ボリシェ・コミン主義連合共和国
中核都市・デオッサ
デオッサは共和国の東部に位置する港湾都市だ。日本やイタリ・ローマ王国、大敷州帝国などと開戦していたものの艦砲射撃による軍港や都市機能の破壊、空爆による攻撃といった被害を受けていない。
なぜなら戦時中の不安に耐えかねた住民達の気持ちに応えた共和国陸海空軍がいよいよルシア臨時政府軍が目前まで来ているといったタイミングで臨時政府軍側に合流したのだ。
さて、そんな住民達は現在様子を見ながら先の時代の敗北者であるはずの皇族をはじめとするその他の貴族達の帰還を受け入れるのだった。
デオッサでは帝政時代に善政を行っていた貴族が支配していたが、突然起きた革命の際に都市の無血開城を行い帝政派住民の身柄の安全の保障と共に自分達貴族に付き従う住民達と共に大敷洲帝国領の樺島へ移送された。
これと同じ動きがムルモンスクやゴルバ・グラードといった現在自由革命軍が拠点とする都市の殆どが前者のように帝政時代に善政を執り行っていた貴族が支配していたこともあってかすんなりと臨時政府軍や自由革命軍を受け入れたのだった。
こうして日本皇国国防軍やイタリ・ローマ王国軍、大敷州帝国軍などと一緒に戦線を狭めて来たことで今日ついにここデオッサで日本皇国軍とイタリ・ローマ王国軍が合流した。
「私が母なるルシアの大地から引き離されている間にこんな事があったとは……社会党め自分達がこの世界の神にでもなった気なのか?」
ルシア臨時政府軍の司令部代わりに使用されているデオッサ市役所の応接室でこれまで共和国政府が行って来た人体実験や非ヒト種に対する冷遇といった所業をまとめた資料の冊子に目を通す中年の男……『バグラテオン・アレクノフ』は全く覚えていない赤子の頃に、この地を離れて敷州帝国の樺島に身を隠し、自身を慕い担ぎ上げてくれる皇族支持派の人々の期待に応えるようにこれまで敷州帝国軍と共に奉州と樺島でアレクノフ朝復活の日々を待ち続け鍛錬を重ねて先駆的な政治思想について記された書物を数え切れないくらい手に取り続けついには自らの指揮のもと臨時政府軍を率いて敷州帝国の地からこの地へ来るまで困窮した国民やこの一方的な破滅戦争に対して迷いが生じていた東方方面軍の者達を説得して首都・クワモスの近郊にあるこのデオッサの地にやって来たのだが、ここで初めて目にした現共和国政府が帝国時代の腐敗度合いと何ら変わりない状況である証拠を突き付けられて自民族の一部が低俗化したこともあってか失望で呆れかえっていた。
「社会党の奴らは国民に自分達が行っていることは正しいもしくは必要悪なんだと教え込んで来たことが生んだ最悪の結果だと思います。その異常性に気付いた者は消され、良き者から死んでいくという身勝手な事を一刻も早く止めなければなりませんな」
「ジュコーフ大佐やその異常性に立ち向かおうとする同志が増えて良かったことで希望が保てます。しかし、愛しきクワモスはジュガーリンに対して狂信的な者達が取り囲むようにして守りを固めていることから血を見ずして再び戻るには不可能に近いという事でしょうな。やはり数百年間無傷であったクワモスの地を力ずくにでも奪い返す手しかないのでしょうか」
バグラテオンはジュコーフという同じルシア民族の血が流れる戦友と共にクワモスに攻め込む或いは、軍部や住民にたいする懐柔といった切り崩し工作で社会党の連中を一気に仕留めるか、と考えてみたものの前者の選択の方が現実的で数百年間破壊されたことがなかったクワモスの地を自分達の手で血と瓦礫の山にしかねないことから胸が締め付けられる。
「しかしながら仮に首都を取り返せたとしても他の連中が中洋海のバルトニア諸島に逃れて他国には、被害者面という二枚舌で膠着させて我々を完全な悪人に仕立て上げる肚でしょうな」
