【凍結】愚者ガイル   作:邪骨

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第十話 ぶっこわせ!

「あなた達を、脅迫罪と器物損壊罪で訴えます」

 

 雪ノ下雪乃は毅然とした態度で言い放った。

 

 彼女の前には、25名のクラスメイトが座っている。彼らは彼女の言った言葉が理解できぬほど子供ではない。故に彼らはその言葉にざわめいて、いくつかの者はゾッとした顔をしていた。そしてそれは彼女の横でその様子を見守っていた教師も例外ではなく、その目は見開かれていた。教師は何とかこの場を収めなければと、口を開いて彼女に問う。

 

「・・・あの、雪ノ下さん?それって」

 

「理由はもちろん、おわかりですね?あなたたちが私の私物などを破壊し、さらには脅迫行為を行ったからです!覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい!貴方たちは犯罪者です!少年院にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!・・・つまりは、そういうことです」

 

 教師は眼前の少女の言葉を理解出来なかった。否、したくなかった。自身も雪ノ下雪乃が虐められているのを知っていたし、それを黙認してもいた。

 

 しかし、しかしだ、それは彼女が自ら相談してきたりとか、そういうことを一切してこなかったからだ。子供というのは好奇心が強く、倫理観が欠如しているから、一見過激に見える行為も遊びの一環である可能性がある。だから今回もそうなのだろう、そう楽観視していたのだ。

 

「まて、まって、それはいけない」

 

「何故です?」

 

「それはッ・・・」

 

 答えようとして、教師は言葉に詰まった。雪ノ下雪乃が、本気で何がいけないのかわからない、そんな顔をしていたからである。

 

「私はどんな行為にも報いがあって然るべきだと思います。努力したのならば相応の結果を。他人を害するならば、その者にも害を。因果応報、この世の常です。だって、そうでなければおかしいでしょう?」

 

「そうかもしれないが、しかし」

 

「ああ、もしかして先生は自身のキャリアを危ぶんでいらっしゃる?それならばご安心を。私は傍観者如きに罪を求めませんし、何よりそこまで暇ではありませんので」

 

 君が本当にクラスの人間を訴えるというのなら、このクラスの担任である私も結果としてキャリアに傷を負うことになるが・・・問題はそこではない。それはそれで問題であるが、そうじゃない。教師は思って、意を決すると彼女を諭すべく言う。

 

「あのな、彼らは子供なんだ。まだ未来があるし、そんな中こうして君に訴えられて、経歴にバツが付いてみろ、ことだぞ。将来就職が難しくなるかもしれないし、進学だって・・・」

 

 

「そんなこと私の知ったことではありません」

 

 

 教師の説得は無惨に失敗し、何も言えずに黙り込んだ。

 

「彼らは悪事を働いて、その報いを受ける。たったそれだけのことなのに、何故そこで感情論が出てくるのですか?そもそも感情論で語るならば、ますます私は彼らを訴える必要がありますね。私は彼らをクラスメイトなどという仲間意識で見ていませんし、どちらかと言えばゴミ同然だと思っています。あるのは憎悪の感情だけで、今すぐにでも縊り殺してやりたいわけです。それを正当に法律に則って、正規の手段を持ってして訴えるだけにとどめるのですから、考えようによっては随分と優しく見えるハズですが、いかがでしょう?」

 

 圧倒的論理!小学生とは思えぬ恐ろしき思考回路!まさしく中二病の権化!しかし世に言う中二病の実現性の乏しい妄言とは違い、雪ノ下雪乃はその言葉をそのまま実現することのできる立場と、親のものではあるが財を持っていた。彼女が本気になれば彼ら少年少女を社会的に抹殺することも不可能ではないのだ。

 賢しい彼らはそのことを悟り、青ざめる。彼女を止めることのできる者、あるいは刃向かおうとする者は最早誰もいなかった・・・・・・かに思われた。

 

「今すぐその発言を削除してくれ・・」

 

 静寂を破って声を上げたその少年は、地毛なのか怪しい金髪を揺らして、悠然と立ち上がった。

 

「・・・何でしょうか、葉山さん」

 

 彼の名は葉山隼人。小学生に似つかわしくない甘いフェイスと、ある程度優れた頭脳を持ち合わせた麒麟児である。

 

