そこは墓場だった。アラストルの管理するような墓ではなく、ダクソとかそんなのでよく見られる剣が槍が突き刺さり木の一部を紐で結ばれた簡素な十字の墓がいくつも並んでいた。
「…彼女達に花を手向けるために、時折ミア母さんから暇をもらっています」
十以上ある墓の一つ一つに手に持っていた花を丁寧に添えていく。そしてポーチに入っていた瓶、恐らくお酒だろう。それを特定の墓に順番に飲ませていった。
「これは…」
「私が所属していた、【ファミリア】の仲間達の墓です」
「!!」
静かにこちらを見つめてくるその空色の瞳に、一瞬吸い込まれそうになる。
「私の素性を知る者が現れたなら、いずれ貴方にも知れるでしょう。…自らの口で話せなかったことを、後悔したくない」
身勝手てすが聞いてもらえますか、と。その尋ねに俺は頷く。
「私は、ギルドのブラックリストに載っています」
「……」
「冒険者の地位も既に剥奪されています…一時期は賞金も懸けられていました」
顔を隠し、他人に正体を悟られないように俺達と別行動を取っていたのは…それが理由だったのだろう。
「私が所属していた派閥は【アストレア・ファミリア】…正義と秩序を司る女神アストレア様のもとで、当時の私は少なからず名を馳せていました。私達のファミリアは迷宮探索以外にも、都市の平和を乱す者を取り締まっていました。その分、敵対する者も多くいた。ある日、敵対していたファミリアにダンジョンで罠に嵌められ、私以外の団員は全滅…遺体を回収することもできず、当時の私はこの18階層に仲間達の遺品を埋めました」
「それが、この墓ですか…」
「はい。彼女達はこの階層が好きだった」
自分達が死んだらここに埋めてくれと、冗談を交わしていた、と。当時の事を思い出しているのか、リューさんは唇を曲げ、目を伏せがちにする。
「…生き残った私は、アストレア様に全てを伝え、そしてこの都市からお一人で去ってほしいと頭を下げました。何度も懇願する私に、あの方も受け入れてくれた」
「神様を都市から逃がす為ですか?」
「いや、違う」
もっと自分本位で、浅ましい動機だとリューさんは頑なに否定する。
「激情の言いなりになる醜い私の姿を、あの方に見てほしくなかった。仲間を失った私怨から、私は仇である【ファミリア】に一人で仇討ちをしました」
「一人で…」
「あれはもう正義ですらなかった。復讐に突き動かされた私は、彼の組織に与する者、関係を持った者…疑わしき者全てに襲いかかりました」
「その後は…」
「力尽きました。全ての者に報復した後、誰もいない、暗い路地で」
死ぬ覚悟だったのだろうか。復讐をやり遂げ、主神も、仲間も失った彼女を生に繋ぎ止めるものは、既になかったのだから。
「血に濡れて、汚泥にまみれ…愚かな行いをした者には、相応しい末路だった」
「…」
「けれど…」
ー大丈夫?、シルさんの温かい手が彼女の冷えきった手を取った。彼女のベルにしてるようなお節介があった為に彼女は生の道へと戻れたのだろう。
「私を助けたシルは、ミア母さんに頼み込んで、『豊饒の女主人』の一員として迎えてくれました。…地毛も、強引に染められてしまいましたが」
優しい声音で、リューさんは現在の自分に至るまでの話を締めくくった。
「…耳を汚す話を聞かせてしまってすいません」
「そんな事…」
「詰まるところ、私は恥知らずで、横暴なエルフということです…ヒキガヤさんの信用を裏切ってしまうほどの」
自嘲に似た言葉を発するリューさん。
「何処がですか?」
「え?」
空色の目が大きく開かれる。
「仲間の為に復讐に燃える事の何が悪いんですか?指名手配されたのは癒着してたギルド職員が悪いんだし、そもそもの復讐の引き金は対立ファミリアなんですし。恥知らず?ちゃんと働いてるじゃないですか、横暴?そんな場面見た事ありませんよ。それに信用って言いましたか?俺の方が裏切ってるんですから大丈夫ですよ。だから、自分を貶さないでください。それは俺の十八番なんですから…キャラ被りしますよ…」
ついオタク特有の早口でまくし立ててしまったが言いたいことはちゃんと言えた。余りにも長く喋った為に終わるや否や肩で息をして急いで酸素を取り込む。
そんな俺の自分本位な意見をぶつけられた彼女はポカンと見た事ないような顔をしている。そして一瞬だけ微笑むと俺に語りかけてきた。
「そうですか…ふふっキャラ被りですか、それではいけませんね。私も辞めます、ですのでヒキガヤさんも自嘲はお止めください」
こちらに歩み寄り自然と俺を見上げる。やめてください、そんな目で見ないでください溶けてしまいます。
「善処致しかねます」
目を逸らしそれしか言えなかった。やはり彼女は眩しすぎる。
「そこは素直にハイと言ってください…」
俺の手袋を掴みながら俯いて言う事じゃないと思うんですけど。
「無理ですよ…俺には、誰かに語れるような美談なんてないんですから…「振りほどかないんですね」…え?」
「拒否をしていながら私の手を振りほどかないのですか?」
何を言ってるんだ?この人は?
