ハチマンとゲリュオンに乗ったネオアンジェロとの戦闘は熾烈を極めていた。ルーチェとオンブラの弾丸はゲリュオンの時間停止能力によって難なく躱される。ゲリュオンの時間停止とネオアンジェロの技が組み合わさりハチマンの周りに大量の雷球が迫るがそれをルーチェとオンブラで迎撃する。
「くそっ、段々ペース上げてくるな…」
柄にもなくイライラしてるハチマン。それもそうだ、遠いところからチクチク攻撃され尚且つ自分の攻撃は当たらないのだから。
「こうなったら…」
ゲリュオンの周りに幻影剣を配置してそのままルーチェとオンブラを発砲する。
(さぁ、やれるもんならやってみろ)
ハチマンは違和感を感じていた。時間停止ができるなら既に俺は死んでいるのでは?と。認知されない間に首でも跳ねたら勝ちなのに奴はそれをしない。
ーどうして?
ー騎士道精神か?
ーそれとも手加減?
ーいや、時間制限だろうか?
ゲリュオンも見た感じそれなりに疲弊しているように見える。某吸血鬼のように連続して何秒も停止してられないのだろう。
ザシュザシュッ!
幻影剣はアンジェロの剣により壊されたが銃弾はゲリュオンの眉間に当たった。
「ヒヒィィン!!!」
暴れるゲリュオンに振り落とされるアンジェロ。そのまま倒れたゲリュオンは動かなくなった。
「残るはお前だけだな?」
閻魔刀を持ちアンジェロを見据える。アンジェロは紫色の雷を纏わせた大剣を構える。
大きく振り下ろされる剣を閻魔刀で逸らし一閃を入れるが既のところでバックステップで躱され鎧の胸の部分に一筋亀裂を入れるだけとなった。
一度閻魔刀を納刀し構えを取る。ハチマンはずっと努力してきた。追いつく為に…。あの日自分をミノタウロスから守ったアイズ・ヴァレンシュタインや自分の手を取ってくれたベル・クラネルに酒場で一泡吹かせてやると決意させたあの狼人にいつの日か出会った女神の従者。ダンジョンで追いつく為に試行錯誤を重ねやっとの思いで会得した技を奴に喰らわせる。
「Don't move!(動くな!)」
刹那、ハチマンは神速の居合で次元を切り裂き、ネオアンジェロを無数の斬撃の渦に巻き込む。名付けるなら【次元斬】だろうか。
「追加だ!持ってけぇ!!Over Drive!」
逆手でフォースエッジに持ち替えて魔力を乗せて黒い一閃を飛ばす 。斬撃はアンジェロに受け止められるが起動が少しズレ顔の部分に当たる。
カラン…
兜がフロアに落ちる音が響く。兜の奥に隠れてた顔にハチマンは後ずさりをする。
「そんな…お前は…はや、ま…?」
顔色は白色に限りなく近づきその目は紅くギラギラと光っているが確かにその顔は葉山隼人であった。
「お前…どうしてここに…ぐぁっ!!」
詰め寄ろうとするも再起したゲリュオンの突進で遮られる。その隙にネオアンジェロ改め葉山はフラフラとどこかへ行ってしまう。
「待てッ!…チィッ!」
行かせまいとゲリュオンはハチマンの周りの時を止めて妨害する。能力の効果が薄まりハチマンの自由が効いてきたらゲリュオンは再び突進してくる。
「邪魔を!するなぁッ!」
両手で首を、魔腕で胴体を掴み巴投げをする。倒れたゲリュオンの頭を持ち閻魔刀でその首を切り落とす。
「死ね…!」
ゲリュオンの遺体から光が出てきてハチマンの体へと吸い込まれる。ハチマンにとってその経験は2回目だがこれといって体に変化は無かった。
「葉山は…見失ったか…」
葉山もそうだが元の目的を見失いかけないように踵を返して17階層にてベル達の痕跡を探す。
「これは…」
リリルカのバックパックが投げ捨てられてる。余程の事がない限り捨てないと思うが捨てられてるならきっと状況的にマズイのだろう。バックパックを拾い上げその下の18階層へと下る。
グラッ…
