ー焔蜂亭ー
「え!?リリ【ソーマ・ファミリア】辞めれたの!?」
「はい!ソーマ様も二つ返事で許可をして下さったのでもう大丈夫だと思います!」
ヴェルフのランクアップを祝した祝賀会にてリリルカの意外な報告を聞いたベルは驚いていた。ソーマか…最近アイツどうしてるんだろう。
「なあ、ソーマは何してたんだ?」
「ポエムを読み耽っていましたよ?あっ、ハチマン様に宜しく伝えるよう仰っていました。お二人ってどういった関係ですか?」
「別に?ちょっと一緒に話しただけだが…」
俺とソーマの意外な関係にもヴェルフとベルは驚く。君達、俺に知り合いがいて悪い?少しならいるからね?少しなら…。
「その話題は置いといて、今日は何しに来たんだ?」
そう言うとベルとリリ、そして俺はヴェルフに向き直る。照れ臭そうに頭を搔くヴェルフ。
「ランクアップおめでとう、ヴェルフ!」
「これで晴れて上級鍛冶師、ですね」
「おめっとさん」
今まで見たことないような表情で嬉しさを噛み締めるヴェルフ。何故だろう、見てるこっちも少しだけ嬉しいという感情が湧いてくる。
そこからは色々と話し合った。ヘファイストスさんのロゴの事とか、この前の黒いゴライアスについての意見交換とかをした。ゴキュゴキュと酒を飲みながら。いけるな…。
「ベル様も、先日の事件で随分株が上がったことだと思います。少なくともあの階層主攻略に参加した冒険者達には、認めてもらったのではないのでしょうか?」
「う、うん…」
実際の所色々とお誘いはあった。飲みに行かないか〜とか、ウチのファミリアに入らないか〜とか、まあ、丁重にお断りさせてもらったがな。
「ー何だ何だ、どこぞの兎が一丁前に有名になったなんて聞こえてくるぞ!」
ま、こういう展開になるのはあながち予想はできてたんだがな。酒に口を付けながらジロリと目線だけを移すとパルゥムの冒険者が杯を片手に叫んでいる。
「ルーキーは怖いものなしでいいご身分だなぁ!世界最速兎といい、嘘もインチキもやりたい放題だ、オイラは恥ずかしくて真似できねえよ!」
「すみませーん、トマトソースパスタ追加、あっ、大盛りでお願いしまーす」
ウェイトレスさんに追加の注文をする。
「っ…オイラ、知ってるぜ!『兎』は他派閥の連中とつるんでるんだ!売れない下っ端鍛冶師にガキのサポーター、第一印象最悪のクソダサコートの剣士!とんだ凸凹パーティだ!」
ガタッ
ベルが立ち上がりそうになるのを両隣のヴェルフとリリが抑える。クソダサコートって…。
「落ち着け、ベル」
「ああいうのは無視が安定です」
ヌギヌギ
「よせハチマン!お前のコートはカッコイイぞ!悔しいがヘファイストス様のお墨付きだ!」
「リリも素敵だと思いますよ!ソーマ様も絶賛してましたよ!」
「大丈夫だよハチマン!もんのすごくかっこいいから!僕も欲しいなー!」
何故か必死にカバーしてくれる仲間達。ううっ、ありがとう…。それにしてもアイツには少しカチンと来たぞ。
俺達の断固たる無視の意思にクソガキはチッ!とバカでかい舌打ちをした。土手っ腹に弾ぶち込んでやろうか?あ?
「威厳も尊厳もない女神が率いるファミリアなんてたかが知れているだろうな!きっと主神が落ちこぼれだから、眷属も腰抜けなんだろな!」
プチッ…
「取り消せ!!」
ベルの怒りが頂点に達したのか珍しく怒鳴り散らす。ヒュー、きっと神様が見てたら泣いて喜ぶんじゃない?もうさっさと付き合っちまえよ。
「ず、図星かよっ。あんなチビの女神が主神で恥ずかしくないんだろう?」
「ーーッ!!」
そろそろ我慢の限界だ。やっすい挑発だが最近虫の居所が悪いもんでな、乗らせてもらおう。
ガタッと荒々しく立ち上がりクソガキの近くに歩み寄る。距離が縮まるにつれカタカタと震えが増してくがお構い無しだ。お前らがけしかけた喧嘩だもんな。
「大事な仲間バカにされて、黙ってられる程俺も大人じゃねえんだよ」
「は、はぁ?」
「これが俺のぉ…答えだァァァァ!」
右手に全身全霊を込めて体重を乗っけた拳をその憎き顔面に叩き込む。
その衝撃が顔面の抵抗とぶつかった瞬間に拳を折って第二撃を入れる。
すると第二撃目の衝撃は抵抗を受ける事なく完全に伝わり切りクソガキは店外に吹き飛ぶ。 俗に言う『二重の極み』だ。よく分からない人は調べてみよう、カックイイぞ!
