ハチマンの2つ名考えて無い…どうしよ…。
ベオウルフ戦を迎えた次の日、俺は宛もなく街路を彷徨っていた。喧騒に溢れかえる街は黄色く活気づいているがどうも俺の気分は暗くなっていた。その理由は30分前に遡る。
━━━━━━━━━━━━━━━
ー【ホーム】ー
ベルがミノタウロスとの戦いで疲弊してる中、俺はピンピンしていた。
「おや、ハチマン君、どこかへ出かけるのかい?」
「ええ、暇だしダンジョンでも行こうかなって…」
「バッカもーーーん!!」
「ええ…」
突然の神様の怒号により俺は正座をさせられていた。
「昨日あんなに死にかけたのにまた行くってのかい!?」
「いやでも湧き上がる冒険欲ってのが俺にもありまして…」
「ダメなもんはダメだからね!いいかい?こっそり行っても神の前には嘘はつけないんだぞ!!」
説教も終わり神様はバイトへ行ってしまった。一人残された俺は暫くベルの様子を見た後ホームを出た。ベルの看病を適任に任せて…。
「じゃあリリルカ、ベルを頼んだZE☆」
「はい!お任せください!」
無い胸にポンと拳を置くその姿はとても頼もしかった。
━━━━━━━━━━━━━━━
とまぁ、外に出たはいいけどダンジョンにも行けないからすこぶる機嫌も悪くなっているのだ。
「はぁ…」「はぁ…」
「ん?」「?」
隣で俺と同じダークなため息が聞こえた為そっちを見ると俺以上に髪の毛がボサボサの男神がいた。ローブを身にまとった猫背の神が…。
「酒が作れない…ねぇ」
「そうだ、酒を作る事が俺の生きがいだった。それもギルドに奪われてしまった…」
近くのベンチに腰掛け二人してじゃが丸くんを齧りながら【ソーマ・ファミリア】の主神のソーマとダベリング。じゃが丸くんを買う際に角髪を結った男神がやはりマスコットが〜とか言ってたが全く頭に入ってこない。すんません、そういう話はウチの主神にでもしてください。
「それでギルドが憎いと?」
「別にそうではない、アレは俺の監督不足が招いた結果だ」
随分と踏ん切りがついてるんだなぁ、やはり神だからか?
「まぁ、こっそり作ろうと思ってるが…」
「おい神、自重しろし。送還されんぞ」
「分かってる」
どこぞのオカンの心労が理解できてきた。
「じゃあなんで外に?材料集め?」
「違う、それも考えていたが…別の生きがいを探してみようかと」
「ほう、別の…」
やはりそこは神、逞しい。見た目に反して…。
「それで街を彷徨っていたら君に会ったんだ」
「なるほど…」
「君はなんでため息を?」
問われた俺は嘘偽りなく語る。昨日ダンジョンで死にかけただけの事、それで今日のダンジョン探索を禁じられたこと、何かで悩んでること。
「ならば君も私の新しい趣味探しに付き合え」
「ええ…」
「新しい趣味を見つければ君の悩みも退屈も腫れるだろう」
「成程」
いつまでもウジウシしてたってしょうがない、きっとそういうことなんだろう。
「君の目はいい人よけになりそうだしな」
ゲシッ!
「あ痛っ!」
「ふん」
人を出汁にするんだ。これくらいはやっても許されるだろう。神だろうと人だろうと平等に接する。これが俺のポリシーだ。
「ここは?」
「本屋だ」
暫く歩き到着したのはそれなりのデカさの書店だ。オラリオに来て全然本とかに触れてないから行きたいと思ってたし、
「文献を通して身につける知識もそう悪くないと思うぞ」
「そうなのか…」
割と世間知らずのこいつと別れ何冊か見繕って持ってくる。
「試しにどうだ?物語でも読んでみたら」
「嘘物語は嫌いだ」
「そう言うだろうと思って伝承にもとづくやつもあるぞ」
「その話は天界から観測済みだ」
「……」
本を元の棚に戻し他の本を持ってくる。
「詩集だ。人が何を思いどうしたかが綴られてる」
「ほう」
「試しに読んでみたらどうだ?」
「どれどれ、『欲あれど動かぬ者は災いなり』…だそうだ」
言い得て妙な台詞だな。ってかすげぇイケボで言うんだからビックリしたよぼかぁ。
「気に入ったか?」
「そこそこって所だ…人も中々深そうな事を言うな。うん、気に入った、買おう」
そう言い本を持っていくがその手には俺の持ってきた詩集の下に本が隠されるようにあった。
「それは?」
「バレたか…まぁいい、見せてやろう」
その本の表紙を見せてくるが…『絶対モテ術!これさえあれば気になるあの子も女神もメロメロ!!』だと?