「もともと中洋海の島々は一億人前後なら余裕で居住できる面積のほか農業に適した肥沃な土地が点在するうえ貿易にも適した土地でしたが、あの島々を取りまとめていたバルトニア諸国は今となっては社会党という寄生虫に乗っ取られて先住民族のバルトニア民族の方達に対する締め付けが続いている今、そのまま取り逃がしてしまえば今度こそ民族浄化の標的になりかねません。もしそうなってしまうならルシア民族史上最大の汚点となるでしょう」
これ以上一部の横暴なルシア民族が支配している地域の他民族に迷惑を掛け続けることにより犠牲が犠牲を呼ぶことによって自民族の子孫たちが流れ続ける血肉を利益に換えることを惜しまない吸血鬼民族と言われかない杞憂という名の毒蛇が二人のルシア人の心の中を這いずり回っていた。
「失礼いたします。ジュコーフ大佐、二ホンコウコク軍のフジタ少将がお見えになっております」
「そうか。フジタ少将、お入りください」
「失礼いたします。初めまして、ジュコーフ大佐ならびにアレクノフ皇太子殿下。お会いできて光栄であります」
「こちらこそ初めまして。ルシア臨時政府軍代表のバグラテオン・アレクノフです」
ここでジュコーフ大佐の腹心の一人であるチェパロア中尉を通して皇国国防陸軍第一機甲師団長の藤田誠也少将が一人で訪れたため、この膠着した状況を進展させるための助言者として迎え入れることにした。
「フジタ少将、わざわざ足を運んでくださりありがとうございます。只今、クワモス奪還についてアレクノフ代表と話し合っていたところです。我々ルシア人が解決すべき問題ではあるのですが……勝手を申し上げると、貴国二ホンコウコク側の意見を伺いたい所存であります」
「いえいえ。それはこちらも願ってもない事でして、実はもう作戦に関しては整っており後は臨時政府軍と自由革命軍の盟主たるご両名様に我が軍が提案する作戦の賛同を得たくて参りました。是非、我が国も伝統あるルシアの地を吸血し続ける共和国社会党という名の寄生虫を排除する為にも両軍の犠牲を無くしたいと考えております」
藤田は一台のテーブルを隔てて座っている二人の間にある椅子に腰かける前に深々と頭を下げると、一つの書類をテーブルの上に置く。
二人が日本側が提案した作戦がまとめられた一枚の冊子を手に取り内容を確かめると、感心したのか静かに頷きながら納得した表情を浮かべた。
「ここまで緻密に作戦を練られていることはともかく……我々の犠牲を避けるために二ホン軍単独で首都周辺の要塞線を破壊しつつバルトニア諸島への撤退遮断ですか」
「撤退遮断は今が絶好のチャンスです。現在、バルトニア諸島の戦力が薄まっている所に我が軍の海兵隊が強襲を仕掛ければ一網打尽にする事が可能です」
「しかし、二ホン軍だけで問題ないのですか?共和国はあの島に寄生するかのようにここぞとばかりに監視網を固めています。仮に突破できたとしても先住民の方達を盾にして卑劣な攻撃を仕掛けて来るかもしれません。我がルシア民族に泥を被せないために動いてくれることは感謝しきれない事です。私は今嬉しい反面、二ホン人の人達に対して自ら蒔いた種を拾わせていることに大変申し訳なく感じております」
「そうですか……ご安心ください。決して我が軍の戦力を誇張して自慢する訳では在りませんが、持っている力で出来る限りことを実行し、この世界で流れる血を減らそうという思いから両軍に成り変わってバルトニア諸島の寄生虫となり果てている共和国軍を放逐したいと考えています。恐縮ですが、今回はご理解をいただきたいと存じます」
バグラテオンは藤田の謙虚かつ真摯な姿勢を見て日本人という未知の存在である民族は他民族であるはずの自分達のこれ以上の労力と犠牲を減らすために動こうとする考えに対して感心し続けている反面、自分達に何かできることは無いかと考える。
「……承知いたしました。貴軍の健闘をお祈り申し上げます」
「ご理解とご協力を感謝いたします。それでは、失礼いたします」
バルトニア諸島に点在していた国々は、ルシア帝国時代は領土でも無ければ敵国という訳でなかったもののボリシェ・コミン主義連合共和国が十五年前にジュガーリンが国家総帥の椅子に座ると同時に共和国の領土拡張の対象となり、抵抗する間もなく併合され少しでも反対の声を上げれば蹂躙された過去があった。
