「んがごごごご……ンあっ?」
久々の熟睡から解放される。頭は朦朧とするが体の調子がすこぶる良い。でも何か気がかりがある。
「何か…忘れてる?」
部屋の中をぐるりと見渡す。いつも着てるコートの隣に赤いコートが壁にかけてある。
(サラマンダーウールのコート…)
コートの上にローブを羽織るとゴワゴワして違和感がある為仕立て屋でコートにしてもらった。紫の奴とまた違ったタイプで銀の派手な装飾が施されてる。曰く『デザインは勿論炎以外の耐久性も格段に上がりました!』らしい。もういっそ鍛冶師になったら?
「あれ?」
ーなんでサラマンダーウール?
ーそりゃ中層に行くからだよな。
ー中層に行くのっていつ?
そりゃ…
「今日じゃねぇか!!」
慌てて支度する。ポーション良し!赤いコート良し!火の元…良し!指さし確認良し!
「それじゃあ…あ?」
机の上に見覚えのないメモ書きが置いてありそれを手に取る。
「なになに?『起きたらできるだけ早く中層に向かう事、13階層で待ってるよ ベル』気を遣わせたな…」
じゃあさっさと行かなくては…
「行ってきます」
返事のない空間に背を向け外に飛び出る。
ー【ダンジョン】ー
ザクッ…
ハチマンはモンスターを見かけるや否やフォースエッジでその命を刈り取りながら13階層に向かっていた。魔石は早々にハチマンの腰の麻袋に一杯になっていた。
「んぁ?」
オラリオに来てから発達した聴覚がダンジョンの通路の奥から聞こえる音を逃がさなかった。
それはボロボロのパーティだった。ハチマンにとってある程度は馴染みのある鎧や刀を身につけたまるで日本人のような集団だった。リーダーと思しき男の背中には見るからに手負いの女性を担いでいた。
「…よかったらこれ、使います?」
同郷ではないが似たような所の出身(?)として見捨ててられないと思いつい声をかけてポーションを投げ渡すハチマン。
「どうして私達に?」
それを受け取った肩鎧を着けた女性冒険者はハチマンに聞いてくる。
「まぁ、大変そうなので…よかったらバベルまで護衛します?」
ベル達の事が気にかかるがアイツらなら大丈夫だろうと思い提案する。
「桜花殿…どうします?」
「んん…背に腹はかえられない…頼む」
リーダー格の男はその提案に承諾の意を示す。
「じゃあ急ぎましょう」
ハチマンが前線を走り出てくるモンスターを疾走しながら居合をして消し炭にしていく。
「凄い腕前ですね、お名前は?」
「ハチマン・ヒキガヤっす…」
モンスターを相手にしてる為あまり話しかけて来ないでオーラを全開にしてたがそんな思いも一刀両断された。
「ヒキガヤって…あの『亡影』ですか?噂とは全く違いますね…」
「噂?噂とは…?」
「般若の面を被り悪事を働く冒険者を血祭りに挙げている非常に起床の人だと巷では…」
とんでもない噂を流されてるものだと内心心底呆れ返るハチマン。
そんな彼の尽力もあり、かなり早い時間でバベルに到着した一行。
「この度は誠にありがとうございました」
肩鎧の女性冒険者と桜花が感謝の言葉をハチマンに送る。
「いや、いいんだ、それより冒険者を見かけなかったか?白髪頭とパルゥムと赤髪の鍛冶師の三人組なんだが…」
ハチマンのパーティの特徴を言った瞬間ハッとした顔になり段々暗い表情になる。
「もしかしなくても…すまない、逃げる際に13階層でモンスターを押し付けてしまった」
「本当に申し訳ございません!」
「そうか…なら…行かないと…」
助けたファミリア、タケミカヅチ・ファミリアに目もくれず再びダンジョンに走ってくハチマン。
(待っててくれ…皆…!)
