ー【ロキ・ファミリアのキッチン】ー
そこには全てが揃っていた。用途毎に使い分けられるな鍋、ピカピカの包丁、ボロボロじゃないまな板「ブェックション!」、凸凹してないフライパン、新鮮かつ豊富な食材達…。
ハチマン「ま、まさか…本当にここを使ってもいいのか…?」
アイズ「うん…」
だったらッ…だったら俺も本気で作らねば…無作法というもの…。ハチマン・ヒキガヤ、推して参ろう!
ベル「そんなに嬉しいんだ…壊れちゃったけど前のホームはダメだったの?」
八幡「馬鹿にしてるにも程がある…」
ベル「そこまで!?」
そりゃそうだ、ヴェルフに会うまで穴の空いたフライパンを使ってたんだ。食材が焦げないように、落ちないように上手く調節するのがマジでキツかったんだぞ。
ベート「マズイの作ったら容赦しねぇからな?」
ハチマン「当たり前だ、お前達の舌に合わなかったら俺は二度と台所に立たないと誓おう」
ベート「そこまで腹くくんのかよ…」
ハチマン「こんな良い台所を使わせてもらえるんだ、それで失敗したら料理人の名が廃る」
リヴェリア「覚悟は良いが何を作るんだ?」
ハチマン「うーん、少し材料確認しますね………米はある、ケチャップも、グリーンピースもある、あれもこれも……じゃあオムライスでも作るか」
コートを脱いでベルに預けてエプロンとバンダナを着ける。手を洗い、食器や調理器具も洗う。材料も並べて調理に取り掛かる。
アイズ「私も何か手伝う?」
ハチマン「いや、いい…なるべくこのキッチンを独り占めしたい」
ベル「そこまでこのキッチンに惚れ込んだんだ…」
アイズ「むぅ……」
リヴェリア「アイズ、いくらなんでもキッチンにヤキモチを焼くな」
アイズ「だって…」
ヴァレンシュタインさん改めアイズさんとリヴェリアさんの会話やベルとベートのチグハグな会話や匂いに釣られてやってきたヒリュテ姉妹の小さな喧嘩といったBGMに耳を傾けながら手を進めていく。
レフィーヤ「結構手馴れてるんですね」
カウンターからひょっこり顔を出したレフィーヤに羨望の感情が含まれた賞賛を頂く。
ハチマン「まぁな、ガキの頃からこういうのやってたからな…」
レフィーヤ「慣れだったんですか…てっきりヒキガヤさんのお母様が作っているのかと…」
ハチマン「まぁ、普通はそうだろうな」
レフィーヤ「普通は?」
ハチマン「俺の場合…自分の飯は自分で用意しなくちゃいけなかったからな…」
レフィーヤ「えっ…それってどういう…」
ハチマン「俺は…あの人達の子供であって家族じゃなかったから…」
レフィーヤ「………」
ハチマン「あぁ…すまん…湿っぽい話をしちまった。そら、もうすぐ完成するから手ぇ洗って席つけ…な?」
レフィーヤ「なっ、分かってますよ!子供扱いしないでください!」
プリプリしながら引っ込んでくレフィーヤ。いかんいかん…あんな過去…忘れなきゃいけないのに…柄にもなく語ってしまった。きっと心の何処かに後悔とかあるのだろうか…もう遅いのに…二度と帰れないのに…切り捨てた方が楽なのに…。
ハチマン「全員分行き届いたな?それじゃあ…」
(一部除く)全員「いただきまーす!」
パクっ……
(一部除く)全員「おいしーー!」
口にあって良かった…恥ずかしくて声も出せなかった狼人もバクバク食っちまってお代わりが欲しそうにチラチラとこっちを見てくる。
ハチマン「ほらよ、一つ余った」
ベート「あ?お前の分がねぇじゃねぇかよ」
ハチマン「ガタガタ言ってると他のやつにやるぞ?」
ベート「チッ…受け取ってやるよ」
チョロ……
ハチマン「アイズさん…あとこれ…」
アイズ「!!…じゃが丸くん」
ハチマン「じゃが丸くんハチマンスペシャルver.9.1.3」
リヴェリア「そんなに作ったのか…?」
ハチマン「いや、設計段階でボツになったのもありますから…アイデアでいえばもっとあります。まぁどれも人に出せるもんじゃないんですけどね」
アイズ「…おいしい…!」
レフィーヤ「ッ……!!」
ハチマン「感謝ならベルに言ってくれ」
アイズ「?どうして?」
ハチマン「9.1.3ができたのはそれまで数々の試食&感想を言ってくれたベルのお陰だからな」
ベル「僕は別に…食後のデザートみたいな感じで出されてただけだから…凄いのはハチマンだよ、どれも見た目は同じなのに味とか飽きないようにアレンジされてるんだもん。毎日楽しみだったんだ」
ハチマン「ふっ、ハチマン冥利に尽きるぜ」
ドドドドド…!!