しかし、今度は日本皇国という国が共和国を切り崩すためにこの島を電撃的に制圧すべく上陸しようとしている。
無論、日本側としては敵の共和国軍の戦力が八十年近く離れていることもあってか高い確率で非戦闘員の住民を巻き込むことなく制圧作戦を展開することが出来ることが大いに期待されていた。
バルトニア諸島・リーガ島
共和国軍沿岸要塞
バルトニア諸島の共和国軍沿岸要塞の開口部から夥しい数の重火器が覗き込んでいる。
沿岸要塞以外にもこの諸島はハリネズミの棘のように隠された対空網に覆われており、空中艦なども集中放火に晒すことで一網打尽にすることができる。
しかし、共和国政府派の徹底抗戦の場としての意識が昂りすぎたこともあってか未だに日本の戦力を目の当たりにしたことがないバルトニア諸島に駐留している共和国軍の司令官は本土の戦況を見て味方を心配するどころか連戦連敗の味方に毒を吐いていた。
「ジュコーフの野郎に勝てないなんてどうなってやがるんだ本国の連中は……この俺が行ってやりたい気分だが、総帥閣下からここを任された以上、ここを維持せねばならんな」
「司令官、我が軍の防御は万全です。本土から引っ張ってきた改装列車砲で上陸を図ろうとする敵に対して榴弾の雨を降らした後に僅かに上陸してきた敵を沿岸部に潜伏している部隊で殲滅し、諸外国からの仲裁を受けて停戦協定を協議させつつ異世界からのよそ者を祖国から追い出す話が出来るまで持ちこたえるには申し分ないと言えるでしょう」
「それにいざとなれば、例の”策”もあるからな」
「そうですな。奴らには異民族やヒトモドキ共に甘く優しいという共通点が有りますから……たまたま戦闘に巻き込まれた住民としておけば我が国に対する批判は何とか避けることが出来ることでしょうね」
司令官と副官の策は、弱みに付け込むという戦略的には優秀な打撃を与える素晴らしいものといえるが、逆に日本皇国やイタリ・ローマ王国、大敷洲帝国の三ヶ国の怒りに自ら火に油を注ぐ自滅の策の一つとなるのだった。
当然、史実における第二次世界大戦期直前基準を持つ共和国の哨戒技術では日本の無人機による夜間偵察と昼間における有人機に搭乗する観測隊員による肉眼での偵察を兼ねた強襲シミュレーションの実施といった目を誤魔化すことが出来るはずもなく全て筒抜けであった。
リーガ島沖
王国軍第二近衛竜騎兵隊と国防陸軍の特殊作戦群の混成部隊は共和国軍の警戒網の中を金剛型イージス艦に護衛された河内級強襲揚陸艦や大隅級輸送艦から発艦したホバークラフト式の上陸用舟艇・78式特揚陸艇が兵員や装甲車輌を載せて、島内で最も警戒が薄い部分から浸透して上陸する算段だ。
上陸の妨害となりうる警備兵を引き付けるために海軍が予め得た航空偵察隊からもたらされた情報をもとに、猫を盾に張り付けるような感覚で住民を盾にすることをさせまい為に陸軍の上陸とほぼ同時のタイミングで河内級から発艦した84式特殊攻撃機改Ⅲ型(史実におけるハリアーⅡの性能向上型)がリーガ島の防空網の破壊を行った次に海岸線に布陣する共和国軍の守備隊に対して掃射を加えてから強襲揚陸艦に戻っていった。
その次に国防海軍の駆逐艦やイージス艦などから発射された巡航ミサイルが再び島内の軍事施設に降り注いでは爆発し、瞬く間もなく戦力が大幅に削られた。
日本や王国側からすれば目が腐りそうになるほど国家防衛の名の下に他民族を容易く兵器の一つとして用いる戦法を戦闘経過と共に目の当たりにして来たが、今回のリーガ島強襲に両軍の精鋭部隊を投入することでそこまで我々をコケにしたいのなら倍返しにしてやってもいいんだ。という日イ両軍の上層部が共和国を物理的にどやしつけることや共和国による暴政の根元の一つに打撃を加えることに主眼を置いた本来の目的もあった。
