ベル・クラネルの奇行によって評価が地に落ちて数日が経った。ヘスティア・ファミリアの本拠はエルフィやレフィーヤ達によって監視されていた。しかし我慢できず特攻したレフィーヤは監視役から外された。
そんな中、フィンは武装したモンスターがギルドを統括する神ウラノスやガネーシャ・ファミリア、ヘルメス・ファミリア、そしてベルが囲っているとダイダロス通りに現れたベルとヘルメスの発言で確信した。
故にフィンは頭を抱えた。
“武装したモンスターは知的生命体“である事。
先日の事件、ロキ・ファミリアは武装したモンスターと戦った。だから
そして言葉を話せるかは分からないが人間と同じく互いを守りあって戦う事のできる。馬鹿げたイレギュラーだ。
こんな事は誰にも話せない。特にモンスターに対して強い憎しみを持っているアイズ。アイズだけでなくロキ・ファミリアの中には身内をモンスターに殺された者も少なくない。
人とモンスターは殺し合うものというのが常識。それを話し合いができる存在がいると知った時、人々の敵意は迷い剣が鈍る。そして優しい者から命を落とすだろう。
最大派閥の団長として【
「武装したモンスターは必ずこのダイダロス通りに現れる。住民の避難誘導はギルドに任せる。目的は武装したモンスターが持つ“鍵“だ。これを必ず手に入れるぞ!」
ダイダロス通りの仮拠点にてフィンは命令を下す。
クノッソスの鍵を持っているであろうイケロス・ファミリアはベルが愚者となった日に壊滅。団長であるディックスは何者かに殺害され、主神のイケロスはオラリオを追放された。その際、鍵は武装したモンスター達が奪取したと過程し狙いを絞った。
もし
とにかくクノッソスを攻略するには鍵が必要なので是が非でも入手するという意気込みがフィンから滲み出ている。
不測の事態にも関わらず、的確な指揮を発揮するフィンにロキ・ファミリアの団員は誰もが尊敬の眼差しを向ける。そして団長ならば進むべき道を見失ったりしないと確信した。
「フィン、少し休め」
リヴェリアは気づいていた。フィンの精神状態に乱れがある事を。
「・・・・」
「私の前でまで虚勢を張るな。少なくとも4日間は寝てないだろう? それとも強制的に床につきたいか?」
「・・・・分かったよ。一段落したら仮眠を取ろう」
フィンの精神が不安定なら必然的に指揮に粗が出る。それは全体に伝染し致命傷に成りうる。それを理解しているフィンも大人しくリヴェリアに従う。
「あぁ、それでいい。後でガレスにでも子守歌を歌って貰おうか」
「寝かせる気ないよね?」
内心でフィンはリヴェリアに気を遣わせてしまったと責める。そんな時気掛かりに思っていた事をふと脳裏に浮かべる。
「総司の様子はどうだい?」
「あいつなら、相変わらずだ・・・・」
「そうか・・・・」
その後は録に食事も取らずにオラリオを見渡せる程の高さの屋根に座っている。その眼は鋭く赤い光を帯びており、とても話し掛けられる雰囲気ではないとアリシアから報告があった。
(胸騒ぎがする・・・総司、君は何を考えている?)
