化した内の一体であろう精霊の分身(デミ・スピリット)、59階層に生息するパワー・ブルの上に上半身だけの女性の様な姿の化け物が寄生しているようだった。

 

神々(バカ)どもめ・・・繋いでおけとあれほど・・・」

 

レヴィスは舌打ちと共に手を《天の牡牛》に翳す。

 

「私の声が届かないか・・・この調子だと他の分身も・・・様子を見てくるか」

 

ロキ・ファミリアが天の牡牛に集中している間にレヴィスは静かにその場から立ち去る。

 

「せいぜい食い殺されるなよ、アリア。回収するのが面倒だ・・・」

 

一方その頃、ガレス達は部屋を抜け通路へ逃げるが天の牡牛はどこまでも追走して来る。

 

「フィン、命令しとくれ」

 

このままでは追い付かれて被害は拡大するだけ。なのでガレスは敢えてフィンに相談する。

 

「・・・ガレス。殿を、頼んだ」

 

意図を汲み取ったフィンは掠れる声で命令を下す。それを聞いたガレスはにやりと笑い天の牡牛へ立ちはだかる。

そんなやり取りを見ていたヒリュテ姉妹はガレスの隣りに立つ。

 

「お主ら・・・」

 

「団長を守るのは私よ」

 

「ようやく真っ当に戦えそうな相手だしねー」

 

空元気を振り撒く2人を見てガレスはもう何も言わなかった。

 

「後衛の支援なら俺達がやるっす・・・!」

 

「あんた達・・・」

 

ラウル、シャロン、クルスが名乗りを上げる。

 

「アキさんは行って下さい」

 

「サポートなら3人で十分だからな」

 

「アキ、団長達を頼んだっす!」

 

託されたアキは予備の武器と回復薬を全てラウル達に渡し移動を開始する。同時に土煙の中から天の牡牛が飛び出して来た。邪悪な笑みを浮かべてアイズだけを視界に入れている。

 

「お主ら、セオリー通りに叩くぞ!」

 

ガレスの掛け声で戦闘を開始する。

 

(皆、負けないで・・・!)

 

戦闘音が鳴り始める中、後ろ髪を引かれる想いでアイズは仲間を最後まで心配していた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

道中、風に導かれてロキ・ファミリアは一律に同じ場所へと辿り着きつつある。パーティ内に幹部が居れば難なく合流できる筈なのだ。

 

「悪いな総司。任せっぱなしで・・・」

 

「大丈夫です。皆さんに比べたら僕のは軽傷ですから」

 

出発してからここまで闇派閥(イヴィルス)の白装束を8人、セクメト・ファミリアの暗殺者を9人、モンスター系を合計13体を葬って来た。その内人間は全て総司が討伐している。

 

「それに人相手の方が殺りやすいですから!」

 

「そんなにこやかに言うな、怖ぇな!?」

 

モンスターが相手ならレベル+αていど、しかし対人戦ならこの場にいる誰よりも強い。適材適所というやつだ。

 

現在ある回復手段はポーションを使い切ったのでリーネの治癒魔法のみ。しかも道中何度か使っているので後1、2回ていどしか使えない。

 

「あの・・・この人なんとかなりませんか? ルーニーが可哀想で・・・」

 

ルーニーの背中には捕虜にした闇派閥(イヴィルス)が括り付けられていた。戦闘に不向きなリーネは毒で戦えないロイドを支え、ルーニーも支援職なので捕虜の運搬をしている。それが分かってるからルーニーは何も言わずに真っ当しているが、涙目で怯えながら移動している姿にリーネは見ていられなくなったようだ。

 

「なら、リーネさんとルーニーさん交替でもいいですよ」

 

「ごめん、ルーニー。もう少し我慢して・・・」

 

「そ、そんなぁ〜」

 

流石のリーネも四肢を切断され口に石を詰め込まれた人間を運ぶのは嫌だったようだ。

 

「此処も行き止まり・・・」

 