この隠密な計画による急襲を予測することが出来ないでいた敵にとっては寝耳に水といえる一撃であり、自分達の周囲を覆う土煙が収まってから目にした光景は上陸用舟艇から夥しい数の装甲車輌が飛び出してきて自分達に向かってくる。
すかさず応戦しようとしたものの、91式装輪装甲車に搭載されているRWS機能付きの自動擲弾銃や82式歩兵戦闘車(見た目は史実における89式装甲戦闘車そのもの)の35mm機関砲による掃射も合わさり、三十分も経たないうちに海岸部に展開する敵は殲滅された。
海岸部に累々と横たわる敵の屍を後に上陸した部隊は、次に島の西部に位置する市街地へと向かった。
同島・市街地
同島のある市街地では、突然の停電に見舞われて混乱に陥っていた。自分達を盾代わりにするはずである共和国軍が蜘蛛の子を散らすように姿を消したかと思えば唐突な停電が起こったのだ。
さらにその直後、島の四方八方で爆破音や銃声が鳴り響き、プロペラのない戦闘機がよく分からない飛翔体を島内の軍司令部がある方角に向けて発射したり、海の方から飛んで来たと思しきよく分からない飛翔体が再び軍令部に飛んで行ったりと見たことがないものばかりも目にする情報量の多さからただ立ち竦んでしまうばかりだ。
住民の中には日本と王国に対する関心がある反面、まだ本性を知る由がないためどうせ共和国に成り変わる恐ろしき支配者になるかもしれないという不信な考えもあり、現実に嘆く者もいたが意外にもその不安はすぐに無くなることになろうとしていた。
「おい、海岸の方からが何か聞こえないか?共和国軍の奴らが戻って来たかも知れないぞ」
「海岸や発電所の方がいっぺんに爆発した中で共和国軍の連中が生きて帰って来れるわけないだろ?取り敢えず敵意がない事を見せないと……」
「そうだな。女性や子供は隠そう。共和国軍なんてもう落ち目に決まっている。奴らから支給された武器を街の広場に集めろ!!」
住民達はお互いの身を守るために力での抵抗をする事で相手を刺激するよりも共和国軍から持って戦うようにと言われた簡素な造りの銃や弾薬、武器などを街中から集めて街の中心にある広場に山積みにして集積していく。
そんな住民達を取りまとめていた市長の『アンタナス・ジェマイティス』は、共和国軍から支給されていた手榴弾を改造した自爆装置を身体中に巻き始める。それに気付いた住民の一人が彼に対して声を掛ける。
「ジェマイティス市長。貴方まさか……それ」
「いざという時は、これを押すぐらいの覚悟は出来ている。こんな老いぼれの命でこの島の島民の命を保障されるなら容易いものだよ」
「そんな。市長には生きてもらわなくては困ります!命なら我々も惜しくありませんっ!!」
「いいや。これ以上若くて将来有望な君らの血を流すわけにはいかんのだよ」
ジェマイティスは、自爆用の装置を体に巻き付けた次にガソリンが入った携行缶を手にする。住民達の引き留めに応じることなく起爆スイッチと携行缶を持って国防軍が来るであろう街道に向かってただ一人、歩み出したのだった。
同じ頃、日本と王国の混成上陸部隊はリーガ島内に舗装された四車線分の道路を伝って街に向かっていると、混成部隊の先頭を走行していた海兵隊の82式歩兵戦闘車のヘッドライトが数十メートル先の人影を照らし出す。
不審に思った隊員の一人が戦闘車の後部ハッチから出ようとした途端、「待ってくださいや」とすぐ後ろを付いてきていた装甲車から民間軍事会社『義誠連合会』の会長であり、民間人従軍者のチームリーダー的存在の『国光武之』が静かに隊員を制止する。
「あっ国光の親分さん。あそこに突っ立っている相手は、急に銃をこっちに向けて発砲するかもしれませんし……」
「立派に正業を全うされている堅気さんに代わって手を汚すのがワシら極道の仕事や。なあに、ワシに何ぞあっても後ろに同行しているウチの若い衆や舎弟連中がワシに代わって報復を入れてくれるからのう。ちょっとあそこに居るのと話してくるだけやから兄ちゃんはここで待っといてくれや」
