「何のつもりですか? アミッドさん・・・・」
光の正体はアミッドの治癒魔法だ。
「貴方がベル・クラネルの味方をするのなら・・・貴方も粛清しなければならない」
刀を強く握り屋根の上にいるアミッドを見上げながら殺気をばら撒く。
「それは早計ですよ、総司さん。私はあくまで治療をしに来ただけです」
そんな総司の殺気をものともせず口を開く。確かに魔法の対象はベルだけでなく総司やウィーネも入っているようだった。
「武装したモンスター、ヘスティア・ファミリアの暗躍・・・・正直今はどうでもいい」
違反者であるベルを総司が粛清しようとしていることはリリからあるていど聞いているから知っている。そして途中遭遇したロキ・ファミリアの団員にこの件が終わり次第、総司がしようとしている事も聞いている。
それで自身が成すべき事がはっきりした。
「総司さん、貴方は貴方の矜恃を通そうとしているように、私は私の信念を貫こうとしているだけですよ」
賊を全て討伐し、切腹する事が総司の目的で誰が何を言おうと息の根を止めない限り総司は止まらない。ならこの戦いを終わらせなければ良い。
「どんな理由があろうと、全ての傷は私が殺します」
それでどう転ぶか、何の意味があるのかは誰も分からない。もしかしたら何の意味もないのかもしれない。
だがーーー
「だから・・・・好きなだけ殺し合って下さい。その度に私が治しますから」
ーーー総司に死んで欲しくない、それだけは確かだ。
「僕の矜恃、ベルさんの願望・・・そしてアミッドさんの信念・・・良いですねぇ」
邪悪な笑みと共に総司はベルに赤い視線を向ける。
「いい加減覚悟を決めてくださいよ。この場で置いて行かれてるのは、貴方なんですよ」
鬼子を発動させた総司に感化されたのかベルの瞳にいつもの希望が宿る。漸く尻に火が着いたようだ。
「ウィーネ、下がってて」
ヘスティアナイフを片手にウィーネの前に出る。
「ベル・・・負けないでっ!」
臨戦態勢を解いたウィーネは後ろに下がりこの戦いを見届ける覚悟を決めたようだ。
「もう言葉は不要ですね・・・・全ては血風の中で語り合いましょう」
駆け出すベル、構える総司、詠唱を始めるアミッド、それぞれ違う目的を目指し違う志しを持っている。しかし別の道を駆けているにも関わらず言葉には外野の者ではどうやっても言い表せない“覚悟“だけが3人の中にあった。
だがそれだけで戦力差が塞がる訳では無い。戦況は依然変わらず圧倒的に総司が押している。ベルは防戦一方で致命傷を避けるのが精一杯といった様子だ。
しかし何度斬られようが一定の感覚でアミッドが癒し続けている為、そうそう死には繋がらない。問題はベルの精神状態だ。
傷は無くなるが痛みが無くなる訳ではない、どれだけ強靭な精神を持っていようが何度も激痛に晒されれば何れ芯は叩きおられる。
血飛沫が舞う、腕、足、胴を刃の痛みが襲おうと片目が見えなくなろうとベルは諦めない。
異端児達が外の世界で仲良く平和に過ごせる場所を作りたい、そんな子どもの我儘のような願望がここまで人を強くするのか。
そんな様子を見た総司は一層嬉しそうに菊一文字を振るう。傷が治るとは言え、ここまで痛みを乗り越えて戦える者は前の世界でもそう居ない。いつの間にかベルに対する総司の心情は“殺意“から“賞賛“に変化しつつあった。
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戦いの場から少し離れた場所でアイズは屋根の上から総司とベルの戦いを眺めていた。アイズの志願によりベルの監視を買って出たから此処にいるのだが、その表情は酷く困惑していた。
(なんで・・・・?)