少し広めの空間に着いた総司達は閉まった扉を気づいて足を止める。しかし風が新たな進路を示してくれるので大した事では無い。もう既に肉体の限界を超えている。

 

「皆さん・・・一度休憩をーーー」

 

「ッ!!!」

 

突如総司が感じ取った気配。ドス黒く猛り狂った無邪気な殺意に総司は全身から冷や汗が噴き出る。他の者が困惑していると通路が・・・いや、クノッソス全体が揺れた。

 

「な、何この揺れ!?」

 

「みんな大丈夫か!?」

 

揺れと同時に壁を破壊するかのような轟音にパニックを起こす。

 

(なんだ、この剣圧・・・今まで感じた事の無い。奴が向かった方向は・・・)

 

数秒で揺れは収まった。どうやら通り過ぎたようだ。

 

「何だったんだ、今の・・・?」

 

「分からねぇ・・・でもすげぇ嫌な感じがしたぜ・・・」

 

「なぁ、あの方向ってアイズさんの風の先じゃ・・・?」

 

全員が味わった気配は途方もなく巨大で手に負えない化物だと容易に確信させた。希望だと思っていた先が絶望に塗り替えられた気分だ。

 

「お前らは運が良いなぁ〜。あの化け物に踏み潰されずに済むんだからよぉ〜」

 

後方から聞こえた声、総司だけは聞き覚えがあった。その不愉快な声の主はヴァレッタだ。

 

「てめぇら切り刻んだら、フィンはどんな顔するんだろうなぁ?」

 

下品に笑うヴァレッタは血塗れだ。しかし見たところ外傷は無い。この血は体に付着した魔石の粉末を洗い流す為に部下を殺して使った証だ。なのでヴァレッタ以外は全員死亡したようだ。

 

【鬼子】と【武士ノ道】を同時発動させ一息でヴァレッタに斬り掛かる。しかしレベル差があるので容易に大剣で受け止められる。

 

「やるかぁ、わんころぉ!」

 

ヴァレッタの猛攻に総司は防戦一方だ。怪我の影響もあるが、単純にヴァレッタが強いのだ。総司ほどではないにしろ彼女もそれなりに対人慣れしている。

 

「こいつの相手は僕がやります。今の内に行って下さい!」

 

総司は無理矢理ヴァレッタを通路口から引き離し脱出を促す。

 

「悔しいが、此処は総司に任せるしかない・・・」

 

「総司、死ぬ気で持ち堪えろよ!」

 

隙を見て通路から逃げようとする様子を見てヴァレッタはリーネ達の方へ飛ぶ。

 

「逃がすわけねぇだろ!? 今私はムカついてんだからよぉ!!」

 

リーネ達に向かって振り下ろされた大剣を総司は打刀で受ける。この距離なら受け流してもロイドに当たってしまう為、まともに受けざるを得なかった。

 

「ぐっ!」

 

打刀は衝撃に耐え切れず折れてしまった。勢いのまま総司へ向かって来るので、総司はリーネ達を巻き込まない為に敢えて斬撃に飛び込んだ。

それによって大剣の勢いが最大になる前に受けつつ軌道を変える事に成功した。

 

「チィ! 小賢しい真似しやがって!」

 

斬られた衝撃で闇派閥(イヴィルス)から剥ぎ取った白い布が取れ、レヴィスから受けた刺突の痕が顕になった。

 

そこで漸くリーネ達は総司が一番重傷だった事に気がついた。

 

「くっ・・・僕が、守らなきゃ・・・」

 

吹き飛ばされてしまった総司は立ち上がれない。遠に限界など超えていたのだ、体が意識に着いて来れていない。

 

「てめぇ・・・その傷で戦ってやがったのか?」

 

思わずヴァレッタも戦慄する。そして今狙うべき相手が決まった。

 

「てめぇはここで死ね!」

 

確実に此処で総司を殺さなければならない。そう思ってヴァレッタは走り出す。大剣を構え総司に向かって刺突を繰り出す。

 

 

「っ、くっ・・・ガハァッ・・・!」

 