不安が彼を包む。リューさんが言っていた『中層は違う』という言葉が頭に反響する。
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「アドバイザー君!」
「か、神ヘスティア?」
窓口に待機している受付嬢のエイナに詰め寄る。
「昨日ベル君とハチマン君はここに来たかい!?」
「ベル君は昨日探索出発前の朝に訪れたのみでハチマン君とはお会いしていませんが…?」
「昨日から、ベル君達がホームに帰ってきてない」
「!」
異変に気付いたのは月が空の真上に来た時だ。その時はまだダンジョンに潜っているだろうと思ったがいくら何でも帰りが遅いと思ったらアドバイザー君にも顔を出してないなんて…
「アドバイザー君、冒険者依頼も発注する。依頼内容は『ベル君達の捜索』だ」
手段を選んでる暇はない、他の冒険者達の協力を募らないと…そう思いデスクに出された羊皮紙にペンを走らせ依頼書を作成する。
「報酬はどうします?」
「40万ヴァリス。【ファミリア】の全財産だ」
今すぐ用意できる金を提示する。
「上層部の許可をもらってきます。掲示板に貼り出されるには恐らく一時間前後かかりますので、ご了承ください」
「わかった、頼んだよ」
ギルドの玄関口を潜る。前庭の中央のモニュメントの傍でミアハとナァーザ君が待っていた。
「どうであった、ヘスティア」
「駄目だ、やっぱりベル君達はダンジョンから帰ってきてない」
押し黙る二人に過る全滅の可能性を否定するように叫ぶ。
「ベル君達は生きてる!ボクの『恩恵』は消えちゃいない!」
「ならばヘファイストスやタケミカヅチ達のもとへ向かおう。可能な限り、多くの者に助けを仰ぐべきだ」
「うん!」
3人で広大な都市を奔走する。たった2人の家族の為に。
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「すまん……」
右肩で支えてるヴェルフが力なく呟く。
「いや……」
疲労故にそれしか返せない。後ろに着いてきてくれてるリリは息を切らして疲弊している。視線に気付いた彼女は大丈夫です、と微笑みかける。
ヘルハウンドの一斉放火を被り何とか僕達は一命を取り留めることができた。サラマンダーウールが無かったら確実に死んでいた。
「リリ、残ってる道具は…?」
「回復薬が四つに解毒薬が2つ…以上です……」
ヴェルフの潰れた足を治すのとダンジョンから脱出する事が不可能なのは足りない頭をフルに使ってもすぐに分かる事だった。
(現在位置、推定14階層)
13階層でヘルハウンドの大群から退却している際に、その先にぽっかり空いていた下部階層へと繋がる縦穴に落ちてしまった。
「一度、落ち着きましょう」
「まずは、パーティの装備を確認しましょう。治療用の道具ですが、リリは回復薬が四、解毒材が二、ベル様達は?」
「俺は何も残っちゃいない」
「僕はまだ、レッグホルスターに回復薬がいくつか」
「次は武器です。リリはボウガンを先の崩落で失いました。ヴェルフ様の大刀は無事で…」
「ベルは大剣に、後は短剣とバックラーをなくしたか…」
「う、うん」
「分かりました……今後の方針ですが、武装も道具も限られている中、生きて帰還するためにはできる限りモンスターとの戦闘を避けなければいけません。状況が許すならば、逃げの一択です」
地面に腰を落としてるヴェルフは異論はないと頷く。
「ベル様、ヴェルフ様、取り乱さず聞いてください。これはリリの主観ですが…今いる階層は15階層かもしれません」
曰く落下の時間と通路の幅や光源、迷宮の難解さからの推測だという。『詰み』という言葉が脳裏に過る。
「ここからが本題です。上層への帰還が絶望的であるのは間違いありません、ですがらここであえて上に行く選択肢を捨てて、18階層に避難する方法があります」
ダンジョンの安全圏である18階層はモンスターが出現しなく、腕の良い冒険者がいる為、帰る際に同伴してもらう事ができれば帰還できるだろう。
「ハチマンは?ハチマンは待たないの?」
「ハチマン様もリリ達を追って来ているでしょうがここで待つのは得策ではありません。リリ達にはハチマン様を待つだけの手段も時間も残されてません。何せここは袋小路です、モンスターにここを嗅ぎ付けられたら全滅します…。ですのでせめて何かしらの目印を残しょう、リリ達と確定できる物ではなくても冒険者がいたと分かる物があればハチマン様もリリ達がいたと予想されるでしょう」
「おいおい、期待しすぎじゃないのか?」
ヴェルフがそう言うがきっとリリもそう思ってるだろう。
「でもハチマンなら来てくれるよ。分かるんだ、ハチマンなら良い意味で期待を裏切ってくれるから…」
皆を見つめて一息つく、このパーティのリーダーは僕だ、皆の命を預かってるんだ、決意は固めた、後は決断だ。
「進もう」
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ー【ダンジョン】ー
「なんなんだい…これは…」
そこには無数のモンスターの屍が転がっていた。ヘスティアの見覚えのある剣がモンスターの頭を貫いていたり壁から生まれる瞬間に串刺しにされたり、モンスターにとっては凄惨すぎる光景が広がっていた。
「おいおい、ダンジョンってのはいつもこんな感じなのか?アスフィ…」
捜索隊にひっそりと加わったヘルメスがその団員の少女に聞く。
「ひーふーみー…恐らくこの階層全部のモンスターがここに集中したと思われます」
眼鏡をくいっと上げて冷静に告げる。
「一体誰が…」
ヘルメスが呼んだ助っ人のエルフ君が呟く。
(間違いない、ハチマン君だ…)
「この剣…亡影の…」
タケミカヅチの子供がハチマン君の二つ名を言うと一同の空気がピリピリとしだす。
「この前Lv2になったばかりでこの実力ですか…」
「この剣が消えてないって事は恐らく近くにいるはずだ。注意深く気を付けながら急ごう!」
「「「「はい!」」」」
ハチマン君もこんな数のモンスターが寄ってきて無傷な訳がない。急がなくては…!
