ダンジョンに出会いとボッチを添えて   作:テクロス

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メリークリスマスです!

テンポ早めにしてるのでご了承ください。


♯14 One of third+α

 

 

ー【ホーム】ー

 

バキリ、と音が立ちカップの取っ手が割れた。

 

「……」

 

本体は全壊こそしなかったが白い破片がバラバラになって散っていた。

 

「ベル君、ハチマン君、【ステイタス】を更新しておかないかい?」

 

謎の胸騒ぎは収まることを知らず何かの作業をするハチマン君と冒険に行きたそうにしてるベル君を見て酷く心配になる。

 

「あー、俺はクラネルの後で…」

 

「どうかしたのかい?」

 

「いやまぁ、靴紐が切れちゃって、交換してるとこなんで」

 

「分かったよ。それじゃあベル君、脱いで横になりたまえ」

 

ハチマン君も何やら不吉な事が起きてるらしい。これはやって損はないだろう。

 

【ステイタス】の更新をしてると扉をカリカリとする音がする。

 

「俺が行きます」

 

ハチマン君が出て行く。暫くすると戻ってきた。

 

「なんだったんだい?」

 

「黒猫が扉を引っ掻いてまして…」

 

不吉だ。不吉すぎる。

 

「よし、ベル君は終わり、ハチマン君も脱ぎたまえ」

 

うす、と返事し上半身を裸にする。その胸には綺麗なネックレスがあった。銀盤に紅い宝玉が両面に固定されており彼によく似合ってる。

 

「!!」

 

ハチマン君はベル君よりも先に特訓してたと聞くがまさかここまで差が開くなんて…。ベル君はヴァレン何某くんにしごかれてたがハチマン君の相手は分からない。でも相当過酷だったのだろう。結果は数字に出るとはバイトのおばちゃんもよく言ったものだ。

 

「ん?やべっ、もう時間だ。すみません神様、結果は帰ってから聞きます。行くぞ!クラネル」

 

「うん!」

 

「あ、ちょっ待てよ!」

 

一瞬口調が変わってしまったが彼らはそそくさと着替え出ていってしまった。

 

ハチマン・ヒキガヤ

 

Lv1

 

力:SS1090 耐久:S 980 器用:SS 1019 敏捷:SS 1000 魔力:SS 1027

 

「何だよ、SSって…」

 

しかもちゃっかりベル君を抜かしてる。こりゃうかうかしてられないよ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

ちり、と首筋が疼いた。この感じはあの雪ノ下陽乃に囁かれた感触と似ている。今までは気にもならなかった。『なんだ、視線か』程度だったのに今では腸が煮えくり返るような気分だ。俺はオラリオに来て短気になったのかもしれない。

 

「…」

 

これはクラネルにも同じ事が起こったのか2人して顔を合わせる。あの時と同じだ。【豊饒の女主人】に初めて行った日と同じ感じ。怪物祭の時と同じ。そう、きっとこの後想像もつかない様な事が起きるのだろう。なんなら今日がアラストルの言ってた2日後だ。

 

「リリルカ、クラネル、お前達は一旦地上に戻ってくれないか?」

 

「え?どうして?」「どうしてでしょうか?」

 

「いやまぁ、ほら、さっきお昼食べただろ?この先嫌な感じがするからフローヴァさんにリリルカと弁当を返しに行って欲しいなって」

 

「別にいいけど…ハチマンは行かないの?」

 

「そうですよ、お独りで残る意味があまり感じられませんが…」

 

「ほら、別に3人で行く意味なんて無いし、それにリリルカはクラネルが戻って来る時に女性を誑かさないように見てて欲しいんだ。ドロップアイテムとか売って荷物を減らしたいしな」

 

「ええっ!?」「分かりました。そこまで言うのなら…」

 

困惑するクラネルとクラネルにジト目を向けるリリルカは地上に戻って行く。

…これで、よかったんだ。

 

リリルカ、お前のモンスターとか、ダンジョンの知識はとても役に立った。こんな頼りない俺達を信用して着いてきてくれて、とても嬉しかった。ありがとう。

 

