慶応4年 5月30日
この日は僕が・・・沖田 総司が死んだ日だ。
ニャア〜、ニャ〜
猫の鳴き声が聞こえる・・・
無くなりかけた意識を呼び起こし、薄らと目を開ける。
布団で寝たきりの僕の横にいる黒猫・・・これは現在匿ってもらっている
「どうしたの・・・? たま・・・」
たまは猫なので喋らないが、僕に背を向け歩き出す。
「こっちに・・・来いって・・・もう・・・歩けないんだけどなぁ・・・僕・・・」
何故かこっちに来いと言っているような気がして、刀を杖代わりに、病によって弱った体を何とか起こしてたまを追う。
庭まで歩き、漸く立ち止まったと思ったら今度は僕に一瞥し、塀をよじ登る。
布団の中で見てきたけど、これまで何度も挑戦と失敗を繰り返してたっけ・・・でも・・・ついに、やったんだね・・・
「これで・・・お別れ・・・だね・・・たま・・・」
ッ!!
無理して体を動かしたせいか、血を吐きながら咳き込む。
その様子を見たたまは此方に戻ってくる素振りを見せた。
「行けッ!! 戻るなッ!! 行くんだッ!!!」
息を切らしながら僕はたまを睨みつける。たまもそんな僕を見つめる。
「せっかく・・・乗り越えたんだ・・・僕・・・なんかの為に・・・無駄にするな・・・!」
そう言うとたまは最後まで僕を見つめながら、反対側へ飛び降りて行った。
「それでいい・・・自由に・・・なるんだよ・・・」
遂に体に力が入らなくなり、刀を手放してその場に倒れ込む。
意識が朦朧とする中、僕の眼前に現れたのは・・・近藤さんだった。
僕が死ぬ前に斬首された筈・・・
いや、近藤さんだけじゃない・・・
これは幻覚か、現実か・・・
そんな事はどっちでもいい・・・
「近藤さん・・・永倉さん・・・左之さん・・・斎藤さん・・・山南さん・・・源さん・・・阿比留さん・・・山崎さん・・・島田君・・・平助・・・そして、土方さん・・・」
仲間の名前を上げると同時に涙が溢れ出す。
「みんな・・・一緒だ・・・」
泣きっ面を満面の笑みで隠し、その言葉を最後に眠るように息を引き取った。
「筈なんだけどなぁ〜」
死んだ筈の僕が何故か知らない町にいた。
地面はほぼ全て石畳、家らしき建造物まで石の様なもので出来ている。
着ている着物まで見た時がないものばかりだ。
ここは西洋の国なのか・・・
・・・どうでもいいけど、さっきから執拗に頭を撫でてくる女の人達は何なんだろう。
「この子カワイイー!」
「ねぇねぇ、どこから来たの?」
「髪の毛ツンツンしてるー!」
めんどくさい・・・正直こういうのは初めてではない。試衛館にいた頃も新撰組だった頃にも度々こういう事があった。
「あ、あの・・・そろそろ離して貰えませんか?」
・・・駄目だ。聞く耳を持たない。
これだと埒が明かないので、"いつも"やっている方法でこの状況を打開することにした。
「ねぇ、良かったこの後ーーあれ?」
「消えた!?」
その方法は単純、唯ぶっちぎればいいだけ。
女の人達が気づかない程の高速移動で、恰も消えた様に錯覚させる。
「全く、国は違っても人って言う生き物は変わらないなぁ」
町の中心部へ進むにつれて人が増えて来た。
しかもこの格好のせいかさっきから視線を感じる。この国では寧ろ僕の方が変わり者なのかな。
「それにしても騒がしいなぁーーうわっ!」
誰かとぶつかってしまった。
見慣れない町並みや喧騒に気を取られて避けることが出来なかった。
「君大丈夫? ごめん、僕急いでるからー!」
白髪の紅眼で白い兎を彷彿とさせる少年は、かなり急いでる様子で走り去って行った。
「いかにも使い走りって感じの少年だったな・・・」
三〜四十分くらいだろうか町を彷徨い歩いたが、あまり進展は無い。
しかし二つ知った事がある。
一つ目は、ここは【オラリオ】と言う円形の都市で、僕のいた国は誰も知らないということ。
二つ目は、今日は年に一度の
なんでも、少し先の闘技場でもんすたーって言う何かを調教するらしい。
「もんすたーが何かは分からないけど、面白そうだから行ってみよう」
お祭りなんて新撰組に入ってからは一度も行けなかったから楽しみだなぁ。飴とか焼きトウモロコシとかあるかな。
「・・・出来ることなら、
でも皆と来たら、絶対お祭りを楽しむ時間なんてないよね。
土方さんが騒ぎを起こすから。
騒ぎを起こす土方さんとそれを鎮める近藤さん、そして永倉さんと山南さん辺りは顔に手を当てて呆れてるだろうな・・・いけない いけない、想像したらついニヤけてしまった。
「モ、モンスターだぁぁぁ!!!!」
そんな事を考えていると、前方から叫び声が聞こえて来た。
「なんだ・・・あれ・・・」
町の住民が逃げ惑う中、僕はあまりの出来事に足が止まってしまった。