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激しい爆炎が連鎖する。ヘルハウンドの群れはヴェルフの魔法により崩れ落ちていった。
「っ!?ヴェルフ!」
「……ぁ」
どしゃ、とリリも地面に転がった。
「リリっ……ごめんっ」
リリのバックパックを捨ててできるだけ身軽にした後リリを引きずる。
重い二人の体は僕の心にものしかかってくる。今すぐ何もかもを投げ捨てたい衝動に駆られる。
「ふざ、けろっ……!!」
何とか17階層の大広間に出る。
「なんで……」
余りにも
バキリ
鳴った。出口と思われる洞窟に逃げ出そうとしたその時に。ばっと横を振り向いた時、『嘆きの大壁』と呼ばれる200mはあるだろうその壁に巨大な亀裂が走った。
(やめろ……やめてくれ……)
そんな思いを引き裂くようにその怪物は大地に降り立った。
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
振り下ろされた大鉄槌は走ってる僕のすぐ後ろに落下した。その爆風と衝撃波は僕とリリとヴェルフの体を出口の穴へと吹き飛ばし勢いよくその中に入っていった。ハチマンが言うならホールインワンってやつだろうか。
ピクリとも動かない僕の体を触れるのは草のような柔らかい感触。そんな所にガチャ、ガチャ、という鎧のような音とこれは…馬?の蹄の音が近づいてくる。
「仲間をっ、助けてくださいっ…!ハチマンをッ…」
「ヒヒィィィィィン!!!」
馬の嘶きと鎧の人の荒い息遣いが聞こえるがまるでそんなのは幻だと言わんばかりにその気配は消えた。
そこで僕は意識を手放した。
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「ぜぇっ…ぜぇっ…げほっ!げほっ、ガボッ!!」
激しい咳と共に大量の血を吐く。20頭に及ぶヘルハウンドの炎は想像以上に凄まじくもう左手の感触が無い。大量のハードアーマーの突進は大砲のようで俺の臓器を砕いた。怪我をする度にやはり人とは思えない程の速さで治っていくが今はもう治りも悪くなった。
「やっと…17…階層か…」
フォースエッジを杖代わりにして歩くが視線も定まらない。息も荒くなってきた。流石に限界か…
「なわけッ、ないだろォッ!」
ダンジョンを探索してる内に冒険者の物と思わしき物品を幾つか見かけた。通路のど真ん中に。普通捨てるならダンジョンの端っことかの筈なのに真ん中ときた。何かしらのサインとしたら今助けを求めてるのはどう考えてもアイツらしかいないわけだ。
「オオオオオオオ…」
階層主と名高いゴライアスがこちらを見つけるなり拳を振り上げてる。
フォースエッジを構えて迎撃の体制を取る。
その瞬間…
バリバリィッ!!
紫の雷光がゴライアスの胸を貫いた。
倒れたゴライアスの巨体の先にいたのはおぞましい鎧を身に纏い、どう見てもモンスターとしか言い様のない馬に乗った身長2、3メートルの大男だった。
「スパーダァァァァ……」
「人違いなんたが…引いてはくれないだろうな…」
改めてフォースエッジの切っ先をその鎧男に向ける。
「一応聞いとこうか…名前は?」
「ネオ…アンジェロォ…」
「どうにか喋れるらしいな…自我は別として…!?」
姿が消え周りを警戒していると後ろからとてつもない殺気を感じた為急いで身を屈めたらすぐ上をネオアンジェロの持っていた特大剣が掠める。
「話し合いは嫌いらしいな…気が合いそうだと思ったんだがなぁ!!」
地面を蹴って奴に向かってく。奴の目を見据えてとびきりの殺意を出す。きっとこいつはマキャヴェリの言っていた最高傑作なのだろう。何となくだが奴には負けてはいけないと本能…いや、魂が叫ぶ。
ハチマンVS魔鎧ネオアンジェロ&ゲリュオン
その時俺は知る由もなかった、この後に起こるとんでもない悲劇を…。
ネオアンジェロの名前ですがネロではありません。あくまでも同一個体ではないのでネオにしました。そういえば最近アラストル空気じゃね?