そんな会話をしていると扉の向こうから大量の足音が押し寄せてきた。扉が開かれるとヨダレを垂らしたロキ・ファミリアの団員達が流れ込んできた。
リヴェリア「お前達…どうしてここに…」
「「「良い匂いがするから飛んできました!」」」
ざっと数えて100人超え…そこからは数えるのを辞めた。頭痛くなってきたんだもん。
リヴェリア「だそうだが…大丈夫だろうか?」
少し眉を潜めてリヴェリアさんが聞いてくる。いつもなら断っていたけどリヴェリアさんのお願い…ゲフンゲフン、俺の料理を待ち遠しくしてくれているのだ。NOとは言えないな。
ハチマン「まぁ、材料とか買ってきてくれるなら…」
フィン「だ、そうだ!後ろにいる者は材料を買って来てくれ!」
「「はい!!」」
ハチマン「フィンさん…いつの間に…」
フィン「僕も匂いに釣られてやってきたんだ、迷惑だったかな?」
ハチマン「いえ、別に…」
「そうだよ」なんて言えない…後ろのティオネさんの鬼のような形相が控えているのだから…。
フィン「この数だけど大丈夫かい?」
ハチマン「ふっ…別に…満腹にしてしまっても構わんのだろう?」
フィン「頼もしいよ」
さてと、エプロンの帯を締め直して再び台所に立つ。たまには剣ではなく包丁を振るうのも悪くないと考えてしまう。
二時間後……
「「「ご馳走様でしたーーー!」」」
ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…流石に疲れた…誰か全部捌いた俺を褒めてくれ…。疲れすぎて列に5、6回ベートが並んでるように見えたんだが末期だろう、もう。
フィン「凄いね…あれ程の数を捌くのにも関わらず味を落とさないなんて、何かコツでもあるのかい?」
ハチマン「俺の料理を待ってくれている…それを知ってるから」
フィン「君は見た目に反して…優しさを持ち合わせているんだね。やはり冷酷無慈悲という噂は噂に過ぎないんだね」
ハチマン「優しいねぇ…生憎俺はそこまで優しくないんですよ。並んで歩いてるカップルの間をズカズカと通れるくらいは意地が悪い」
ベル「わ、悪い…!」
ハチマン「さらに、彼氏が転んだらめっちゃ染みる消毒液を渡す位には無慈悲だと自負します」
ベル「ざ、残酷だッ!!」
ククク……痛みで悶絶する姿が実に滑稽だ。思い出すだけで笑いが込み上げてくる。これが…愉悦…か、悪くない。
ハチマン「ねっ?」
フィン「どうしてそんなに自信に満ち溢れてるのかは分からないけど…理解はしたよ」
ならいいんです、と話を切りあげる。
ベル「それじゃあお腹もいっぱいになったので…アイズさん、ティオナさん、ティオネさん特訓、お願いします!」
ハチマン「おっ、頑張れー」
レフィーヤ「ヒキガヤさんは鍛えないんですか?」
ハチマン「そうしたいのは山々なんだけどな…」
体内のギルガメスの事もあるし…何より今めっちゃ疲れてるから…極力動きたくないんだよな…。
レフィーヤ「む〜っ!勝負です!!」
ハチマン「は?」
どうして訓練を渋ったら勝負を持ちかけられるの?ポケモントレーナーなの?目すらろくに合ってないのに。