ベル、ベル・クラネル。俺の名前をマトモに呼んでくれた仲間。最初は甘い奴だなって思ってたがその芯の強さは誰よりも俺が知ってる。いや、神様の方が知ってるのかもな…。お前は十分ではないが強くなった。それにリリルカもいる。きっと俺が居なくてもお前はやっていける。…そう俺が信じてる。

 

クラネル、お前はもう1人で走れる

 

目の前の通路に目を向ける。禍々しい雰囲気だ。この感じ、オラリオに来るちょっと前のトラックに轢かれる時の感覚かな。『死』が手招きしている。怖い…怖い…本当なら今すぐ俺も上に行って「連れてってくれ」なんて言ったらアイツらは笑顔で受け入れてくれるだろう。ダメだ、そんなの、ダメなんだ…。またダンジョンに行ったら俺達共々殺される。これだけは回避しなくては…。

 

理想通りにいけば、さっさとこの先の『死』を排除してここに戻ってアイツらをここ、9階層への入口で迎えること。

 

「行くか…」

 

遺書もない、祈りも済ませてない、願いも叶えてないし愛も誇りも探究心だって満たされてない。それでも行かなきゃいけない。頭の中でクドクド言ったって誰も見てやしないんだ。

 

歩いていてもあれだから暫く走っていると広いルームに入る。パッと見体育館位のルーム。しかしその光景は凄惨だった。

 

「なんだこれは…」

 

死体まみれだった。中央付近に2体のモンスターがいる。赤い牛、始まりの日に散々な目に合わされた思い出がある、『ミノタウロス』。もう一体は1本角に黒い体に光る拳をして今にも拳を振りかざしてる化物。

 

「ひ、ひぃぃ!!」「助けてぇぇぇ!!」

 

泣き叫ぶ2人の冒険者がいる。どっからどうみてもピンチだ。不味い、助けなくては…。

 

間に合え、間に合え!!

 

ガキン!!

 

フォースエッジでなんとかその拳を受け止めて、その衝撃で吹き飛ばされるがなんとか体制を直す。

 

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「グルルルルルル…」

 

2体のモンスターは俺を見つけるなり敵意をむき出しにしてくる。よし、何とか注意は引けた。

 

「そこの2人!逃げろ! 」

 

コートに入れてたポーションのありったけを魔腕に持たせ怪我をしてる冒険者にかける。これでなんとかうごけるようにはなるだろう。

 

「あ、ありがとう!」「助けを呼んでくる!それまで、持ちこたえてくれ!」

 

(はっ、期待しちゃいねーよ)

 

2体のモンスターに交互に目を向け確認する。

 

(あぁ、死にたくないなぁ…)

 

やっぱり、俺は臆病だ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

ー【7階層】ー

 

リリと僕はいつもより少ないモンスター達に警戒しながら進んでいた。

 

「ねぇ、リリ…」

 

「? どうかしましたか?ベル様」

 

「ハチマンの様子、おかしくなかった?」

 

「言われてみれば少し変というか…。どこか優しい目をしていました」

 

そう、ハチマンは笑顔だった。まるで、何かを諦めたかのような…そんな笑顔。

 

「うん…。やっぱり僕、戻るよ」

 

「よろしいのですか?」

 

「おかしいよ、ハチマンがあんな事を言い出したのは僕とハチマンが“嫌な予感”をした後すぐだった。よく考えてみれば僕達をそれから逃がすため…なのかな…」

 

「考えすぎなのでは?」

 

「そうだといいんだけど…」

 

踵を返してハチマンの元に向かう。大丈夫だといいんだけど…。

 

ー【9階層】ー

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

「ガアアアアアァァァァ!!」

 

「ブルルルルァ!!」

 

な、なんだよ、これ…。

 

そこには2体のモンスターを相手に剣を振るうハチマンの姿があった。トラウマの象徴たる【ミノタウロス】と見た事も聞いたことも無いモンスターがハチマンに寄って集って襲いかかっていた。

 

「どうしてだよッ!ハチマンッッ!!」

 

どうしていつも、ハチマンは遠くに行っちゃうんだよ…!

