ダンジョンに出会いとボッチを添えて   作:テクロス

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頭痛い…徹夜しすぎた。



#17 会議は踊る、されどしんがっそん

 

ハチマン・ヒキガヤの朝は日が姿を見せる前から始まる。

 

am 02:00

 

「ん……」

 

早起きが習慣となった為自然と体が起きる。ベルと神様を端目に普段着に着替えコートを羽織る。

 

「行ってきます…」

 

静かに告げ外に出る。そこからオラリオの壁外に走って行く。

 

「どうも」

 

「じゃあいつものね」

 

検問でボディーチェックと外出許可証を見せ初めてオラリオの外に行ける。俺はもう何回も出ているためもう検問の人とは顔見知りみたいなものになっている。

 

「じゃ、始めるか」

 

軽く準備運動をしたらオラリオの外周を走る。

出来るだけ早く、息を切らさないように。

 

am 04:00

 

暫く走った後【幻影剣】を出し素振りする。魔力が無くなっても活動できるようにする事と剣術を鍛える事が目的だ。

 

am 06:00

 

「9997…9998…9999…10000!」

 

流石に汗も額を伝い、魔力もカラカラになってきた。

 

「まだまだ…」

 

両手を地面につけ、足を伸ばしたら腕を曲げたり伸ばしたりする「腕立て伏せ」をする。回数を2000回にしてその他に「腹筋」「上体起こし」「懸垂(壁に指をくい込ませ)」「スクワット」。

 

am 08:00

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

流石に疲労して息が上がる。

 

(そろそろ戻るか)

 

門番に一言告げ再びオラリオに戻る。

行きとは違い大勢の人が商売の準備を始めてる。

 

小走りでホームに向かってると八百屋のおっちゃんが気を利かせてリンゴを投げ渡してくれる。その好意に甘え、悪いねと手を軽く挙げ走り去る。お、甘い。

 

ー【ホーム】ー

 

「たでぇまぁ」

 

「ん…おかえり、ハチマン…」

「おはよーハチマン君…ふぁ〜…」

 

「朝の用意するから待ってな」

 

コートからエプロンに着替え朝ごはんの用意をする。とはいえ焼いたパンを出して目玉焼きとベーコン、レタスを乗せて胡椒をかけただけだが…。

 

「いつもありがとう、ハチマン」

 

「君の朝ごはんは本当に美味しいよ!」

 

2人も喜んでくれてるのだがやはりもっと贅沢させてやりたいと思う。

 

「そういえば今日神会(デナトゥス)だったんだ!」

 

「一張羅にアイロンかけておきましたよ」

 

「流石だハチマン君!それじゃあ!行ってくるよ!いい二つ名を期待しといてくれたまえ!」

 

あせあせと着替えた神様は急いで出て行った。

 

「ハチマンはどんな二つ名がいいと思う?」

 

「俺はイタくなきゃ…お前は?」

 

「僕はバーニングファイテングファイターとかがいいな!」

 

「えぇ…」

 

なんで燃えながら戦ってんだよ…不死鳥なの?

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「絶†影」

 

「「「「「「決定!!」」」」」」

 

「ノォォォォォォ!!」

 

「地獄だ」

 

退屈を持て余した神は何よりも予測不可能とはよく言ったものだ。タケよ、安らかに眠たまえ…。

 

「なーに自分は大丈夫だと思ってんのよ」

 

「よしてくれヘファイストス、今必死に現実逃避してるんだ」

 

「まぁ気持ちは分からなくないわ、でも気をつけなさい、あんたのとこの子、今日の注目株よ」

 

ハチマン君は裏で手を回したらしいが今回のレベルアップは異常な速さの為他の神に目をつけられている。極めつけは司会役が()()ロキだということだ。絶対に何か言ってくるはずだ。気を付けないと…。

 

二つ名決めは順調に決まっていき、残す所ハチマン君とベル君になった。

 

「二つ名決める前になぁ、ちょっと聞かせろや、チビ」

 

始まった、ロキのいちゃもん。でも怖くない、なぜならハチマン君の方がよっぽど怖いからだ。彼が大切にしてる植木鉢をうっかり割ってしまった時は雷が落ちるかと思った。

 