「これでおあいこだな…」
「てめえよくも!!」
「やりやがったな!!」
立ちあがった冒険者の1人に今度はヴェルフが殴る。蚊帳の外の冒険者達はこれ以上とない昂りを見せる。意外にも参戦したベルを気にかけながら俺とヴェルフは喧嘩に熱中する。順調に喧嘩相手を痛めつけ遂に最後の一人が残った。さっきまで椅子に座り酒を飲んでクールキメてたイタイあんちゃん2号(1号はベート)はグラスを投げ捨て立ち上がった。
「うおっ!」
「ヴェルフ!?」
意識が向いてなかったヴェルフの腕を掴み片手だけで逆方向に投げ飛ばす。あの反応…レベル2じゃない、3だな?
次はベルが仇と言わんばかりにその男に突っ込むがあっさりと躱され顔面に一発食らう。
「ベル様!?」
リリルカの悲鳴と一緒にベルを受け止めた丸テーブルが音を立てて壊れた。弁償とかするのかな?
「まだ撫でただけだぞ?」
次は俺に接近して顔面に一撃が入る。しかし少し考えて欲しい。俺はこれまで幾度となく吹き飛ばされてきた。体長5mにも及ぶベオウルフの拳を受けたり、アラストルに壁上まで飛ばされたり、挙句の果てにはゴライアスにも18階層の端っこまで吹き飛ばされてきた。その経験を詰んでると自然と殴られ慣れというものが生まれる。なんだよ殴られ慣れって…言ってて悲しくなってきたぞ。まあ、何が言いたいかというと、奴のパンチなんて屁でもないという事だ。ちょっと口の中が切れたくらいだ。
「ほう…」
「一発は一発…受け止めろよ?」
ギリギリと握り拳をイタイあんちゃん2号に向けるがその拳はカウンター席から聞こえた破壊音が止めた。
『!』
音のした方を酒場にいた全員が一斉に振り返る。その先には灰色の毛並みを持つ狼人の青年、つまりはイタイあんちゃん1号がいた。
「揃いも揃って、雑魚が騒いでんじゃねぇよ」
顔に刻まれた刺青が歪む。その機嫌の悪さを発露している人物に、誰もが言葉を失う。
「てめえらのせいで不味い酒がクソ不味くなるだろうが。うるせぇし目障りだ、消えやがれ」
要約すると「皆の迷惑になるから喧嘩は他所でしてね☆」って事か…なんだ、良いとこあるじゃん。
「調子乗ってんじゃねーぞ」
俺の胸ぐらを掴み顔を寄せて威嚇してくるがこれも要約すると「気を抜くんじゃない」という事か…。ツンデレかな?
ー【ホーム】ー
そんなこんなで帰ってきた俺達は神様やリリから治療してもらっていた。とはいえベルには神様、ヴェルフにはリリルカが担当してる為俺は切れた口を治すためポーションを口の中に含んでその様子を眺めていた。
「驚いたよ、君が喧嘩をするなんて。ベル君も男の子だったんだね」
「……」
膏薬を優しい指で塗りながら諭すように彼女は語る。ベルは悔しそうに黙り込んでいた。
「でも、やっぱり喧嘩はよくないぜ?サポーター君の言う通り、しっかり怪我までしているじゃないか」
「だって、あの人達っ、神様を馬鹿にしたんですよ!?」
それは初めてベルが神様に反抗した瞬間だった。リリもヴェルフも手を止めて、ベルを見上げてる。そんなベルと見つめあってた神様はやがてふっと微笑んだ。
「君がボクの為に怒ってくれるのはとても嬉しいよ。でも、それで君が危険な目に遭ってしまう方が、ボクはずっと悲しいな」
「……」
「ベル君の気持ちはわかるんだ、逆の立場だったら、ボクも火を吐くほど怒る。でもそれで相手と喧嘩したボクが、ボコボコになって帰ってきたら、ベル君はどう思う?」
「…泣きたくなります」
もうさ、You達付き合っちまえよ。不肖このハチマン・ヒキガヤ、アキバのオタク達がガチでドン引きする位応援するぜ?