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「…2人かな」

 

遠征に出ている【ロキ・ファミリア】の幹部達のそれぞれが音に反応する。

 

丁度面々が通過しようとしてる十字路、その右手の方角から激しい足音が聞こえる。

 

「なーんか、やけに慌ててるね。声かけてみる?」

 

「止めなさい、ダンジョン内では他所のパーティに基本不干渉よ」

 

「ねえっ、どうしたのー!」

 

「…馬鹿たれ」

 

声を大にして呼びかけたティオネに姉のティオナはがっくりする。

 

「って…げぇっ!?あ、【大切断(アマゾン)】!?」

 

「ていうか、【ロキ・ファミリア】!?え、遠征!?」

 

「よし、黙ろうぜ?んで、こっちの質問に答えろ。お前達は何してんだ?キラーアントの群れにでも襲われて、仲間でも見捨ててきちまったか?」

 

「そんなわけあるかっ!あんなのに比べたらキラーアントの方が万倍マシだ」

 

「ミノタウロスと、新種が出たんだ」

 

「「「「!!」」」」

 

フィン、ベート、ティオネ、ティオナ、アイズ、リヴェリアが驚愕する。

 

話を聞くとルームで殺されそうな時に紫のコートを着た少年に助けられたらしい。新種は拳を、ミノタウロスは天然ではなく()()の大剣を装備していたこと。

 

「そのミノタウロスと新種はどこで見たの?」

 

「きゅ、9階層、動いてなければ…」

 

「…フィン」

 

「ああ、分かってる、隊はこのまま前身!指揮はラウル、君がとるんだ!」

 

「は、はい!?」

 

「…まさか、行くのか?」

 

「親指が疼いてるんだ。見にいっておきたい。それともリヴェリアは残るのかい?」

 

「…フィンの勘が働いてるなら確かだな。どれ、私も行かせてもらおう」

 

思い思いに第1級冒険者達は、9階層へと先行するのであった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「なぜ来たんだぁッ!!」

 

俺の怒声がルームを包む、その相手は勿論クラネルとリリルカだ。入口に立ち尽くす2人の顔は名状しがたかった。

 

「だって…だって…」

 

「フーー、フーー…」

 

不味いッ!ミノタウロスの目的が俺からクラネルに変わった!

 

「ハチマン1人じゃ無理だろ!?」

 

「なん、だとっ…」

 

化物の拳を受け止めて吹き飛びながらクラネルの煽りを受ける。俺の体はクラネル達の近くまで転がった。

 

「がはぁっ!」

 

「ハチマン、お願いだよ。ハチマンの目には僕達は足でまといに見えるの?」

 

歩み寄ってくるモンスターの動きを止めるため魔力で結界を作り時間を稼ぐ。この時間でクラネル達を帰さなくては…。

 

霞む視界の中でクラネルは涙声になりながら聞いてくる。

 

「そんなにも僕達は弱いの?」

 

「っ…そうだ!クラネル、お前は泣き虫で!臆病で!頼りない!挙句の果てには美神と美人の知り合いがいて!そんなお前が死んでみろ!悲しまれるだろ?俺は違う…何も無い。心から愛してくれる神もいなけりゃ毎回弁当を作ってくれるような人もいない。タダのパフェとオリーブ抜きピザと激甘コーヒーが好きな変な奴だ。ほらな、死んでも損は無い」

 

「っ……」

 

「行けよ…リリルカ!クラネルを引きずってでも逃げろ!」

 

「いや…です…」

 

「行けよ!!」

 

化物の拳が結界にぶつかる。それだけでミシッとひびが入る。釣られてミノタウロスも剣撃を繰り出される。この結界も長くはもたない。

 

「ハチマン、僕は悲しいよ」

 

「ハチマンが死んじゃったら悲しいよ…だってハチマンは僕の初めての仲間だもん…。だからそんな悲しいことを言わないでよ。そしてお願い、僕と一緒に冒険をしない?」

 

