歓楽街の町外れの民宿。此処には元イシュタル・ファミリアの団長、フリュネが寝泊まりしている。怪我が癒えていないのか全身包帯を巻いており今も意識はあるが録に身動きが取れそうにないと言った様子だ。
そんなある日、フリュネに訪問者が現れる。
「さ、サミラかい?」
ガチャリとドアが開く音に過剰に反応するフリュネ。何かと面倒を見に来てくれる元同僚のサミラと思い声を掛けた。しかし返事は無く、異質な雰囲気だと言う事を本能で悟る。
「だ、誰だい。アンタら!」
入室して来たのは三人の黒装束を着た男達だった。
怪我の影響で身動きが取れないフリュネに短刀を構える。それを見たフリュネは今からされる事が脳裏に浮かんだ。
「ま、待ちなよ! アタイは今動けないんだよォ!? そんな美しく儚いアタイを襲おうなんてーーー」
その瞬間、フリュネの目の前が赤黒く染まる。
賊の刃はフリュネに届く前に一人が首を切り落とされ、それに気づいた残り一人は振り返る間も無く斬殺された。
残り一人はその者に短刀を振りかざすが、それよりも速く腕ごと斬り落とした。
「外の仲間は来ませんよ。全員粛清しましたから」
落とされた腕を押さえながら腰を抜かすと同時に宿を取り囲んでいた13名の暗殺者を全滅させられた事に驚く。
襲撃したのは沖田総司と認識する頃には暗殺者の命は無かった。
「見たところ、やっぱり口封じが目的か・・・」
「ち、ちょっとアンタ! アタイを抱かせてやるから、このままアタイをーーーッ!!!」
総司を自身の護衛させようとフリュネは提案しようとした時、窓の外を見ている総司の眼に思わず息を飲む。嘗てオッタルに向けられた烈火の如き怒りの眼差しとは違う、深海の如き深く冷たい怒りが伝わって来る。
今日フリュネは初めて、蛇に丸呑みにされるカエルの気持ちを理解したという。
勝手に恐怖に呑まれたフリュネには気にも止めず総司は外へ駆け出しって行った。
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「状況はどうなってます?」
「雇った暗殺者は全滅した。現在はヴァレッタ様が宮殿の地下へ
数名で移動中の
「お前は何をしていたんだ?」
「少し偵察を・・・
「何だと!? 思ったより速いな・・・とにかく時間が無い。お前も着いて来い。
そうして元イシュタル・ファミリアの本拠、その地下へと向かって行く。
地下に入ると真っ先に上半身だけの死体が転がっていた。そして薄暗い道の奥へと続く血の道標。おそらくその先にヴァレッタ達は居る。ベートにも分かりやすい様に仕掛けたのだろうが、これはあまりにも悪趣味が過ぎる。
「おい、てめぇら!
最深部には既に数十人の白装束と中心にヴァレッタがいた。どうやら今来た白装束が最後だったようだ。
「はっ! 暗殺者が上手く誘導したようで、単身で此処へ向かって来ています!」
「・・・・そうか。なら、さっさと準備を終わらせるか」
ヴァレッタがそう呟くと最後に入って来た白装束達は他の者達と合流し、遠くからヴァレッタを囲む様に整列しようとする。
「ーーーその前にネズミ狩りだ」
ヴァレッタの一言に反応して移動中の白装束は振り返る。そこには既にクノッソスで装備していた大剣を振り下ろそうとしていた。
突然の轟音に白装束達は狼狽える。砂煙が晴れるとヴァレッタの大剣を刀で受け止める白装束が見えた。
「品が無い割には勘が良いですね」
「血の匂いが消せてねぇんだよ、沖田総司!」
大剣を弾き後方へ跳んで着地する。そして白装束を脱ぎ捨てると、背中に『誠』の文字を背負うだんだら模様の羽織りが顔を出した。
「部下がマヌケで助かりましたよ。おかげで容易に潜り込めた」
その正体にヴァレッタ以外は驚き目を見開く。まさかあの時合流して来た者がロキ・ファミリアだとは思わなかった、完全にやられたと動揺を隠せない。
(コイツはロキ・ファミリア・・・いや、フィンの意思とは噛み合ってねぇ。その証拠にこの状況になっても他の連中が姿を現さねぇ)
ヴァレッタの考察通り、潜入中ならともかく正体がバレても出て来ない理由は無い。
(って事は
総司は一人でこの地下に来たと言う推理は正解だ。フリュネの宿で暗殺者を全滅させた時、外にいた暗殺者の内一人を敢えて殺さずに宿へ入った。そして総司の思惑通り生き残った暗殺者は撤退し、それを窓から確認した総司は尾行してクノッソスの入口付近まで案内させてから暗殺したのだ。
入口付近で張り込みをしているとヴァレッタや白装束達が移動を始めたので、どさくさに紛れて白装束の一人を拉致→白装束を汚さないように絞殺→身ぐるみを剥いで変装→仲間の振りをして潜入、そして現在に至る。
「てめぇを殺せば良いだけだなぁ!」
