ズドーーーン!!
空気が震えた。衝撃がアポロン・ファミリアの拠点に走る。
「なっ!なんだ!?」
「西の壁側に敵が来たぞーー!」
「魔剣を持ってるぞー!50の兵士を向かわせろってヒュアキントスが言ってたぞー!」
ルアン(リリルカ)の誘導で大勢の兵士がリューの元へと向かう。そんな光景を遠目に2人の冒険者が反対の東側から見ていた。
「さてと、命さん。デカいのカマしますから伏せて下さい」
「わ、分かりました!」
その場にしゃがみこみ、耳を塞ぎながらハチマンを見上げる命。その目に写る彼の表情はどこか笑っていた。
チャキ…
二丁の拳銃を構えその銃口を壁に向ける。
刹那、空間が歪んだ。彼の腕から黒い魔力が銃口に集まり、その密度が大きくなっていくと黒い魔力に白い稲妻が走る。
バチ…バチ…
「芸術は爆発だッ…!」
その密度が臨界点に達したのか彼が引き金を引くとバン!という弾けた音と共にとてつもない速さでそのエネルギー弾は壁に向かっていった。嫌な予感がし命は思わず目を瞑る。
激しい光と音が辺りを包む。命の目が開き、その視界に色が戻った。
「!!」
唖然、その的にされた壁は跡形もなく消滅しており、そこに半径15mはクレーターができた。
「さて、行きましょう」
手早くマジックポーションを飲み干し、空き瓶をポケットに仕舞うと彼は淡々と告げた。
「数が揃ってきたら詠唱を、魔力は俺が適当に誤魔化しときます」
「は、はいッ!」
彼の後を着いていく。噂に違わず恐ろしいポテンシャルを秘めているハチマンをヤマト・命は改めて感心した。
「誰かいませんか〜〜!?」
崩れた瓦礫にノックして煽り散らかすように大声を出すハチマン。命は大き目の瓦礫に隠れている。
「亡影が来たぞーー!」
上からルアンが叫ぶ。ハチマンとルアンが一瞬目を合わせ、うん、と互いに頷く。
ゾロゾロと応援が駆け付けてきた。
「おのれッ!よくも我らが城を!」
「オタクらだって同じことしたろ?おあいこだろ」
なっ?と首を竦める。しかし煽られっぱなしの団員達は歯をギリギリと鳴らしハチマンに襲いかかる。そこへ物陰から命が飛び出してきた。
「ーー神武闘征ッ!フツノミタマ!!」
ドーム状に輪が広がり、その中にまんまと入っている構成員達は重力魔法に屈することしかできなかった。但し、ハチマンを除いて…。
「か、かなり、重ッ…」
「ハチマン殿!」
ハチマンを心配してその魔法を解こうとするがハチマンが手で制する。足を一歩一歩進め、構成員達の顔を一人一人確認する。
「お前…いたな…」
「ヒイッ!」
バコーン!
ハチマンのベオウルフがその顔面に振るわれる。重さ故に吹き飛びはしないが少し浮いた体はやがて地面に衝突した。
「お前は…いなかったな」
「へ?」
ストン
その項にベオウルフの手刀を喰らい地面に伏す。そうやってハチマンは一人一人顔を確認してはぶん殴るか意識を奪うの2択の処刑をしていた。そして最後の1人を殴り飛ばし終え、一息ついたハチマンは振り返り言った。
「言ったろ?面覚えたからなって…」
凄まじい執念と記憶力。その言葉に少し震えた酒場の一部冒険者達が後にハチマン達にお詫びの品を持ってきたのはまた別の話である。
「次の応援が来る前に門を開けましょう」
ルアンに扮したリリルカの先導で門を開ける。すると丁度到着したベルとヴェルフがやって来た。
「ありがとう!」
「さっさとケリつけて来い!」
するとまた別の所から応援がわらわらとやって来た。一部はリューの元へ向かうようだ。奥には見覚えのある女冒険者が立っていた。
「命さんはリューさんの応援に、リリルカ、残りの部隊はこれだけか?」
「ええ、ダフネという冒険者が引き連れている部隊です。今までとはひと味違います」
「厄介だな…」
当時は意識が朦朧としていたが彼女の指揮能力が高いことを思い出して唸るハチマン。
「これが最後なら俺も残るか…!」
「ヴェルフ、お前はベルと行くんじゃないのか?」
「はっ!ベルもガキじゃねぇよ。それに、またお前に無茶させるとヘファイストス様の胃がもたねーからなッ!」
「あんがと、ベル、行けるか?」
「うん!任せて!」
そう頷くベルはその場の誰もを安心させた。
「案内はリリに任せてください!」
リリルカに手を引かれる形でベルと城内へ向かう。
その光景はもちろんオラリオ中に中継されていた。
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「むきーーーー!」
「落ち着け…ヘスティア…」
ハンカチを噛み締める女神(笑)を窘めるミアハ。その隣でアポロンは焦っていた。
(ま、不味いッ!)
