ダンジョンに出会いとボッチを添えて   作:テクロス

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今回少しふざけました。
マジですんません。


3章 春姫編
#33 それ(ムッツリ)でも、守りたいもの(童貞)があるんだ!


今、新しいホームに新しい家具や子供達(眷属)の荷物が運び込まれている。ベル君は汗水垂らしてよいしょよいしょと荷物を運んでいる。ヴェルフ君は新しい鍛冶場に歓喜で震えている、よっぽど嬉しかったんだろうね。サポーター君も自分の体格に見合わない荷物を持っている。相変わらず度肝を抜かされる。命君は…見てないなぁ。そして目を引くのがハチマン君だ。両手一杯に荷物を積んでいるのはまだ分かるが彼の背中や肩から生えている紫の腕はそれよりもっと多くの荷物を運んでいる。

 

【魔力操作】…自身の魔力がある限りそれをどんな風にも加工して使用できる。腕、剣、ビーム、用途は彼の想像の数だけある。

 

そんなハチマン君は最近様子がおかしい。態度や行動には何も変化がないがどこか思い詰めている面が見られたり吹っ切れた面が見られる。食後に少しだけボーッとしてたりベル君達とより一層仲良くなっているのがその証拠だ。後者はいいとして問題は前者だ。ウェイターのエルフ君が話を聞いて貰えなくて拗ねていた。友神のヘファイストスも『彼、どこか上の空で心配なの』って身を案じていた。夜勤のバイトが終わって一人帰ってると身を隠したフレイヤが『ちゃんと彼を見なさい…』と軽く警告して来た。それにデメテルだって『お野菜のチョイスが少し甘くなってるの…調子悪いのかしら』とか言ってたんだぜ!?全く何人誑かしてるのやら!

 

他に変わった点を挙げるとすると…彼に新しいスキルが現れた。スキルとは心境の大きな変化や何かに伴って発現するもの。ベル君の憧憬一途(リアリス・フレーゼ)とかがいい例だね、発現した経緯は気に食わないけどさ!それでもハチマン君の発現しそうになってるスキルはベル君のそれとは常軌を逸している。彼に何かがあったのは確実だ。

 

「だってあんなスキルが「スキルがどうかしたんですか?」どぅわぁぁぁぁああああ!!!」

 

突然後ろから掛けられた声に思わず叫んでしまう。声の主は心中で話題になっているハチマン君だ。後ろには大きいソファが置かれている。

 

「ビックリした…どうかしたんすか?」

 

「いや!?なんでもないよ!?(君の事を考えてたんだよ!)」

 

「そっすか…このソファどこに置きます?」

 

「あぁと、そこに頼めるかい?」

 

ほい任されて、と言い器用に彼はカーペットとかソファを配置した。他にも家具の数々を置いて彼はまた荷物を運びに外に行った。

 

思えばハチマン君には普通とは違う事が多々見受けられる。人となりは本当にできた子だ。優しさや思いやりがベル君に引けを取らない程ある。誰かの為に必死になれる子だ…自らの命を軽んじる傾向があるのは腑に落ちないが。おっと考えが逸れたね、彼が普通とは違うのはスキルと武器だ。【悪魔の魂(デビルズソウル)】、それに閻魔刀とリベリオンとフォースエッジ。そして何より…彼のステータス欄に刻まれた【諦めない】。

 

悪魔というのはその存在自体が恐ろしすぎるあまり地上の子供達にすら存在が伏せられている。本当に古い文献とかなら悪魔をほのめかす存在があるかもしれないがそんな物残すなんて愚の骨頂だ。何故なら自身の黒歴史を記す事になるからだ。そんな存在に頼って生きていたなんて口が裂けても言えないし残せないからだ。そんな歴史から()()()()()()()悪魔という種族は少数の神々以外が知る事は無い。そんな悪魔という名前がハチマン君という少年の背中に刻まれている。

 

そして彼の武器だ。

閻魔刀とリベリオンはボクが天界で引きこもりをしていた時に知り合った悪魔………スパーダ君が所持、使用していた物だ。()()()子供達にでも遺そうか、と言っていた物が今彼の手にある。でなると彼がスパーダ君の息子だと言うのだろうか?それは彼に聞いてみないと分からない。最悪ボクは神だ。相手の嘘は見破れてしまう。YESかNOかは分かるだろう。……そんな考えに至ってしまう自分に嫌気がさす。どこか踏み込んでしまうといけない気がしてならない。その理由はフォースエッジにある。スパーダ君はそれを子供に遺すとは思えない。彼から聞いた話だがフォースエッジは彼が一番最初に使っていた剣だ。戦いでしか自分を見い出せなかった彼がそれまでを譲るのだろうか。

 

最後にくるのは【諦めない】。本来ステータス欄には決まった項目に各種ステータスやスキル、魔法が記されている。そんな欄に【諦めない】。強い思いというのは偶にスキルに昇華されるが…彼の【諦めない】はそんな事無かった。まるでその思いを加工するのがおこがましいと恩恵そのものが拒んでいるかのように。

 

うんうん…と考えているが、考えれば考える程謎が深まるハチマン君。

 