「恋愛…したいのか?」
「新しい試みとしてはどうだろうか…」
「ま、まぁいいんじゃないか?」
恋愛とかそういうのは俺としては言える立場じゃないからな…。役に立つアドバイスとかはできないと思う。
「ありがとうございましたー」
気の抜けた店員を背にソーマと店を出る。そしてそこら辺のベンチに座り先程の頭ピンクな本を開く。
「ふむ、『不衛生な男子は見られない!』か…君から見て俺はどう見える?異性として見れるか?」
「いやべつに」
即答である。その回答速度計れたのなら0.2秒だ。
「…『髪がボサボサの男はアウトオブ眼中』か…よし、切ってくれ」
「は?なんで俺が…床屋とか行けばいいだろ」
「頼めない」
「俺は振り回せるのに突然なコミュ障発揮すんなよ」
ほんとこの神、さっきの会計だって俺にやらせやがって…。
「はぁ…文句、言うなよ?」
ソーマの前に立ち閻魔刀を取り出す。
「何をするつもりだ?」
「なにって、スリリングな散髪」
「刀で?」
「あぁ」
「嘘だろ?」
嘘じゃないんだな☆
「まぁ、じっとしてればすぐ終わる」
ソーマは動かない。すぐに済ませて欲しいのだろう。きっと諦めて委ねてくれたのだろう。
刀を構え集中する。
「はぁッ!」
刹那、ソーマの周りにパサパサと髪の毛が落ちる。手早くそれを適当な袋に入れゴミ箱に捨てる。
ソーマは立ち上がり近くの噴水の水溜まりを覗き込む。
「これが、俺か…」
肩に着いていた髪の毛は無くなり、ある程度はサッパリした雰囲気になった。
「まぁ、これくらいが妥当じゃねーの?」
「満足だ、ありがとう」
髪で隠れていた表情は見えるようになり、頬が少し緩んでいる。ふっ、美容師ハチマンここに爆誕。因みにこれがデビュー戦にして引退戦。
「これで俺もモテモテというやつか…」
「いや、身だしなみは
いや、よく考えてみれば見た目が全ての9割を占めるともいわれているが(○○より)、ソーマの将来を考えて黙っておこう。
「なん…だと…?」
驚愕の表情を浮かべるソーマ。アンタ、この短時間で柔らかくなったね。
「そりゃそうだろ、見た目だけで美味くない料理はウケないのと一緒だ」
「なるほど…中身か…」
「あぁ、でもまぁ、無理やり変える必要なんてないんじゃないのか?」
「その理由は?」
こちらをじっと見つめてくる。
「変わるなんてのは結局、現状から逃げるために変わるのだろう。それが本当の逃げなんじゃないのか?本当に逃げてないというなら変わらないでそこで踏ん張んだよ。今の自分や過去の自分を肯定してやれないのが逃げというんだろう?」
雪ノ下雪乃に語った事を思い出しながら語る。あの時雪ノ下は何を思っていたのだろうか…。今の俺にも分からない。俺は変わったのだろうか?あの件の後にも色々あった。ヤンキー達の暴走を止めたり、ネットカフェに泊まり込んだ時もあったな…。
今の俺は昔の俺に誇れるか?
「少し…聞いてくれないか?」
黙っていたソーマが口を開く。
「俺のファミリアの事は聞いたな?俺の作った酒欲しさに暴走してしまった団員たちが他の冒険者や身内に酷い事をした事だ。それで俺は考えたんだ。もしあの時、資金欲しさに
気付いていたのか…。神はお見通しってか。
去りゆくソーマの背中を見送る。その背筋はしっかり伸びていた。
「さてと、俺も行くか…」
ゆっくりと歩き出す。まだ太陽は直上にある。解けることの無い悩みを
抱えながら歩く。少し重いがこれくらいが丁度いいのかもな。この重みでまだ地に足着けてられるから。
━━━━━━━━━━━━━━━
ー【カフェ ポレポレ】ー
「店長、いつもの」
「はいよ」
即座に出されるデカ盛りパフェとニアイコールマックスコーヒーとオリーブ抜きピザ。
「いつも悪いね」
「金払いが良いからあたしにゃ神様に見えるね」
「神様なんて、そこらにいるだろ」
「名ばかりの神なんていらないね。本当に必要なのは金払いと人のいい
商い魂猛々しい婆さんだな。怖いもの知らず過ぎてすげーが1周回ってこえーよ。
「ん、ごっそさん」
「今日は早いね」
「腹が空かないんすよ」
「冒険者なんだから、無理しちゃあいかんよ」
「胸に刻んどきますよ」
カウンターに金を置き手をヒラヒラさせながら店を後にする。さてと、この後どうしようか。
━━━━━━━━━━━━━━━
ー【ミアハ・ファミリアの本拠地兼店】ー
「お邪魔します」
「おお、ハチマンではないか」
カウンターにいるミアハ様が迎えてくれる。その隣には唯一の構成員、ナァーザ・エリスイスさんがいる。手頃なポーションを幾つか買いミアハ様と雑談をしてると
「ヘスティアから聞いたぞ、昨日ダンジョンで死にかけたのだろう?」
「大丈夫、なの?」
「ええまぁ、心臓ぶち抜かれた位ですから」
「「え?」」
ん?