まあ、その後は適当に言葉を交わし俺はいつものソファで眠りについた。クソダサコートって……。
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次の日、ベルと共にチュールさんの元に向かい一連の報告をした後にダンジョンについての座学を受けた。元々学生だった事もあるし、勉強もそこまで嫌いでは無いのでノートにもスラスラと書けた。チュールさんの座学はスパルタと有名だったらしいがしっかりと話を聞いていれば分からないことは無い。隣の席に座ってるベルは終始頭を悩ませていた。帰ったら勉強に付き合ってやろう。
「ハチマンはこの後どうする?」
「そうだな…じゃが丸くんの新しい味を開発したいんだが頼めるか?」
「甘い味…?」
「いんや、トマトソースグラタン味だ。甘くは無いはずだ」
「それじゃあ受けようかな」
「厳しめで頼むぞ」
そんな他愛もない話をしながらロビーを出たところ女性冒険者2人が俺たちの道を塞ぐように立っていた。ん?よく見れば酒場で絡んで来た奴らと同じエンブレムしてんじゃん。
「ハチマン・ヒキガヤで間違いない?」
「は、はぁ…」
気の強そうな短髪の人が尋ねてくる。狼狽えながら頷くと、今度は後ろに控えてた柔らかそうな長髪の人がオドオドしながら歩み出た。
「あの、これを…」
差し出される招待状。封蝋には弓矢と太陽のエンブレム。
「ウチはダフネ。この子はカサンドラ。察しの通り【アポロン・ファミリア】よ」
「あの、それ、案内状です。アポロン様が『宴』を開くので、も、もし良かったら…べ、別に来なくても結構なんですけど…」
「必ず貴方達の主神に伝えて。いい、渡したからね?」
「はあ…」
「ご愁傷様…」
そう去り際に呟かれた。
「もう死んでるんだよなぁ…」
えっ?とベルが聞き返すが俺は手元の招待状を見下ろしていた。
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ホームに帰り神様に事の顛末を話すとパーティには出席しないと後が面倒くさいとの事で勿論ベルが同伴する事になった。ベルの一張羅や神様のドレスをチェックしてほつれとか無いか確認した後に暇になった俺は街を宛もなくブラブラしていた。そんな時だ。
「見覚えのあるコートだと思ったら、ハチマンか」
「アラル…奇遇だな」
「あぁ、お前に預けた剣を返して貰おうと思っててな。使い心地はどうだった?」
「一回しか使ってないから分かんないが良かったんじゃないか?なんかバフみたいなのも付いてたし」
「だから…なんでお前といいダンテは…!」
怨念に震えながら俺と知らない男の名前を呟くアラストル。なんだ、他にも貸してたんだ。ダンテ…違和感を覚える名前だ。
「あ?ダンテ?誰だそりゃ」
「?…後で会うことになるさ。丁度いい、紹介したい奴がいるんだ!ベル君!ヘイカモッ!」
「アラル様、歩くのが速いです…」
アラルを先輩と慕いながら駆けつけたのは後輩キャラとしては筋肉と図体が隆々としている長い白髪と白髭を蓄えたおっさんだった。は?ベル君?俺の知ってるベル君とは正反対の男のようだ。
「アラル様、その小僧は…まさか!?」
「例の俺の弟子だ。ハチマン、コイツはベル君、俺やマキャヴェッ リと
「ども、ハチマン・ヒキガヤです弟子じゃねーよ…ん?同じ?あっ…(察し)」
じゃあきっと本名を短くしてたり捩ってたりしてるのだろう。ていうか稽古?