「手を差し伸べられっ放しの私が貴方に手を差し伸べる事ができました。こんなの初めてなんですよ?見目麗しいと言われるエルフに手を取られたんですからこれも立派な美談になるでしょう」
顔を少し赤くしながら暴論で殴ってくるリューさんに思考が追いつかない。
「だから自嘲なんてやめて一生それを語っていけと?」
「はい、次の美談が出来るまでそれをずっと語ってゆきなさい。あぁ…でも時折思い出してください。いずれ美談に埋もれるであろうヒキガヤさんが最初に語ったのは美人なエルフに手を取られたって事を…」
先程とは違い俺の嫌いなトマトのように赤くなりながら愚策を提案するリューさん。
「いかがですか?」
たらればが大嫌いな俺がここまで思ってしまうんだ。これ程願ったことは無い…今すぐ消しゴムみたいに
「まあ、第一候補位には入れときます…」
そんな言葉しか返せない不甲斐ない自分に嫌悪感が湧いてくる。きっと過去を精算できたら胸を張ってそんな事も豪語できる日が来るのだろうか…今はまだ分からない。あっちに戻る機会なんてもう二度と無いのかもしれない。そうしたらこの過去はどうすればいいのだろうか。
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「神様、聞きたい事があるんですけど少し良いですか?」
「ハチマン君、どうしたんだい?」
夜、神様と話をするべく少しテントから離れた場所に移動する。
「珍しいじゃないか、君から話なんて。よーし!なんでも答えてあげるよ!」
胸に拳をトンと当ててバルンと揺れる胸に一瞥する。ん?今何でもって…。まあいい、本題に入ろう。
「武器って強くなればなるほど高価になりますよね?」
「そうだね、ヘファイストスの店で働いてるからよく分かるよ。ボク達じゃ手に届かない値段をしていたよ」
「武器に特殊効果とか付いてると更に高くなりますよね?」
「…そうだね、ヘファイストスも強いのは良いけど売れ行きが怪しいってボヤいてたよ」
「オーダーメイドの武器ってバカみたいな値段、してますよね?」
「その子オンリーワンの武器だからね、仕方ないよね」
「じゃあ最後に…ベルのヘスティアナイフ、幾らしたんですか?」
「君のような勘のいい
そう言い告げるとダッシュで逃げようとするがステイタスを授かった俺は魔力で結界を作り逃げ道を塞ぐ。
「さあ、答えてください…手荒な真似はしたくない」
「ぐぬぬぬぬ………おく…」
「へ?」
「におく…」
「なんですって?」
「2億ヴァリス…」
「におっ…!」
バタン
「ハチマン君!?ハチマン君!ハチマンくーーーーーん!!」
デンデンッデ デンデン デンデンデン!
