あ、Twitter始めました。
「少し長引いちゃったね」
「はい。少しというかかなり、ですけど。もう12時です。夜中の」
「えっ、本当に?」
ええ、とリリは金色の懐中時計を手にして答えた。
短針と長針が見事に数字の12に重なろうとしていた。
ハチマンが復帰してから既に1週間が経っている。
リリのお陰で僕達は冒険者として軌道に乗った、安定してきたと言えるのかもしれない。サポーターひとりでここまで違うものなのかと、僕達は頻りに驚くばかりだ。
「それじゃあ、リリ、今日の報酬も稼いだ分の山分けでいい?」
「ベル様、もう少し物欲を覚えた方がいいと思います。ありがたく頂戴しているリリが言えた立場ではありませんが……人が良すぎです」
「あははは、大丈夫だよ。ハチマンの方が物欲無いから…」
「あぁ…そうですね。最早あれは欠損してるレベルです」
そう、僕達がこうして話せてるのはその少し離れた所でハチマンがモンスターと戦っている、いや、蹂躙しているお陰だからだ。
最近のハチマンの成長は凄まじい。僕と神様がで、デートした次の日からダンジョン探索する前からボロボロだった。詳しく聞こうとしても上手くはぐらかされる。
それにハチマンは報酬を山分けしようとしてもキッチリ1000ヴァリスしか受け取っていない。解散したら直ぐ何処かに行くから何か用事でもあるのだろうか…。
「うわぁ、本当だ。すっかり夜になっちゃってる…」
ダンジョンから出て空を見上げると既に闇の帳が降りていた。魔石が埋め込まれた街灯が暗い町を照らしていた。
「なぁ、『天界』で神は何してんだろうな」
ふとハチマンが空を見上げながら呟く。
「天界では神様達にはいくつかの義務があると聞きます。その最たる例が、下界で眠りについたリリ達、子供達の処理だそうです」
「それって…」
「はい。亡くなった人の、死後の進路ですね」
聞くに神の下す『魂』の精算は神によって千差万別で、天界での生活を許したり、想像を絶する責苦を与えたり、…例を挙げればキリがない。その『魂』は神の裁量一つで管理される。生前の振る舞いや、善や悪といった概念は存在しないらしい。神に気に入られるか気に入られないか。
「まぁ、最終的にはほとんどの者が転生させてもらえるようなのですが…とにかく、そんなこともあって、天界では激減した神様達の穴を埋め合わせるため、居残り組の神様達が今も不眠不休でお仕事をしていらっしゃるらしいですよ?次回の下界行きも、血なまぐさい厳重な『お話し』のうえで順番を決めるだとか」
「それでも何やかんやで仕事はするんだな」
「あくまで噂ですけど神様達の中では『仕事をしないと奴が来る』と言い伝えられており泣く泣くお仕事をせざるを得ない状況らしいです」
「『奴』って?」
「さぁ、リリもよく知りません。恐ろしすぎて名前も出せないんだとか…」
そ、そんなに怖い人?がいるなんて…。そんな所に行きたくない、いや死にたくない…と僕は本気で思ってしまった。神の憂さ晴らしに付き合いたくないからだ。
「…でも、リリは死ぬことに憧れていたことがありましたよ」
「ぇ」
「……」
「一度、神様達のもとに還れれば…今度生まれるリリは、今のリリよりちょっとはマシになっているのかなぁ、なんて…」
栗色の前髪が揺れ、顕になった大きな瞳が遠い目をしている。
「リ…リリッ!」
力一杯叫んだ。叫ばないと何処かに行っちゃう気がした。
「…ごめんなさい、変なこと言って」
「……」
「昔のことです。真に受けないでください。リリはこれでもたくましくなりましたから、今ではそんなことちっとも思ってません」
何も言えない。本人は既に立ち直っているからだ。この僕の持ってる感情を形にできず、言葉としてリリに伝えることはできなかった。
「なぁ、アーデ」
「なんでしょうか、ハチマン様」
「俺達はお前の役に立ててるか?」
「それは勿論です!ハチマン様達のお陰でリリはお金に困っていません…ありがたい限りです」
「そう、そりゃ…よかった」
ハチマンの声は何処か嬉しそうだったが暗闇のせいでその顔は良く見えなかった。
「さ、帰るか…」
「そうですね。リリも今日は【ファミリア】のホームに一度帰っておかなければいけません」
「俺はこの後用事が…」
「ハチマンっていつも何してるの?」
「徘徊」
「徘徊って…」
━━━━━━━━━━━━━━━
あれから3日経った。
部屋の掃除をハチマンがしている。というか家事の殆どをハチマンが負担している。ハチマンの家事スキルは驚く程高くあっという間に僕と神様の生活は改善されていった。
白いエプロンを身に纏い箒を持ち埃を払う姿は全国の母親に見て欲しい。きっと全会一致で100点満点の評価を得るだろう。
僕はハチマンだけにやらせるのもアレだから雑巾で床を磨いてる。因みにボロボロになった床はハチマンが全部張り替えた。本人曰く「ネット見てたら覚えた」そうだ。ネット?よく分からないけど本とかそういうやつだろうか…。
「おいクラネル」
「どうしたの?」
「この棚の上のバスケットって…」
「あっ!!」
「はぁ〜、返しに行くぞ」
エプロンを脱ぎコートに替えるハチマン。何やかんや言って僕達を気にかけてくれるのはハチマンが俗に言うツンデレって奴なのかな…。
「ハチマンって…ツンデレ?」
「バカなこと言ってねぇで準備しろ」
「は〜い!」
僕には兄弟がいないけどもしかしたら僕にお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな…。
「襟、乱れてるぞ」
そう言い僕の服装を整えてくれるハチマン。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「あ?」
「い、今のなしって事で…」
「ふっ、お兄ちゃん…ねぇ」
ハチマンが…デレた!?
