アークナイツ気まぐれSS集   作:アシッドムシ先輩

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筆が悪ノリして8000字を超えた件。SSと呼んでいいか分からない代物ですが、これでもうーん…って感じ。半分練習みたいな投稿なので雑にゆるく読んでください


アーミヤとエイヤフィヤトラの世界

痛みを知るという行いは、すなわち他人の傷とそっくりな傷を自らに刻み付けるということだ。だから身体の傷より心の傷の方がより理解が届かない。何故なら、同じ状況で同じ様な目に遭ったとしても心の形からしてあまりにも違いが大き過ぎるからだ。そして心の傷は目に見えない奥深くまで見取ることは出来ない。だから誰もが分かり合えない。

 

だが、彼女の場合は違う。彼女のアーツは心の傷を開き、写し取り、感じることを可能にする。ロドスにおける3トップの1人、最高責任者たる少女、その名はアーミヤという。

 

一方の彼女は、感じ取れない物を感じ取るというアーミヤと逆の立場にあるとも言えるだろうか。

 

鉱石病によって神経を蝕まれ、聴力と視力が低下してしまった天災研究家。研究に身を捧げた挙句に大切な物を失い、そしてそれ以上の物を得た彼女のアーツは火山を思わせる。灼熱の溶岩、全てを呑む火砕流。奇しくも彼女が主題とする研究テーマもまた火山だった。

 

聴力と視力を失いながらも、彼女は体温を感じ取る術を身につけた。それはもしかすると、彼女を哀れんだ神の慈悲かも知れない。

 

ロドス所属の天災研究家として最も名高い少女、その名はエイヤフィヤトラという。

 

その2人は今、ロドスの針路をどうするかについて議論していた。

 

「…資料に拠れば、この地域で天災が起きる可能性は非常に大きいと思います。ロドスの針路は現在、南南東です。このままだと天災に遭遇し、隕石によって甲板にかなりの被害が発生すると思われます」

 

エイヤフィヤトラ――エイフィの説明にアーミヤは手元の資料を再び眺めて考え込む。今からロドスが向かうのは天災が頻発することで有名な土地だ。しかしこの土地が東西に渡って5キロ前後に広がっているため、天災を避けるには迂回しなければならない。だが、迂回すると今回協力を要請されている龍門への日程が遅れてしまう。可能であれば天災が発生しない時間を見極めた上で真っ直ぐ突っ切る進路を維持したかったのだが…

 

「土地に入らなければ天災の被害に逢う可能性はほぼ無いと見て間違いないんですね?」

 

アーミヤの僅かに震える声での質問に、エイフィは小さく顔を伏せる。

 

「はい。プロヴァンスさんやアーススピリットさんとも意見交換をしたのですが、一週間後を待たなければ確実な横断は出来ません。龍門の援護には間に合わなくなりますが、迂回するしかないかと」

 

その返事を聞いてアーミヤは唇を噛み締める。ドクターが戻ってきた今、ロドスはあらゆる感染者に手を差し伸べる組織として磐石になりつつある。無論、レユニオンとの戦いや助けを求める感染者達に終わりは未だに見えない。鉱石病そのものに大きな進展が無い限り、この状況は何時までも続くだろう。だからせめて、手の届く場所にあるものは救いたいと必死に抗っているのに、もう少しという所で届かないのが悔しい。

 

「そうですか、分かりました。エイヤフィヤトラさんの意見を天災トランスポーターの皆さんからの総意として提出しておきますね」

 

エイフィから受け取った資料をテーブルのホッチキスで他の資料と纏めて綴じると、一度アーミヤはエイフィから離れた。

 

彼女の聴力を考慮して、アーミヤはエイフィのすぐ隣りに立って会話をしていた。トランスポーターとロドスの上層部を交えた会議を省略したのは、議題の一つである戦術面を復帰したドクターへ任せられる様になったという理由もあるがエイフィの聴力や視力に配慮したという理由もある。

 

大人数での会議だと、補聴器では同時に聞こえてきた会話が上手く拾えない場合がある。また大型スクリーンでの情報共有も視力が低いと困難だ。天災研究家の意見を纏めた上で、CEOたるアーミヤを通じて共有するのが1番楽だろうというのが医療部の判断だった。

 

「エイヤフィヤトラさん、何か飲みますか?」

 

少し離れた場所で、アーミヤはエイフィに向かって一言一言がはっきり聞こえるように意識しながら呼びかける。

 

