「さようなら、ベル・クラネル・・・・」
菊一文字が振り下ろされる瞬間、路地裏から小さな影が総司に攻撃を加えて来た。
「ッ!」
咄嗟に後退し何者かの攻撃を回避する。
「ベルをいじめないで!」
目の前に現れた少女の様な姿をした竜女が両腕を拡げてベルを庇う。
「・・・・あの時の竜女は討伐されたと報告があったはず」
目の前にいる竜女が先日、街で暴れたモンスターと同一の個体と判断する。そしてこの竜女とベルの出会いが全ての始まりなのだ。
「ウィーネ・・・・今すぐ逃げて!」
「嫌! ウィーネ、この人からベルを守る!」
オラリオには“怪物趣味“という言葉が存在する。簡単に言うと冒険者がモンスターに対して欲情することなのだが、まさかベルが・・・いや、それは無いと総司は脳内で推理する。
「お人好しも大概にして下さいよ。それにーーーー」
ウィーネが爪を伸ばし羽を大きく開き総司を威嚇する。しかしそんなウィーネを無視して正面から斬り掛かる。
「ーーーー弱者ぶるな、化物が」
子どもの様な容姿をしている、戦闘能力もこの姿なら問題無く倒せるだろう。そんな少女にも総司は容赦なく菊一文字を振るう。
「くっ!」
間一髪ベルがウィーネの前に入りヘスティア・ナイフで斬撃を止める。そしてウィーネは長い爪を利用して総司へ攻撃を仕掛けるが容易く回避されてしまう。
再びウィーネはベルの前に立ち総司を睨みつける。
「・・・前提として住民がモンスターを受け入れる事はありませんよ」
「そんなの分かってる。でも、ベルやヴェルフ、命、リリに春姫、ヘスティアはウィーネ達を受け入れてくれた!」
ウィーネの主張を聞いた総司はある事に気づく。
「やはり武装したモンスターと糸を引いているのはヘスティア・ファミリア全体でしたか・・・・」
その発言にベルとウィーネは大きく反応する。想像してしまったのだ、ヘスティア達が総司に惨殺される姿を。
「だめ! 皆を殺さないで!!」
「・・・・自身の危険性を欺き周囲に齎す影響を考えず、自分の欲を通そうとする。あぁ・・・・唯の賊ですね」
ウィーネ達とこれまで葬って来た犯罪者の姿が完全に一致した。
「待って、総司! 僕は
「は?」
ベルの主張に総司は思わず虫唾が走る。
「ーーーー誰が自分の大切な人を殺した怪物と手を取り合うんです?」
別に総司はモンスターに奪われた人はいない。しかしそういう問題では無いのだ。この世界にはモンスターの被害にあった者は幾らでもいるのだから。
受け入れる者など極めて少数だろう。それはベルやウィーネが一番良く分かっている筈だ。
「待って、総司。この娘は、
「可笑しいですね。先日ベルさんの横にいる“ソレ“は住民に危害を加えようとした。他の有象無象と何が違うんです?」
「それは、イケロス・ファミリアに暴走させられたんだ! だからーーー」
「仕方がなかった。それで死亡した者、その遺族や仲間達は納得するとでも?」
納得なんてするわけが無い。殺した側のモンスターがのうのうと生きているだけで争いの元となる。逆も然り、だからこの二つの陣営は相容れない。
「僕ら冒険者だってモンスターの命を奪う!」
「だから、前提が違うと言いましたよね? 人類とモンスターは殺し合う、何千年も前からそういう関係なんでしょう? 僕達は」
「っ・・・!」
確かにその通りだ。幾らベルでもそれは理解できる。つい最近まで強くなる為、生きていく為にモンスターを狩り続けて来たのだから。
「もう喋らなくていいですよ。どうせ今夜中には異分子を全て粛清するんですから・・・・」
会話を切り上げ再び総司はベルとウィーネに斬り掛かる。
「なんで・・・・ちくしょう!!!」
理解されない憤りをナイフに込めて総司へと駆け出す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ダイダロス通りの各所にヘスティア・ファミリアが
「むむむ〜、なんで総司君がベル君と殺し合ってるんだぁ!?」
2人の戦闘にヘスティアは頭を抱えている。元仲間でも総司は容赦しない事をヘスティアは知らなかった。ベルが総司にした事を思えば喧嘩はすると思っていたが、まさかここまで過激だとは思ってなかった。総司への認識の甘さを思い知る。
ダイダロス通りの外れでヘスティアがマジックアイテムで通話しながら報連相を行っている。そんな時ヘスティア・ファミリアにとって想定外の出来事が総司の襲撃だ。
『総吉・・・・くっ、ふざけろ!』
『やはり総司殿には予め状況説明して此方に協力を要請した方が良かったのでは?』
行動を共にしていたヴェルフと命が状況を聞いて通話に参加する。
『いえ、おそらく総司様の協力は望めません。寧ろ最初に遭遇したのがベル様で幸運だったと言うべきでしょう。ベル様以外、総司様に勝てる見込みのある団員はいないのですから・・・・』
リリはヘスティア・ファミリアで唯一総司が敵になると睨んでいた、だから総司への接触を禁止させていた。以前ベル達を裏切り、その際自身に殺気を向けられた経験で理解した。
今回、総司とは完全に敵対することを。
『総司様、以前お会いした時はあんなに可愛らしかったのに・・・・』
『見た目に騙されちゃイイ雄は捕まえられないって教えたろ? それにしてもこれほど凶悪だとは・・・・この前は叶わなかったが、今度は是非一晩共にしたいねぇ』
『こんっ!?』
春姫が無邪気だった頃の総司を思い浮かべている横で元イシュタル・ファミリアのアイシャが総司の貞操を狙っている発言をすると、聞いていた春姫は大幅に取り乱す。
『そんな呑気なコントやってる暇ないんですよ! この色情魔どもっ!!』
『わ、わわわ私もですかぁ!?』
アイシャと一括りにされたことに納得いかない春姫を無視してヘスティアは話しを続ける。
「とにかくベル君やウィーネ君が心配だ。サポーター君、この時の為の助っ人は大丈夫なんだろうね!?」
『問題ありません。この状況に最適な人物を選びました!』
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鳴り止まない斬撃の音。総司とベル、ウィーネの戦いはまだ続いていた。1人では総司に適わなくても2人なら互角に戦えている。互いに守りながら戦うことによって総司も致命傷を与えるには至っていない。
「ーーーそれ、悪手ですよ」
しかしそんな戦況を黙って見過ごし続けるほど総司は甘くも弱くもない。慣れない連携の隙、ベルとウィーネの攻撃の狭間を縫って菊一文字の刃がベルの腹部を切り裂く。
「ーーーッ!!」
「ベルーーー!!!」
噴き出した血液を見たウィーネはベルに駆け寄り身体を支える。
「まずは1人・・・」
与えた傷は深い、ベルが腕で腹部を抑えてなければ傷口から臓物が溢れ落ちるほどだ。エリクサーなら兎も角、ポーションでも回復しきれないだろう。
「次はーーー」
ウィーネに向けて斬り掛かろうと構えると、暖かい光が全員を包み込む。
「ーーー私の前で人殺しなんてさせませんよ」
聞き覚えのある声が耳に入ったと思ったら、ベルの傷を瞬く間に治して行く。そしてその光を総司は知っている。
「何のつもりですか? アミッドさん・・・・」
オラリオ最高位の治癒術師、アミッド・テアサナーレの治癒魔法である。