意識の中にどんどん沈みこんでいく。
暗く、深く、得体の知れない程大きいものに沈んでいく……
このままだったらゆっくり眠れる。
ゆっく、り……ゆっ…く、くっくくくくくく!
苦しい!息が出来んッ!ま、まずい!酸素、酸素を確保しないと!!
「ン、ン、スハァッ!はぁはぁ……はぁ。」
目の前には柔らかく、暖かな双丘がある。
これは正しく凶器だ、実際窒息死仕掛けたわけでありますし……
というかここは…あぁ俺の部屋か。見知った天井に見知った机。そして、見知った顔が俺の隣に寝ている…寝て、いる!?
「おーい、紫さーん。起きてくださーい。」
声を掛け、さらには身体を揺する。
そうするとゆっくりとまぶたが開く。眠気眼だった彼女は俺を見るや否や、その目を見開く。
「おはよう。」
「唯人!!貴方、起きて大丈夫なの?」
「あ〜結構辛い。やっぱり使い過ぎは駄目だったみたいだ。今でも頭がグワングワンしてるし、身体の節々も痛い…こうやって、起き上がって話すのが精一杯だな。あと2日はベッド生活だな。」
「けれど、1日寝てるだけでそこまで回復してるなんて、本当に貴方今は人間なの?」
「紛れもなく人間だけど……多分、制御を外しながら寝たから自然治癒力も暴走したのかもな……今から壁貼り直すわ。1時間ほど集中させてくれないか?」
隣で頷く紫。それを確認して、ボロボロの脳と肉体で何とか集中してみせる。
あぁ、意識してると本当に身体中がとても痛い途切れたら、初めからやり直しだから、とりあえず、何とか耐えなければ…って、イッタ!
何かがぶつかる衝撃に耐えきれず。集中力をかいてしまったが、暖かい何かに包まれていた。
「あの〜紫さん…集中するって同意を頂いたんと思うんですけど?」
「黙って集中してなさい。私の事はいいのよ…」
「…はいよ。」
いきなり抱き着いてきた紫を俺は頭を撫でて、再び意識を集中させる。
女性特有の甘い芳香と押し当てられた凶器である柔らかな鳩胸で色々掻き乱されてしまうが、彼女の暖かな体温で痛みが軽減されたのか思ったより早めに脳の制御壁を張ることに成功した。
全身の力を抜き、抱きついていたゆかりの方を見る。
「やけに静かだなと思ったら…可愛いヤツめ。」
しがみついた腕は緩めずそのまま俺にもたれかかるようにして、すやすやと寝ている紫。
まったく、勝手にしがみついて置いて、知らない間に寝てるとは…しかし、俺の記憶がスッポリ抜けているって事は誰かがここまで運んでくれて、そして紫や、藍ちゃんが色々してくれたのだろう。そう思うと、こうやって寝ている紫がとても愛しく感じる。
「ありがとな紫。」
髪を静かに撫で、その場の勢いで紫能力右頬に口付けをする。それに反応したのか、ゆっくりと目を覚ます。
「ふぁぁ、私寝てたのね。」
「あ、あぁ。とりあえず、ちゃんと防波堤を築いた。」
「そう、よかったわ。そういえば起きる手前にどこか私に触れたかしら?」
「お、おう!あまりに可愛らしかったからな!頬を指でつついてしまった。嫌だったか?」
「い、いいえ!お腹すいたでしょ?喉乾いたでしょ?何か持ってくるわね!!」
そう言って、紫はベッドから起き上がり、早々と部屋から出ていった。
あっぶねぇ…
バレたかと思ったわ。紫がチョロくて助かった所はある。
だけど、可愛かったな…
まったく、俺は馬鹿な奴だな。
こんなにも、好きで堪らないと言うのに、理性と使命で、好意の一言も出てこなくなるとは…情けないし、何時までもこんな時が続く訳がないのだ…
俺は今はただの人間。何時かは必ず死ぬ。生きたとしても100年以内には死んでしまう。そんな脆い生物だ。昔みたいに長い時を同じように過ごせる訳では無いのだ。
あの、深海に沈むような夢…
あれは完全に予知夢だ。
この夢の意味は、責務を全うして、この世から去るという意味。
過去、俺が邪神を封印する1週間前に見た夢と全く同じでその一週間後俺は奴の封印と引き換えに俺、『博麗霊威』は死んだ。
あの時は、覚悟が出来ていた。俺一人の命と引き換えなら何でもしてやる。なんでも出来る。そう、文字通り決死の覚悟があった。
それで、終わるかと思った。
しかし、俺の魂は転生。今の脆弱な人間に生まれ変わった。
もしかしたら、この転生も全部呪いのせいじゃないのか?全てあの邪神がやったことでは無いのか…と、何もかもそう紐付けてしまう。
なんで、どうして、前は呪いに対してなんか解決してやる以外何も思わなかったのに…どうしてこんなに揺れ動いているんだ?