「……?あ、はい。私はホットコーヒーが飲みたいです」

 

少しだけ聞こえにくい部分もあったのか、ちょこんと首を傾げながらも問題なく返答するエイフィ。何も知らない誰かが見ればギクシャクした関係性に見える会話のテンポだが、エイフィへの適切な配慮が出来ているアーミヤがロドスで最もスムーズに会話をしている。

 

もちろんロドスには気が利くオペレーターは沢山いるが、彼女の聴力がどの程度であるかを完璧に理解して話しかけられる者は少ない。普段から会話している親友、担当医、ドクター、そしてアーミヤ。彼等以外での会話になると話す度に声が大き過ぎたり小さ過ぎたり、はたまた大袈裟だったりと苦労が絶えない。

 

執務室の机に二つ並んだ椅子、無言で腰掛けた2人はコーヒーをちびちびと啜って窓の外を眺める。忙しい日々の中で許された一時、エイフィはふとアーミヤに話しかける。

 

「アーミヤさん、その…なんだかごめんなさい。龍門への救援を急ぐのであれば横断が一番だと分かっています。私がもっと早くからデータを収集していれば、土地内部の天災も法則性が掴めたかも知れません」

 

エイフィの言葉に、アーミヤは首を振った。

 

「いいえ、エイヤフィヤトラさん。そもそも貴女が謝る事ではありませんよ。貴女が掴めなかったのであれば、他のどの天災トランスポーターにも掴めなかったことです。それにこのロドスが何よりも大切ですから…手が届かないことは残念ですが、今手の中にある物を疎かにする訳にはいきませんから」

 

納得しているかのように微笑んでみせるアーミヤだが、その顔には影が差している。この世界はあまりにも広く、ロドスはあまりにも小さい。各地への派遣や少人数での任務を行っているものの、優秀なオペレーター達にも人数に限りがある。何もかも助けようとするのは烏滸がましいが、助けられない人がいる事実は常に彼女を苦しめている。

 

その自責の念を何となく感じ取ったエイフィは、両手をぽんぽんと叩いた。

 

「アーミヤさん、これどうぞ」

「……?」

 

手渡された黒い手袋に何の意味があるのかと考えていると、服の裾を何かに引っ張られた。その方向を見やると、いつの間に現れたのか大きな羊が立っていた。

 

「えっと、これは何です…?」

「私のペットの『ちびめーちゃん』ですよ。私はいつも癒されたい時、ちびめーちゃんの助けを借りているんですよ。こんな感じで」

 

エイフィはニコニコとちびめーちゃんの身体に抱きつく。そのまま両手をもふもふ、もみもみと動かす。ちびめーちゃんは少々眉間に皺を寄せるも、されるがままにじっとしている。

 

「私以外だと火傷することもあるので、一応手袋を嵌めてからになりますが…ちょっと触ってみてください。結構和みますよ」

 

言われるがまま手袋を嵌め、ちびめーちゃんの背中を撫でてみる。特殊な手袋なのか断熱素材越しにも温度がじんわりと伝わってきて、暖かく心地良い。ゆっくりと背骨をなぞる様に手を動かすと、ちびめーちゃんの身震いがそのまま掌に伝わってきて中々に癒される。

 

「何だが……良いですね……」

「ですよねぇー……ムースさんのねこちゃんもかなり癒されますけど…」

 

そのまま2人であちこちをなでなですること三十分。ちびめーちゃんが「そろそろ僕、お暇したいんですが」と言いたげに鼻面で主人の脇腹をつんつんしだしたので、お触り会はお開きとなった。

 

「ありがとうございます、エイヤフィヤトラさん。何だがとても癒されました」

「いえいえ。アーミヤさんの心が少しでも楽になれば何よりです。所で龍門への救援についてですが…」

 

エイフィは少し口を噤むものの、意を決して顔を上げた。

 

「私も同行して良いでしょうか。アーツであれば心得はありますし、戦闘になっても大丈夫だと思います。アーミヤさんがもし良ければ、私にも協力させてください」

 

アーミヤは驚き、反射で断ろうと口を開くものの即座にエイフィの気持ちを考える。本当にどうしようもなかった事とはいえ、今回の遅れてしまった救援について彼女なりにケジメを付けようとしてくれている。彼女の戦闘力についてはドクターが以前に保証していたので問題無い。これで断ってしまえば彼女の『助けになりたい』という気持ちを無碍にしてしまう。

