「はい、ちゅーことでこの子が新人の沖田総司くんや! みんな拍手〜!」
明るいロキとは裏腹に集会にいるロキ・ファミリアの団員は誰も拍手する事も無くただ戸惑っていた。総司も気まずそうな様子で壇上に立っているだけだ。
事件終結直後、事後処理もまだまだ残っている頃、改めてロキ・ファミリアに入団した総司の紹介を他の団員へのサプライズとして行ったが、盛大に滑ったようだとロキは確信する。少しでも明るくしようとしたのが裏目に出たのか、空気が更に重くなる。
「まずは、みんな忙しい時に集まってくれてありがとう。ここからは僕が説明するよ」
姿を消していたフィンは部屋の扉から入出する。その声に反応した団員達は後ろを振り返り言葉を失った。
なんとフィンの右腕が消失しているのだ、誰しもが戦慄せざるを得ない。
予想通りの反応だと、壇上に上がる隻腕のフィンはロキには荷が重いと判断し説明役を交代した。
「だ、団長っ!? その腕どうしたんスか!?」
「あぁ、この右腕の事だが・・・・」
静寂を破りラウルがまず口を開いた。
「・・・・フィンさんの腕は僕のせいで失ったんです」
総司が口を開くと全体の緊張感が一段階上昇する。それと同時に群衆から一つの影が壇上ヘ飛び出した。
その正体は怒り狂ったティオネだ。ご存知の通りフィンにゾッコンしているので、その人の腕を奪った張本人がいたのならなりふり構わず殺しに来るだろう。
しかしティオネが振るった拳は総司の顔前でピタリと止めた。
「なんで止めたんですか?」
「てめぇ、私がこうすると分かってて避けなかったな?」
拳を放った瞬間、ティオネと総司の目が合った。そしてまるでその行動を見透かし全て受け入れる様な顔を見てティオネは停止した。
「全部話せ。ぶっ殺すのはその後だ」
隠そうともしない怒りと殺意を総司にぶつけながら壇上から降りる。
「ーーー僕がベル・クラネルを粛清しようとした責任、それをフィンさんが肩代わりしてくれたんです・・・・」
その一言で団員達はザワつく。
「それって、自分の罪を団長に擦り付けたって事か!?」
「切腹するって言ってたくせに・・・!」
「何が武士道だ!」
何も知らない彼らが怒号を飛ばすのは無理もない。慕っている団長が脱退した筈の総司の為に身体を張ったのだ。それを総司も分かっているからその罵倒も全て受け入れている。
「静かにせんかッ!!」
ガレスの怒声にみんな静まると更に続ける。
「まずは全て聞いてから罵声を飛ばす判断をしろ。それでもロキ・ファミリアか!」
ガレスの一喝で若い衆はフィンと総司に注目するが、総司を睨みつけている者が殆どだった。
「ーーー僕はさっき、切腹しようとした総司の刃を止めた。その時心から思ったんだ・・・総司に生きて欲しいとね」
フィンの補足により総司が本当に切腹しようとした事を思い知る。
「ロイド達がどんな顔で死んで行ったか・・・・皆も覚えているだろう。僕ね、あんな顔を見るのはもう御免なんだ・・・・だったらせめて笑って散って欲しい。負の感情なんかじゃなく心の底から“良き人生だった“と誇れるような・・・・立派な死を遂げたと生者に希望持たせれるような散り方をね」
フィンの言葉思い出すロイド達の死に顔は“恐怖“しかなかった。唯一安らかな顔をしていたリーネを覗いては。
「ーーーとにかく、これは仲間を死なせたくないという僕の我儘なんだ・・・・皆、許してくれ」
「ごめんなさい・・・!」
部下の為に頭を下げるフィン、一拍子遅れて頭を下げる総司を見た団員達はこれ以上責めるの気にならなかった。
「団長がそういうなら・・・仕方ないね」
「あの戦いでベル・クラネルの事は認めるけど、規律違反したのはヘスティア・ファミリアだしな」
「総司、怒鳴って悪かったな・・・」
