オラリオに剣客がいるのは間違っているだろうか   作:銀の巨人

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《鬼子》沖田総司

オラリオ中に響き渡る程の轟音にそれ以上の熱を持った歓声に文字通り地面が震える。そんな熱を感じ取った総司はそっと笑みを零す。この轟音の正体、それはベル・クラネルと黒いミノタウロスによる歴史的戦闘である。

 

「熱いですね・・・」

 

「えぇ、本当に・・・」

 

そんな状況を察したアミッドは総司の身体を支えながら口を開く。そんな2人の前に現れたのはロキ・ファミリア団長、フィン・ディナムであった。

 

「・・・・・」

 

何も話さないフィンに総司はアミッドの腕を振り払い、地面に崩れ落ちるように目の前で両膝を着く。

 

「総司・・・あの時の言葉、覚えているね?」

 

左手に持った槍を総司へ向けて放った言葉は酷く冷たい感情が宿っているようだった。

 

「はい、この刃を取った時から既に・・・」

 

生前、新撰組になった時点でそんな覚悟とうにできている。

脳裏に仲間の姿を思い浮かべながら総司は菊一文字と鬼小町時行を地面起き、懐に忍ばせておいた懐刀の刃先を自身の腹部へ向ける。

 

 

ーーー武士の『武』とは何か分かるか?

 

 

「近藤さん・・・僕は、約束を守れたでしょうか?」

 

 

総司は薄く笑みを浮かべているが、少し悲しげな雰囲気を漂わせている。しかし生前に比べたらよっぽど武士らしい死に方をした。そう思いながら総司は懐刀を腹部へ引き寄せる。

 

「・・・・フィンさん、これは何の真似ですか?」

 

刃が腹部に到達する直前、フィンは総司の手を掴んで動きを停止させられていた。

 

「いろいろ小細工を考えたが、やっぱりこれしか思い浮かばなかったんだ」

 

要領を得ないフィンの回答に総司は不可解な目を向ける。

 

「総司、君はこんなところで散るには惜しい。だから今度は“掟“じゃなく・・・・僕の為に生きてくれないか?」

 

「それは・・・今までの生き方を捨てろと、そう言いたいんですか?」

 

「そうだ、なんて無責任な事を言うつもりはないけれど・・・・ダメだ、どんな言葉で取り繕おうと君を納得させるビジョンが見えない・・・・」

 

総司の手を離して後頭部を掻きながら不純物を全て除去するように息を吐き出す。

 

 

「ーーーー総司、僕は君に“そんな顔“で死んで欲しくない」

 

 

「仲間の死をそんな風に考えるなんて初めてだよ。これも君と出会ってから芽生えた感情なのかもね・・・」

 

仲間が散るに相応しい様なんてどうでもいい、とにかく死なないで欲しいと思っていたフィンだった。しかし総司と出会って、その価値観に触れ辿り着いた境地なのだろう。

 

「君には・・・“本当の意味“で笑って散って欲しいんだ」

 

 

ーーー武士の『武』とは己が信念に命を懸け、最期は笑って散ることができる。

 

 

嘗て総司が勇から教わった事、何も知らない筈のフィンも同じ事を言っている。総司の目にはフィンと勇の姿が重なって見えた。

 

「で、でも・・・ロキ様にはもう辞める許可を・・・・」

 

「ーーーあぁ、アレ嘘やで」

 

「ロキ様!?」

 

物陰からロキが現れた。実は最初から居たのだがそれに気づいていたのはフィンだけ、アミッドとこの精神状態の総司では感知する事が出来なかった。

それよりもロキ・ファミリアを辞める前にロキの所に顔を出したのだが、その時は確かにロキは辞める許可を出した。

 

「う、嘘・・・?」

 

「ごめんなぁ、総司きゅん。ウチ、詐欺神やから」

 

神は人の嘘を見抜けるが人は神の嘘を見抜く事は出来ない。

 

悪びれもしない良い笑顔でロキは笑い飛ばす。それを見た総司に口惜しさは無くただ呆気に取られていた。

 

「・・・フィンさんは僕を脱退させると言いましたよね?」

 

「確かに僕は《人斬り》沖田総司を脱退させると言ったね・・・」

 

「だったらーーー」

 

総司の言葉を遮り、フィンは左手に持った槍で自身の右腕を切断する。突然フィンの右腕が宙を舞ったので、総司はそれを眺める事しか出来なかった。

 

「ーーーはっ?」

 

この場にいる総司、アミッドは突然の出来事に思考が止まる。ロキですら目を見開いて驚愕しているくらいだ。

 

「ッ・・・・くッ・・・・!」

 

「フィンさんっ!」

 