 

少し悩んだ後、アーミヤは「ドクターに話してみますね」と告げて空のコーヒーカップをソーサーに置いた。

 

 

ロドスが方向転換を結構し、迂回進路を通過して龍門に到達した日。アーミヤとエイフィの会話から一週間が経過していた。

 

龍門中心地区から北東に位置するスラム街。レユニオンが大規模作戦を企てているという情報を元に龍門近衛局は中心地区を重点的に警戒しているが、スラム街でも不穏な動きがあり、近々戦闘が起きる可能性があるらしい。

 

ロドスが請け負った任務とは、スラム街の住人を避難させ感染者を保護すること。そしてレユニオンと遭遇した場合はこれを排除することだった。

 

しかしロドスの到着は予定より2日遅れていた為、スラム街内部の緊張感はかなり増していた。既に近衛局が向かわせた隊とレユニオンの戦闘でスラム街の住人が何人か巻き込まれており、状況は刻々と悪化している。

 

「ショウさん、消火活動をお願いします!地図のE2です。はい…はい。ロドス側も消防士を派遣しているのですが、かなり延焼が拡がっており手が負えない様です。A2消火は無事に完了した様です」

 

スラム街でも一際高い廃ビルの屋上。ロドスの機材を積み上げて即席の通信基地を作り上げたアーミヤは、スラム街全体の状況把握や住人の救助・保護を中心とした隊の指示系統を担っていた。

 

「救助隊がレユニオンに遭遇!?分かりました。ドクターに連絡して予備隊を派遣します。場所は…C2ですね。正面戦闘は避けて住民がいた場合は避難を促してください」

 

指示を飛ばし、戦況を把握し、適切に人材を派遣する。ロドスでは加入したてのオペレーターがCEOのあどけなさが残る横顔に不安を覚えることがある。あんな幼い子がリーダーでロドスは本当に大丈夫なのかと。

 

その度にベテランオペレーターは笑ってこう返すのだ。

 

我らがCEOを甘く見るなよ?と。

 

曰く、ロドスにおいてオペレーターの治療を傍で研究してくれるのがケルシー、後ろで指揮してくれるのがドクター、そして前で道を示してくれるのがアーミヤだと言う。

 

3人の誰か一人でも欠ければ、ロドスは進むべき道を見失ってしまう。逆に3人がいるからロドスはどんな困難に直面しても決して諦めたりしない。

 

エイフィもロドスに在籍後、アーミヤの双肩にどれだけの重圧がかかっているのかよく分かるようになった。ドクターとケルシーもそれぞれが己の全てを活かして仕事に従事しているが、アーミヤの信念と勇気には二人とも敵わないだろう。

 

「アーミヤさん、ここに敵部隊が来てます」

 

折りたたみ椅子に座って通信機器と睨めっこしているアーミヤが、その一言に驚いて振り向く。

 

「それは本当ですか?」

 

「はい。地下を見ていたちびめーちゃんが先程戻ってきました。敵が来たら私の元に戻るよう伝えておいたので、恐らくステルス兵を中心とした部隊が奇襲を掛けてきたのだと思います」

 

アーミヤは即座に通信を近くのオペレーターと交代し、辺りを見回した。簡易通信基地にいるロドスのオペレーターで戦える者は自分とエイフィを含めコードネームも無いような予備隊員が2、3名。近くの戦闘部隊は消火活動に追われている為、戻るのに30分はかかる。

 

「……みなさん、聞いてください。先程エイフィさんから地下にレユニオンがいるとの情報が入りました。戦える人で通信基地の守りを固め、ドクターに連絡して戦闘オペレーターを直接ロドスから出動要請して下さい。私とエイヤフィヤトラさんで地下の敵を迎え撃ちます」

 

アーミヤの言葉にオペレーター達はざわつく。

 

「しかし、アーミヤさん!我々は貴女を守る立場にあります!同行させてください!」

 

そのうちの一人から訴えられた提案を、アーミヤは即座に却下する。

 

「いいえ、それは駄目です。レユニオンは通信基地の存在を知って奇襲を掛けてきているはずです。狙撃兵が基地を監視しているのは間違いないと思います。ここで何人もオペレーターが基地を出れば、敵に奇襲が気付かれたことを察知されます」

 