 

「ロイド、さん・・・?」

 

ヴァレッタの思考とロイドの思考は完全に一致していた。もしも総司が敵ならばロイドは間違いなく確実にトドメを指す。だからこそいち早く反応し最後の力を振り絞って駆け出せた。

 

「悪、かったなぁ・・・総司。俺・・・薄々、気づいてたんだ・・・」

 

先程闇派閥(イヴィルス)に囲まれ総司に助けられた際、全員が総司の戦闘に気を取られる中、ロイドだけは見ていた。

総司が来た方向、薄暗くてよく見えなかったが、その通路には夥しい数の死体と天井までこびりついた血痕が・・・

 

「あの時・・・お前が、頼もし過ぎて・・・昔、詩人から聞いた、英雄みたいでよぉ・・・」

 

大剣が貫通した体から床に流れ落ちる血を音で感じならが、総司は声も出ないと言った様子でロイド見る。

 

「チィ! 邪魔しやがって・・・だがまぁ、そんな顔をフィンにさせてやりてぇなぁ!」

 

無造作に大剣を抜くと、ヴァレッタは嘲笑うかのような笑みで総司を見下ろす。

 

「ロイドに続けぇ!」

 

「全力で総司を守るぞ!」

 

リーネとルーニー以外のメンバーは満身創痍の体を引き摺ってヴァレッタに向かって攻撃を仕掛ける。

 

 

「アァ?」

 

 

嗜虐的な笑みで大剣を構え迎撃体勢を整える。

残りの5人は軒並みLv.3、対するヴァレッタはLv.5なので決して分が悪い訳では無い。但し万全の状態ならの話しだ。

 

1人、また1人と・・・まるで虫の様に殺して行くヴァレッタ。手足が切断され鮮血と共に中を巻いその場に転がる。

 

「僕が・・・・」

 

「後輩を守るのが・・・先輩(俺達)の役目なんだ・・・お前ばかりに、格好つけさせれる、かよ・・・」

 

ロイドは膝を着き遠のく意識を必死で保ち総司に向かって笑みを浮かべる。

 

「すまな、かった・・・これで・・・許して、く・・・れ・・・」

 

遂に力尽きたロイドはその場に倒れ込む。咄嗟にロイドの体を支えた総司は、嘗ての記憶が蘇る。

それは生前、目の前で散って行った仲間の顔、体温、言葉だった。

 

同じだーーーロイドも皆と同じ顔で死んで行った。

 

総司の体からずり落ちたロイドももう二度と動く事はない。ふと前方に目を向けると5人全員を殺し終えたヴァレッタがはしゃぎながらリーネを大剣で刺しまくっているのが見えた。

 

リーネの後ろにはルーニーがおり、ロイドの様に後輩を庇っているのが見えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ギャハハハハ!!! どうした!? 反撃してみろよぉ! てめぇが死ねば後ろのガキが死ぬんだぜぇ!?」

 

「うっ・・・くっ、あぁ・・・!」

 

少しづつリーネを削るヴァレッタは完全に遊んでいる。

 

(ごめんなさい・・・ルーニー、総司くん、ごめん、ごめんね・・・)

 

激痛に耐えながらリーネは自分の死期を悟る。

 

(あぁ・・・ベートさん・・・・・・)

 

 

 

「最後はてめぇごと貫いてーーーー」

 

弱いものいじめも飽きてしまったヴァレッタが大剣を振り下ろそうとした瞬間だった。突然背後から浴びせられるとてつもない剣圧()

 

(有り得ねぇ・・・奴は死にかけだぞ!?)

 

武器を折られ、体に穴が一つと大剣による呪詛(カース)でもう死んでいてもおかしくない傷の筈なのだ。

恐る恐る振り向くとそこには大量の熱を発生させる総司が打刀を握り、立っていた。アイズの風ほどではないにしろこの広場を埋め尽くすには十分の熱量だった。

 

(う、動けねぇ・・・だと!? 私が、この私の方がビビってやがるのか!?)

