小さな魔女の財団職員生活   作:ちいさな魔女

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十一話

「此処に居るのよね?クローヴィス」

 

「ええっ。クレフに案内されてきたけど、周りの景色を見る限り、此処に居るのは間違い無さそうね」

 

シガーが682と交戦を開始した頃、キャンディスとクローヴィスは数名のセキュリティチームと共に、腐食の痕跡が見られる廊下を歩いていた。椅子やテーブルが腐食した部分に埋まっているという、物理法則を無視した状態も時折見掛ける。

 

106の狩りの痕跡だとクレフ博士から説明を受けた二人は、106の捜索を続けていたのだ。戦闘力は682のように直接戦う訳では無い為に不明ではあるが、仮にも訓練された財団職員や、殆どが凶悪な犯罪者で構成されたDクラス職員を連れ去る辺り、力は相当強いのだろう。

 

「幻覚は効くかしら?」

 

「それはキャンディスが得意でしょう?その写輪眼は、目と目を合わせれば幻覚を見せられるって、シガーは言ってたじゃない」

 

「初めてなのよ。でも、やれるだけやってみるわ」

 

「・・・キャンディス、構えて」

 

クローヴィスが全身に魔術回路を走らせて、身体能力を強化する。キャンディスは両目の瞳を『万華鏡写輪眼』に変える。それを見たセキュリティチームも、銃を構える。

 

「居るわね」

 

キャンディスは暗闇の中でも、相手を捉えていた。電気が消えて暗闇になっており、クローヴィスを除いてセキュリティチームには暗視ゴーグルを使用しなければ見えない106を、キャンディスは写輪眼の瞳力で捉えていたのだ。上半身裸でチョッキを羽織った、全身が腐った高齢の男性の姿をしている。キャンディスが捉えた魔力・・・もといチャクラの色は茶色く濁っている。

 

「動きは遅いわ。でも、周囲を警戒した方が良いわね」

 

「解ったわ。確か、“ポケットディメンジョン”という異空間を使って次元移動して、攻撃してくるのよね」

 

キャンディスは常に106を捉えており、クローヴィスは彼女の背中に自身の背中を付けて、背後を警戒している。

 

すると、キャンディスは106が床に出来た腐食の痕へ一瞬にして消えた様子を捉えた。

 

「来たわ!攻撃してくるわよ!」

 

キャンディスの掛け声と共に、全員が周囲を警戒する。しかし、106はセキュリティチームの足下から姿を現した。そして、セキュリティチームの一人の脚を掴もうとするが、キャンディスが106の元を向いた。しかし、舌打ちをした後に、男の襟首を引っ張って106から引き離す。

 

「チッ!アイツ此方を見てないわ!」

 

「す、すまない!感謝する、239ー2!」

 

「良いから、私に引き寄せて!アイツの目を私が見れば、あのジジイを幻術に掛けられる!『火遁・豪火球の術』!」

 

キャンディスは両手の指で印を結び、口から巨大な炎の球を吹き出した。しかし、106は再び床の中へ消えていき、その場に残った腐食痕はキャンディスの豪火球の直撃によって爆発し、ドロドロに溶けて液状になった。

 

「また消えた!?」

 

すると、セキュリティチームの一人が悲鳴を上げた。彼は、腐食が発生した床に引きずり込まれていたのだ。

 

「うわああああ!助けてくれええ!!」

 

「何!?今助け──」

 

クローヴィスが引きずり込まれていく隊員の手を握って引きずり出そうとするが、掴んだ手は腐って崩れ落ちた。

 

「な、何よこれ!?これも腐食!?」

 

「やられたわ・・・早く助けに行かないと!」

 

「無理だ!SCPー239ー2にSCPー239ー3!SCPー106に連れ去られた奴等は全員死亡扱いにされる!あのSCiPは必ず我々を狩るつもりだ!」

 

因みに、SCiPとはSCP財団がオブジェクトに対する呼称である。

 

すると、キャンディスは肩に何かの液体が掛かる。しかし、液体は触れた箇所をすぐに腐らせて溶かす。キャンディスは肩に激痛が走り、思わず叫んでしまう。

 

「キャアアア!!」

 

しかし、106は天井から現れてキャンディスに向かって手を伸ばす。しかし、106は突然自身の体に何かが当たって吹き飛ばされる。それは、クローヴィスが指先から放った魔力弾だった。

 

「キャンディス!今よ!」

 

「ありがとうクローヴィス!『魔幻・枷杭の術』!」

 

106は吹き飛ばされた後もキャンディスに注目しており、彼女はそれを利用した。106と目が合った事で、キャンディスは写輪眼の幻術を発動させた。此により、106は全身に杭が突き刺さった幻覚を見ているだろう。現に106は動きが止まっている。

 

「動きを止めたわ!やっつけて良いかしら?」

 

「駄目だ!財団の理念上、破壊は推奨されていない!再収容の準備は、既に終えたと連絡が入った!」

 

キャンディスの質問に、生き残ったセキュリティチームが答える。

 

その後、106は姿を消した。幻術に掛かったにも関わらず、すぐに解けたと言わんばかりに何処かへ消えていった。

 

「・・・消えたわね」

 

「でもキャンディス。良かったじゃない。SCiPにも幻術、もとい忍術は効くらしいわね」

 

「シガーには感謝してるわ。こんな力、私には勿体無い位よ」

 

「シガーは言ってたわ。キャンディスは火遁や炎タイプの術、それに写輪眼の適正が強かったって。与えたのはシガーだけど、此処まで強くなれるのは貴女の力よ。キャンディス」

 

「ありがとうクローヴィス」

 

二人が甘い雰囲気を出している頃、床や壁が突然揺れ始める。何処からか爆発音が起きる。

 

「なんだ!?」

 

「恐らく、239ー1と682が闘っているんだ!我々も様子を見に行くぞ!」

 

セキュリティチームが廊下を走り出す。キャンディスとクローヴィスはお互いに顔を見て頷いた後、セキュリティチームの後を追って駆け出すのだった。

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