「今治療をっ!」

 

「いい・・・! この痛みは、総司が受ける筈だった痛みのほんの一部だ。放っておいてくれ・・・!」

 

左手と口を器用に使って傷口を縛り応急処置を施す。

 

「部下の不始末は大将が責任を取るもの・・・・だったね?」

 

それは嘗て18階層にてタケミカヅチ・ファミリアの団長、桜花に言った事だった。

 

「幸い今回・・・・ベル・クラネルを殺害した訳では無い。それに非はあちらにある、それでも納得しないのなら・・・・こうするしかないだろう・・・・《人斬り》沖田総司はこの右腕と共に死んだ・・・・」

 

 

 

「改めて歓迎しよう・・・・《鬼子(おにご)》沖田総司。ロキ・ファミリアへようこそ!」

 

脂汗を顔に滲ませ尚笑顔で手を差し伸べるフィンに、総司は下を向きながら歯を食いしばる。

 

「・・・・僕は、新撰組としての生き方を捨てる事はできません。これからも賊は粛清対象です。それでも僕を誘いますか?」

 

「その時はまた僕が責任を取るさ。だから総司はその組織の誇りに仕方がって動いて良いんだ」

 

大将の務めを果たす覚悟を見せられては総司はもう断る事など出来なかった。そしてその覚悟に応えるように大将へ跪く。

 

 

「ーーーーこの先の未来、この命が・・・貴方の生涯が続く限り、僕はフィン・ディムナ殿の右腕となりてこの大恩に報います」

 

 

生前、勇が自分の為に頭を下げてくれたように総司も地面に額を擦り付ける。今まで見た事の無い総司の姿に一同驚きを隠せないが、それを醜態と思う者はいなかった。

 

「というわけで、ロキ。総司の二つ名はこれで頼むよ」

 

「全く、無茶するでホンマに・・・・任せとき、勇者様」

 

朝日と共にオラリオ中が歓声に包まれる。その中心から外れた場所で血の盟約が交わされた。見届け人はロキ・ファミリア《主神》ロキ、ディアンケヒト・ファミリア《団長》アミッド・テアサナーレ、この両名である。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

血の盟約を見届けた所でアミッドは何も言わず、ロキに一礼だけして静かに立ち去っていた。あの場において自分は不要だと判断したからだ。それを察したロキも笑顔でアミッドを見送ってくれた。

 

 

ーーー君に死んで欲しくない。

 

 

「先に言われてしまいましたね・・・・」

 

あの場で伝える事ができれば良かったのだがあんなやり取りを見せられては、自身の想いを伝える事は蛇足でしかなかった。

 

「やぁやぁ、アミッドちゃん。君のお掛けで総司君を止める事ができたよ」

 

目の前に現れたのはヘルメス・ファミリア《主神》ヘルメスと団長のアスフィだった。アスフィは無表情だったがヘルメスの方は上機嫌な様子を見せる。しかしそんなヘルメスを他所にアミッドは歩を進める。

 

「まさかリリちゃんの言う通り君が“こっち側“に付いてくれるなんてね、嬉しい誤算だったよ。これからも総司君のストッパーとしてーーー」

 

ペラペラと的外れなヘルメスの顔の横を何かが空を切る。その正体はアミッドが装備していたロッドの先端だった。予想外の出来事にヘルメスもアスフィも目を丸くしている。

 

「勘違いしないで下さい。私は私の意思でこの戦場に赴いたのです。そこに貴方達の思惑が偶然重なったに過ぎません」

 

ロッドを引っ込め固まっているヘルメス達の真横を通り過ぎる。

 

「それと、あまり暗躍者ぶるようなら・・・・次は当てますよ? 中立気取りの身勝手自己陶酔神(ヘルメス様)

 

そう吐き捨ててアミッドは帰って行く。取り残されたヘルメスは頬を伝う水滴を感じ取りながら固唾を飲み込む。

 

「や、やれやれ、怖いなぁ。可愛い顔が台無しだよ?」

 

「それ本人が居なくなってから言うならみっともないだけですよ」

 

いつもなら軽口を叩けたヘルメスだが、アミッドが発していた殺気は以前総司に向けられた剣圧を思わせるものだった。それを目の当たりにしたら背筋が凍るような感覚に陥り口が開かなかったのだ。

 

「一体誰に影響されたんだか・・・・」

 

『誠』を背負う剣士がヘルメスの脳裏に過ぎる。

 

「それに、なんか既視感あるんだよなぁ・・・あの呼ばれ方」

 




異端児編も無事終わり、ついでに二つ名も決定しました。二つ名に関して幾つか代案があったのですが、やはりこれがベストだと思いました。
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