しかし18階層の芝生を踏みしめた瞬間とてつもない倦怠感がハチマンの体を襲いそのまま地面に突っ伏してしまう。そのまま一言も発する事無くハチマンの意識は闇に沈んでいった。
「あぁ……また…これか……」
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「む?」「あれー?」
ベル一行を自陣のテントに担ぎ込んだ後に本来いるべき人がいないとアイズが探しに行ったから釣られてハチマンの軽い捜索に出ていたリヴェリアとティオネは森の茂みに突っ伏す紅いコートを着た人物を発見した。
「この顔は…」
「ぼーえー君だよね…」
近付きその体を改める。
「服の破け具合から傷は相当広かったようだ」
「広かった?」
過去形に疑問を抱くティオナ。
「回復魔法を使って傷を癒したがマインドダウンで気絶と考えるのが妥当だ」
「ふーん…」
何かしらの違和感を覚えながらティオナはハチマンを担ぎ自陣のテントまでハチマンを運ぶ。
「…てなきゃ…」
蚊の羽音のような声でハチマンが呟く。
「?」
「捨てなきゃ…」
哀しさと覚悟を孕ませた言葉にティオナはただ聞くことしかできなかった。なぜなら彼は寝てるのだから。
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「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
起き上がった瞬間に襲いかかる激しい倦怠感と激痛。ズタボロの体がとんでもない悲鳴をあげている。
転げ回っていると隣に見覚えのない赤色が見える。ハチマンのオニューのコート、そしてその下で寝息を立てるハチマン。そしてその横にはリリとヴェルフも寝ている。
「ハチッ…マンッ…!…皆ッ!」
痛みを堪えてハチマンを揺さぶる。しかしどれだけ揺らしても起きない。リリもヴェルフも起きない。
何とかしなくては…そうだ!
「もうすぐは〜るですねぇッ!!恋をしてーみませんかぁッ!!」
ハチマンが掃除中歌ってた曲だ、フレーズが頭に染み込んでついその歌詞だけ覚えてしまったのだ。そして再び流れる沈黙、だけど僕はそれも壊す。
「はーーるーよォー!!とおきはるよーーーまーぶたッとーじれーばーそーこにー…」
別の曲を歌うがそれでもハチマンは目覚めない。でも不思議とその顔は少し笑ってるようだ。
「どうかしたの?」
スっとその姿を現したのはアイズさんだった。
「ほわあぁぁぁぁぁっ!」
驚いて大声を上げてしまう。歌ってたのもあって凄く恥ずかしい。
「動けそう?」
「は、はいっ!」
何とか体を動かしてアイズさんに着いて行く。聞けばどうやらロキ・ファミリアの団長に会わせてくれるようだ。
ロキ・ファミリアの団長…一体どんな人なんだろう。
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「またここか…」
いつもの夢の世界。デカい扉に異色の風景、こんなのが自分の心の中にあるのかと思うと少し精神鑑定を受けた方がいいんじゃないかと思う。
「葉山…」
ここに来ると戦いの事とか自分について見つめてしまう気がする。今だって葉山の安否より戦いに勝てなかったのを悔しがる自分がいて何かの喪失感を感じる。
「分からねぇな…」
自分が何を失ったのか、葉山をどうするか、この先どうするか、何も分からない。考えたくない。
「ん?」
少し開いた扉に近付き隙間を除く。
そこには暗闇が広がっていたがよく見ると銀色に光る何かがあった。手を伸ばしても届かない、もう少し開ける必要があるようだ。
「今はまだその時じゃない…よな」
その場で倒れ込む。ココ最近悩みっぱなしだ。ていうかオラリオに来てから悩みっぱなしまである。まったく、俺の人生は苦難の連続だな。
『〜ッ!……ぁッ!』
「?」
夢の中なのに聞こえるはずが無い声が聞こえる。
