オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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哀鬼

天の牡牛を討伐したガレス達は満身創痍の中全員無事に脱出する事が出来た。いや、全員と言うのは語弊がある。今回のクノッソス攻略でリーネやロイドを始め七人が死亡してしまった。

そしてクノッソスでの出来事から一夜明け、黄昏の館の食堂ではロキ・ファミリアの面々が感傷に浸り憤りを感じていた。

 

「死にゆく者たちに向かって・・・信じられません!」

 

「あいつの性格は知っていたけど・・・あれはないわ!」

 

アキとアリシア達の怒りの対象は闇派閥ではない。この場においてその怒りはベートへと向かっていた。

 

「あんなこと言う必要あるか!? これから死んで行く仲間に!!」

 

「リーネ達が無駄死にって・・・何であんなこと言えるんだよ!!」

 

皆口々に思った事を吐き出している中、アイズは少し違う感情のようだ。

 

「・・・・」

 

「アイズさん?」

 

そんな様子に気づいたレフィーヤ。彼女は以前ベートに叱咤されたことから本心では仲間の事を第一に思っているのだと、そう思っていた。

しかし今回の事でその考えに揺らぎが生じる。

 

 

「朝っぱらからうるせぇぞ!」

 

 

そんなアイズ達の背後からやって来たのはベートだった。

その瞬間、騒がしかった食堂は一気に静まり返る。だが皆の視線の先にいるベートには静かな怒りを宿していた。

 

「ベートさん・・・アキ達の話し、本当っすか・・・?」

 

「あァ?」

 

静寂を破ってラウルがベートの前に立つ。

 

「リーネは一番刺し傷が多かったっす。ロイドは総司の傍らで心臓を貫かれていたっす・・・! 後輩を守って、最期まで・・・!」

 

「言いたい事があるならはっきり言え。震えてんじゃねぇぞ!」

 

ラウルの震えは恐怖によるものではないと誰にでもわかった。

 

「ベートはさ・・・何も思わないの? リーネ達とは、もう二度と会えないんだよ?」

 

その場にいたティオナはベートのあの言葉が本心なのか分からずにいた。だからその真意を確かめるべくベートに問う。

 

「リーネはベートの事が好きだったんだよ・・・? 本当に何とも思わないの?」

 

無表情だったベートが一拍子置いて口角を上げる。

 

「残念だったな。俺は・・・弱ぇ女が一番嫌いなんだよ」

 

リーネの想いをあっさりと吐き捨てたベートの言葉に何かが切れた様にヒリュテ姉妹は拳を振り上げる。

 

殺し合いが始まる。

 

それを割って入ったのはアイズ、そして遅れて来たフィン、ガレス、リヴェリアだった。

 

「流石にこれ以上は洒落にならないな」

 

「団長! 止めないで下さい! こいつは・・・」

 

「派閥の幹部として節度を持て・・・いつも言っている筈だぞ、ティオネ」

 

奥の通路からやって来たロキは溜め息をつく。

 

「朝っぱらから血気盛んやな〜」

 

いつもの巫山戯た様子は一切無い。

 

「ベート、やり過ぎや」

 

「言葉を選べ、ベート。お前の言葉が偽らざるものなのかはわからんが・・・苦楽を共にした仲間を悼まない理由にはならない」

 

相応の歳であるリヴェリアもベートの発言には意義があるようだ。

 

「はっ! 悼んで何がある? 泣き喚いて何が変わるんだ!? あいつらは弱ぇからくたばったんだ!! 弱ぇくせに着いて来るからーーー」

 

「ベート、口を慎め!!」

 

ベートの言葉を遮ってフィンは柄にもなく怒号を上げる。周りにいたアイズやレフィーヤ、ヒリュテ姉妹達だけでなくリヴェリアやガレス、ロキまでもが驚いた様子を見せていた。

 

「珍しいじゃねぇか。そんなに声を荒らげるなんざ。なぁ、ジジイ」

 

「これ以上騒ぐな、団長命令だ」

 

「・・・はっ! そうかよ。そんなにあのチビ野郎が大事か?」

 

「彼だけじゃない・・・このロキ・ファミリアの全員を団長として大切にしている。だが・・・今の命令を聞けないのなら“お前“はその限りではない」

 

睨み一閃。

フィンの眼光は真っ直ぐベートを捉える。

 

「フィンは生き残った総司やルーニーにこれ以上の傷を負わんように言ってるんじゃ。それぐらい分かるじゃろ?」

 

「・・・なら無駄な努力だったな。なぁ! さっきからそこに居んだろ!? 出て来いよ!」

 

ベートの視線の先、フィン達が出て来たのとは別の入口に全員の視線が集中する。

 

「総司・・・」

 

入室して来たのは体の至る所に治療の跡が見える痛々しい姿の総司だった。

 