ボロボロの俺に手を差し伸べてくるクラネル。暗いダンジョンがやけに明るく感じる。今俺はどんな表情をしてるのだろう。それが気になって仕方ない。やっぱりっていうか、敵わないなぁ。

 

「分かった。クラネル、冒険をしよう。他の誰もが出来ないような冒険を、そしていつか辿りつこう…」

 

差し伸べられた手を握り返す。いつの日か握れなかった手をこんな場所で握れるなんてな。

 

「「誰もが到達してない境地へ」」

 

「僕は英雄になりたい、ハチマンは?」

 

「俺は…愛と誇りと力への探究心を満たす」

 

「欲張りだね」

 

「うっせ、良いだろ?別に」

 

バキィ!

 

「リリ!取り敢えず隠れて!!」

 

「は、はい!」

 

結界を解除した瞬間二手に分かれる。さっきまでいた場所に化物の攻撃が当たり間一髪で回避できた。

 

「クラ…ベル!お前は因縁のミノタウロスを!俺はこっちを殺る!」

 

「! 分かった!ハチマン、気を付けて!」

 

「当たり前だっ」

 

さてと、これで2対1から1体1ⅹ2になった。勝機はまだ見えない。でも、掴んでみせる。

 

「グルルルォォォォ!!」

 

吠える化物がこちらを見据えてる。

 

「来いよ!ぺちゃんこ鼻!そのブサイクな顔、ベコベコにしてやる!」

 

煽りに引っかかったのか繰り出される右ストレートをフォースエッジで横にずらす。その威力で右手が痺れるが向かってくる左フックをしゃがんで回避。右手の握り拳を振り落としてくるが地面をローリングしてなんとか回避する。そのままフォースエッジを胸に突き立てる。

 

「グオオオオォォォ…」

 

突き立てたフォースエッジを握ってる右手を掴まれる。そのまま奴の拳を受けそうになるが体を捻る事ですんでのところで躱すことが出来た。ガラ空きになった化物の顔に幻影剣を幾つか投射すると怯んだ化物は手を離してくれる。その隙に魔腕で奴の腹を数回本気で殴る。

 

「ガアアアアアァァァァ!!」

 

よろめかせることができたがダメージはあまり見受けられない。距離をとって様子を見る。化物は恨めしそうにこちらを見てくる。背後に目をやるとベルがミノタウロスと死戦を繰り広げている。あっちはあっちで大変そうだ。

 

「グウウウゥゥゥ…」

 

背中に白い翼を出現させた化物はそこから白い光弾を出してくる。それを幻影剣でなんとか相殺する。その後両手を地面に着けた化物はこちらに突進してくる。

 

(とんでもない速さ…!)

 

あっという間に距離を詰められる。

 

(ダメだ!回避できない)

 

魔腕を出し奴の頭を抱え受け止めようとするが体が浮き壁に激突する。

 

ザシュッ…

 

化物の曲がった角は俺の心臓に突き刺さった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

ミノタウロスの一撃は重く痛く、そして辛い。

でも、何よりも。

恐い。もう、立ち上がれないくらいに。

 

地響きが徐々に近付いてくるのがはっきりとわかり、身の毛が逆立つ。

ゆっくりとミノタウロスはこちらに迫っていた。ハチマンも突進をされてダウンしているのが暗くてよく見えなくても分かる。

 

ーもぅ、無理。

 

「……?」

 

地響きが止まった。恐る恐る顔を上げると…

 

「────」

 

あの人が、いた。

 

「……」

 

澄んだ黄金の長髪。蒼色の鎧。銀のサーベル。

いつぞやの光景と同じように、こちらに背を向けて立っていた。

 

「…大丈夫?」

 

「…頑張ったね」

 

「今、助けるから」

 

ーたす、け?

 

視界の中の光景に色が戻った。灼熱の色が、灯った。

 

助ける?

助けられる?

また?

この人に?

同じように?