 そんな彼は、雪ノ下雪乃の幼なじみであった。

 

「君は自分で自分を騙している。もしかしたら、自作自演なのか!?君のやっていることは!」

 

 彼は雪ノ下雪乃が同級生からいじめ行為を受けて苦しんでいたことを知らなかったのである。故に、いつも仲良くしていたクラスメイトがそんな行為をしていたことなど信じられなかったし、信じたくなかった。そこで彼は、彼女が嘘をついていると思うことにしたのだ。

 

「葉山さん、あなたは何もわかってらっしゃらないようね」

 

 しかし、いじめは実在した。葉山隼人の周囲で行われていなかっただけであり、彼の目の届かないところで、いじめは行われ続けていたのだ。

 

「そんなはずはない!」

 

 雪ノ下からその事実を突きつけられるも、彼はいじめグループを信じる道を選んだ。なぜならば彼らは葉山の良き友人であり、仲間であったからだ。幼なじみとはいえ、そこまで親交のなかった少女を信じられる人間など存在し得ないのだから、当然である。

 

「あなたが信じようと信じまいと、こちらには関係のない話なのですが・・・しかたありません、証拠の一端をお見せしましょう」

 

 そう言って彼女は、そばに控えさせていた執事にプロジェクターを用意させて、一つの動画を黒板に投映した。

 

 

『あいつってぇ、むかつくぅ』

 

 その言葉から始まった動画は、三人の少女を映し出す。少女らは顔に純粋などす黒い笑顔を浮かべて楽しそうだ。

 

『そうそう、あいつってば何されても泣きもしないんだもん、ホントむかつく』

 

『じゃあさ、今度はあいつの鞄に猫の死体入れてやろうよ』

 

『えぇ~それはドン引きなんですけどぉ~』

 

『ちょうどウチの猫が死んでさぁ、なんかだんだん臭くなってきたから、捨てようと思ってたんだよねぇ』

 

『さすがユリパコ、やることが悪辣ゥ!』

 

『あはっ!』

 

 画面は暗転。

 

『うわッ、まじクッサ!汚い!』

 

『うきゃーっ、ホントに腐ってんじゃんこれぇ!』

 

 少女らは黒い鞄を囲んで、ビニール袋に入ったモノを手に取る。それは強烈な腐敗臭を放っていた。

 

『まあまあ、そう叫びなすんなって、ウチに任せときなよ』

 

 少女らにユリパコと呼ばれていた彼女は、自身の手にゴム手袋をはめると、ビニール袋に手を突っ込んでズルリとそれを引き抜いた。

 

 それは、死体であった。

 

 何の死体か判別が難しいほど腐敗し、肉は溶け、その体毛は所々抜け落ちていた。

 

『じゃじゃ~ん、ウチの猫で~す』

 

『いやいや、猫で~す、じゃないって』

 

『さっさと済ませちゃってよ、クサすぎッ』

 

 ユリパコの弁によれば猫であるそれは、床ずれによるものなのか前足の筋繊維をむき出しにして、体液と体毛をボトボトと落としながらこちらを見ていた。

 

『あっ、目玉落ちゃった』

 

 画面の外で、誰かが吐いた音がした。

 

『あーあ、汚いなぁ』

 

『きもい』

 

『しかたないじゃんか、落ちちゃったんだもん』

 

 彼女は他二人からの責めを躱して、囲んでいた鞄の蓋を開ける。

 

『バイビーあきちゃん、達者でやれよ』

 

 そして、鞄の中に死体は押し込まれる。

 

 動画はそこで終わった。

 

 

 顔面蒼白。残念ながら犯罪にはならないが、もうこの動画の上映が何らかの罪に問われるだろう阿鼻叫喚。ユリパコが泣いて、8人くらい教室からいなくなった。教師は床におがくずを撒いている。

 

 葉山は項垂れて、気分が悪そうにつぶやいた。

 

「わかった、わかったよ・・・でも、やり過ぎだ・・・」

 

 ごもっともである。

 

 しかし雪ノ下雪乃は鼻を鳴らして、こんなことを言った。

 

「あっそうだ、裁判の弁護士はあなたのお父さんにしてもらうことにするわ」

 