「1ヶ月半で『恩恵』を昇華させるっちゅうのは、一体どういうことや?」

 

バンッ、と手元の資料を上から叩き鋭く見つめてくる。

 

「うちのアイズでも最初の【ランクアップ】を迎えるのに一年、一年かかったんやぞ?それをこの少年は1ヶ月やと?なにアホ抜かしとんねん」

 

ゴメンよロキ、ハチマン君は3週間位だ。

 

「うちらの『恩恵』は()()()()()()()()()。1ヶ月そこで子供らみんなが器を一変させたら、世話ないっちゅう話や。それができへんから、どいつもこいつも苦労しとるんやろうが」

 

【ステイタス】はあくまで促進剤。その者の具現化されることのない可能性を掘り起こし力という形にするだけ。

 

ハチマン君の成長はあのスキルもあるが彼の今までの人生で彼が可能性を発掘されなかった、見て貰えなかった故に芽吹いた向上心というのが成長の秘訣に大きく関わってると思う。

 

「おいこら、ドチビ、説明せぇ…なぁんでドチビのこんな弱っちそうなガキ共がランクアップしとんのや?」

 

だからロキの言葉はどこにも響かない。いつもみたいに焦ったりもしない。やましいことなんて1つもないのだから。

 

「ボクの子供達はそこらの子供達とは違くて特殊なんだ。君達が見た目や性能に目を奪われてるから見落としたんだ。ベル君は“弱そう”だから、ハチマン君は“目が怖いから”誰にも見て貰えなかった。ボク達の出会いは偶然だった…それでも彼等の声に、心に耳を傾けてみれば見えるものがあったんだ。ベル君は何よりも強い“心”ハチマン君は誰よりも美しい“優しさ”。その強みとセンスがあったからレベルアップできた。散々彼等は辛酸を舐める…いや、飲まされ続けてきたんだ。そんな彼等が諦めず困難に立ち向かって成長して…何が悪いッ!!ボクの事は何と言われようと構わないがロキッ!ボクの子供に文句を言うのは許さないぞッ!!」

 

呼吸する間もなくて失った酸素を取り戻そうと肩で息をする。

 

(言ってやった…言ってやったぞ!)

 

「そうか…そりゃ、悪かったな」

 

珍しく正論を言われたロキは黙りこくった。それもそうだ、他者の努力を自分のお気に入りの子供の記録を抜かされたからってコケにしたからだ。

 

「あら、ロキが謝るなんて珍しいわね」

 

美しいソプラノの声が響き渡った。

 

「うっせ、色ボケ女神」

 

ロキが悪態を付き返す。

 

「私の子達のタレコミなんだけど、このハチマンって子恐らく悪魔と思われるモンスターに勝ったわよ」

 

「「「「「「「「!!」」」」」」」」

 

シンとしていた空気に亀裂が入る。

 

「悪魔…コワイ…歯…折られる…」

「怖いよーーーー!ママァァァァ!!!」

「クワバラクワバラ…」

「ガタガタガタガタガタガタガタカタ…」

 

それぞれの神達がそれぞれの反応を示す。隣のヘファイストスも頭を抑えてる。ロキは…白く燃え尽きてる。

 

「そ、それでも弱い悪魔なんじゃないか?」

 

「魔具になるようなランクよ」

 

一層神々が騒がしくなるが20分位で落ち着く。

 

「Lv1で倒したんだ、本気で称えてやらないとな!」

 

「「「「「「「おう!!」」」」」」」

 

「あら、あの子の二つ名は私が考えたわ。素敵な名前を♪」

 

「「「「うええええええ〜〜〜!!??」」」」

 

その後神々はベル君の二つ名を必死に考えてる。神会直前に滑り込みで参加したから情報が少なすぎるとのこと。

 

「…ロキ?」

 

ロキが隣にやって来る。

 

「…注意しとけよ、ドチビ」

 

「えっ?」

 

「あの(女神)、ドチビのガキのプロフィール見て笑ってたで」

 

「っ…?」

 

「アホウ、男見て笑うなんて1つしかないやろ、大切なガキなら守らんかい」

 

そう言いロキは去ってく。

 

……フレイヤが笑った?…二人を見て?