GAME OVER
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目を覚ますとそこはテントだった。直ぐに起き上がり神様に文句を言うべくテントを出る。2億って…一生で返せる金額じゃねぇよ。
「おっ、ハチマン起きたか」
「すまん…」
ダンジョンの天井を見上げるとクリスタルは朝のような光を発していた。まあ、朝なんだろうな。
「ベルとヘスティア様を探してきてくれないか?そろそろロキ・ファミリアが出発するから装備の整備もしたいしな」
「分かった」
どうせ神様がベルといるのだろうと思い神様のテントに向かう。暖簾を潜るとそこには異変しかなかった。
「なんだこりゃ…」
ナァーザさんから貰ったポーションが散乱している。いくらだらしない神様でもこんなヘマはしない…筈だ。
「?」
ふと地面に落ちている巻物に視線が吸い込まれる。手に取って読んでみる。
『…リトルルーキー。女神は預かった。無事に返してほしかったら一人で中央樹の真東、一本水晶まで来い』
「汚ぇ、のみ以下の根性してやがる。『殺しに来て』にしか見えねぇな…」
すぐにテントを出てヴェルフ達に事情を説明すると一緒に行く事になったが神様を探させてからベルの方へ向かう事になった。
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「モルド!」
アスフィから貰った『ハデス・ヘッド』を用い姿を晦ましベルを一方的に嬲っているモルドに仲間からの報告が入った。
「なんだぁ!?どうかしたのかよ!」
「【亡影】がかちこんで来やがった!」
「なにィ!?」
思わず仲間の方に振り返るとモルドは仲間の異変に気付いた。仲間の表情には焦りともう一つ、混乱が見えた。
「何か…あったのかよ…」
「それが…」
仲間の視線は後ろの方にやられら、モルドやベルを取り囲んでた冒険者達がモルドに見えやすいように道を空けると一つの影がそちらに近付いていた。
「ハチ…マン?」
赤いコートを風に揺らしながら近付いて来るハチマンの顔には怒りや憎しみといった表情は何一つなかった。無表情に添えられた一筋の水跡がベルやモルド、そして取り巻き達に何か違う事を察しさせた。
「ハチマン、泣いてるの?」
「…厳密に言うと泣いてたになる」
「はっ!亡影のおぼっちゃんは泣き虫だったのかよぉ?」
その一言で取り巻きの冒険者達ははっとすると急に笑い出す。そう、いくらおっかない顔をしてたって所詮はレベルアップしたばかりの新人。負ける訳が無いと取り巻き達は笑う事によって自らを鼓舞するのだった。
「テメェら!俺だけ楽しむのも悪いだろ!お前らが亡影を殺っちまえ!!」
「「「「「「おおおおおお!!!」」」」」」
武器を構えハチマンに滲み寄って来る。
「ハチマン!」
「安心しろ、なぁに、殺しはしない」
「はっ!言うなぁ!殺されるのはお前なんだよ!」
先頭にいた一人が襲いかかってくるがそれを最低限の動きで躱し腹にベオウルフでカウンターを撃ち込む。
「がはぁっ!!」
そのまま首根っこを掴み地面に叩きつけ片足でグリグリと顔を踏み躙る。
「いつから自分達が狩る側だと勘違いしてたんだ?年上だからって付け上がるなよ…弱く見えるぞ」
ハチマンのその目は期待に裏切られた失望の念と哀れみの感情を孕んでいた。
「ふざけるなぁ!!」
震える手でハチマンに殴りかかるがハチマンの拳にその威力を殺され弾き飛ばされる。
「全然足りねぇ!!」
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「あそこか!」
ヴェルフ達はヘスティアの保護を終えハチマンやベルに加勢しようと途中で合流したリューと敵陣へ向かう。
「ぎゃああああ!!」
「ひぃいいいいいぃぃ!」
しかし冒険者達はヴェルフ達に見向きもせずに向こうの方向を見ている。大量にいる冒険者は虫けらのように鈍い音を立てながら吹き飛ばされ自分は逃げようと試みる者もいるようだ。よく見ると見慣れた紫の巨大な腕が冒険者達を掴んでは投げたり武器のように振り回して追衝突させ双方にダメージを与えたりしている。奥にはベルが何かと戦っているのが見える。
「あの荒々しい戦い方は…」
「間違いねぇ、ハチマンだ」
それなりに近くで彼の戦い方を見て来たヴェルフとリリは即座にその正体がハチマンだと見抜いた。
「あれが亡影…」
「普段の物言いからは想像できません…」
タケミカヅチファミリアは戦慄していた。あそこまで容赦のない戦いがあっていいのかと。
「うおおおおおおおおお!!!」
轟音と共に現れた白い半円の光が冒険者達を飲み込む。ベオウルフの特殊能力『ヴォルケイノ』だ。戦いを重ねる毎にハチマンは力だけに及ばず魔具の使い方も上達していく。まるで嘗て自分が使っていたかのように…。
「やめろ…君達はそんな子じゃない筈だ…」
ヘスティアが前に出る。わなわなと震えながらハチマンの元に向かう。それでも冒険者達が打ちのめされるのは終わらずハチマンはとことん冒険者達を痛めつけてる。
「やめろーーー!」
グシャ…
「ああああああああぁぁぁ!!」
それでも戦うのを止めない二人。
「ー止めるんだ」
威圧感を含んだ言葉が戦場を飲み込んだ。そこには神威を解放したヘスティアが立っていた。
Qー最近起きたショックな事は?
Aー家の中にゴキブリが出てきた事。マジで絶滅して欲しい。