困惑の理由は戦いの質だ。先程まで総司が押していたし論争も総司の方が圧倒的に有利だった。アイズ自身も総司の意見を全肯定できるくらいだ。しかしアミッドが介入してから明らかに空気が変わった。
(凄い戦い、でも・・・・)
ーーーー気持ち悪い。
ベルの願望も総司の矜恃もアミッドの信念も全てに嫌悪感を覚える。吐き気を催す程の拒絶反応に冷や汗が止まらない。
(モンスターは殺すべき・・・・)
「おい、アイズ」
背後からベートの声が聞こえた。しかしそんな事に意識を割くほどの余裕はアイズには無かった。
「ひでぇ顔色だぞ。此処はオレがーーー「気持ち悪い・・・」・・・っ!?」
アイズの言葉にベートは過剰に反応するが、その標的はもちろんベートに対してでは無い。
「なんで、モンスターを殺すだけなのに、モンスターを殺せば全部終わるのに・・・・」
モンスターに強い憎悪を抱いているアイズにとってこの状況は正に
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「総司・・・君に勝つッ!!!」
ベルがヘスティア・ナイフを構えと同時に右腕に光の粒子が集まりだした。
鐘の音と共にベルの迫力が増している。それを見た総司は静かに菊一文字の刃を外側に向くように水平に構える。
「面白い・・・!」
神速の三段突きの構えを取る中、総司の身体に光の粒子が集まり軈て全身に纏うオーラとなった。
武士ノ道
ここに来て初めて武士ノ道が発動した事により総司のレベルは一段階上昇し剣圧が何倍にも増す。しかしベルは臆さない。異端児の為に、ウィーネの為に、リリ、ヴェルフ、命、春姫、そして・・・ヘスティアの為に、負ける訳には行かない。
(総司の三段突き・・・・)
ベルとの模擬戦で三段突きを見たことがある。だが一度としてその技を破った事は無い。
(それがどうした! 何回、何十回あの技を見たと思ってる! 恐れるな、集中しろ、目を閉じるな! 今日突破してみせろ!)
極限まで集中したベルには、もはや総司以外の情報を遮断していた。
(これを乗り越えないで英雄になれると思うな!!!)
両者全速で距離を詰める。互いに間合いに入ると総司の踏み込みから繰り出される一撃目、そして二撃、三撃目が刹那の間に放たれる。
「うおぉぉぉぉ!!!!」
ベルの雄叫びと共にヘスティア・ナイフで三段突きを逸らし体に刺さりながらも急所は避けた。技の隙を縫ってベルは再び叫ぶ。
最大チャージ・・・・
「ファイアボルトォォォォ!!!!」
ゼロ距離からの全力ファイアボルトが総司に着弾する。勢い良くぶっ飛ばされ空き家の壁に激突し、砂埃が舞う。
「この勝負、ベル・クラネルの勝利ですね」
決着がついたと判断したアミッドは魔法で2人の傷を癒す。
英雄の願望と侍の矜恃ーーー勝利したのは英雄だった。
「ハァ、ハァ・・・・そ、総司」
肩で息をしながら明らかに疲弊したベルが千鳥足気味に総司に歩み寄る。そんな時、ウィーネが横からベルに勢いよく抱き着いて来た。
「ベルぅぅぅぅ!!!」
「ウ、ウィーネ!? うわぁ!」
フラついた足では受け止めきれなかったベルは尻もちを着いてしまったが、嬉しそうなウィーネを見て笑顔で頭を撫でる。
「参りました。僕の負けです・・・貴方の覚悟、見事でしたよ・・・ベルさん」
壁に背を預けて総司は薄く笑みを零す。敗北した事を認めたので立ち上がる素振りすら見せない。
「総司・・・ごめん。僕ーーー」
「謝罪なんて要りませんよ。それより、僕にとどめを刺さなくて良いんですか?」
「そんな事、すると思う?」
「愚問でしたね・・・やはり貴方は甘い」
「でも、僕が勝った・・・」
「えぇ、僕にはもう・・・ベルさんを止める事はできません」
数秒の静寂が流れる。
「行きなさい。貴方を狙っているのは僕だけじゃない・・・」
「必ず、後で全部説明するから!」
そう言い残してベルはウィーネの手を引いて走り去って行った。
「“後“なんて、僕にはありませんけどね・・・」
そう呟きながら薄い笑みを浮かべているとアミッドが総司の下に近づいてくる。
「少し意外でしたよ。まさか見逃すとは思ってませんでしたから・・・」
そう言いながらアミッドは総司に肩を貸して身体を支える。
「手加減でもしたつもりですか?」
「手加減なんてしてませんよ・・・ただあの時、あの一瞬だけは僕の矜恃を彼の願望が上回っただけの事・・・・」
それを聞いたアミッドはもう何も言うことはないと総司と共に静かに歩き出す。何をするつもりなのかは知っているのでアミッドは再び覚悟を決めて歩幅を合わせる。
これから総司がすべき事、それには介錯人が必要なのだ。