 

とある可能性が頭を過ぎったがそれを遮るように円卓がドッと爆発した。

 

「「「「「「決まったぁー!!」」」」」」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

ー【アラル墓地】ー

 

「ハチマン!」

 

小走りで駆け寄って来るベルに目線を移す。

 

「おお、どうした?フローヴァさんのことに行かないのか?」

 

「ハチマンと一緒に行きたいなって…」

 

頬を赤らめモジモジとするその姿は女の子みたいだった。ウソ、今ちょっとキュンとした?まさか…。

 

「ハチマン…この人は?」

 

俺の奥にある【EVA】と掘られた墓石を見るベル。

 

「知らない人なんたが、どうしても放っておけなくてな…ちょくちょく手入れとか花を手向けてんだよ」

 

「この人も喜ぶ筈だよ。もしかしたらハチマンの前世の恋人だったのかな?」

 

「まさか、前世なんてないだろ」

 

馬鹿言ってないで、行くぞ、と言いベルとタクシー(馬車)に乗って【豊饒の女主人】に向かう。

 

ー【豊饒の女主人】ー

 

「「「かんぱ〜い!!」」」「「乾杯」」

 

テンションを大にして音頭を取るベルとリリルカとフローヴァさん。それに便乗するように俺とリューさんは淡々とそれに答える。こういう雰囲気は嫌いだった筈なのに自然と嫌な気はしない。

 

「クラネルさんは【リトル・ルーキー】、ヒキガヤさんは【亡影(ぼうえい)】ですか。良かったです、無難な二つ名で」

 

「そうですね」

 

「僕はもうちょっとカッコイイのが良かったな…」

 

ベルの愚痴をBGMにしつつトマトソースパスタを口にした後お酒を飲む。うむ、やはり美味い。後はパフェでもあれば完璧なんだがな…。ちょっくら走って買ってこようかな?

 

「そういえばハチマンさんはどんな戦い方をするんですか?」

 

そうフローヴァさんが聞いてくる。

 

「どんなって…どんな感じ?」

 

ベルとリリルカに聞いてみる。

 

「ハチマンのバトルスタイルはちょっと独特なんですよ。ね、リリ」

 

「えぇ、最初見た時は頼もしさ半分と怖さ半分でした。モンスターを掴んでは投げたりと豪快かと思いきや…」

 

「剣や魔法を使って綺麗に戦ったりと不定形なんですよ」

 

「息ぴったりの説明ご苦労さま、とまぁこんな感じです」

 

「へ〜、何か戦う上で気をつけることとかあります?」

 

難しい質問をされた。気をつけること…か。

 

「別に…広い視野と幅広い戦術をもってダンジョンに潜ってるだけですよ」

 

「わあ!どことなくプロっぽいですね!」

 

うーん、プロっぽいね…まだまだ上はいるのに。この子、ちょっとズレてるのか?

 

それからは明日の事とかを話し合った。ベルの壊れた防具とかを買い直しに行くのに俺が同行したり、それに漬け込んでサボろうとしたフローヴァさんがミアさんにドヤされたり、色々と騒がしかったが心のどこかでそれを良しとする俺ガイル。

 

「ヒキガヤさん達はダンジョン攻略を再開させる際、すぐに中層に向かうつもりですか?」

 

ふとリューさんが質問を投げかけてくる。

 

「ひとまず、11階層で今の体の調子を確かめてみようと思ってます。もし攻略が簡単だったら、12階層まで足を伸ばす感じです」

 

「ええ、それが賢明でしょう…ですが中層へもぐることはまだ止めておいた方がいい。貴方達の状況を見るに、少なからず私はそう思います」

 

「つまりリュー様は、ベル様とハチマン様では中層に太刀打ちできないと、そうお考えなのですか?」

 

「そこまで言うつもりはありません。ですが、上層と中層は()()

 

「では、リュー様は…」

 

「ええ。貴方達はパーティーを増やすべきだ」

 

遂に来てしまったか…この日が…。

 

「なぜヒキガヤさんは頭を抱えているんですか?」

 

「あはは…ハチマンは人付き合いが極端に苦手で…」

 

「でもリリとかリュー様とかとは普通に話せてますよね」

 

「そういえばそうだな、どうして?」

 

「いやリリ達に聞かれても…」

 

はっはっ、パーティのことでお困りかあっ、【リトル・ルーキー】【亡影】!?