「ハチマン、嫌なら構わないがこちらに来て胸を見せてはくれないか?」
「?いいですけど…」
店の奥に入りシャツをめくり、胸を見せる。
「塞がってる…ミアハ様、本当にハチマンの心臓は…」
「嘘じゃないのは分かってる…」
エリスイスさんが驚いてる。それもそうだろう、俺だって驚いた。目が覚めたら塞がってたんだもん。アドレナリンがドバドバ出て痛みなんて感じなかったから死ぬかと思ったよ。
「いやー、恩恵の力って凄いっすよね。こんな傷も治っちゃうんですもん」
ほんと、神の眷属になりゃ力も治癒力も最低限は貰えんだもん。しかし、ミアハ様とエリスイスさんは信じられない目でこちらを見ていた。
「ハチマン、落ち着いて聞いてくれ。神の恩恵で人はここまでの治癒力はない。少なくとも聞いたことがない」
「な、何を言ってるんですか?」
「人も神じゃない。心臓をヤられれば死んじゃうよ」
??????????
「いやいやいや、じゃあ何で俺は生きてんですか?こうして息を吸って吐いてるのに?血だって流れてるし心臓の鼓動も聞こえるのに?おかしくないですか…心臓ヤられても生きてるなんて、それじゃまるで…まるで…化物じゃないですか…」
「ハチマン、落ち着くんだ。こうしてお前は生きてる、それでいいではないか!前例がないだけでたまたまハチマンが最初なだけかもしれない。ハチマンはハチマンだ。気をしっかり持て」
ミアハ様が肩を掴んで語る。
「そうですよね、俺は俺…ですよね。…それじゃあ失礼します」
重い足取りで出て行く。
(俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺俺は俺)
思い返せばそれらしい出来事もあった。
ーなんで俺は街ではなくダンジョンで目を覚ました?
ーなぜ髪が銀色になってく?
ーどうしてベオウルフの名を知った?
ーどうゆう理由でアラストルは俺に目をかける?
恐怖心が湧いてくる。
昨日のダンジョンで体感したそれとはまた違う。死への恐怖ではない、また別の得体の知れない恐怖心だ。
フラフラと彷徨う、そのうち人気のない広場に出た。しかしそんな事別にいい。ずっと俺は人か化物かを考える。
「貴様がハチマン・ヒキガヤ…だな?」
俺の思考を邪魔する影が2つ。黒いバイザーに黒い服。いかにもって格好の男らだ。
「だったらなんだよ…今無性にイラついてんだ。どっか行ってくれよ…」
「それはできない相談だ。あのお方の寵愛を受けるため、貴様には死んでもらう」
「相手はレベル1、負けるはずが無いな」
どうやら向こうは殺る気らしい。
「いいだろう、だったら後悔するなよ?…心失くしたヒト。俺がまだ人かどうか教えて貰おうか」
━━━━━━━━━━━━━━━
ー【ヘスティア・ファミリアのホーム】ー
「ただいま…戻りました」
ホームに戻るとベルの両脇にリリルカとヘスティア様が川の字になって寝ていた。
「まぁ、ベッド位は譲ってやるか」
いつものソファに寝っ転がり惰眠を貪る。
今日はよく眠れそうだな。
━━━━━━━━━━━━━━━
ー【ギルド】ー
「エイナ大変!」
同僚のミィシャが額に汗を浮かべながら走ってくる。
「ど、どうしたの!?」
「ついさっき冒険者2人と一般人が病院に担ぎ込まれたの!」
「それって、喧嘩?」
ここオラリオで喧嘩は日常茶飯事だ。ミィシャもそれを知ってるはずなのにどこか様子が変だ。
「うん、でね?その運ばれた冒険者が2人とも瀕死なの!」
「え…喧嘩でそこまでやるの?」
「聞いた話だと両手足と顔の複雑骨折、喉も潰されてたんだって…」
「喧嘩じゃないでしょ…?」
「その2人の冒険者の近くに紙が落ちててね、そこには確か『喧嘩吹っかけられたからやった、コイツらには人の心が無いんだもん』って書かれてたの」
人の…心が…無い?
「続けるね、通報してくれた人によると『冒険者が2人がかりで誰かに襲いかかってるのが見えた。近くに一般人も倒れてる』らしいんだ」
「その人ってどういう人?」
「印象的だったから覚えてるよ、紫のコートを着た冒険者さんだったよ。エイナの担当じゃなかったっけ?確か名前はー」
「ハチマン君だよね」
「そう!そんな名前だった!」
ハチマン君、サポーターの件の次は喧嘩騒動?どうやら君もベル君みたいな災難体質らしいね。でも良かったー、彼に危険がなくて。
そういえばデビルメイクライのVとソーマって同じ声の人なんですよね。聞いた時びっくりしたよ、ぼかぁ。