本来3日に渡って行われる戦争遊戯を超短期決戦に持ち込む形で我々の意表をつき、デコイを仕込むことで指揮系統を麻痺させる荒業、長らく忘れていた言葉、「戦争は始まる前から始まっている」を思い出す。
(ま、まだだッ!)
暴れにあばれまわるハチマン・ヒキガヤを止める手はある…!と胸を張って言いたいがその切り札がまだ出て来ない。
「何をやっているのだ…ネオ・アンジェロはッ!」
爪をガジガジ齧りながら小声で悪態を着く。
「ふふふ…より黒く…輝いてるわ」
成長している彼にただ一柱、女神フレイヤだけが妖美に微笑んでいた。それとは反対にただ一柱、女神ヘファイストスは強くなっていく彼に心配していた。
「あの爆発の威力、あの手甲、足甲、普通の威力じゃないわね…1週間…彼に何があったのかしら…」
ー【ロキ・ファミリア】ー
談話室にて、ロキ・ファミリアの幹部陣とレフィーヤは鏡を見ていた。その鏡はロキが少し口を聞かせて細工をさせ、見られる光景を変えることができる特性の鏡だった。
「ぼーえー君、強いねー」
ソファに座ったティオナが部屋の中央にある鏡を見ながらあっけらかんと言う。それに同意するようにレフィーヤが頷くが…
「あの執着心…まるで誰かさんを思い出すのぉ」
ガレスが髭を撫でながらアイズに視線を送る。
「……」
ヴェルフの魔法によって魔道士達が爆発する中、ハチマンは単身乗り込んで構成員達をボコスカ殴っては魔腕で投げ飛ばし、ブンブンと振り回して人間ヌンチャクとして攻撃を繰り出したりしていた。
「容赦がないバトルスタイル、あくまで敵は敵、人としては見てない…だから敵でさえなければ彼も本気で戦えない、そういった感じかな?」
的を得ている予想であった。数々の即死級の技や武器を持っている彼の苦手な分野が手加減である。
「……」
そんな考察がされていてもアイズ・ヴァレンシュタインは映像から目を離さなかった。少しでも長く彼を見ている為に…。
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バキャア!!
また1人の顔面を潰し一息つく。そしてジロリと睨みを孕ませた視線をダフネに送る。
「くッ……」
「あんまり女に手ぇあげたくないが、抵抗してくれるなよ」
後退りをするダフネ。しかし開いた距離をハチマンも詰める。
「ハチマン!!」
しかし突如下から声がした。声の主はベルだ。ダフネから視線だけを外してその声に応える。
「どうした!?」
「このお城、思った以上に固くて…ハチマン!上から大きいのお願い!!」
「分かった!…アンタも死にたくなきゃ部下引っ連れて逃げな」
壁を破壊し飛び去っていくハチマン。近くで応戦していたヴェルフも足早にその場を去る。大きいの、その言葉がダフネに恐怖を甦らせる。壁を破壊したあの爆発か、それ以上…食らったらただでは済まないのは目に見えている。
「総員退避!」
そんな声が聞こえる頃、ハチマンは城の真上の空にギルガメスで足場を作り魔力のチャージををしていた。同刻、ベルは城の真下にてスキルによるチャージをしていた。
リン…リン…と鈴の音が鳴り、右手に光が灯り、光る手を真上に向ける。後はその名を口にするだけだ。
両腕を前に突き出し交差させてから大きく横に広げてエネルギーを溜めた後、腕をL字に構えて真下に放つ。
「ファイア・ボルト!!」
「ゼペリオン光線ッ!!」
コンマの差もなく叫ばれたその魔法と技は空に、地に昇り、堕ちていった。そして二つの光は丁度中心、城の最上階、ヒュアキントスがいると思われる場所でぶつかった。
バチバチッ!!
しかし衝突したからといってその場で爆発はしなかった。寧ろその場でぶつかり合ったままだ。2人共、どうでもいい意地を張っているのだ。先に途切れた方の負け、両方そう思っているからこうなったのだ。
「があああああああッ!!」
「ぬうううううううッ!!」
どちらも譲らず、寧ろ威力が上がっていく。ベルの足は地面にくい込み、ハチマンの落ちるはずの体は少し浮いていく。
「うああああああああああああッ!!!!」
「はああああああああああああッ!!!!」
ズゴーーーーン!!
しかし空間が耐えれなくなったのか、2人の魔力が尽きたのか…中心点に大爆発が起きた。その爆発はハチマンが仕掛けたチャージショットinギガフレアの比ではなかった。
ヒュルルルル…
落ちていく中、ハチマンはマジックポーションを3本飲み干し、魔力を回復していた。着地の衝撃を無効にする為に自身の周りにギルガメスを出し、体を包ませることによって衝撃を分散し難なく着陸を成功させた。
「やりすぎたな…」
「そうだね…」
すると近くにベルが歩み寄ってくる。その手にはマジックポーションが入っていたと思われる瓶が握られていた。
周りには城なんて呼べるものはなく、瓦礫が山となって城があったのを証明していた。
「ベル・クラネルゥゥゥゥ!!!」
瓦礫からヒュアキントスが這い上がってきた。バトルクロスのあちこちが焦げ、プスプスと黒煙が上がっている。
「ご指名みたいだぞ」
「らしいね、行ってくるよ」
「あぁ、行ってこい…」
ベルの背中をバシン!と叩き送り出す。そんなハチマンの近くにはヴェルフ、リリルカ、リュー、命が集まっていた。
「さてと…俺も、片付けるか」
チャキッ…バン!!