アーミヤの言葉にざわめいていた面々が押し黙る。基地は狙撃兵対策に防弾加工されたテントを用意しているが、それが気休めにしかならないことを知っている。今自分たちが撃たれていないのは、奇襲部隊の到着をレユニオン側が待っているからだと気づいたのだ。

 

「出来るだけ少人数での殲滅となると、私とエイヤフィヤトラさんで行くのがベストです。私たちが出たらすぐに狙撃された時に備え重装オペレーターを配置して下さい。付近の消火活動が終わったオペレーターには、基地周辺のビルへ向かって狙撃兵を排除するように伝達をお願いします」

 

テキパキと指示を出したアーミヤは、エイフィの耳に口元を持って行って囁く。

 

「私と一緒に、何気ない様子を装いながら一階まで降りましょう。地下の敵までの誘導はちびめーちゃんに。かなりのリスクがある作戦に巻き込んでしまいますが…いいですね?」

 

エイフィは黙って頷く。

 

「では行きましょう。レユニオンの主力は龍門市街に集中しているとの報告もありますし、恐らく地下の奇襲部隊はドクターが直接指揮して殲滅するレベルの集団ではありませんよ。頑張りましょう」

 

 

 

スラム街の地下。

 

50年前の騒動で放棄された地下通路だが、スラム街の各地にある地下倉庫同士を繋ぐそれらの幾つかは崩落もなく安全に通行できる。レユニオンはスラム街の感染者からその話を聞き出し、移動都市の縁からスラム街中心地に繋がる一つのルートを確保していた。

 

レーダー等に探知されないよう、ステルス兵を中心とした15名の隊が暗闇の中を歩いていく。

 

「それにしても幸運だったな。地下通路の出口にあるビルに奴らが基地を構えていたとは」

 

リーダーのステルス兵隊長が呟き、ニヤリと笑う。

 

「これで奴らの指揮系統を乱すことが出来れば、我らの勝利がより近くに来るというものだ…」

 

「静かにしてくださいよ隊長。奇襲の成否はまだ決まってませんし、ステルス兵らしく息を潜めてください」

 

側の部下が呆れた様子で注意するが、兵隊長のお喋りは止まらない。

 

「まあまあ、若いの。地上班の連絡で奇襲がバレていないのは確実なんだ。100m圏内に入ったら仕事に入るが、それまではいくら喋ったところで大声を出さなければ全く問題ない」

 

その言葉に部下が押し黙る。確かにここまでの道のりで出会ったのは地上から迷い込んだらしい羊とネズミが数匹くらいで、警戒すべきセンサーの類いは仕掛けられていない。地上から5mの深さにあるこの場所での話し声が聞かれる危険もない。

 

「確かに、あまり静かにしていても良くないですね…そうだ。実は故郷からの手紙で俺の妻が――」

 

部下が楽しそうに始めた新しい話題は、突如飛んできた火球に遮られた。

 

「――敵襲!重装兵は前に出ろ!」

 

兵隊長の一声で突如飛来したアーツに混乱しながらも陣形を組み直し、重装兵の背後に回った術士達がアーツの詠唱を始める。

 

「どうやったのか知らんがバレているな。重装兵を前列に据えたまま前進するぞ。一本道だ、距離を詰めるだけ詰めるしかあるまい。通信兵は敵の通信基地の様子を聞いてくれ」

 

暗闇の中でそこまで指示をした兵隊長は、次々と飛来する火球のアーツを観察する。重装兵が受け止めた衝撃で下がる程に一撃一撃が非常に重い。火球の大きさも成人男性の頭部大はあり、かなり完成されたものだと見て取れる。

 

(これ程の実力者がロドスにいるのか)

 

レユニオンのリーダーたるタルラの実力は絶対的なものだが、レユニオンの幹部レベルの実力者がロドスには山ほど存在すると聞く。組織全体の兵力はそれほどでも無さそうだが、一人一人の実力が高い。

 

逆に言えば、何人もの犠牲を払ってでも一人を倒すことが出来れば、ロドスの戦力を確実に削げる。

 

「兵隊長、通信基地では得に変化はないそうです。地下通路への入口にはロドスの小隊が来たので現地の戦闘員が対応しているとのことです」

 

「通信基地から直前に出たのは?」

 

「ロドストップのアーミヤという女とその連れとの事です」

 

「相手は2人か」

 

兵隊長は一度別の戦場で、アーミヤと名乗るコータスの女が操るアーツを見たことがある。思い出すのもおぞましいが、あの時彼女が使っていたアーツは黒い閃光。炎系ではない。