隊員は民間人従軍者である彼をもしもの危険から守るために一度は厚意を断ったものの、二十代半ばである彼に対して温和な姿勢を崩さない三十代後半の国光は愛銃のニューナンブM60を右手に持ちながら左手で若い隊員の肩を優しく叩いた後に一人、人影へと歩いて向かって行く。
「若造っ!!そこで止まれ!!」
「言われんでも分かっとるわい。爺さんアンタ、次にそのまま今ワシが持ってるチャカを下に置けって言うつもりやろ?ちょいとチャカを使うた悪ふざけをしたくて来たんや」
「口が達者な若造だな。これくらいしなきゃ面白くないだろう」
数メートル先に居た人影……リーガ島の市長のジェマイティスが国光の一言を満足そうに受け取ると手に持っていた携行缶に入っているガソリンを自らの身体に浴びせる。
「流石は民衆思いの良い市長さんやのう。あんたがこの賭けに勝っても負けても絶対に島民の皆様には悪いことはせん。ただし、勝ったらワシはアンタの言う事を聞いてやってもええと思っとる」
「異国の……それも別の世界から来た若造が達者な口を叩きやがって。吐いた唾を呑むなよ……その下品な賭けに乗ってやる。その銃をよこせっ!」
ジェマイティスは敢えて一発だけの銃弾を入れていたニューナンブを国光から受け取ると、弾倉を勢い良く回して深く深呼吸すると躊躇することなく引き金を引いたものの、運よく銃弾が発射されなかった。
国光もそれを見てニヤリと笑うと同じ調子で弾倉を勢い良く回して躊躇なく引き金を引いた。
「爺さん。アンタは運の良い漢やな……何でも言う事を聞いたるで」
「………どうやらお主たち二ホン人の噂は信じたほうが良さそうだな。この街道をあと十五分進むと、リーガ島の中心街だ。既に武装解除の指示は出しているからそのまま街に来てくれないか?」
「爺さん。ワシらの事を信じてくれるんか?」
「殺すならワシの事をとっくに殺しているはずじゃ。それにもう共和国の見え透いた嘘っぱちのプロパガンダ何ぞ信用できんからな」
こうして国光による自分の身を顧みない賭けとそれに乗ったジェマイティスとの奇妙かつ大胆なやり取りを経た後に混成上陸部隊は中心街入りし、無事に非戦闘員の保護が行われたのだった。
この世界における日本の民間軍事会社の四割はヤクザ……即ち史実でいうところの暴力団が業界内を占めているものの、史実と違って日本が敗戦して第三国人と呼ばれる不良外国人が都市で跳梁跋扈しなかったことと一九四三年九月に第二次世界大戦が始まる数年前から国家を主体に差別解消政策や国家機構や司法による管理下によって被差別階層の者たちが多くいるヤクザの中でも博徒と呼ばれる部類が生業とする賭博が限定的に認められたことや、ヤクザが正業を持つことを推進した政策も差別解消の一環として行われたことから一般社会や善良な市民を恫喝し、恐怖させる暴力団化することが無くなった。
そのためこの世界の日本では現在、所謂ヤクザ組織と呼ばれる団体に属する人数は三万人前後であるもの八割が民間軍事会社に従事し、残る二割は司法の管理を受けた元来からの限定的な職を生業としている。
しかし、史実における暴力団対策法に類似する法律として組織犯罪対策法、通称・組犯対法が成立している。
リーガ島北部・共和国軍避難用水路
リーガ島の北部には万が一のための避難用水路が設けられており避難用の潜水艦が停泊しているが、これも上陸作戦が決行される以前から日本側が有人の潜水艦を用いた偵察は勿論、OOZ-5の偵察仕様といった無人潜水機を水路に侵入させた上での強襲シュミレーションを重ねたこともあり、共和国軍の混乱を突いた今がチャンスだと言わんばかりに先の第六ラグエリ強制収容所解放作戦で活躍した王国軍近衛竜騎兵隊と特殊作戦群の混成部隊が複合艇で水路から突入する。
水路の中は大型の潜水艦が通行しやすいように掘削されたのか、複合艇でもやすやすと通過していける程の広さだ。
仄暗い水路の奥深くにある岩盤を削り出して作った停泊地の横には、SC型に酷似した潜水艦が停泊している。