団員達は納得し口々に自分の意見を話し合っている。状況が分かった事によって総司へ謝罪する者も現れる中、素早く壇上へ飛び上がり総司の顔面を拳で打ち抜く者がいた。突然の出来事に総員静まり返る。
「団長にどんな覚悟があろうと、てめぇのせいで団長の腕が無くなった事には変わらねぇ・・・だから、“これ“で勘弁しといてやる。団長に感謝しろよ、総司・・・」
今度は止める事なく総司を殴ったティオネは怒りを必死に抑える。
「そ、総司、大丈夫!? ティオネ、強くやり過ぎだよ!」
完全に気絶している総司をティオナが慌てて駆け寄る。ティオナは今回の戦いの最中、脱退した総司を仲間として心配していた。
「フンッ!」
ティオナの声を無視してその場から立ち去るティオネの内心にはまだ怒りは残っていた。しかしそれよりもフィンにそこまでして貰えた、フィンの右腕になれた総司に対しての嫉妬の方が大きかった。
「と、取り敢えず総司君をベッドへ!」
レフィーヤの提案でティオナと一緒に運ぼうとしている。レフィーヤは正直総司よりもベルの方を気にしていたので、総司に対して負の感情は抱いていない。
「ケッ、馬鹿野郎が・・・」
一番後ろで話しを聞いていたベートは悪態をつきつつも総司が戻って来た事は満更でも無さそうだ。ベートは今回、ベルと総司の戦いを観戦して両者が本気だと言う事をその目で見た。雄同士の戦い、これにとやかく言うのはベートの主義に反する。故の沈黙である。
「総司、わたくしは何て酷い事を・・・・」
アリシアも総司へ飛ばした言葉を後悔していた。何故なら今回の件の裏でリヴェリア率いるエルフ組はクノッソスへ侵入していたのだが、とある事情で
「まぁまぁ、アリシアさん。取り敢えず一件落着って事で良いじゃないですかぁ!」
エルフィはマジで何も気にしていなかった。もちろんフィンの腕について驚いていたが説明を全部聞いて「なら良し!」となったようだ。よってマジで何も気にしていないのである。
こうして沈んでいたロキ・ファミリアの雰囲気は少し明るさを取り戻し夜の時間が訪れるのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーー翌日。
ヘスティア・ファミリアの本拠《竈火の館》
嘗てアポロン・ファミリアとの戦争遊戯にて勝ち取った、と言うよりそのまま乗っ取った形になっている。
その客間に主神を含めたヘスティア・ファミリア全団員が集まっていた。
ベルとその隣りにヘスティアがソファに座っており、ヴェルフ、リリ、命はその後ろ立っている。しかし皆の表情は強ばっていて緊張した面持ちだ。冷や汗を流しベルとヘスティアからテーブルを挟んでソファに一人座る“鬼子“を見ていた。
「失礼致します・・・」
静寂を破りドアから入室して来たメイド服姿の春姫は総司の前にお茶を出すとトレイを両手で抱えそそくさと命の横へ移動する。
「・・・さて、ベル・クラネル。僕が何をしに来たか・・・分かりますね?」
ベルを含めた全員が総司の目的を分かっている。それは異端児や事件の真相である。
「でしたら、私がーーー」
「リリ、大丈夫。僕が話すよ」
リリならば余計な事を言わないように都合良く説明する事が可能だろう。しかしそれは腹を割って話そうと本拠まで赴いた総司への裏切りであり悪手である。
(もしベル様の説明で刀を抜くようであれば私達がーーー)
「手に持った武器を捨てなさい。リリルカ・アーデ」
「っ!」
総司が暴れた時、せめてもの抵抗できるようにナイフを背後にし握り締めていたのを総司は見破った。それによってリリは冷や汗の量が増加する。
「貴方がしている行動は頭を危険に晒しているだけですよ」