いきなり銃を取り出し
「ゼペリオン光線、中々良かったよ…僕も年甲斐もなく、心が踊ったよ。懐かしい思い出を思い出させてくれてありがとう、比企谷」
「ここまで来てお前の面拝むなんてな…葉山、なんでお前がオラリオにいるんだ」
そこにはハチマンと同じ服を着た男、髪と肌は病的なまでに白く、しかし目は赤く変色した葉山隼人が立っていた。
「君と同じだよ。ま、ミンチになった君とは違い僕は飛び降りてバラバラになったんだけどね」
ゆっくりとハチマンに歩み寄る。
「だから、どうしてだ。三浦、戸部、海老名さん、おまけ2人に、由比ヶ浜はどうしたんだ。……雪ノ下だって…」
「比企谷、僕はね…うんざりしたんだよ。僕が信じてやまなかった人の善意は…とてつもなく脆弱で、巨悪なものだったんだよ」
「んな事は知ってるが…お前も言ってたろ…「人は変われる…どんな人も良くあれる?」…覚えてんのかよ」
2人の距離は3m。剣を、拳を振るえば届く距離、間合いだ。
「そう、あんなのは偽善、悪意を知らない…いや、知ってて目を逸らしていた卑怯者の僕が吐いた世迷言だ」
「………」
「だけどどうだ!人は変われなかったッ!君が死んだと聞かされてもッ!君の善意に溢れた行為を聞いてもッ!人はッ!アイツらは変わらなかったッ…!君の家族でさえもッ!君の死を笑った…誰も比企谷八幡を受け入れていなかった…どうしてなんだ…どうして比企谷、君は誰にも理解されないんだ…!」
それは、本来比企谷八幡が思って、叫ぶべき内容だった。それを聞いたハチマン以外の面子は信じられないという顔で彼を見るが彼の表情は見えなかった。
それを聞き、見ているのは彼ら彼女らだけでなく、バベルにいる一部の神々、そしてロキ・ファミリアの幹部陣達だった。
「肌に合わなかった…ただそれだけだ」
「え……?」
「アレルギーみたいな物だったんだろう」
「…………」
「それにな、葉山、俺はそんなの気にしちゃいない。あそこに本物は無かった…ただそれだけだ。それに俺がイラつくのはそこじゃない」
「何…?」
「お前がここにいるのが問題なんだ、俺が折角お前からの依頼を受け入れて、身をてーしてお前の大好きな環境を守ってやったのに…脆弱?巨悪?巫山戯るな、お前はその選択をして、俺の屍を踏み越えたのに…何勝手に諦めてんだよ。アレは、どんなに悪しきものでも、お前が保ち続けることに価値があったのに…お前への一生物の足枷だったのに…」
「つまり…僕がそれを引き摺る事が君にとっての…」
「そう、俺にとっての復讐だった。それを諦められちゃ死んだ意味ないだろ?」
大袈裟に手を広げ話すハチマン。自分が死んだからこそ意味があったものを無駄に終わらされた。そこに彼は怒っているのだ。
「ま、こうしてお前が来たのも…乙女座の俺の運なんだろう。ここでお前をぶちのめす…今までの恨み辛み嫉み妬み…そして慈しみを持って…な?」
「ハハハハ…比企谷、変わったね」
「そうか?そうかも…しれんな」
オラリオに来てからの事を思い出すハチマンを他所に、葉山隼人の心臓辺りから銀色の塵が湧いてくる。塵は葉山の体を見えなくなる程包み、球体になると、一気にそれが凝縮され、鎧へと変化する。
「暑苦しくないのか?
「学校のと比べたら、マシだね」
「ダセーデザインだな、リデザインしてやるよ…」
フォースエッジを取り出し、切っ先を向ける。対する葉山は自分の等身大サイズの大剣を肩に担ぐ。
「比企谷ァァァァァ!!!」
「葉山ァァァァァァ!!!」
ガキィィィィン!!!
激しい衝撃波が辺りに走る。
白い葉山隼人と黒いハチマン・ヒキガヤ。両極端に位置する彼等が初めて感情を表に出し、お互いの思う所を吐き出したのは戦場だった。
ハチマン・ヒキガヤVSネオ・アンジェロ
「お前をッ!!!!」
「君をッ!!!!」
「「負かすッッ!!!」」
譲れない男達がぶつかり合った。
いかがでしたか?
思う所があったらコメントしてくださると嬉しいです。
アンケートなんですけど、皆さんアイズが好きなんですね〜。