「ベルだ。訳あって貴様には本名を明かせない。吾輩が鍛えるからには死ぬ気でやってもらう。宜しくな」
ベル君(仮称)と硬い握手をする。熱い漢の気を感じる。まぁ、見るからに熱血タイプだもんな、鍛冶師って言っても違和感さんが仕事しないもん。
「あっそうだ、ベル君、先に教会に戻ってくれ。この後の用事はコイツと行くからよ」
「ちょ、勝手に決めるなよ!」
「了解した」
「了解するな!」
俺の静止に耳を貸さず教会の方角に歩いてくベル君のデカい背を見届けアラストルに向き直る。
「どういうことだ?」
「いやな、この後の用事にベル君を連れてくと色々と面倒になるからたまたま見かけたお前に乗り換えただけだ」
「クズの発想だ、そりゃ」
なんだろう、ベル君(仮称)が少し不憫に思えてきた。今度マッ缶(偽)を奢ってやろう。
「まあ、その格好でもあれだし、少し着いてこい」
手を引かれ連れてかれた場所は高めの服が置いてある仕立て屋だ。そこで採寸とか丈合わせをしてそれなりにいいスーツを拵えてもらった。手袋も黒革の厚くないやつに取り替えられた。髪の毛も弄られオールバックにされた。
「おお…似てる」
「あ?誰にだよ」
「さっきダンテって呟いただろ?その双子兄貴のバージルって奴だ」
「あっそ」
他人に似てると言われるのは変な気分だ。俺は俺なのに。バージル…放っておけない名前だ。
「さてと、行くか」
「行くって…まさか」
「とある太陽神が開く宴だ。そこでお前の自慢でもしておこうと思ってな」
「い、嫌だ…!」
抵抗虚しくタクシーに乗せられ遅れた形で会場に着く。着くなりアラストルとは別行動になり「後は好きにしろ」と放り出す始末、自由すぎるだろ、アイツ。
「…取り敢えず、食うか」
個人的な見解としてパーティのランクは設備もそうだが出てくる料理で決まると思う。飯が美味けりゃそれなりに話も弾むもんじゃないのか?まぁ、パーティ行ったことないけどね。
「うん…微妙だな」
材料は良いのを使ってる。貧乏人の俺達じゃ手の届かないような物だ。だがコスト削減に調味料をケチってる。これじゃ材料の良さを活かせない。まぁ、アポロン・ファミリアもこの程度なのだろう。ガワがしっかりしてそうで案外中身がスカスカのプライドだけの連中なのだろう。
グラスに注がれたワインを一口飲む。あ、美味い。
「あれ!?ハチマン!」
ベルが驚愕の声と共に駆け寄ってくる。釣られて色んな人達もこっちに来る。ヘスティア様は勿論、タケミカヅチさんや命さんに加えミアハ様とナァーザさん、ついでにヘルメスとアスフィさん、それにヘファイストス様も来た。久々の大所帯の為少し酔いそうだ。
「久しぶり…でもないわね。元気してたかしら…//」
「え、ええ…」
「あっ、スーツ似合ってるわよ。いつものコートもカッコイイけれど新鮮で素敵よ」
「あ、ありがとうございます。貴方もドレス…その、似合ってますよ…?」
「そうかしら//…フフフ…照れるわ」
何故かヘファイストス様と話すとドギマギしてしまう。この前の出来事のせいだろう。この人の前でみっともなく泣いてしまった…うっ、死にたくなってきた。
ざわっっ、と広間の入口から大きなどよめきに、俺達の成立すらしていない会話は遮られた。
「おっと…大物の登場だ」
ヘルメスがおどけるように言葉を紡ぐがその一言一句にすら何故か腹が立つ。
「あれは…」
何時ぞやの女神とその従者が礼服を身に纏い衆目を一身に浴びていた。
ベルは神様に目を塞がれ命さんやナァーザさんも見惚れかけている。アスフィさんは露骨に目を逸らし見ないようにしている。
「そう、フレイヤ様だ」
説明口調のヘルメスやその場にいる全員の視線の先に圧倒的な『美』がそこに立っていた。オラリオ一の従者を引き連れて…。
「言うほど美しいか…?」
俺の素直な感想は会場の喧騒に呑まれた。
いかがでしたか?もし面白いと思ってくださったら高評価とコメントをしてくださると助かります。作者のポテンシャルが上がるので…。