「はーーるーよォー!!とおきはるよーーーまーぶたッとーじれーばーそーこにー…」
ベルの声だ。きっと掃除中歌ってたのを覚えたのだろう。歌えば俺が起きるとでも思ってるのだろうか。まったく…お前って奴は…
「愛を〜くれし君のー、懐かしき声がする〜」
続きを歌い返す。途中だと少しやるせん気持ちになるしな。よってこれは何も恥ずかしくない事なのだ。
「さてと、そろそろ起きるか…」
ゲリュオンからもらったモノも確認したいしな。
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「んがっ…」
うめき声と共に起きる。でかい欠伸をした後に周りを見渡す。
「誰もいない…」
テントから出ると辺りは夜のように暗くなっていた。
「あっ、ハチマン!」
ベルが駆け寄ってくる。
「ベル…ここは?」
「ロキ・ファミリアの野営地だよ、倒れてた僕達を介抱してくれたんだ」
「そうか、後で礼をしとかないとな」
「そうだね、もうご飯の時間だから行こう!ロキ・ファミリアの人達に恵んで貰えるから」
至り尽くせりだな…。
ベルに連れられると焚き火を囲むように沢山の人達が輪になって座っていた。
「し、失礼します」
人気のない場所に向かうとリリルカとヴェルフがコチラを見つけるなり手を振ってきた。
「遅いぞ」
「悪い、寝坊した」
からかうようにヴェルフがつついてくるが今はそれすらも心地よい。
「遅れた分はきーっちり働いてもらいますからね!」
「あぁ、勿論だ」
リリルカも微笑みながら労働させようとしてくる。返事してしまったがこの子、恐ろしいったらありゃしない。
ベルの右にススっと座ると俺の右に金髪の美少女がすとん、と座ってくる。しかしこんな事でいちいち動揺しないハチマンアイアンハート。やだ少しカッコイイ、今度からアイアンハチマンなんて名乗ろうかな。
他の場所の男性冒険者の痛い目に晒されながらも飯は進んでいった。ヴェルフやリリルカ、ヴァレンシュタインさんとも軽く喋っていたその時
「ねぇハチマン、ハチマンの憧れの人って誰?」
ふとベルが思い出したように訪ねてきた。
「憧れの人?いきなりどうした?」
「前から聞こうと思ってたんだけど忘れちゃってて…今じゃダメかな…?」
モジモジと女の子のように見つめてくる。ヴェルフやリリルカ、更にはヴァレンシュタインさんやリヴェリアと呼ばれていたエルフの人やティオナと呼ばれたアマゾネスの人も興味ありげに耳を傾けている。
「憧れの人…ねぇ」
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『おにーちゃん、何やってるの?』
『ん?FF7』
『それって古いゲームでしょ?』
『フッ甘いな、小町よ古き良きって言葉を勧めるぞ?新しいのも良いが古いものにだってちゃんと需要があるのだ、そう、老兵キャラが持つ強みとはおっさん臭さと経験からくる熱い笑顔なのだから…』
『お兄ちゃん脱線してるよ…ふーん、面白いならいいんだけど、うるさくしないでよね。小町勉強するから』
『頑張れよー、あーやっぱりセフィロスはカッコイイなぁ〜…クライシスコアもキンハーもやるか〜』
『………』
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「セフィロスかな…」
「どういう人なの?」
「俺に希望(中二病)と絶望(黒歴史)をくれた人だ」
「それって…」
「あまり話させないでくれ…思い出すと泣きそうになる(恥ずかしさのあまり)」
「ううん…ごめんねハチマン。食べる事に集中しよ?」
「あぁ…」
思い出すとセフィロスのお陰で色々な思い出(黒歴史)ができたな…。長い木の棒を持って霞の構えをして大興奮したり、セリフを丸暗記したり…。魔法とかも…ん?