繰り返すように?

誰が?

ー僕達が?

 

「ッッッ!!」

 

僕の足は地面を蹴り飛ばした、立ち上がり再起する為に。

 

「…ないんだっ」

 

「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかいんだっ!」

 

腹の底から叫んでナイフを構える。

 

「ハチマンッ!いつまで寝てるんだよ!!ついさっき一緒に冒険するって言ったじゃないかッ!!!」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

まただ、またウユニ塩湖みたいな光景の中にいる。

 

体に力が入らない。

死んだのか?

頭の中についさっきの光景(情景)が映る。

 

(辿りつこう)

 

((誰もが到達してない境地へ))

 

そうだ、あんな事を言ったんだ。言えたんだ。

 

ーそれで満足か?

なわけ…

ーではどうする?

諦めない

力を振り絞り立ち上がる。門の前に立ち手を付け力一杯押す。それでも扉はビクともしない。

『押してダメなら諦めろ?千里の道も諦めろ?』バカ言うんじゃねぇ!まだやりようはいくらでもあるだろ!引いてもない、持ち上げてもない、引戸かもしれない、持ち上げられるかもしれない、まだ何も試してないじゃねぇか!1パターンダメだっただけで何諦めてんだよ!

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

力だ!境地へ辿り着く為の力を!もう二度と!無力だなんて言わせないように!

 

ゴゴゴゴ…

 

門が少しだけ、腕1本分は開いた。そこに手を突っ込む。

 

カチャ…

 

何かに触れた感触がする。それを掴み思いっきりこちら側に引き込む。

 

「はあああああああああああああ!!!!」

 

それは日本刀だった。見た目は黒い鞘に金色の鍔、黄色の下緒、群青の帯、そして白色の柄だ。鞘から刀を抜いて見てみるとそれは綺麗な刀身をしていた。

 

「これなら…」

 

刀をより強く握り自分の中に確かにある意志を確認する。

 

『ハチマンッ!いつまで寝てるんだよ!!ついさっき一緒に冒険するって言ったじゃないかッ!!!』

 

声が響く、ベルの声だ。全く、ゆっくり寝させてもくれねぇのか…。

 

「今行く」

 

視界が真っ白に包まれる。そして待ってろよ、ベオウルフ。泣きっ面に蹴り入れてやる。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

化物即ちベオウルフは困惑してフリーズしていた。おかしい、こんなにも手応えがないなんて…。何の為に這い上がってきたと思っているんだ!…と。

 

虚無が彼を支配する。視界の端でチラチラとしてる有象無象共がウザったらしく感じる。

 

殺してやる…ひき肉にして骨の髄までしゃぶり尽くしてやる。ここの人間はどれも美味いからな。そう思い狙いをあの銀髪のガキにしようとすると

 

ピュー!

 

口笛がルーム内に響く。何事かと振り返ろうとするとベオウルフの顔にドロップキックが綺麗に決まる。その犯人は言わずも知れた男、ハチマンである。

 

ズズーン…

 

5m近く飛んだベオウルフ。なびく紫のコートとその髪の毛の8割近くが銀色に染まり肌も少し血の気がなくなったハチマン。

 

「さてと、第2ラウンドと洒落こもうぜ?」

 

さっきみたいな切迫したような雰囲気はなく余裕そうな顔をしてる。

 

「ハチマン!…髪の毛が」

 

「あ?これか?別に歳食った訳じゃないから気にすんな」

 

ベルの顔が喜びの感情に染る。

 

2人して背中合わせの形になる。

 

「ベル、この勝負、勝ちを獲るぞ」

 

「うん!負けられない!」

 

ハチマンの前にベオウルフ、ベルの前にミノタウロス。どちらも笑ってるような顔をしてる。

 

「「勝負だッ…!」」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ま、ダンジョンで獲物を横取りするのはルール違反だわな。ふられたな、アイズ」

 

少年達の熾烈な戦いを前にベートは呑気に笑う。ルールにはベートとティオナに続いてティオネが到着し、遅れてリヴェリアとフィンが到着した。

 