総司を早々に処理してベートを待ち構えれば何も問題無い。そう考えてヴァレッタは斬り掛かる。
「てめぇらは余計な手出しをすんじゃねぇぞ!」
Lv.2一人ならLv.5であるヴァレッタが負ける訳がない。レベル以上の実力があっても自分には敵わないとクノッソスで証明されていた事もあり、ヴァレッタは魔剣をベート用に温存する事を選んだ。
「どうしたァ!? その程度かよぉ!!」
【鬼子】とスキルを同時発動させ応戦するがレベル差を覆せる訳ではない。
総司は防戦一方ーーー
「やっぱりうるさい人は嫌いだ・・・・」
そう呟き冷たい視線をヴァレッタに送る。ゾッとしたヴァレッタは総司の一閃を回避し距離を取る。
(なんなんだこのチビは・・・・だがクノッソスの時に感じた“アレ“程じゃねぇ。やっぱまぐれだったーーーー)
「熱ッ!」
突然指先から感じた熱。それと同時にボトッと何かが床に落ちる音がした。周りの白装束は信じられないといった様子でヴァレッタを見ていた。ヴァレッタは嫌な予感がして恐る恐る床に視線を向けた。
「くっ・・・て、てめぇぇぇ!!!」
床に転がっていた2本の指は紛れもなくヴァレッタの物だった。
「これでまともに振るえませんね」
まともに戦えば勝ち目はまず無い。ならば相手の戦力を削ればいい。嘗て仲間だった永倉新八の『指抜き』と似た戦術だ。剣術で勝る総司がこのまま攻めれば勝率はほぼ確実だろう。
しかしーーーー
「ゴフッ・・・くっ・・・!」
突然の吐血に総司は膝をつき体勢を崩す。
「は・・・はは、そうだよなぁ! あんだけの傷がそう簡単に治る訳ねぇよなぁ!?」
総司がクノッソスで受けたダメージを知っているヴァレッタは形勢逆転を確信した。
「てめぇら! あのわんころを魔剣で焼き尽くしやがれ!!」
手負いとは言えこれ以上接近してダメージを受ける事を恐れたヴァレッタは白装束達に命令を下す。この後にベートとの戦闘も視野に入れての選択だろうが・・・・
「随分、のんびりとした・・・到着ですね」
時既に遅し。
「チィ、雑魚が。なに死にかけてんだ?」
「な、なんでてめぇが・・・
計算よりも速すぎるベートの登場、そのベートによって白装束は全滅していた事にヴァレッタは困惑している。
「あァ? てめぇが呼んだんだろうが」
何も準備出来ておらず、その上白装束も全滅したので囮にして逃げる事も不可能。ヴァレッタがパニックに陥っている中、総司は立て直しヴァレッタへ斬り掛かろうと駆け出す。
(一か八かコイツを人質にすればーーーー)
淡い期待を抱いたヴァレッタだが総司を捕らえる前にベートが間に割って入り総司を蹴り飛ばしてしまう。
「邪魔だ」
正直総司に人質としての価値は無いと思っていたヴァレッタだったが、自分ではなく総司を攻撃した事に驚く。
「な、なんでわざわざ・・・・」
「決まってんだろ。てめぇはオレがブチ殺す・・・・そんだけだァ!」
ヴァレッタへの怒り。それはロキ・ファミリア全員の共通意識だろうが、それ以上の怒りをベートから感じていた。
殺された仲間の怒りか守れなかった自分への怒りか自身を好いていたアマゾネスの少女を失った怒りか、或いはその全てなのかもしれない。
「死ね・・・・!」
ヴァレッタの顔面に目掛けて放った蹴り。しかし2人にとって予想外の出来事によりその蹴りは力が入り切る前に止められてしまった。
「・・・・何しやがる、チビ野郎?」
「ベートさんこそ邪魔なんですよ・・・・こいつは、僕の弔い合戦です。引っ込んでて下さい」
ヴァレッタに対して異常な怒りを持つ者はベートだけでは無い、総司だってその怒りの尺度は計り知れない。
確かにベートは総司を気絶させるつもりで蹴った。そうでなくてもまともに動けるようになるには暫く時間が必要になるには十分な威力を乗せた。それにも関わらず刀で蹴りを止めた事に驚くベートだが、総司なら或いはと脳裏に過ぎる。
「ハッ! ふらふらの癖に一丁前に仇討ちか? てめぇが引っ込んでろ、次は殺すぞ」
「ベートさんが僕を殺す前にこの女の首を斬り落とします。どっちが速いか試してみますか?」
戯言だとベートは気にも止めなかったが、総司の目は本気だ。それを悟ったベートは口角を上げて矛先を総司へ向けた。同時に総司も刀を強く握る。
(
此処は地下だから魔剣で柱を攻撃し天井を崩せば隙が生まれる。その間に逃げるという考えだ。加えて総司の剣速はクノッソスにて知っている。確かに速いが分かっていれば対処はできると判断し時が来るのをじっと待ちながら内心笑みを浮かべた。
天井から小石が落ち床に着弾するのと同時に三人は動いた。
「か、かはァ・・・・?」
なんとベートの蹴りがヴァレッタの腹部に突き刺さり、大剣を持っていた右腕を総司の刀が斬り落としていた。
(クソッ!! 痛え・・・何が起こりやがったッ!?)