ハチマンの照れた顔に意識を取られ【豊饒の女主人】までの出来事が思い出せない。ここからは切り替えていかないと…!
「本っ当っに、ごめんなさいっ!」
「あははは…」
ぱんっ!と手を合わせて勢いよく頭を下げる。
「顔を上げてください、ベルさん。私は気にしていませんから」
「いや、でも…」
「それなら、今度から気をつけるように頑張ってください。過ぎたことは戻ってきませんから、これからの行動で誠意を示すということで。それにハチマンさんにアーニャとクロエの相手をしてもらってるのでこちらから強く言う筋はありません」
そう、僕とシルさんがこうして話せてるのはカウンター席に座ってるハチマンが指から出した魔力の光で二人の気を引いてるからだ。…いつ見ても便利そうだなぁ。
【ニャニャ!】
【体が!体が勝手に!】
お詫びにというわけではないけど簡単な注文をする。ハチマンのよく食べるトマトパスタも一緒に。
「あれ、前にこんなの飾ってありました?」
店の端にある白色の本が視界の端をつついた。
「ああ、それは…お客様のどなたが、お店に忘れていったようなんですよ。取りに戻られた際に気付いてもらえるように、こうして置いていて」
ハチマンに遊ばれ…ゲフンゲフン、遊んでいたキャットピープルの店員さんがシルさん、そして何故かリューさんに独断で休憩を言い渡してたけど、大丈夫なのかな?
それに何かニヤついてたけど。
【ヒキガヤさん、口にトマトソースが付いてますよ】
【マジすか…】
【拭いてあげるので少しじっとしてください】
【いや、それくらい自分で…ムグゥ!】
【抵抗しても無駄です。振りほどけないでしょう?なんたってレベル4ですから】
【レベル4すげぇ…】
他種族からも評判のエルフ、その魔性の美はどうやらハチマンにも効いたようだ。ハチマンのこういう人らしい一面ってあんまり見た事ない気がするから見れて嬉しいな。
「なら、読書なんていかがでしょう?」
「え?読書?」
「はい。ベルさんは本をお読みになられないようですから。この機会にぜひ試してみては?」
読書かぁ…。英雄のおとぎ話を読んだ後感じていた、居てもたってもいられなくなるあの感覚。今の僕にはいい薬になるかもしれない。
「ありがとうございます、シルさん。僕、本を読んでみることにします」
【ハチマンさん、パスタは美味しいですか?】
【はい。俺トマト嫌いな筈なのにこうも食えるなんて、流石って感じです】
【私もミア母さんくらい上手く作れたら…】
【え?何か言いました?】
【いえ、何でもありません】
二人のやり取りに耳を傾けながらシルさんから本を受け取り僕達は店を出た。
━━━━━━━━━━━━━━━
クラネルがソファーで本を読んでる間に俺は地下から地上に戻りひっそりとダンジョンに潜る。アラストルとの地獄の特訓で自分に足りないのは発想力だと言われた。それもそうだ。幻影剣は剣を形にして撃つだけ。魔腕は魔力を形にして動かすだけ。そこに密度も威力もありはしない。雑魚いモンスターには効果覿面だがそれが対人、上級冒険者になったらあまり効かないのでは…という事だ。
だからより精度の良いものを作れるようにならなくては…。
走り、モンスターをフォースエッジで切り裂きながら想像し創造する。今までの使い捨てのような幻影剣なんていらない。より切れ味があり、より早く飛び、より多く造るように。何百回何千回作ろうとして砕け散っても諦めない。イメージしろ、常に最高の剣を…。決めつけるな、己の限界を…。
ブゥン…
見てくれは一緒で青く鈍く光っている剣が浮いている。それをそこらにいる蟻のモンスター一体に投射する。
「ギッ…」
断末魔を上げる暇もなくその体を真っ二つに割いた幻影剣。その威力は格段に上がり、速度も目にも留まらぬ速さに仕上がった。
「でも、まだだ…」
それを8本作り出し自分の両脇に固定し剣を構えモンスターの群れに突っ込む。何体かを同時に相手していると後ろから襲ってくるモンスター。その気配を察知し出していた幻影剣を一気にそのモンスター一体にその刃を飛ばす。そうすると…
「弐号機の出来上がりだな」
某世界的人気を誇るアニメのトラウマシーンの再現だ。それはさて置き、他に工夫を凝らし出した幻影剣を自分の周りをグルグルと回転させ近づいて来るモンスターを巻き込んだり、それを全方位に発射させたり、ターゲットにしたモンスターの真上に幻影剣を出し、ハリセンボンみたいにしたりと、自分でも惨いと思うような事を何度もした。