レフィーヤ「1週間後に戦争遊戯が控えてるのに怠けてちゃいけません!ベル・クラネルが頑張ってるのに貴方がサボるなんておかしいです!」
ぐぅのねも出ない意見…。ベルは頑張ってるのだからお前も頑張れ…ね。言ってる事は正しい分余計腹が立ってきた。
ハチマン「分かった…応じよう」
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ー【訓練場】ー
ハチマン「悪いな、使わせてもらって」
アイズ「ううん…ベルも見て勉強した方がいいと思うから…」
ベル「ハチマン!バッチリ見てるからね!」
ティオナ「ぼーえーくーんもレフィーヤも頑張れー」
ティオネ「レベル差は歴然…どう仕掛けるのかしら…」
リヴェリア「さて、お手並み拝見といこうか」
他にも立派な髭のガレスさんやフィンさんが観客席で見ている。好奇心に駆られた目に晒されるのはいい気がしないが今は集中せねば…なんせ相手はレベル3…だったっけ?次元が1つしか変わらない相手だ、アラストルやベリアル…ベオウルフにギルガメスとかに比べれば赤ん坊みたいなもんだ。
「さてと…勝ちに行くか」
さぁ、今日も戦闘だ。
お互いに見つめ合う。その距離は20m、レフィーヤの手には杖、対して俺はフォースエッジ…ではなくて最近出番が少なくて寂しそうにしていた閻魔刀が手に握られている。
アイズ「じゃあ、いくよ」
アイズさんがコイントスをして1ヴァリスが宙を舞う。コインから目を離しレフィーヤに視線を移す。あいつ…まだアイズさんをチラチラ見ている。見とれるのは分かるけど大丈夫なのか?
チン…
「解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢…アルクス・レイ!!」
超速の光の弾が飛んでくる。ホント早い…でも反応できない訳じゃない…特訓してなきゃ殺られてたかもな。ん?…あいつ…もう勝ったような顔してやがる。
「なめるなッ…!」
閻魔刀で目にも止まらない速さで居合を繰り出すと無数の斬撃によって光の弾は切り刻まれ消滅した。
「なッ!?」
「決める…」
高速で移動することによって互いの距離を瞬時に詰める。後ろに回って閻魔刀の刃を細い首元に近付ける。
「降参してくれると、たすかる」
「は、早い…!でも…!」
後ろ蹴りを繰り出そうとするが地面から生やした【魔界金属ギルガメス】によって構成された漆黒の棘がその眼前に迫る。
「まだ抗うか?」
「くっ…降参、します」
降参の言葉を聞くとギルガメスを引っ込める。閻魔刀も納刀して青い光に分解して体に吸収する。
「強い、ホントにレベル2…?」
「誘い文句は良かったけど、
言いたい事を一頻り言い終えると彼女に背を向けて戻る。疲れた…ギルガメスを使うと楽なんだけど動きながら使う訳だから同時思考もしなくちゃいけなくて疲労感が半端ない。
「おめでとう」「おめでとー!」「凄いわね」「やるのぅ」「凄いじゃないか」……
観客席で控えてた人達が賞賛の声を浴びせてくれる。勝って褒められたのってこれが初めてかも?