状況を理解できずその場に悶絶するヴァレッタ。ベートも攻撃して来た事によって総司の斬撃への反応が遅れた、いやそれ以前に・・・・
(前より遥かに・・・・っ! ステイタス更新か!!!)
あまりの緊張状態に初歩的な事を忘れていたヴァレッタは誤ちに気づき二人を見上げる。
「ならよォ・・・・先にこの屑を殺した奴が勝ちの方が・・・手っ取り早いだろ?」
「良いですね、それ・・・・」
二人の殺気が完全にヴァレッタを捉える。もはやヴァレッタに死亡以外の道は残されてはいなかった。
「て、てめぇら・・・・卑怯だぞぉ!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕日が戦闘跡が残る歓楽街と総司とベートを照らす。ベートは段差で夕日を眺め、総司は羽織りを体に被せてスヤスヤと眠っている。そんな様子を見ていたアイズとロキは静かに姿を現す。
「よっ、こんな所で奇遇やな!」
「何の用だよ・・・・」
こんな所、狙って来ないと辿り着けないだろうとベートは内心ため息を吐いたが、面倒なのでツッコミをスルーした。
「いやな? アイズたんがベートに聞きたいことあるやって」
「・・・あァ?」
思わぬ回答が出て来たベートは振り向き、下がっていたアイズは前に出て来る。
「ベートさんは・・・どうして人を見下すのか、強くなろうとするのか、教えて下さい・・・」
「何だそりゃあ?」
「答えてやりぃや。皆の前で言えんくてもこの娘の前なら言えるやろ? 幸い総司も寝とるし、大チャンスやで?」
少し間を置き、舌打ちをしたベートは口を開く。
「・・・・オレは雑魚が嫌いだ。みっともなくて見るに堪えねぇんだよ」
「それだけですか?」
「雑魚の泣き言を聞くと虫唾が走るんだよ・・・・」
「それだけ?」
聞き返すアイズに痺れを切らしたベートはつい大声を上げる。
「他に何がある!? 弱ぇ連中を貶して立場を分からせるのは強ぇ奴の役目だ! でなけりゃ勘違いした雑魚が増えやがる! 冗談じゃねぇ!!」
ベートが隠して来た想いはこんなものでは無い。思わず立ち上がり更に大きな声で叫び続けた。
「弱ぇ奴らは戦場に出てくんな! 弱ぇ女は巣に引っ込んでろ! 失う度に泣き喚きやがって、苛つくんだよ! もやもやしやがる! 雑魚が目の前で野垂れ死ぬのはもう御免だ! もう誰も哭くんじゃねぇ!!」
思いの丈を全て吐き出したベートは肩で息するほど疲れていた。こんな事、人生で初めてだったのだろう。
それを聞いたアイズは少し申し訳なさそうな顔をしている。
「あの、ごめんなさい・・・・」
「あぁ? 何だってんだーーー」
不思議に思うベートの肩を叩く者がいた。
「やっと素直になりましたね。とは言え、これ程とは思ってませんでしたけど」
「て、てめぇ! 寝てたんじゃねぇのかよ!?」
「あんなに大きな声で叫ぶものですからぁ〜」
『ドッキリ大成功』と書かれた大きな紙を両手に持った総司が笑顔でベートの背後にいた。総司の狸寝入りに本気で騙されたベートは取り乱す。因みに紙についてはロキの仕込みで総司はよく意味も分からず言われるがままベートに見せびらかした。
「っ、クソっ! てめぇら三人とも恥かかせやがってぇ!」
「ベート、“三人“やない・・・みんなぁ! そういう事らしいでぇー!」
ロキの合図と一緒に建物の屋上から姿を現したのはロキ・ファミリアの団員達だった。
「・・・・は?」
鳩が豆鉄砲でもくらったかのようにベートは目を丸くして固まる。
「聞こえたよー! ベートの本音ー!」
「あんなに大きな声で叫ばれたら、嫌でも聞こえるわよねぇ」
「聞いてて嬉しかったというか、ちょっと恥ずかしかったというか・・・・」
ヒリュテ姉妹に赤面したレフィーヤが真っ先に反応する。
「ずびばぜん!! 自分、ベードざんの気持ぢもじらず・・・・!」
「ラウル、泣きすぎよ」