隊員達が複合艇を止めると、降りた隊員の一部が暗視スコープ付きのガスマスクを顔に装着し、催涙グレネードを潜水艦のハッチを開けて艦内に投擲していく。
間髪を入れずにサプレッサーを付けた9mm拳銃を構えた数人の隊員達が艦内に突入していくと、艦内から悲鳴や呻き声が聞こえて来る。
それから潜水艦内に突入した部隊が戻るまでの五分間に本丸である島内総司令部を地下から制圧していくための突入準備が完了して潜水艦を制圧し終えた隊員達が戻って来ると、一斉に57式7.62mm小銃を手に取る。
本作戦において、日本国防軍側が7.62mm弾の小銃を使用している理由に至っては、イタリ・ローマ王国が日本から提供された技術を基に三点バースト式の王国軍M38小銃(7.62mm弾使用)が銃弾の共有化を図るために量産され、先行で竜騎兵隊に配備されているからだった。
全員が揃うと同時に、各々の隊員が小銃を手に持って数メートル先にある階段を駆け上がる。勢い良く駆け上がった先では混乱した共和国軍兵士達が地上に向けて走り出していたものの、背後から突くようにようにして通路から銃弾を撃ちこんでは撃ち倒したり、銃剣突撃してそのまま突破を繰り返しながら敵勢力を徐々に地上まで追い詰めていく。
「カルロ、危ないっ……!」
今回もタッグを組んでいた相馬とカルロが狭い渡り廊下の十字路に差し掛かった瞬間、小銃を構えた兵士と鉢合わせてしまう。敵の方が早く気付いたこともあり、小銃を構えて待ち伏せていた。
彼女はこの一瞬で敵の小銃の銃口が隣を走っていたカルロの頭部向けられている事を見抜いて右手で彼を逃すようにして押し出しすが、敵から合計で三発の銃弾が発射された。
この時に左腕に一発と右腹部に一発が命中して貫通し、最後の一発は命中しなかったものの左太腿を掠めた後に大きく倒れ込む。
「何するんだお前っ!!」
大事な人間を傷付けられたことで動揺する気持ちを抑え込んで持っていたM38小銃を構えて彼女を撃った敵に対して銃撃する。
一斉に発射された三発の銃弾が、敵にめり込んで悲鳴を上げる事なく後ろに倒れ込む。
まだ息がある彼女に対して敵は頭部に三発の銃弾を受けたこともあり額に風穴が空いた他、脳の一部が額から垂れ出している。
「大丈夫…?左肩とお腹に二発だけど、両方とも銃弾が貫通しているわ……」
「あぁ……大丈夫です。一旦引きましょう!!」
彼女の出血を抑えるために応急手当てを施して肩を貸してその場から脱出しようとするが廊下の奥にある階段から十数人程の足音が聞こえて来る。
「カルロ、逃げて……っ!」
「そんなの嫌ですっ!アイツらの残忍を考えたら置き去りなんてしたくない。だったら、少しでも大事な人の側に居て弾丸とこの命が果てるまで動く事が、王国軍人としての務めであることですから……」
相馬はカルロを敵から逃がすために自分から離れようとするが、逆に彼は首を横に振って彼女を置いて逃げることを拒否する。
彼はそのまま彼女が持っていた57式小銃や持っていた複数の弾倉を手に持つと、装備の一つである22mm対装甲車小銃擲弾を差し込んで階段から降りて来た十数名の敵兵士に向けて発射する。
小銃から発射された擲弾はそのまま宙を舞って銃を構えようとした敵兵の前で炸裂し、彼らの悲鳴と同時に煙が長い廊下を覆いつくす。
「お前らが……悪いんだぞっ!」
目の前を煙が覆っている中でもカルロは小銃をフルオートで発砲し続け、弾倉一個分を撃ち尽くして再び小銃にリロードし終えるとそのまま単身で歩み始める。
彼が目の前の階段付近まで来た時には煙に覆われて気付かなかったものの、最前列の敵兵の身体から臓物が飛び出した状態の亡骸や階段の方の息のある敵兵が身体に擲弾の破片が刺さった状態でも這って逃げようとする光景が目の前に飛び込んできた。
今のカルロには彼らに対する同情の余地などなく、階段を登りながらホルスターから拳銃を抜いて一人また一人と頭部を撃ち抜いて息の根を止めていく。
