オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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地上に

ヴァレッタを討伐してから数日が経った。ベートとの蟠りはすっかり無くなり、ロキ・ファミリアは以前の組織に戻っていた。

しかし喜んでばかりは居られない。殺害したヴァレッタの遺体を調べてもクノッソスへの鍵は見つからなかった。予め他の仲間に持たせて潜伏させていたか、何処かに隠したのか定かでは無いがイシュタル・ファミリアの領地を全て探すとなれば相当な時間が掛かるため調査は断念した。闇派閥(イヴィルス)の幹部を倒しただけでも儲けものとフィンは判断する。

 

そんな中、オラリオでは地上に“人型モンスター“が出現した事による話題で持ち切りだ。正確には有翼種で人型モンスターのようで、当然ロキ・ファミリアの耳にも入って来た。ハーピィかセイレーンだろうと推察されているが、闇派閥(イヴィルス)側がクノッソスに籠城し“待ちの構え“だとしても闇派閥(イヴィルス)関係の可能性も無くはないのでフィンは可能なら生け捕り、被害を出すようなら討伐するよう手の空いてる団員に呼び掛けた。

 

住民に被害を出す可能性がある事態にこの漢が黙っているわけがなかった。いつでも抜刀できる構えで街を駆け回るのはロキ・ファミリア、沖田総司だった。

 

「ーーーそれで、当時の状況を教えて貰えますか?」

 

「あぁ、元々ローブを纏って姿を隠してたんだが、翼を広げて子どもを襲おうとしてたのを皆で石を投げて抵抗したんだ。その場に冒険者がいなかったからな。そしたら突然エルフの子どもがそのモンスターの手を引いて逃げてったんだ!」

 

「エルフの子ども・・・?」

 

「あぁそうだよ! 何考えてんだか分からないが、あんたロキ・ファミリアの冒険者だろう!? 早く駆除してくれよ!」

 

目撃情報を提供してくれた男性は苦情を言うと帰ってしまった。総司はあの状況で何故エルフの子どもがモンスターを庇ったのか不信に思う。いや、総司だけじゃなく他の者も同じ意見だろう。本来モンスターは人を襲うものというのがオラリオに来て浅い総司以外にとっては“常識“なのだから。

 

「・・・・事情がどうであれ、人に仇なすなら・・・・粛清対象ですね」

 

この一件、ヘスティア・ファミリアが・・・ベル・クラネルが関わっている事を総司は予想だにもしなかった。

 

 

 

ゴォン ゴォン ゴォン ゴォン

 

 

 

総司の不意をつくようにギルドの警鐘がオラリオ中に鳴り響く。

 

『緊急警報! 緊急警報! オラリオに所属する全ファミリアはギルドに従って下さい! ギルドは強制任務を発令します!』

 

それを聞いた総司は一段階緊張度を上げる。このギルドからの強制任務は従わなければならない。そういう決まりなのだ。

 

『18階層が“武装したモンスター“によって壊滅! 同時にモンスターの大移動を確認! 至急、ギルドは討伐隊の冒険者を編成ーーーえっ? そんな、本気ですか!? り、了解しました!』

 

放送担当が狼狽えている。ギルドでも方針が定まっておらず混乱しているようだ。既にバベルへ向かって駆け出していた総司は急停止する。

 

『これよりダンジョンは封鎖します! 冒険者及び市民はダンジョンへの侵入禁止! 各ファミリアはギルドの指示があるまで拠点で待機して下さい!』

 

ギルドは何故か待機命令を出す。リヴィラが壊滅し手遅れだとしても武装したモンスターを討伐しなければ、今度は同じように地上へ侵出してくる可能性もある。早期討伐が理想、総司はそんな事を思いながら大人しくロキ・ファミリアの本拠へ帰って行く。

 

(従う義務が此方にあるなら・・・・仕方ないですね)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

18階層から逃げ帰った冒険者は重傷、そして上級冒険者でも歯が立たない状況にオラリオは混乱と恐怖に包まれた。この未曾有の事態にギルドは『ガネーシャ・ファミリア』を討伐隊として18階層へ向かわせた。