「どうしてそんなに強いの?」
ふと、アイズさんが問いかける。真面目にやってきたからよ!なんて事は口が裂けても言えない。
「強くない…」
「君は充分強いよ?」
「だったら家を奪われちゃいない」
「……」
「ッ!…悪い、色々あって混乱してんだ、今日はもう戻らせてもらう。ベル、4日後教会に来い。戦地まで送ってく」
「う、うん…」
「訓練、頑張れよ」
足早にロキ・ファミリアのホームを出て行く。最低だ、俺って…アイズさんは何も悪くないのにキツく当たってしまった。切り替えもできない俺に嫌悪感が湧いてくる。
(助けてほしかった…)
こんな気持ち…どうしたら消えてくれるんだろうか。オンボロ教会の長椅子の寝転がりながら蝋燭の炎に照らされているバカでかいステンドグラスを眺める。
その絵は上・中・下の3段で構成されており、上段には楽しそうに食事をする神々…そして中段には必死に農作物や家畜を殺してる人間…そして下段には人間を食してる悪魔がいる。
「ん…?」
下段のステンドグラスの真ん中に気になる物があった。数々の悪魔が人間を食してるのにも関わらず独りの悪魔が4枚の羽を広げ今にでも泣きそうな顔で上に手を伸ばして何かを欲している絵だ。
(やつも俺と同じ
共感を覚えてしまい変な気分に駆られる。
ギィィ…
蝋燭の炎が揺らめき扉の隙間から風が吹き込んできたのを教えてくれる。客か?こんな時間に珍しいな。
「誰だ…?」
重い頭を上げて客人に目を向ける。そこにはアイズ・ヴァレンシュタインが立っていた。
「どうしてここに…?」
「お話をしに来たの…」
「取り敢えず、座ってくれ…」
突然の来客に困惑しながら向かいの椅子をこっち側に向けて座る部分をハンカチで拭いて案内する。一体どうしてこんな所に…?
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「畜生…!!」
アポロン・ファミリアのホームにてアポロンは宛もない悪態をつく。今まで順調に思えた計画が大幅にズレたからだ。
「ヘスティアが体調不良により1週間も休むとは…!」
しかしそれは自分たちが大きく関わっているから納得するしかない。無理な襲撃によってヘスティアの気を損ねたからこうなるのは織り込み済みだった。
「問題は…!」
ドンドンドンドンドン!!
「アポロン様!!まだトイレですか!?」
「少し待て!腹の痛みが収まらんのだ!」
ファミリア内において謎の腹痛が蔓延している事だ。ヘスティアが戦争遊戯に応じてくれたのが堪らなく嬉しくてファミリア内で祝賀会を開いた翌日からこうだ。皆揃って腹を下している。すれ違いでトイレから出てきたヒュアキントスもさっきゾンビみたいな顔をしており心がとても痛んだ。ついでに腹も。
「アポロン様ぁぁぁぁあああああ…」
「待っておれい!今ミルキーウェイならぬブラウニーウェイをかけておるのだ!」
20分後…
「ぜぇっ…ぜぇっ…ふぅ」
身体中の水分が殆ど流れてった気がする。水分補給をしなくては…。
ゴキュゴキュ…
「ぷはぁっ!この爽快感よ!砂漠で遭難してやっとの思いでオアシスを見つけたような気分だ!」
「アポロン様、いかが致しましょうか?」
目の前で跪くヒュアキントス…しかしその右手は腹に…左手は尻に当てられている。ヒュアキントスよ、痛みに耐えながらもなお私に尽くしてくれるのだな。
「うむ、すぐさま原因の究明とディアンケヒト・ファミリアから効果的な腹痛薬セイ・ロガンを買い占めてくるのだ!」
「はっ!」
ギュルルルルルル……
「「うぐぅ!!??」」
これは暫く時間がかかりそうだ。そう思いながら私とヒュアキントスはトイレの前の長蛇の列に並ぶのだった。
まぁ、ざっとこんな感じです。
面白いと感じたら良かったら高評価と感想をよろしくお願いします!
後一つ報告します。
次章のタイトルが二つ思いつきまして
①おいでよメレンの街編
②俺のいない神に見捨てられた街編
のどっちかになります。
どちらもオリジナル色が強いので悩みどころです。