総司の言葉の意味、それは下手に動けばベルの首を刎ねるという事だ。そうすればヘスティア・ファミリアは大幅に弱体化する。
何故か“新撰組の羽織りを着ていない“が帯刀はしている。総司がベルを斬るには、まず立ち上がり、抜刀しなければならない。その隙があればベルはもちろん、命達もギリギリ反応できる筈・・・しかし、総司から発せられる剣圧にはその反応すら凌駕してしまう程の気迫が伝わってくる。
「指揮官としては優秀ですが、武人としては無力も同然・・・不要な殺気が多いのがその証拠です」
「失礼、しました・・・」
よってリリは震えながらナイフから手を離し床に落下させる。
「さぁ、話しを」
「うん、まずはーーーー」
事の発端、
総司も余計な口を挟まず静かに傾聴している。
「ーーーーこれで全部話したよ」
説明が終わりベルは口を閉ざす。
「なるほど・・・・・・・・・」
数秒の沈黙の後、深い深呼吸と一緒に静かに口を開く。
「ロキ・ファミリアに入団する前、僕は新撰組という組織に身を置いてました」
突然の身の上に一同困惑している。今まで共に冒険して来てこんな事は初めてだ。総司が何故新撰組について話そうと思ったのか、それもフィンではなくベル達を選んだ理由は本人にしか分からない。
「そこでの仕事は主に街の治安維持、賊や不穏分子を取り締まり、粛清すること・・・ここで言えば、
この言葉を聞いたベル達は思わず戦慄する。何故ならそう言い放った総司の眼が鋭く紅く染まっていたからだ。
「そして・・・“新撰組“は何も聞いていない」
総司から発せられた剣圧が消えた事によって全員がその言葉に着いて来れなかった。
「僕がいつも着てる羽織り、あれは新撰組である証なんですよ」
確かに羽織りを着ていない事にベル達は違和感を感じていた。しかし気にするほどの事でもなかったし、正直そんな余裕もなかった。
「今日は、新撰組もロキ・ファミリアも関係ない。“唯の沖田総司“として此処に来ました」
隊服を着ていない今の総司には何の柵もない。
「なので、今日聞いた事は誰にも言いません」
義理には義理で返す。今日ベルが逃げも隠れもせず、自分の口で総司と対峙した事で総司もその覚悟に答えたのだ。
「ぷはぁー! 緊張したぜ、総吉〜!」
「ふふふっ、少し脅しが過ぎましたか?」
「少し所では無いですよ! リリはチビりそうになったんですから!」
「それにしても、総司殿の羽織りにはあの様な意味が・・・感服致しました!」
「なんと気高い魂・・・アイシャさんが認めるのも頷けます」
緊張が解け全員が大きく息を吐き出す。そんな中ヘスティアは総司向かって頭を下げる。
「ありがとう、総司君」
余計な事は言わず、この一言で全てを伝えた。そんなヘスティアの心意気を見て総司は優しく微笑む。
「頭を上げてください。神様が簡単に頭下げちゃダメですよ」
「これは必要な事だからね。それに僕は友神に何時間も土下座した神だぜ? このくらい御茶の子さいさいさ!」
胸を張るヘスティアだが自慢する事なのかと聞いていた者は苦笑いをする。
「あ、あの・・・総司!」
「どうしたんです? ベルさん」
「いや、あの・・・感謝したら良いのか謝ったら良いのか分からなくて・・・」
「どちらも必要ないですよ。だってーーー」
にこやかだった総司の表情は変わらない。しかしその雰囲気はとても冷たいものだった。
「もしまた
賊は言わずもがな、冒険者の場合はモンスターを狩るのが仕事なので
「ご馳走様でした」
お茶を飲み干し、それだけを言い残して総司は「ではっ」とお辞儀をして帰ろうとする。一拍子遅れて春姫が慌てて追い掛けお見送りをしようとしている。
「“貴方達“というのは、
「はい・・・」
次回からしばらく本編をお休みして、ifストーリーを書きたいと思います。内容はアストレアレコードです。