 その一言に呆然となった葉山は、そのまま彼女が教室から去るまで微動だにできなかった。

 

 

♦♦♦

 

 

「いや、やり過ぎだよ」

 

 葉山君じゃないけど、私だってそう思うし、そう言いたくもなる。中二病だってそんなことしないよ、きみは無敵か。

 私は一仕事終えたフェイスの雪乃君から聞かされた話にドン引きしていた。

 

「そうね・・・反省はしているわ」

 

「ちなみに後悔は?」

 

「してないわね」

 

「はあ・・・」

 

 ため息を吐くほかなかった。

 

 この前「仕返しの準備はしている」とは聞いたが、まさかここまでするとは。そりゃあ「好きにやればいいよ」なんて背中を押してしまった私の言えることではないが。

 

 彼女がやってきたことをまとめると、「お前を訴える」と宣言して、ちょっと証拠を見せてきただけなのだが、見せる証拠はもっと他にあっただろ。何で突然グロ動画を見せるねん。きみ頭おかしいねん。いじめに加担してなかった子もいたやろ。かわいそうだとは思わんのか。

 

「いえ、全然」

 

 アカン、怒りで倫理観がぶっ飛んでるぅ~↑ちょっと冷静になりましょって。

 

 怒り心頭に「あいつらの人生めちゃくちゃにしたる!」と息巻く雪乃君を正気に戻すため、私は一先ず諭してみることにした。

 

「雪乃君、君は今すこしおかしい」

 

「何ですって」

 

「君がいじめの仕返しをするというのは当然の権利だ、認めよう。しかしだね、そのやり方は何というか、私の悪いところをマネしているようでならない」

 

 そうだ。雪乃君が今回したことというのは、私が雪ノ下母に対してやったことと同じだ。

 おそらくは、雪乃君は私をマネしたのだ。彼女は争いごとを知らなかったのだろう。そして、唯一参考にできたのが私が彼女の母を責め立てたあの現場だったのだ。

 

 しかし私はそれをやってよかったとは思わないし、その場の勢いに流されてヒドいことをしてしまったと後悔していた。だからそんなことを雪乃君にやってほしくはなかったし、彼女に悪影響を与えてしまった自分に嫌気がさした。

 

「マネって、わたしがあなたのマネを?」

 

「そう、君は私を真似たんだ。しかしね、それは良くないことだ。私は私のしたことが正しいとは思わない」

 

「そんな、あれはッ、あなたは母の考えを変えてくれたじゃない。わたしは救われたわ」

 

「そうかもしれない。けど、雪乃君の母君だって苦しんでいたし、そんな人を傷つけたのはやはり、悪いことだよ」

 

「・・・」

 

「だから、君のやったことは正しいけど、悪いことだ。もっと他にやりようがあったはずで、その選択をしてしまったのはおかしなことなんだ。きみも私も、自分の正義に酔っていたんだよ」

 

「そう・・・でも、正しいんでしょ?なら、いいじゃない」

 

「雪乃君には多分、まだわからないよ。でもそのうちわかるようになるから、今はもう、こんなことをしてくれるなよ」

 

「・・・わかったわよ。でも、今回の事はもう引き下がれないわ。あそこまでしたんですもの、裁判はするわ、確実に」

 

「それは・・・まあ、いいよ。裁判を否定しているわけじゃないし」

 

「ええ」

 

 微妙な空気になってしまった。気まずい。言わなきゃあ良かったか、いや、言わなければならなかった。彼女に私の様になっては欲しくないから。

 ああ、クソ。今日はダメだ。彼女には悪いが、もう帰ってもらおう。

 

 と、その時である。彼女は自身のカバンからGBA(ゲームボーイアドバンス)を取り出した。

 

「わたし、あなたのと遊ぶために買ったわ。ね、反省したから遊びましょうよ。そうしなきゃ今日は帰らないわ」

 

 まったく、雪乃君ってばどうしようもない奴だな。しょうがない、遊ぶよ、遊びゃあいいんだろ。

 

♦♦♦

 

 自己嫌悪。君にそんなことをさせた自分に、だ。でも君は私のそんな気を知ってか知らずか、元気づけようだなんて。ホント君はどうしようもない奴だよ。自己嫌悪。

 

(日記より抜粋)

 




久しぶりに書きました。

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