「暇だ………」
ベッドに寝かされてる男が一言ぽつりと零す。
「それが骨折と内臓破裂してる人間のセリフ?」
白髪の少年は若干からかうように言葉を返す。
「別に痛くても動けりゃ平気だろ」
「ハチマン様は感覚が麻痺りすぎです!もっとご自分の体を大切にしてください!」
小柄な少女は寝かされてる少年を叱責する。
「分かったから…大声を出さないでくれ…怪我に響く」
「そういう時だけ怪我を引き合いに出すのか…」
赤髪の少年は呆れ気味に頭を抑える。
「なんというかハチマン殿らしいです!」
黒髪の少女は何故か目をキラキラとさせている。
「命さん…褒めてるかバカにするかどっちかにしてよ」
「そういえばハチマン…その服は…」
「あぁ、ネロさんから譲ってもらったんだ。あまり似合ってるとは思えんが……まぁ、着れるから問題ないだろう」
「ううん…似合ってるよ」
「さ、そうか…あんがと?」
金髪の美少女は満足気に頷いている。
「おい、腹減った」
「お前さっきまで食ってたの見てたからな?何お前、はらぺこあおむしなの?」
「うっせ、さっさと怪我直せ」
ベッドをガシガシと蹴る銀髪の狼人。
「そういえばハチマン、僕達はいつオラリオに帰れるんだい?」
「あ?そういや終わったらどうすんだろうな…」
金髪の少年に素朴な疑問を投げられるが質問されたハチマンでさえどうやって帰るかは目処がついてないのだ。
「そーの点に関しては問題ナッシング!!」
「お前は!」
「アラル神父…!」
「おいおい、そんなに睨むなよ……帰りは明日の12時ピッタリに最初の墓場にポータルが開くようマキャヴェリが設定している。お前達がいない間のオラリオだが…心配するな、辻褄が合うようになってる」
「な、成程…」
「じゃあそういう事だ、ここにいると殺されかねないからな。Ciao〜☆」
突然乱入してきたかと思えば去っていくアラストル。しかし彼がそうするのも納得がつく。なぜならここには超腕利きのデビルハンター5人もいるのだから。
「て訳だから明日には帰れんぞ…お前らもゆっくり休めよ」
「分かった。それじゃハチマンもゆっくり寝るんだよ?おやすみなさい」
挨拶をして保健室から出ていく一同…ただ1人を除いて。
「アイズ…さん?」
「ハチマンはどうして強いの?」
「俺は強くないですよ……ホント、今回の件でこれでもかって位思い知ったんですから……」
「…………」
「雪ノ下の計画だったんですよ。ただのネットユーザーの材木座が電子網を抜けられたのと、避難民達を今の今まで襲わなかったのも……悪意なんて欠片もない戸塚が計画に離反して止めに入るの事によって避難民達を絶望させ、己の今までの他人の命に無頓着なのを改めさせる。悪の化身として千葉を恐怖に陥れて予め材木座に呼ばせたダンテさん達に自分を殺させるつもりだった」
「でも私達が来た……」
「そう、予想外の来客が来た…しかも死んだはずの知り合いが…悪魔を蹴散らせるだけの力を持って……」
「それでハチマンをダンテさん達の代わりにした…」
「その結果避難民達はどうだ?」
「皆安心して笑ってるよ…それでもハチマンが守ったんだよ?」
「そうか……正しさってなんだろうな…」
「私にも分からない…でも、ハチマンが正しい事をしたのは分かるよ」
よいしょ、と彼の頭元に腰掛け、強引に彼の頭を持ち上げて自分の膝に乗っける。
「ちょ!何してんだよ」
「いい子いい子……」
彼の不安定な髪色をしてる頭を撫でるが彼は困惑したままだった。