「あんだけ自慢気に殺しまくった挙句生き残っちまった気分ってのはどんな気分だ?」

 

「・・・・」

 

「てめぇの剣が届かねぇってのはどんな気分なんだ?」

 

にやけた顔で容赦無く傷口に塩を塗り込む鬼畜の所業にヒリュテ姉妹は再び手が出そうになる。

 

「目の前で仲間が死ぬってのはどんな気分だった?」

 

その言葉を聞いた瞬間、フィンは徐ろに手に力を入れる。しかし次のアクションを起こす前に総司が口を開く。

 

「美しい・・・」

 

「あァ?」

 

「美しい散り様だったな、と・・・」

 

その発言に思わずベートだけでなく聞いていた者達も理解が出来なかった。

 

「美しいだァ? てめぇ、何言ってやがる」

 

「皆、仲間を守る為に戦って討ち死に・・・立派な死じゃないですか」

 

当然のように答えた総司に対してティオナが思わず口を開く。

 

「総司は悲しくないの? リーネ達、死んじゃったんだよ?」

 

総司は至って真面目に答えていた。総司の言う美しく立派な死に方、フィンやガレス、リヴェリアなどは兎も角、ティオナ達がその感性を理解するには若すぎた。

 

「悲しいですよ。でもそれ以上に称賛の方が高かった、それだけです」

 

「こりゃ傑作だ! まさか死んだ奴らを美談にするとはなァ!」

 

騒ぐベートを他所に平然している総司にロキ以外の全員が不審に思う。

容赦の無い総司はあくまでも敵に対してのみ。普段の総司の性格上、号泣するとまで思っていた者達は“泣いた形跡も無い“総司の顔を見て驚きを隠せないでいた。

 

「へっ、精神の方は強い見てぇだなァ!」

 

「・・・・」

 

ベートの煽りにも無反応の総司に疑問を覚えたのはベート本人だった。

 

「所詮てめぇにとってはそこまでのーーー「ふふふ・・・」・・・何がおかしいんだ?」

 

「いえ、何でもありません。ただ・・・ここまで不器用な人は初めてだな、と・・・」

 

「っ・・・チッ・・・」

 

微笑む総司にベートはバツが悪そうに舌打ちをする。そんな様子を見ていた殆どの者はその意味を理解していなかった。

 

「僕で良かったです。土方さんなら刀抜いてましたねぇ」

 

ベートの真意になんとなくではあるが勘づいた総司は突然歳三を思い出す。どんな意思があろうと歳三なら仲間の死を貶した者は絶対に許さないだろう。そういう奴なんだと、総司は薄く微笑む。

 

「仲間が命を落としたと言うのに・・・何故そんなに冷静でいられるのですか!?」

 

淡々としている総司にアリシアは椅子を倒す勢いで立ち上がった。

 

「アリシアさん、仲間の死を悲嘆し絶望に打ち拉がれる・・・そんな時代はーーーー遠の昔に過ぎ去ったんですよ」

 

真顔でそう答える総司にアリシアは思わず押し黙る。その歳で、その小さい体で、一体どれほどの過去を背負っているのか想像し難いと言った心境だ。

 

「だとしても・・・っ」

 

アリシアは途中で言葉を失った。どれだけ仲間を失えばここまで平静を保てるのか、そう思うと何も言えなかった。

 

だからこそティオナは口を開いた。

 

「そんな薄情になっちゃダメ! ねぇ総司、リーネ達と遊んだり、話したり、戦ったりした事を思い出して!」

 

「・・・メレンでティオナさん達の過去を聞きました。その上で涙を流せるなんて、とても優しいんだと思います」

 

涙を流し総司の体を揺さぶりながら訴え掛けるが、総司の目は依然変わりない。

 

「ただ僕は優しくない・・・それだけなんです」

 

リーネ達の死を貶している訳では無いので嫌悪感は覚えなかったが、不信感を覚える者は少なくなかった。

 

食堂から立ち去ろうとする総司をフィンは少し焦り気味に静止させる。

 

「総司、何処に行くんだ?」

 

「来たる時に備えるだけですよ。まだ、何も終わってないんですから・・・」

 

総司の背中から放たれた殺気、仲間の死という感傷に浸る間も無く既に次を見据えていた事に皆驚く。

しかし不思議とリーネ達の死を軽視しているとは思えなかった。

 

寧ろ・・・

 

「総司。君は、何者なんだ・・・」

 

過去にどれ程の事を経験すればそうなるのか、フィンは自然と口を開いていた。ゆっくり振り向きフィンの方へ視線を向ける総司の眼は、メレンにてルバートに向けたものと完全に一致していた。

 

 

「ーーー戦乱の世の・・・・ただの人斬りですよ」

 

 

暗く冷たく、それでいてなんて哀しい眼をしているのだろうとフィンは口を噤んだ。

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