呪いが解かれてなかったから?
兄弟が来たから?
転生して、幸せな家族に触れてしまったからか?
転生して、俺の心も脆弱になったからか?
それとも、
最愛の人ともう一度出会ってしまったから?
あぁ、何もかもわからなくなってきた。
そして、この呪いが忌々しい…
この、クソッタレな現実がウザったい。
と言うか、俺はもう博麗の人間じゃない。この呪いにも首を突っ込む事はないのだ。
だったら、もう伝えてもいいんじゃないか?この気持ちを素直に…
他のことだってどうでもいい。呪いも博麗に掛かっているものだ。今の俺、神先唯人には関係がない。
もういっそ、全てをぶち壊して…伝えてしまうか?この気持ちを…
「どうしたの?そんな険しい顔をして…」
部屋の入口から、食事を持ってきた紫が立っていた。
「あぁ、まぁ…ちょっと色々とな。」
「貴方が何を考えてるかなんて私には全く分からないけど、深刻そうね。それよりも、とりあえずご飯にしましょう。はい、アーン。」
「紫付き合ってくれ。」
「へぇ?」
おかずをすくっていたスプーンは見事に紫の手から落ちてしまった。
どうやら、動揺していたようだが、紫は一つ咳払いをして、姿勢を正す。
「で、何に付き合えばいいのかしら?今日は一緒にいて欲しいとか?それとも、身体が動かないから連れて行って欲しいところとかあるのかしら?」
「そうじゃない。俺は今告白をしているんだぞ、紫。」
「あ、そ、そうなのね…付き合ってほしい。告白……告白!?」
「好きだ。紫。」
「はい!私も霊威の事好きよ!も、勿論、唯人、貴方も大好き!で、でもちょっと待って!」
数回深呼吸をして息を整えたあと、しっかり俺の顔を見つめてきた。
「告白してくれた事は凄く嬉しいわ。でも、今は貴方と恋仲になる訳にはなれない。」
「どうして?」
「だって、貴方は……自分でもわかってるでしょ?」
「だから、俺は今告白した。そして、これからは大人しく過ごす事にして、俺はこの寿命を全うするさ。いいだろ?この身体は博麗の呪いとはなんの関係性もないのだから、俺が首を突っ込む必要も無い。」
サラッと言ったこの言葉。今の俺は博麗の呪いとは関係の無い事。確信はないが、そう考えて早く楽になりたい。もう、手放したくはない。そんな自分勝手な思いが俺の中でグルグルと廻る。
どこか辛く、どこか苦しい。何故だか分からない。長年生きてきたはずなのに、訳の分からない痛みに悩まされる。
それも紫が受け入れてくれさえすれば、全部解決する。
「じゃあ、その苦しんでいる顔はなんなの?なんで晴れた顔を一切していないのかしら?」
「は?何を言っているんだ?俺がそんな顔してるはず…」
「自分で気付かない?頬を伝ってる温かいものが。」
不自然に温もりを含んだ頬につたうものを手で拭う。
拭った手は湿っていて、やっと自分がどんな顔をしているのか理解出来た。
「あ、あれ?何で俺、泣いてるんだ?」
何度拭っても、とめどなく溢れる涙。
顔はクシャクシャで、鼻は赤く染まり、嗚咽が出て、視界が滲んでいく。
意味もわからずに泣いて。
あぁ、なんと情けない。
全てを投げ出して、結果こんな姿を晒すならば、いっそ……
「お疲れ様。霊威。」
涙が止まらない俺を包んでくれる紫。
「昔からいつも何かを抱え込んで、1人で背負い込んで、辛かったわね。」
俺の異常行動を責めもせず、この無様な姿を呆れもしないで、彼女は俺の事を子をあやす様に宥めてくれる。
「あの呪いの事、貴方に話すつもりも、明かすつもりもなかった…本当は貴方が背負うものじゃないの。これは、当時の博麗の巫女と私との間の決め事だったの…誰にも、この呪いには、例えどんな博麗の血筋が現れたとしても、これは私とこの世界の問題だった。」
「けど、俺が生まれてしまった。そうなったらそういう訳にもならない…」