 

「オレ達が行った方が早ぇだろ! 何で待機命令なんだ!」

 

「ベート、うるさーい!」

 

苛つくベートを諌めるティオナだが内心はベートと同意見だ。実力的にはガネーシャ・ファミリアよりロキ・ファミリアの方が上。それにも拘わらず前者を選んだという事は『何か』がある。

 

「武装したモンスターねぇ。冒険者の武器を持っているモンスターはギルドの掲示板見た事あるけど・・・」

 

「上級冒険者でも敵わないとあれば・・・強化種の可能性もあるな。それも集団規模の・・・」

 

「どうにもキナ臭くなって来たのぉ。何かを隠蔽したいように感じられるわい」

 

他の団員が考察している中、総司は黙って窓からバベルの方を見つめる。

 

「ベルさん・・・」

 

「アルゴノゥト君がどうしたの?」

 

無意識に呟く声をティオナが聞いていたようだ。

 

「え? あぁ、何となく気になったもので」

 

「アルゴノゥト君が武装したモンスターと関わってるって事? まっさかぁ!」

 

「あはは、ですよねぇ〜」

 

「そうだよー、えへへー」

 

「全くこのバカ共・・・」

 

有り得ない妄想で呑気に笑い合う二人見て呆れるティオネと苦笑いを浮かべるレフィーヤとラウル。本人達は早々に斬り捨てた意見、しかし総司の勘は恐怖するほど当たっていた。同時刻、別室にて少ない情報でこの状況をほぼ完璧に推理してみせたフィンでさえ、ベル・クラネルの存在は予想だにもしない事なのだから。

 

 

 

「総員、準備しろ! ダイダロス通りへ向かう!」

 

 

 

考えをまとめて来たフィンは皆が待機している部屋へ入室すると同時に命令を下した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ロキ・ファミリアは“住民の警備“という名目ダイダロス通りへやって来た。ダンジョンへの侵入はギルドが禁じており、無理矢理侵入しようにもイシュタル・ファミリアを壊滅させたペナルティでフレイヤ・ファミリアがバベル周辺を警備している為、侵入はほぼ不可能に近い。

 

「とは言え、なんか騙してるみたいで気が引けるなー」

 

「フィンの二枚舌は今に始まったことじゃねぇだろ」

 

住民の警備というのはあくまでもカモフラージュ。本当の目的は闇派閥(イヴィルス)への牽制だ。地の利が向こうにある以上、隠れてもすぐに補足される。なら最初から姿を現し闇派閥(イヴィルス)を威圧した方が意識を向かざるを得なくなる状況が作れるわけだ。そして闇派閥(イヴィルス)が警戒するならクノッソス内部に人員を避けなくなる“というのがフィンの考え。

 

 

つまりはーーー

 

 

「フィンさんはとことん賊共を困らせたいみたいですねぇ」

 

「えぇ、我が団長ながら恐ろしい・・・味方で良かったです」

 

フィンの目的を察した総司は楽しそうに語る。その隣でフィンの周到さに戦慄するレフィーヤが冷や汗をかいていると、ふと先日の事を思い出す。

 

(やっぱりいつもの総司君だ・・・)

 

リーネが死んでも悲しむどころか賞賛する総司を見て殆どの者は不信感を覚えただろう。しかしこの時少なくともレフィーヤは“不信感ではなく共感“をする事ができていた。

 

レフィーヤは以前、24階層で食人花の生産工場《食料庫》をベートやフィルヴィス、ヘルメス・ファミリアの団員共に探索クエストを行った結果、案の定食人花やレヴィスと対峙する事となり多くのヘルメス・ファミリアの団員が犠牲になった。その時、戦況打破の決め手となる魔法の詠唱を身を呈して庇ってくれた者が何人もいた。

 