彼がこの短い時間で派手な行動を起こしたことにより、先程よりも多い規模の敵の足音が聞こえて来たもののお構いなしに再び小銃擲弾銃口に差し込んだ直後に階段から勢い良く飛び出すと同時に敵に向けて発射し、命中させては炸裂した直後に容赦ないフルオート射撃を浴びせる。
「援護するぞ!バローネ曹長!」
「……」
カルロの存在に気付いた味方の隊員達が追い付き後ろから射撃援護を開始したが、完全に目の前の殲滅対象と化した敵の頭部に容赦なく銃弾をめり込ませていくことに夢中なのか発砲を続けている。
地下フロア中に途切れ途切れで鳴り響いてきた銃声が完全に止む頃には、平常心を取り戻して目の前に広がる惨い光景から目を背けたくなるほどだった。
―ここまで自分一人でやったのか―
援護に駆けつけてくれた隊員達がよく頑張った。と賞賛の声を掛けて来るものの未だに自分の手でここまでやったという事実が呑み込めずにいたが、以前の収容所解放作戦とは違って敵も銃火器を持って自分達に危害を加えかねない相手だから仕方ない事だと言い聞かせて無理矢理乗り越えるしかなかった。
何せ、彼にとって大事な人間である相馬の身を案ずる事が脳内の殆ど支配していたからだった。
その後日本側は重軽傷者こそ出したものの死者を出すことなくリーガ島を制圧し、無事に島民の解放にも成功した。
なお、残る二つの島にも海兵隊や特殊作戦群を上陸させたうえで浸透作戦を図ったこともあり、数時間後の午前五時には制圧が完了していたのだった。
三日後・カルロの自宅
合計で三発の小銃弾を身体に受けた相馬は、上層部の指示によって王国の首都郊外にある町のカルロの自宅で療養していた。
大胆にも思春期真っ只中であろうカルロの自宅で相変わらず際どい服装で二人分の広さがあるベッドに寝かされているがいい匂いが、彼女の鼻に入ってきて自然と目が覚める。
彼女が視認した先には自分の為に作ってくれたと思しき玉ねぎのスープやミートソースが真ん中に乗ったミートパスタが置かれていた。
そのすぐ横では彼女が日本から持ち込んだタブレット端末を借りてイタリア語訳された日本の書籍を読み始めた彼の姿が目に入った。
「いつもありがとう。今日は何の本を読んでいたの?」
「えっと……一人の男の子が愛する女の子の為にその子の舎弟として支えてあげるお話です!その……戦車が戦争の道具でなく。大衆に慣れ親しんで競技として使われている世界のお話でして」
相馬が中学生から高校生の間に連載され、アニメ化もしていたいわゆるラブコメ作品をカルロが興味津々な表情で読みふけっていた事に少し驚いた。
それだけではない、この作品は今の二人の状況に似ているシチュエーションが存在するのも見どころの一つだった。
しかし、今の彼女にとってその事よりもカルロが負傷して復帰に時間が掛かる自分の為に献身的に支えてくれることが嬉しくて仕方が無かった。
「言われた期間までゆっくりしてくれても構いませんよ」
話ながら食事を終えると、彼が薬を飲ませてくれたり傷を綺麗にする消毒液や良く効く傷薬を相馬の身体に塗る。
以前の解放作戦のショックが嘘のようにメンタル的にも成長したカルロを見てさらにソワソワした気持ちと嬉しさの気持ちのパラメーターが上昇してくる。
「………ねえ、カルロ」
「どうしました?シオリさん」
「今日も一緒にお昼寝してくれるかしら」
「それは、あと一巻読み終わるまでまってくださ………んっ」
「そんな事言わないの!今度は私が甘える番なの♪」
「あ、あ、あ、アレって甘えてたの内に入るんですか……って寝てしまった。僕も眠気が……シオリさんに抱きしめられると最近落ち着くような……」
カルロは続けてタブレット端末の書籍を読み続けようとしたものの、彼を抱き枕にしたい相馬によってベッドに引き込まれてしまいそのまま抱き枕にされるようにして抱きしめられるが、彼女に対してどこか温かみを感じながら二人で白昼の眠りにつくのだった。
ご覧いただきありがとうございました!
次回は第九話(なろう版では十七話)の投稿を予定しています!良ければ皆様の評価やご感想、お気に入りへの追加などお待ちしております!