「これだ…」
「ハチマン?」
今の俺に無い爆発力をこれで補えるのでは…?うわぁ…俺ってもしかして天才?
「いや、なんでもない。さっ食べようか」
「う、うん」
目の前の皿の料理を一気に腹に入れてく。
「ごっそさん、少し散歩行ってくる」
即座に立ち上がりキャンプから結構離れた人気のない場所へ移動する。高台の上でダンジョンなのに何故かある街と森そして天井にひしめくクリスタルを背景に魔法の練習にかかる。
「セフィロスといったら正宗だが先ずは魔法からだな…」
セフィロスの魔法…代表的なのはメテオとかだが無理だろう。手っ取り早いのでいったらフレアとかかな?
「こう…」
魔力を手の中で具現化させるも安定せず爆発してしまう。
「げほっ…げほっ…」
爆煙にむせてしまう。上手くいかないのは分かっていたがまさかここまでとは…。
「何をしているんだ?」
ふと影から緑色の髪の毛を生やしたエルフの美女がやって来る。あ、貴方は!
「えと、リヴェリア…さんでしたっけ?」
「ちゃんと自己紹介してなかったな、私の名前はリヴェリア・リヨス・アールヴ。知っての通りロキ・ファミリアの所属だ」
「ご丁寧にどうも、ハチマン・ヒキガヤです。えと、ヘスティア・ファミリアです」
「蒸し返すようで悪いが何をしていた?」
ちょっと言葉が強くなるアールヴさん。ファミリアの為を思っているのだろう、俺が何かしでかすと疑ってるのだろう。
「魔法の練習ですよ、さっきのを見たでしょう?あんまり安定しなくて…」
「魔法の練習?どういう事だ?」
そうか…俺以外の冒険者は詠唱さえすれば魔法が打てるんだっけか。羨ましい…いや、バリエーションに長ける俺の方が恵まれてるのか…。
「俺の魔法の特性…じゃあダメですか?」
「ふむ、理解はしたが納得はしてない。少し見学させてくれないか?」
腕を組んでコチラを見つめてくるアールヴさん。やはり絵になるなぁ…。
「まぁ、いいですけど…」
再びフレアの練習に入る。回数を重ねる度になんとか安定していき2時間もすれば8割がた完成はした。
「まだだ…まだ…」
「完成したんじゃないのか?」
「まだ、メガフレアとギガフレアが…」
そう、このフレアという魔法、上位互換があってその名の通り威力も上がって行くのだ。そうなると必然的に難易度も上がる。
「まだ時間かかるので戻っても良いですよ?」
「いや、折角の機会だ、最後まで見させてもらおう」
「リヴェリア?」
突然2人だけの空間に第三者の声が割って入り何事かとそちらを見るとヴァレンシュタインさんがいた。
「アイズ…どうしてここが」
「ティオネが教えてくれたの、何してるの?」
「魔法の練習…」
そして再びアールヴさんにした説明をする。
「そうなんだ、じゃあ私も見ちゃダメ?」
「え?」「む…」
タイミング被った事にほんの0.2秒位お互いを見つめるがすぐに目線を戻す。目と目が逢う〜しゅん〜かん〜…なんてな。
「まぁ、一人増える位平気だが…」
「じゃあ失礼するね…」
アールヴさんの隣にちょこんと座るヴァレンシュタインさん。気を取り直してフレアの完成に取り掛かる為にマジックポーションを飲む。
「さてと…やるか」
何度爆発したか分からない位穴が空いた所にまたフレア(未完成)を飛ばしてく。
「芸術は…爆発だ!」
そして何度目かも分からない爆音が響く。
(待ってろよ…葉山…)
そして再び奴に相見えるのを夢見てまたフレアを飛ばすのであった。
葉山との決着が早く着いたのはどちらも消耗していたから、だと思っていて下さいませ。
今回もこんな作品を読んでいただきありがとうございました。