「いいえ、この世界を作ろうとした段階で、どうにかしないと行けないことで、それを決断した私の問題だったのよ。貴方がどれだけ異端児であっても、人間でなくても、私は霊威を守って、幸せになって、博麗家の希望でいて欲しかった。」
暖かく、そして優しい声で俺の荒んだ心を慰めてくれる。
「だから……お願いだから…そんなに自分を責めないで…自分を大切にして…焦らないで、変わりなく貴方でいて、悩まないで、挫けないで……」
先程の優しかったものから、小さく震え、何とか振り絞った本音だった。
その本音だけでも、いや、好きな人が俺の事を……今までの俺の事を全肯定してくれた。
「そして…自分が生まれてきたことを、二度も私と出会えたことを誇って。私はいつまでも待ってるから。」
報われた気がした。
これから何が起こっても、俺があの予言通り死んでも、後悔はない。
そう思える。
「にしても、変わるなって…前世と同じ位のぶっ飛んだ事はできねぇよ。」
「ふふっ、今の身体で無茶したら怒るけど、貴方らしくそのままでいてくれれば別にいいのよ。」
「そうか。わかった……」
何を焦っていたのわからなくなるほどに落ち着きを取り戻したが、告白した恥ずかしさと返事が返されていた嬉しさが今更湧き上がってくる。
「好きだ。それは変わらない。全部片付けて、もう一度伝える。すまん待っててくれ。」
「ええ。それも待ってる。」
…………
……
…
~Another view~
あの後、泣き疲れたのか、唯人はすぐ寝てしまった。
彼の部屋の扉を閉めて振り返ると私の苦手な人物が現れた。
「兄さんのあんな姿は初めて見た。」
「何よ。いつから覗き見してたの?」
「結果、覗き見になっていただけで、ちゃんと用事があってここに来ていたのは紫さんだって知っているだろうに…あんな雰囲気になったら、出てくるタイミングを伺うために見るしかないじゃないっすか。」
そう言えば、彼は自分の刃のことについて聞きたかったので一緒にマヨイガに来ていたのだった。
「で、夕刃。あなたは…」
「ん?別に。兄さんもちゃんと人間なんだなって感じただけ。完璧な人って言うのはどこにもいないことの安心と、紫さんってすげぇ〜ってことっすね。」
「私が凄い?」
驚きの反応だった。
もっと兄を慕う彼なら落胆していたんじゃないかと思ったぐらいの者を見せた筈だ。
「と言うか、俺は紫さんの事信頼してるんっすよ。俺にとっちゃ無茶苦茶なことしてるので、モヤモヤはしてるんですけど、それでも、兄さんの事を1番理解してるのは紫さんっす。これは確かにお似合いの2人っすね。兄さんも現世で彼女を作らないわけだわ。。ホントこのまま結婚して一生幸せで爆発して欲しいぐらいっすね。爆死しろ、大爆死しろコノヤロウ。」
「大妖怪に爆死しろとか言うの貴方ぐらいよ。ほんと殺してやろうかしら…」
「イヤイヤ、そんなことしないでしょ、あなたは。特に兄さんが悲しむ事は絶対に。」
そう言って、彼は踵を返して、私から離れていった。
「また後で伺います。あと、多分兄さんは貴方の不器用な手料理すっごい好きだと思いますよ。何食べても、例え母の料理を食べて美味しいって言ってても何時も微妙な顔してましたから…あ、けどオムライス。あれだけはちゃんと満足した顔してたんで、いつか作り方教えますね。んじゃ!」
そう言って、姿を消していった。
姿を消したあと、私は膝を落としてその場で小さくちじこまり、真っ赤な顔を隠した。
「そんなに私の事好きだったんだ…嬉しすぎて死んでしまいそう…」
威厳がなくなってしまうほどに好きな人からこうも思って居続けてくれた……
それだけで、本当に嬉しい。
そうやって嬉しさで悶絶していた私を、後々来た藍に呆れられたのは数秒後の話だった。
これを考えるのにとても時間をかけましたが、果たして書きたいことが伝わるかとても心配ですが、来年も気ままに更新します。そして完結まで進めていきますので、どうぞよろしくお願いします。