号泣するラウルに苦笑いをするアキ。
「そんな想いを抱いていたんですね・・・ぐすっ」
「私達、何度もベートさんに助けられて来たのに・・・・」
アリシアを始めとする殆どの団員は涙を流して感動していた。
「全く世話の焼ける奴だ」
「もう少し素直になってくれたら、僕達も助かるんだけどね」
「がはははっ、素直なベートなぞ、もうベートとは呼べんわ!」
リヴェリア、フィン、ガレスも漸く真意を引き出せたと胸を撫で下ろす思いだろう。
「アイズがなぁ。いつものファミリアに戻って欲しいって頼み込んで来たんや。そんでウチがちょいと入れ知恵して一芝居うってもらったんや!」
「その、ごめんなさい・・・」
「なっ・・・・は、はあぁ・・・・!?」
タネ明かしされたベートは赤面し上でニヤニヤしている団員を睨みつける。
「てめぇらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
『ツンデレベート』だの『ギャップ萌え』だのベートを弄りまくっている連中を見てブチ切れたベートは跳び上がり襲いかかる。
「あ、すいません。許しーーーぐはぁ!」
「やべっ、やりすぎーーーごはぁ!」
ベートが大暴れしている中、クノッソスで生き残ったルーニーはリーネが残した手紙をベートへ手渡した。この手紙は遠征よりも前に書かれたものらしい。
ベートがその手紙を読んでいる中、下に取り残された総司は薄く笑みを浮かべている。
「変わらないですね・・・・」
そう呟く総司は今は亡き仲間に思い馳せながら新たに出来た仲間を眺める。世界は違えど仲間の在り方は同じなのだと自然に口角が上がる。
「あれぇ? ベート・ローガはどこ?」
「あ、来よったな。ベートなら上に居るで」
「わぁい! ベート・ローガぁ!」
感傷的な気分になっていると突然アマゾネスの少女が現れた。どうやらベートを探しているようだが、事情を知っているロキやアイズはともかく何も知らない総司は固まっている。
「ロキ様、あの人は?」
「ん? あぁ、奇跡によって救われた娘や」
彼女の名前はレナ・タリー。元イシュタル・ファミリアの団員でベートに惚れているアマゾネスの少女だ。ベートの怒りの理由はレナは自分が巻き込んだせいで殺されたと思っていたからだ。
偶然か必然か、ルーニーが倒れていたレナを発見したお掛けで治療が間に合い一命を取り留めた。
「ーーー総司。今回は君が睨んだ通りアマゾネスが無差別に狙われた。そのお掛けで被害は抑えられた・・・それでも救えなかった命も多いけどね」
ヴァレッタは鍵の捜索を諦め元イシュタル・ファミリアのアマゾネスを口封じとして抹殺することを選んだ。最大派閥であるロキ・ファミリアでもオラリオ中のアマゾネスを守りきるには人手が足りなかった。
「品性の無い奴ならこういう手口を使うと予想したんです。昔、似たような者が味方にいましてね・・・・尤もあの男の方が幾分厄介でしたが」
「そうか・・・それで、ヴァレッタは?」
「アレなら僕が粛清しましたよ」
「おい、てめぇ! なに勝手な事言ってんだァ! あの女をぶっ殺したのはオレだろ!」
ヴァレッタを始末と総司が言うと話しを聞いていたベートはレナに抱きつかれながら上から異議を唱える。
「いやいや、あれは僕の斬撃が決め手でしょう」
「ふざけんな! オレの蹴りが首をへし折ったんだ!」
「その前に顔面を真っ二つにしたのは僕ですよぉ」
えげつない会話にフィンは苦笑い、上で聞いていた他の団員はドン引きしていた。
「ってか、てめぇはいい加減離れやがれ!」
「えぇ〜。もっとこうしてたいよぉ〜」
再び暴れだすベートを男性陣は必死に止めようとするが全く歯が立たずぶっ飛ばされて行く。
「手のかかる狼を宥めに行こうか。総司」
「はいっ!」
フィンは総司の体を支えながら上に登りベートの鎮圧に加勢する事になった。