しかし、まだ足りない、全然足りない。そこでふと、思いつく。
「そうだ…俺自身を強化すればいい」
周りにモンスターが居ない事を確認してから身体中に流れる魔力をイメージで掴む。流れる水のような、迸る炎のようにな痺れる稲妻のような、吹き荒れる風のような、照らす光のような、飲み込む闇のような…
「掴んだ…」
掴んだイメージを体の隅々に行き渡らせる。満遍なく全身の神経1本1本に至るまで。
「できた…か…?」
青、ではなく体の周りがほのかに紫色に光った。
「ギギィーーーー!」
「少し、試させろっ…」
全身に魔力を流してる為消耗が激しい。これは一気に決着を付けないといけないか…。
「はあああああああっ!!」
モンスターに向かって走るとその速さは格段に違く、フォースエッジを一振するだけだ5、6匹は容易く切り裂ける。
「これなら!!」
フォースエッジを逆手に構えありったけの魔力を注ぎ込み本気で振る。
その斬撃は形となりモンスターの群れに進んでく。
ドゴォーーーーン!!
晴れた霧には何もなかった。沸いてきたモンスターを殲滅できたからだ。この威力、悪魔的だ!
「あ、れ?」
意識が遠のいてく、しまった、魔力を使いすぎた。コートの中に入れられたマジックポーションに手を伸ばそうとするが力及ばずそのまま倒れる。
「ファイアボルトォ!!」
何処か遠い所から聞き慣れた叫び声がする。あまりはしゃぎすぎるなよ…。
━━━━━━━━━━━━━━━
「……?」
「どうした、アイズ」
足を止めた私にリヴェリアが声をかける。軽く下層に行ってた帰りだがふと目に留まった光景に気を取られたからだ。
「人が倒れてる」
「モンスターにやられたか」
ルームの中央にぽつねんと、一人の冒険者が転がっていた。まるで行き倒れのように地面に倒れてるソレに2人は近付く。
「外傷は無し、治療および解毒の必要性も皆無…典型的な
よくも気絶するまで自分を追い込めたものだと、リヴェリアは感心してみせる。一方で私は膝に両手をついた姿勢で、その冒険者のコートと銀と黒の入り交じった頭髪を見つめていた。見覚えがある。つい最近見かけた冒険者だ。木箱に入っていたから記憶に残っている。
「この子…」
「む、よく見れば木箱に入っていた冒険者ではないか…あの馬鹿狼がそしった少年か」
合点がいったと理解を示す。
「リヴェリア。私、この子に償いをしたい。彼には辞めとけって言われたけど…」
「アイズはどうしたいんだ?」
「償いたい…彼達を傷付けたから」
「…アイズ、今から言うことをこの少年にしてやれ。
「何?」
リヴェリアは簡潔にその内容を教えてくれた。
「…そんな事でいいの?」
「確証はないがな。だが、この場を守ってもやるんだ、これ以上つくす義理もないだろう。…それに、お前のならば喜ばない男はいないさ」
「よく、わからない…」
わからなくてもいいさ、と苦笑するリヴェリア。
けじめをつけさせる為に去ってくリヴェリア。紫のコートに身を包み、頭髪が段々銀色に染まってく彼の頭を軽く持ち上げ正座した私の膝にそっと置く。
「っ…」
触れるな、と言われた気がしたけど関係ない、なぜならこれは私の償いなのだから。陶磁器を扱う様に彼の髪をそっと撫でる。今まで触った事はないけど男性にしてはやけにサラサラの彼の髪の毛は最高の手触りだった。
「zzz〜zzz〜」
安堵した様な顔つきになる彼は一緒に私の心を落ち着かせてくれる。
「ふっ……」
━━━━━━━━━━━━━━━
雪乃ちゃん、君は相反する難題を解けるかい?
結衣、君は人の本心を知れるかい?
由美子、君は自分の周りの変化を受け入れられるかい?
戸部、君は責任を知ってるかい?
姫菜、君は何故隠すんだい?
平塚先生、貴方は何故放任できるんですか?
陽乃さん、貴方は自分の無力さを知ってますか?
小町ちゃん、君は真に有能かい?
そして
「比企谷、どうしてお前は、こんなにも愛されないんだ」
僕の呟きは、今でも進む日常に掻き消されてく。今も、そしてこれからも…。
如何でしたか?魔具、ホントどうしよ…。3に固まっちゃってるからなぁ。
もし良かったら高評価とコメントを宜しくお願いします!作者のやる気に繋がります。