「あの白髪頭…もしかして、あの時のトマト野郎か?くっ、はっはははっ!お!それにスパゲティ野郎もいるじゃねぇか!よく見ればあいつも白髪になってるじゃねぇか!流行りか!?」

 

「白じゃない、銀色」

 

興奮しているベートに珍しくアイズが突っ込む。

 

「んなの別に変わんねーだろ」

 

「だったら…犬も狼も変わんねぇよなぁ?」

 

【ロキ・ファミリア】一同が振り返ると影の中から1人の男が出てくる。

 

「お前は…!」

 

「アラル神父…」

 

老化による白髪をオールバックにし、ダンジョンにも関わらず神父服を着ている初老の男、アラストル改めアラルがそこにいた。

 

「おっ、あいつ染まってきたか!」

 

目の前でベオウルフと戦いを繰り広げてるハチマンに目を向ける。

 

「グオオオオォォォ!!!」

 

迫るベオウルフの拳を右手と右魔腕で受け止め、そのまま離さず左の拳をベオウルフの顔にぶち当てる。ベオウルフの体は宙を浮き壁まで吹き飛んでいった。

 

「ねぇ、リヴェリア。あの紫の子って…」

 

「私の記憶が正しければ木箱に隠れていた少年の筈だ」

 

「Lv1のはずでしょ?」

 

「動きと力がLv1とは段違いすぎる…」

 

「ナイフ使ってる子も同じようだ…」

 

そう、さっきまでワンサイドゲームだったはずの戦いは渡り合えるようになっていた。

 

ベルの冒険はミノタウロスとのギリギリの戦い、アイズ・ヴァレンシュタインとの訓練で学んだ“駆け引き”が最大限、いや、その限界すら超えて活かされていた。

 

あの子(ベル)、駆け引きが上手いね」

 

感嘆の声を漏らすティオネ、その感想は自分の戦いとは全く違う故に出てきた本心だった。

 

対してハチマンの冒険はベオウルフを蹂躙するものだった。彼を支配する絶対的な余裕はアラストルの記憶に一致するあのベオウルフをもってしても崩す事ができていない。

 

「あの身のこなし…一体どんな鍛え方をしたの?」

 

「テクターギアっていうとても重い鎧を着けて格闘戦をやってた」

 

「「え?」」

 

アイズによるわけのわからない単語が出てきた為困惑する一同。

 

「付け加えればそれ込みでオラリオ1の早馬で追い回しながら弓を撃ちまくって躱させたり、ひたすらオラリオ外周を走らせたり、バカでかい鉄球を拳で割るまで帰らせなかったり…」

 

その他耳を塞ぎたくなるような訓練内容をアラルから聞かされたベートは驚いた。ついさっきまで雑魚虫みたいな奴がここまで化けるなんて…と。しかしそれを証明するかのようにハチマンは強くなっていた。

 

「オオオオオオオオオオッ!!」

 

雄叫びを挙げるベオウルフは両手を地面に着け、突進の構えをしている。まるで『受け止めてみろ』と言わんばかりに…。

 

「来いよ!」

 

フォースエッジをしまい、魔腕と両手を広げるハチマン。その行為は冒険者としては正に悪手そのものだった。

 

「あの子、バカなの…?」

 

「いや、間違っちゃいねぇ」

 

そうベートが反論する。

 

「ベートが擁護するとは一体どういう風の吹き回しなんだ?」

 

「うっせぇよババァ…。確かに躱すのは誰でも出来る。少し飛べばいいんだからなぁ…。でもなぁ受け止めるのは誰にもできる事じゃねぇ。あの目を見てみろ、ありゃ逃げねぇやつの目だ」

 

ベートのハチマンに対する見方は変わっていた。スパゲティのソースを飛ばしてきたり正論でぶん殴ってくるようないけ好かない奴だったはずなのにまっすぐ立ち、その目の奥に燃え盛る炎を見抜いていたから変わったのだ。端的に言い表せば“見直した”と言う。

 

「ガアアアアアァァ!!」

 

突進してくるベオウルフの両肩を魔腕で掴み、頭の角を生身の両手で掴む。

 

ガガガガガガ!!!