「何だこのプレイ…」
「リヴェリアがよくしてくれる…これをされると落ち着くからハチマンにもって…嫌だった?」
「いや、寧ろ最高だが…そうか、リヴェリアさんがそんな事してんのか…」
「うん、ハチマンもしてもらうといいよ」
「い、いや、遠慮させてもらう…病みつきになっちまう気がして怖い」
トントン…
恐る恐る繰り返されるノックを聞いた途端にハチマンはクイックシルバーを使い時を止めてアイズを側の椅子に座らせて膝枕されていた状況を止まった時の中で終わらせた。
「どうぞ……」
「あれ?」
「失礼します……」
おずおずと保健室に入って来たのはかつて袂を分かった血の繋がった妹といつからか家族から家族もどきと成り果てた肉親だった。その表情はどこか暗い。
「誰…?」
「両親と妹だ…アイズ、お前はベル達の所に行ってくれ」
「……分かった」
無言で保健室を去るアイズ。彼女が保健室を去るまで両者の間には沈黙が流れていた。
「で、何の用なんだ、お見舞いを頼んだ覚えはないんだが?」
「!…本当にお兄ちゃんなんだね」
「だったらなんだよ…」
今までにされた事のなかった高圧的なハチマンの態度にたじろぐ小町。一歩下がる小町の前に母は出てきた。
「私達…アンタと話したくて」
「要件はなんだよ…」
「私達、もう一度やり直さない?」
「……は?」
「ほら、アンタも帰ってきたから…もう一度
「今回の一件で俺達は考えを改めたんだ…だからな、戻って来い」
「…舐めてんのかよ」
「「え?」」
「家族に戻る…?冗談も大概にしてくれ…俺はもうアソコに戻る気は無い…俺は今の生活に幸せを考えてるんだ。命懸けで夢を追う楽しさを知っちまったんだ。居場所を守るための妹のお守りに逆戻りなんてゴメンだ」
「そんな…お兄ちゃん戻って来てよ…小町寂しいよ」
涙を一筋流す小町。それが引き金になったのか寝たままだった八幡はその顔を怒りに歪めながら起き上がった。
「俺は…ずっと寂しかったッ…!何をしても認められない終わらない劣等感を!自分の存在意義が愛想のいいだけの妹のお守りだという屈辱を!どれだけ訴えても信じて貰えない悲壮感が!」
はァ…はァ…はァ…と息を着く暇もなく捲し立てた結果、肩で息をしている八幡。そんな彼の今までの気持ちを明かされた肉親と妹は呆気なく立ちすくんでいた。
「それにさ…アンタら…俺が怖いのか?」
彼が指を指す。その先には小さくカタカタと足が震えている3人の足があった。
「ち、違っ…!」
「いや、いいんだ…そうだよな、普通じゃ勝てないような悪魔を虫けらみたいに蹴散らせんだからな。血の繋がった息子といえどビビるのもそうなんだろうな…アンタらの
「「「…………」」」
「それにさ、俺…やっと見つけたんだ。17年間魂から欲してしょうが無かった単純明快な
だから、と立ち上がり3人の方をきちんと向き合って彼は一言告げる。
「俺のタダイマはここじゃない」
「「「………………」」」
そんじゃ、と言い残しハチマン・ヒキガヤは彼等の居る部屋へ歩いて行く。精算できない過去を残し、新しい今へと向かう為に。
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ー次の日ー
「ふい〜☆やっぱりマッ缶は最高だな!」
屋上にて黄色と黒色のThe危険色の缶コーヒーを一人啜っているハチマン。その隣には同じくマックスコーヒーと文字の書かれたダンボールが幾つも積まれている。
バァン!