嘗てパーティメンバーであるベルが敵に成りうる。それによって総司自身も動揺しているのだろう。だから少しの間、考える時間を与えるつもりでフィンは放置していたが・・・・
『唯の人斬りですよ』
以前聞いた言葉。あくまでもフィンの想像に過ぎないのだが、あの時見た総司と現在の総司は同じ眼をしているだろう。そんな事を思いながら仕事に戻ろうとする。
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仮眠から目が覚めたフィンの部屋にはガレスとリヴェリアがいた。二人は目が覚めたフィンに気づくと、丁度一時間で起きた事に呆れる。
「武装したモンスターと裏取引する・・・と見せかけて問答無用に鍵を奪う事ができれば楽なんじゃながな。ふははは!」
「ガレス、貴様見損なったぞ! いくらモンスターとは言え騙し討ちするなど、恥を知れ!」
「じ、冗談じゃよ!」
ガレスの冗談にリヴェリアは軽蔑の眼差しを向ける。そんな二人を苦笑いで見ていたフィンは口を開く。
「取引しようにもウラノスの仲介は必須。その時点でガレスの提案は不可能だよ」
神には嘘は通じない。なので騙し討ちは成立しない。つまりロキ・ファミリアと武装したモンスターとの衝突は避けられない。
今回表立って行動してくるのは武装したモンスター、ヘルメス・ファミリア、そしてヘスティア・ファミリアだろう。
「さて、そろそろ作戦会議を開こう。集合をかけてくれ」
仮拠点でも広いスペースに団員を集めてフィン、ガレス、リヴェリアは少し高めのステージの上に立っている。作戦会議が始まると皆気を引き締めた顔だ。しかしその中に総司はいない。尤もヘスティア・ファミリアを監視している団員もいるので手の空いている者しか集まっていないのだが、主力メンバーは全員集合している。
「現在ベル・クラネルはクノッソスの扉から遠ざかるように移動している。しかし気にしなくて良い、これは我々の注意を引くための陽動だ。僕達の隙をついて扉に逃げ込むつもりだろう」
「フィン、兎野郎は化物共と繋がってんのか!?」
フィンの説明中にベートは明らかに不機嫌そうな態度で凄む。
「少なくとも彼は利用される立場にある。自分の意思か、騙されているかはともかくね」
その言葉に舌打ちをして黙るベート。そしてレフィーヤの機嫌もどんどん悪くなる事でラウルは冷や汗をかいていた。
「何にせよ、今回ベル・クラネルは味方になり得ない。そう認識してくれ」
「団長、いっその事捕まえておくのはどうでしょう?」
「んー、いくらベル・クラネルが悪人扱いされているとはいえ、確たる証拠も無しにそんな事をすれば・・・今度は僕達が責められかねない」
ロキ・ファミリアはギルドに目を付けられている上に、ヘスティア・ファミリアと懇意にしているヘファイストスの怒りを買いかねない。これからも遠征や
「そして一番注意する点は・・・・あの“黒いミノタウロス“だ」
黒いミノタウロスとは先日の事件で武装したモンスターと共に現れたミノタウロス。第一級冒険者を凌駕する戦闘能力を持ち、主力メンバーで戦ってもその上で倒し切れなかった。
「あれでまだ発展途上なのだから、末恐ろしい・・・・」
「“末恐ろしい“という点ではウチにもいるがのぅ」
ガレスの一言で全員が総司を連想する。Lv.2にしてクノッソスで一度は孤立したにも関わらず生き残り、ベートと共闘したとはいえヴァレッタを討伐している。ロキ・ファミリア的にはベルの功績にも引けを取らないだろうと思っている。
「でも、此処に彼がいなくて良かったかもしれない」
「総司はベル・クラネルとは親しい仲だからな。彼と対峙するような事があれば刃が鈍るだろう」
リヴェリアの言葉に満場一致で同意する。
「その心配には及びませんよ」
扉を開けて入室して来たのは総司だった。そしてベートも今気づいた様子を見せているので作戦の内容までは聞いてなさそうだ。
「総司・・・これからの作戦の事だが・・・」
予想外の出来事にフィンは珍しく取り乱し気味に話しを進めるが、いつもと違う雰囲気を漂わせる総司にどことなく嫌な予感がした。
「フィンさん・・・」
高い所にいるフィンには総司の目が前髪で見えない。しかしどんな目をしているのか、容易に想像できてしまう。
「なんだい・・・?」
「話すべき事が沢山ありますが・・・・まずは結論を言います」
この時、初めてフィンは総司と目が合った。予想通り・・・否、予想以上の冷たい眼差しに親指が疼くのを感じる。後にも先にもこれほど冷たい目をした総司は見られないだろうと悟る。
それはこの場の全員が同じ意見で、後に皆が“生涯忘れる事のできぬほどの冷眼“だったと語るのであった。
「ーーーーベル・クラネルは僕が斬りますから」