 

地面の抉れる音がし、それでもハチマンは踏ん張る。それが功を成しベオウルフの突進を受け止めきる事ができた。

 

「グウウ…」

 

何を思ったかベオウルフが翼を展開すると両腕が急激に白く光出し、それを地面に叩きつけると拳を中心に広範囲が激しい轟音と共に光に包まれ砂ぼこりが舞う。

 

同刻、ミノタウロスと戦っていたベルもミノタウロスの一撃を防ぎきれず吹き飛び壁に激突する。

 

「ねぇ!助けに行かなくていいの!?」

 

貧乳が目印のティオナがハチマンを助けに行こうとすると目の前に目の前にリリルカ・アーデが遮るように立つ。

 

「……て…さい…」

 

「え?」

 

「やめて、ください…。ベル様とハチマン様の戦いはまだ終わってません…!お願いです…手出しはしないで、くだ、さい…」

 

震える声と足で懇願するリリはティオナを止めるのに十分だった。なぜならティオナも心のどこかで手を出すのに躊躇していたからだ。本当はリリも止めて欲しかった。それでも彼らのやり取り、絆を見たら止めずには居られなかった。きっと、ティオナを行かせるとリリの人生で一番後悔するかもしれないと思ったからだ。

 

グググ…

 

その声に呼応するようにベルが立ち上がる。その目はまだ闘士に燃えている。

 

煙の中から黒い物体が飛び出した。人の大きさではない、ベオウルフだ。地面を転がったベオウルフは煙の中を見る。

 

バチバチ…

 

何かが弾ける音がした数秒後霧が晴れ、その中にいたのはコートの無いハチマンだった。あの爆発に耐えるため全身を覆うコートに魔力を流し耐久性を上げ身を守ったからだ。そしてその手にはフォースエッジでなく、日本刀を握っていた。

 

「すまない…」

 

ベオウルフに向けて詫びの言葉を入れるハチマン。

 

「お前を侮ってた、心の何処かで油断してた。でももうしない。少し本気を出すとするか…!」

 

ハチマンの強化技【トリガー】を発動させるといつもなら紫に包まれる体は蒼色に包まれた。

 

「死ぬ気で来い…殺してやる」

 

「グオ゛オ゛オ゛オ゛ォォォ!!!!」

 

翼を展開したまま有り得ない速度で突進し、拳を突き出すベオウルフ。だがそれはハチマンの日本刀【閻魔刀】の鞘を振り上げることで弾かれる。よろめいた隙を逃さないハチマンは抜刀し上下にベオウルフの胸を切り裂く。これ以上の追撃をさせないため光弾を出し牽制するがそれも左手に持つ鞘で弾かれる。なんとか距離を取ったベオウルフは地団駄を踏む。するとベオウルフの目の前に天井から人2人分の大きさの岩が落ち、それを殴ることでハチマンに飛ばすがそれすらも【閻魔刀】の餌食になる。

 

(やはり…敵わないな)

 

最早万策尽き諦めかけたベオウルフ。しかし、彼の思う“奴”がそれを阻む。

 

(お前は俺に立ち向かってこそお前だ)

 

グッ…

 

握り拳を作る。

 

きっと死ぬかもしれない。それでも辿り着きたい高みがある。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

今までと比にならない程の雄叫びを挙げるベオウルフは決死の覚悟でハチマンへと向かう。翼を広げ全身全霊を込めたパンチを繰り出す…

 

ギャギャギャギャギャギャギャギャ!!

 

しかし電源を入れたミキサーとその中の果物のようにその右腕は肉塊と化し、後ろからハチマンの声が聞こえる。

 

「終わりだ」

 

飛び上がりながら幻影剣を打ち出し全身へとその剣を刺しまくり、その間も肩や左目を【閻魔刀】で切り裂かれる。

 

ストッ…

 

目の前に降り立ったハチマンの左右には4本ずつ幻影剣がある。【閻魔刀】を納刀し杖のようにしたハチマンはベオウルフを仁王立ちで真っ直ぐ見ながら告げる。

 

「これが貴様の…墓標だ」

 

ガガガガガガガガ!!