「見つけたーー!」
「!!」
突如扉を蹴り破ったのは目の下に薄くくまを作ったニコだった。その手には白と黒の二丁拳銃と何かしらのモジュールが幾つか握られていた。
「どうしたんですか…ニコさん。あれ?…それって」
「そう!私の最っ高!傑ッ作!だ!!」
「マジすか!あれ、それは……」
受け取ったルーチェとオンブラの見た目はこれといって特に変わっておらず、何かしらを接続させる為の蓋が追加されていたり、グリップに見覚えのある青い結晶が埋め込まれ、透明のカバーで覆われていた。
マッ缶を置いて受け渡された銃を記憶に残った過去の銃と見比べる。
「鏡のように磨き上げられたフィーディングランプ、強化スライドだ。サイトシステムもオリジナル、サムセイフティも指を掛け易く、延長してある。トリガーも滑り止めグルーヴを付けたロングタイプだ。リングハンマーに…ハイグリップ用に付け根を削りこんだトリガーガード。それだけじゃない、ほぼ全てのパーツが入念に吟味され、カスタム化されている。マキャヴェリの作品の面影を残しつつしっかりとニコさん個人の技術もふんだんに使われてる、最高ですね」
「わかってんじゃねーか!いいセンスしてるだろ〜!」
褒め言葉に喜んだニコはガシガシとハチマンの頭を撫でる。
「それだけじゃないんだよ!それにこれを付けるとこいつの使い道もガランと変わるんだ!」
銃をホルスターにしまうとニコから4つのモジュールが渡された。
「こいつぁエネルギーモジュール、お前の体内電気とか諸々のエネルギーを利用してレーザーを撃つ、ネロでも気絶すんだから効果はお墨付きだね。それとテザーモジュールに麻酔モジュール、足止め専用のモジュールだ、殺したくない時に使え。後は…ランペイジモジュール!こいつを撃つと威力がバカみてーに跳ね上がる!威力がデカいから腕が吹き飛ばないように気を付けろよ!」
「あ、あざっす……」
あまりの魔改造モジュールに若干戸惑いつつモジュールをポーチにしまう。
「それと、こいつぁダンテとバージルからお前に作るよう頼まれた奴だ」
手渡されたのはリボルバー拳銃だった。三つの銃身と三つの回転式弾倉、三つの撃鉄を持つその銃身には犬のような装飾が施されていた。
「魔界で殺したケルベロス族の生き残りとかなんとか言ってたけど…ま!威力はその子達にも引けを取らない。弾もやっから大切に使えよ!」
「あ、あざっす…(2回目)」
本当に…こんなに至れり尽くせりでいいのだろうか。親切心が怖い。
「なんかあったら閻魔刀で次元でも裂いて寄ってこいよ!そんじゃあな!」
「はぁ…」
再び走り去ったニコ。てか閻魔刃ってそんなこと出来るんだ…使い道広がるな。
「そろそろ行くか…」
「もう行っちゃうの?」
「雪ノ下さん…どうしてここが…」
「んー、何となくかな…ここにいそうだったからね」
「お見通しって訳ですか…」
隣まで歩いて来た陽乃はハチマンの飲みかけのマッ缶をぐい、と飲み干した。
「あら、結構美味しい…」
「そりゃ千葉県民のソウルドリンクですから、遺伝子的に好きになっちゃうんすよ」
「遺伝子に刻まれてるなら仕方ないわね…」
「………」
「………………」
「それじゃ、元気で……」
ダンボールを幾つも抱えてハチマンは屋上から去った。
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ブロロロロロロ
「うわぁぁぁぁあああ!!!」
「ぎょぇぇええええ!!」
「ぬおおおおおあお!!」
「ふぉおおおおあお!!!」
「お前達少しは静かにしろよ…」
4人に愚痴を零しつつ赤いバイクを駆るハチマン。フロントにベルがしがみつき、右側にヴェルフ、左側にリリルカハチマンの足の間に命が体育座り、後ろにはアイズがハチマンにしがみつき、更に後ろにはベートがしがみついている。葉山はネオ・アンジェロ・ライガーとなり俺の荷物を抱えながら隣を走っている。
「大丈夫かい?」
「何がだ…」
「ろくにお別れも言わないで」