 

意識上で何度も殺そうと脳に命令を下すが、一向に体が動かない。

 

生前では決して登れない領域。神の恩恵(ファルナ)を授かって漸く届く境地。Lv.2になり総司の肉体レベルが向上した事で、それに呼応するように【鬼子】自体も更なる跳躍を見せようと言うのか。

 

 

一歩、総司の足が動く。

 

 

それを見たヴァレッタは気がつくと全速力でこの広場から逃げ出していた。脳が意識を無視して勝手に体を動かしたのだ。

つまり本能的にヴァレッタは総司に負けた事になる。それを噛み締めてヴァレッタは逃走する。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

道中、レフィーヤ達と合流したアキ達は見つけ出していた出口に案内してもらい全員が脱出する事が出来た。

 

すぐさま動けるメンバーを編成しアイズの風で合流出来なかった総司達の捜索を開始する。

 

「帰還していない団員はリーネ、ロイド、レミリア、カロス、クレア、アンジュ、ルーニー、リザ、総司です!」

 

分断された位置から推察される場所を片っ端から捜索する。扉が閉じ始める前に何としてでも探し出そうとアキやアイズ達が必死になる。

 

「血の匂い・・・こっちです!」

 

獣人の団員が向かう先、その広場には見知った顔が転がっていた。

 

「嘘だろ・・・なぁ、おい!」

 

「治癒師、急いで! ポーションでも何でもいいから早く!」

 

手足が切断され、中には胴体が千切れている者もいた。人目で死体だと分かるが、アキは治療を諦めない。まだ息がある者が居るかもしれない。そんな一縷の望みを踏み躙るように事切れている。

 

「ねぇ、やめてよ! お願いだから・・・!」

 

「くそっ! ちくしょう・・・!」

 

絶望に打ちひしがれる中、広場の中心には両手で折れた打刀を構え、俯きながら立っている総司がいた。その傍らにはロイドの姿が・・・

 

「そ、総司・・・生きてーーー」

 

「ーーー待って!!」

 

生死を確認する為に総司に触れようとするアキに何かを察知したアイズは駆け出す。

 

「っ!」

 

アキが総司の体に触れる瞬間、突然総司が動き出しアキに斬り掛かる。折れた刀身の先が頬を掠め血が流れるのを肌で感じた。その一刀を終えると総司はその場に倒れ込む。

 

「総司は・・・?」

 

「大丈夫、死んでない・・・良かった、本当に・・・頑張ったね・・・!」

 

倒れる総司の上体を起こし抱き締める。酷い傷だが生きている事を確認して安心するアキは殺され掛けた事をもう忘れている。

 

「こっち、まだ息があります! リーネです!」

 

その声に反応したアイズは直ぐに向かった。

 

「これは団長のと同じ呪詛(カース)・・・それにこの傷では止血しても・・・」

 

ギリギリで生きていたリーネはもう助からない。

 

「こ・・・の・・・子、を・・・」

 

リーネの後ろから出て来たのはルーニーだ。ルーニーに括り付けられていた捕虜は既に息はなく死亡している。この戦闘には耐えられなかったようだ。

 

「傷が浅い! まだ助かる!」

 

必死になって生存者の治療を行っていると、リーネのところにベートがやって来た。

 

「ベート、さん・・・」

 

「ざまぁねーな! だから言っただろう、雑魚は足でまといだってな。てめぇも、他の連中も無駄死にだ」

 

ベートの発言はその場の全員に聞こえていた。信じられないと言った面持ちで皆その発言に注目する。聞き間違いなどでは決してない。

 

「自分の弱さと甘さを死ぬほど恥じるんだな。じゃあな、もう二度と俺の前に現れんじゃねぇぞ。二度と巣穴から出てくんな」

 

「っ!」

 

リーネの傍でベートの言葉を聞いて睨みつけるアイズだがーーーー

 

「・・・あ・・・・・・」

 

リーネは最期に涙を流しその目を閉じると、二度と開く事はなかった。

 

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