 

ベオウルフの首や心臓付近に幻影剣が深く突き刺さる。

 

「せめてその魂、俺が頂こう…」

 

ベオウルフの遺体は霧散する。その中から光が出て来、ハチマンの両手両足に纏わると光が晴れると籠手と具足があった。

 

バキバキ…

 

天井からモンスターが4体程湧いて落ちてくる。

 

「邪魔はさせねーよ」

 

拳を突き上げながら飛び上がったハチマンは一番先に落ちてきたモンスターの顔を殴るとモンスターは弾け、その体を踏み台にしその次を相手取る。縦に回転しながらモンスターにかかと落としを繰り出す。また踏み台にし残りの2体のモンスターを睨む。

 

「くらいやがれ…昇ry…ゼスティウムアッパー!」

 

重なって落ちてくるモンスターをアッパーし、元いた天井へと串刺しにする。

 

「ふぅ…片付いた…か…」

 

フラフラするハチマン。その髪の毛は元の色に戻っていた。と言っても相変わらず左側は銀が入り交じっているが…。

 

「悪ぃ、ベル。お前が、勝つのを見越して、少しだけ…寝るわ」

 

聞こえてるかも分からないセリフを吐いたハチマンは倒れ込み意識を手放した。何故か涙を流しながら…。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

episode of Beowulf

 

「スパーダ!覚悟ォ!」

 

そう叫び殴り掛かるが拳を上に弾かれ腹に八卦を喰らう。

 

「ガハァッ!!」

 

「スパーダ!」「先生!」

 

目標に駆け寄る白と黒の悪魔。噂に聞いてた弟子か…。

 

「お前らは素振りの練習だ…話は俺が付ける」

 

「ですが…」

 

「モデウス、俺の決定に意義を申し立てるのか?」

 

「いえ…」

 

「ならいい、バアル。モデウスと2日ぶっ通しで打ち合いをしろ。勿論小細工無しでだ。」

 

「分かった」

 

去ってくスパーダの弟子達。2日とは…噂に違わず厳しいようだ。

 

「さてと、ベオウルフ。まだ懲りてないのか…」

 

「ふん!貴様を殺すまでは俺も諦めん!」

 

「その熱意…アイツらにもあったらなぁ」

 

ポリポリと頬をかくスパーダ。

 

「ええい!もう一度だ!もう一度勝負だ!」

 

「ちッ…良いだろう。折れるまで叩きのめしてくれる」

 

結果は惨敗。剣すらも使われなかった。悔しさが頭を支配するがそれで良いのかもしれないと思う。スパーダは英雄だ。殆ど一人で地上界を手中に収め勢力圏を一気に拡大させた。流石俺の憧れだ。

 

貴様はいつまでもそうあって欲しい。

 

時は流れ…

 

「何故だ!何故我らを裏切った!スパーダ!!!」

 

扉を開けると人間界の楽器『ピアノ』なるものを奏でるスパーダがいた。

 

「……」

 

立ち上がりこちらを見る奴の無視に苛立ち襲いかかる。一切通用しないと分かっていても拳を振り続けるが、全て手のひらで受け止められる。

 

「そろそろ執拗い…」

 

剣を取り出したスパーダは瞬く間に俺の眼前に迫り剣を振るう。

 

「ガアアアアア!!」

 

「ベオウルフ、貴様をテメンニグルに封じる…」

 

左目をやられた俺はついでにとうなじ付近を手刀され、意識を刈り取られる。その寸前言葉が聞こえた。

 

「すまない…」

 

そこで俺は完全に意識を失った。今度会ったら必ず殺してくれる。

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?
ベオウルフの執着はスパーダへの憧れからかもしれませんね。って思いこんなエピソードを書いてみました。

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