「別に…未練なんてない。お前も来るなら黙って走れよ、舌噛むぞ」
「素直じゃないなぁ…」ボソッ
6人という有り得ない人数を乗せて一行は始まりの墓場までやってきた。そこにはどうやって回り込んだのか鶴見、材木座、川崎、陽乃がいた。そして近くにはアラストルがニヤニヤと暗黒微笑を浮かべて立っていた。
「なんの真似だ…?アラル」
「いやさ、コイツらが言いたいことがあるんだとよ」
「……」
「八幡っ…行っちゃうの?」
鶴見留美が悲しげに問う。その目には大粒の涙を浮かべていた。
「まぁ、な」
「グスッ…また、会える?」
「きっとな…」
「きっとじゃない、絶対?」
「生きてるなら会いに行く」
「約束して?」
「あぁ」
留美の小指と八幡の小指を結び付けゆびきりげんまんをする。もう彼女の目には雫なんてなかった。
「寂しくなるな…」
「そうか?今までとそう変わんないんじゃねーのか?」
「バカを言うな…誰が僕の小説を見ると思ってるんだよ」
「俺としてはあんなの見なくて清々するけどな」
「そんなっ!ひどいっ!……なんてな、また来るのだろう?だったら原稿書いて待ってるさ……我の傑作!待ちわびてるんだな!」
満面の笑みを浮かべる材木座。どうやら彼にはまだアシスタントが必要な様子に内心八幡はホットする。
「ねぇ…比企谷君。私もそっちに行っていい?」
「陽乃さん?」
「私もう色々面倒くさくなっちゃった!雪乃ちゃんの事を引き摺るのも、後処理の事もさ!静ちゃんだってアレだったんだしさ!もう、逃げちゃいたい!」
「陽乃さん……」
「…………なんてね、逃げるなんて私らしくない。比企谷君が戻って来た時には色々と覚悟しててね?この街をデトロイトみたいにしたげるから!比企谷君が目印にしやすい用にマッ缶タワーを作ってそこの頂上に比企谷君の像を作る!」
「そりゃ…楽しみですけど俺の像だけは勘弁してください」
本当にやりかねない陽乃に恐怖ではなく一種の安心感を覚える八幡。
そこにワームホールが現れた。バリバリと不安定そうなそれは俺達が入るのを今か今かと待ちかねている。
「時間か……そんじゃあな」
「お世話になりました!」
「色々大変でしたけど楽しかったです!」
「くるまってやつの事今度は教えてもらうぞ!」
「お米、美味しかったです!!」
「あばよ」
「ありがとう…」
「じゃあ…ね」
それぞれが一言残してワームホールの中に入っていく。八幡をバイクを押しながら、ベル達は手を振りながら、葉山は八幡の荷物を抱えながら。
そしてワームホールの中の光は眩い光を放ち彼等の体を包み込んだ。
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「よお【亡影】!思ったより帰りが早いじゃないか!ってなんじゃそりゃ!!」
バイクに驚く門番のバン・モンさんに迎えられ俺達はオラリオに帰って来た。マキャヴェリの仕業なのか俺達が帰ってきたのは千葉に向かってから30分後のオラリオだった。
「それじゃ、私達はこれで」
「まあまあ面白かったぜ」
「僕は少し休むよ…疲れた」
アイズとベートは千葉での出来事が朦朧としてきている。混乱しているのかそれともまたまたマキャヴェリが仕組んだのか。葉山は…疲れたんだな。荷物持ちとかさせちまったもん。ゆっくり休めよ。
「なんか4日も千葉にいたのにオラリオではそう時間が経ってないとなるなんて不思議ですね」
「そうだね、まるで千葉にいたのが夢だったような…」
「俺も少しぼーっとしちまってる。気を引き締めねーと」
「そうですね…ヒキガヤ殿?」
「ん?どうした」
「いえ、少し様子が変というか…」
「俺は大丈夫だ」
きっとベルもリリルカもヴェルフも命も今は覚えていても後1週間もすれば千葉を忘れるだろう。
「怖いな…思い出って」
何故ならそれは今を痛感させる最悪のスパイス。
「そう?いつか笑い話にできる時が来るから楽しみじゃない?」
「それもそっか」
訂正、明日を楽しくさせるスパイスだった。