 

「奇襲は失敗したがむしろ大きなチャンスだ。ここでロドスのトップを捕まえるか殺害かすれば我らレユニオンにとって大きな助けになるだろう。もう一人の炎系術士も恐らくはかなりの使い手だ。俺たち感染者の未来の為に、俺たちが命懸けで奴らの首を獲るぞ」

 

 

 

「――敵は全員で15、どうやらここで私達と戦闘するつもりのようです」

 

手のひらを暗闇に向けたまま、アーミヤはエイフィにそう囁いた。アーミヤのアーツは敵の感情を感じ取れる。敵の大体の位置が分れば、アーツを通して認識することである程度の情報を引き出せる。

 

「私のアーツで通路を照らしましたが、10メートル先に空間があるようです。一本道だと戦いにくいのでそこまで距離を詰めましょう」

 

エイフィの提案にアーミヤは無言で頷き、エイフィの手をとって歩き出す。たった2人での掃討作戦。いつもは指示をくれるドクターも、共に戦う他のオペレーターもいない。正真正銘2人だけの戦いだ。

 

長い連絡通路の中継地点にあたる空間、ロドスの訓練室程の広さがある闇の中をエイフィの炎が染め上げる。

 

「――一瞬で終わらせます。アーミヤさん、敵の位置を」

 

「1時に2、5時に4、7時に4、11時に5です。私は11時方向を、他は任せますね」

 

(!?)

 

ステルス兵たちは自分たちの居場所を即座に看破されたことに同様するも、エイフィの炎と炎の間にできた影に紛れて接近戦を試みる。

 

「私が、怖いですか?」

 

アーミヤの声が闇を伝わり、ステルス兵たちに届いた直後、黒い槍が地面から射出された。それも彼らの背中を宙に縫い付ける様に。

 

「あ、ガァッ!?」

 

5人分の血飛沫が鋼鉄の床を濡らす。中の一人が苦し紛れに投げつけたナイフもアーミヤは余裕を持って躱したが、それはもう一つの物を適確に投擲するための囮だった。

 

緩く回転しながらアーミヤとエイフィの間に迫るそれを見て、アーミヤは咄嗟に目を逸らそうとした。だが…

 

(もう遅い)

 

兵隊長が手元のスイッチを押すと同時に、それは眩い光で闇を塗り替えた。フラッシュ・バン。暗闇に慣れきった敵の視界を瞬時に奪ったはずだ。どんなに強力なアーツでも見えていなければ放てない。

 

「――死ね」

 

眼を抑えて蹲るアーミヤの首元を狙い兵隊長が駆け出そうとする直前、もう一人の少女であるエイフィに違和感を抱いた。目を庇った様子がなく、アーミヤに何かを囁こうとしている……?

 

兵隊長はエイフィの唇の動きを咄嗟に読んだ。

 

『少し熱いかも知れませんよ?』

 

「ッ!みんな!撤退――」

 

兵隊長が叫んだ声が、溶岩の煮えたぎる音に掻き消される。エイフィのアーツが作り出す自然界最大の暴威である火山の噴火が始まったからだ。

次々に射出される炎弾は、熱で対象を捉えられるエイフィの誘導に従ってレユニオン兵を正確に貫き、燃やしていく。

 

「畜生ッ、畜生ッ!」

 

兵隊長は辛うじて炎弾を自分のアーツで弾きながら、仲間が絶叫をあげながら灰と化していく様子を涙で滲んだ視界で認識する。

 

「殺してやる…俺が殺してやる…!」

 

歯を食いしばって駆け出した兵隊長は、アーツで作ったバリアを纏い、近くでのたうち回っている重装兵の盾を拾い上げて駆け出す。

せめて一矢報いなければ。

炎弾を真正面から受け止めながらナイフを構えた彼は、エイフィの後ろから立ち上がる彼女を見て嗤う。

 

「ロドスのアーミヤ、お前ごと死ね!」

 

振りかぶったナイフに氷のアーツを纏わせ、エイフィの喉元を刺し貫こうとする。

だが、それは叶わない。

 

「――私が、怖いですか?」

 

もう一度そう囁く彼女から、赤と黒のオーラが湧き出す。

キメラ。

そう名付けられた彼女のアーツは、兵隊長のバリアと盾を瞬時に貫き彼の心臓に届いた。

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