レフィーヤは涙ながらに理解した。

 

これがーーー

 

 

“託される“

 

 

ーーーという事なのだと。

 

(総司君はきっと・・・私の想像よりも多くの思いを・・・)

 

自身が24階層で経験した死よりも遥かに多くの死。レフィーヤもこれを受け入れるまで時間を要し、ロキ・ファミリアの仲間やフィルヴィスのお掛けで前を向いて走れている。

 

(私の方が先輩なのに、何だか遠いなぁ・・・・)

 

少し落ち込むレフィーヤは自分で自分の頬を両手で叩き叱咤する。

 

(私が先輩なら、後輩を守らなきゃ!)

 

それを見た総司は何が何だか分からず困惑している。

 

「レ、レフィーヤさん?」

 

「総司君! 困った事があったら何でも言って下さい! 私、先輩なので!!」

 

グイグイ迫るレフィーヤに総司は今まさに困っていると言いたげな表情する。

 

 

 

「アアァァァァーーー!!!」

 

 

そんなやり取りをしていたら突然地上では聞くことは無いであろう轟音が鼓膜を刺激する。

 

「ッ!!」

 

「な、何ですか!? って、総司君!!?」

 

咆哮がなり止むと同時に駆け出す総司。他の幹部達は既に音源の方へ向かっている。

 

先にいるモンスター、今聞こえた音の正体は有翼種のモンスターだ。その姿を視認した総司は完全に臨戦態勢を取る。荒れ狂うモンスターを見て総司は一瞬にして理解してしまった。

 

(斬る・・・・)

 

あのモンスターは危険だと言うことを・・・・

 

総司が向かう中、ロキ・ファミリアの幹部達は全員現場へ到着したようだ。暫くの静寂の後、再び轟音。フィン達と有翼種のモンスターが戦闘を始めたのだろうと予想する。総司が到着する頃には事態は収拾しているだろうと思いつつも何故か臨戦態勢が解除されない。

 

(この胸騒ぎ・・・・)

 

謎の悪寒に一刻も早く現場に向かおうと速度を上げ十字路を曲がると、そこには有翼種のモンスターが此方に向かって来るのが見えた。

 

(対象のモンスター・・・!? では、この戦闘音は・・・・ッ、まずい!)

 

有翼種のモンスター改め竜女(ヴィーヴル)の進行先に子どもが腰を抜かしている。周りの一般人が助ける様子は無い。正確に言えば助けたいが竜女(ヴィーヴル)に怯えて動けないようだ。

 

「お、お母ーーー」

 

「ご安心を。僕が間に合いました」

 

総司のスピードならギリギリ間に合った。しかし子どもを回収して回避する余裕は無いので、子どもの前に立ち居合い斬りの構えを取る。

 

失敗は許されない。そんな集中状態の総司は【鬼子】と武士ノ道を発動させた。竜女(ヴィーヴル)を縦に一刀両断し、その間を二人で通り抜ける作戦だ。

 

一秒にも満たない時間で運命の時は来る。総司は竜女(ヴィーヴル)の動きに合わせて菊一文字を抜く。竜女(ヴィーヴル)に刃が届く直前、確かに聞こえた耳に馴染む声。

 

「ファイアボルト!!!」

 

竜女(ヴィーヴル)の背後から放たれた火球に総司は目を見開く。しかし反射に近い速度で攻撃を止めて子どもを庇うように覆い被さると、火球が総司に着弾しその衝撃で子どもごと壁まで吹き飛ばされてしまう。

 

「ベル、さん・・・・?」

 

吹き飛ばされる最中、通り過ぎる竜女(ヴィーヴル)・・・・そしてあの姿は紛れもなく“ベル・クラネル“のものだった。

 

「同じ冒険者を攻撃するなんて・・・何考えてんだ、リトル・ルーキー!」

 

「あんな奴だったのか!」

 

今の行動を見ていた住民は口々にベルを非難する。

そんな声を聞きながら総司は意識を失う。

 

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