 

声の主はガタイのいいおっさん、仲間を両脇に侍らせてこちらにやって来た。

 

「話は聞ぃーた。仲間が欲しいんだってなぁ?なんなら、俺達のパーティにてめえらを入れてやろうか?」

 

「ど、どういうことですかっ?」

 

ベルが問い返すと

 

「どうもこうも、善意だよ、善意。同業者が困ってんだ、広ぇ〜心を持って手を差し伸べてやってるんだよ。ひひっこんなナリじゃあ似合わねぇかぁ?」

 

「い、いえ、別にそんなことは…」

 

リリに目をやれば心底嫌そうな顔をしてる。フローヴァさんは苦笑を浮かべリューさんに至っては顔色一つ変えない。

 

「だぁろう?助け合いってやつだ、助け合い〜ぃ。それに今、話題かっさらってるお前さんなら、俺達のパーティに入れても構わねぇし…なぁ!」

 

「それで、だ!俺達がお前を中層に連れてってやる代わりによぉ…この嬢ちゃん達を貸してくれよ!?こんのえんれぇー別嬪のエルフ様達をよっ!仲間なら助け合い分かち合いが基本だ!そうだろう!?」

 

ブチッ

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

ブチッ

 

店の中で何かが切れた音がした。

音のした方を見てみるとハチマンが立っていた。

 

「助け合い…ねぇ…」

 

口元に着いたパスタソースをハンカチで拭いながらハチマンは虚ろな目をしていた。まるで…出会った頃のような。

 

「じゃあ助けてやんないと…」

 

「あぁ〜?何言ってんだ?てめぇ」

 

そんな冒険者にハチマンがギロリと睨みつける。あれ?ハチマンの目って…黄色かったっけ?

 

「今日は良い1日だった。鍛錬でいい汗かけたし、おっちゃんにリンゴを貰えたし、パフェもピザも今日は一段と美味かった。【EVA】にも綺麗な花を手向けてやれたし、悪くない二つ名も貰えた。柄にもなくパーティーでひっさしぶりに楽しむ事ができた。後は帰っていい夢を見るはずなのにどうしてかなぁ…どうしてこうも〆でアンタらみたいなカスに絡まれるのかなぁ…」

 

「ヒッ…」

 

冒険者達がたじろぐ。ハチマンの何も言わせまいとするプレッシャーに押し負けてるんだ。

 

「あの日…門を開けてからおかしいんだ。どうも感情の制御が難しい。いつもならスルー出来るのに…もっとうまくやれるのに…どうも血が騒ぐんだ。ぶちのめせって…誇り無き獣を打ち倒せって…。なぁ、俺を…人殺しにしないでくれよ…な?」

 

サァ…といつの間にかハチマンの髪の毛は完全に銀色になっていた。

 

「ヒ…ヒィィィィ…」

 

立ってられず腰を抜かしてしまった冒険者達はウルウルとした目でハチマンを見つめていた。もはやさっきまでの面影は感じられない。

 

ハチマンはそんな冒険者達に目線を合わせるようにしゃがむ。

 

「こ、殺さないで…もう…しませんから…」

 

ガシっとハチマンが肩を掴む。

 

「ヒッ…」

 

「なーんてな、んな事する訳ないだろ?」

 

先程までの雰囲気は消え去り、髪の毛も元の色に戻っていたハチマンはケラケラと笑いながら立ち上がった。

 

「酔ってたんだろ?これに懲りたらもうするんじゃないぞ?」

 

「あ…あ……」

 

さっさと金置いて行けよ

 

ハチマンが地獄の底から響くような声を出すと冒険者達は所持金全部出して叫びながら店から出て行った。

 

「ふぅ…すみませんね、迷惑かけちゃって…お詫びにこの金で全員分の飯と酒、奢らせて貰うんでジャンジャン頼んじゃって下さい…ね?」

 

『『『『『『『いえええええええええええええええい!!!!』』』』』』』

 

その日、【豊饒の女主人】は開店して以来の売上最高金額を叩き出した。

 

めでたしめでたし…?

 

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