「答えを知るのは彼のみ…か「誰の事なんすか?」どぅぅわわわわわわぁぁぁぁぁぁああああ!!??」

 

「ノックしましたからね…それに神様も『うん…』って返してくれましたし」

 

「どうしたんですか?神様」

 

「人騒がせな神様ですね…」

 

そう言いながらゾロゾロ入ってきたのはボクの眷属達だった。ハチマン君はタンスを持ち、ベル君はヴェルフ君と木箱を抱えて、サポーター君は小動具を持ちながら。

 

「ゴメンゴメン…少し考え事をね」

 

「浮かれるのも良いですけどファミリアの運営とかにもちゃんと気を配って下さいね!ランクが上がってバベルに納める税金とかも上がってるので…ブツブツ」

 

「まあまあ!難し事は後で考えるよ。今はこの後の事に目を向けようじゃないか!」

 

「この後何かあるんですか?」

 

「フッフッフッ!聞いて驚きたまえ!今日の昼、ここに入団希望者が来るんだ!」

 

「ええ!いつの間にそんな事を?」

 

「皆がダンジョンに行ってる間に団員募集のチラシをバイト先に貼らせてもらったりギルドの掲示板に掲載してもらったりしてたんだ!」

 

おお〜〜、と室内に鳴り響く拍手。えへへ、もっとしてくれてもいいんだぜ?って、何かバカにされてる気がするんだけど?

 

「どんな人が来るんだろうねハチマン!」

 

「俺達の戦争遊戯での勇姿に惚れた美女が押し寄せてくるかもな!どーするよ、『キャー!ベル様ー!(全力裏声)』なんて言われたら」

 

「『どうかァ…しましたかァ?(ため息混じり)』…なんてどうかな」

 

「おお、いいじゃないか?」

 

「ハチマンも『す、好きですー!』なんて言われたら」

 

「『HAHAHA!およし下さいレディー!』……なんてどうだ?」

 

「うん!バッチリだね!」

 

HAHAHA!!と今まで以上に意気投合してる2人。この前は2人でパフェやピザやスパゲティをた食べたり買い物に出かけていたらしい。しかもベル君のお誘いで!本当の恋敵はもしかしたらハチマン君なのかもしれないね。

 

「なーにーがーバッチリなんですか〜?」

 

「「ギクッ!!??」」

 

「いいですか!お二人にはもっと団長と副団長としての自覚をですね!クドクドクド〜〜〜」

 

「「はい、マジですいませんでした……」」

 

ガヤガヤガヤ…

 

どうやらサポーター君の説教の間に入団希望者達が集まったようだ。その様子に説教を受けて項垂れていた2人も感嘆の声を漏らしてる。

 

「ハチマン、そういえば葉山は来るのか?」

 

「少し小難しくなるが入団こそしないけど呼べば助っ人とかには来てくれるらしいぞ。まぁ、残り半分の今月は無理っぽいけどな」

 

「?、どうしてなんだ」

 

ハチマン君曰く戦争遊戯で本気の死闘を繰り広げた相手だった葉山ハヤトという少年はその力の源を恩恵としていなく、ギルガメスとの不完全な同調によるものだったらしい。それ故にフルタイムで動く事は不可能で休みと定期的な投薬が必要らしい。ダンジョン探索には不向きだろう、とハチマン君の口から告げられた。

 

「ま、ちょくちょく遊びに来たいって言ってたぞ」

 

「そりゃ歓迎しなきゃな!」

 

「あぁ」

 

「それじゃあ!早速面接に取り掛かりましょう!」

 

どこにいるのやら命君を除いた子供達は正面玄関から出て入団希望者達を眺める。ベル君は一斉に向けられる視線にたじろきながら、ハチマン君はかんこーひーとやらを口にしながら、ヴェルフ君は少し緊張しながら、サポーター君は品定めをするように目を光らせながら。

 

(さてと、皆と冒険できるような子はいないかな?)

 

ダダダダダダダ!!!

 

命君かな?早足で来るあたり慌てているのだろうけどどうしたのかな?

 

「へ、ヘスティア様ーー!」

 

血相を変えて飛び出してきた命君、その手には1枚の紙切れが握られている。あれ?それってまさか…

 

「荷物の中から借金2億ヴァリスの借用書がーー!!」

 

「ぶうッ!!」

 

突然の出来事に吹き出してしまう。

 

「は?」

 

固まるサポーター君。

 

「にお、く?」

 

呆然とするヴェルフ君。

 

「ぁ____」

「ぇ____?」

 

バタン!と倒れるベル君とハチマン君。ていうかハチマン君は知ってたよね!?

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

あまりのショックで俺とベルは気絶した。俺は前から聞いていてやっと思い出というタンスの隅に追いやっていたのに思い切りこじ開けられたことにより脳が考える事を止めてしまったのだろう。

 

「それで、どーゆー訳か説明してくれますよね?」

 

目を覚ました俺とベルは皆の待つ談話室に呼ばれた。そこには神様を囲むようにヴェルフとリリルカと命さんが立っていた。どこか申し訳なさそうにしてる命さん、どうしたのだろうか。

 

「あれ?入団希望者は?」

 

俺の心を代弁してくれたベル。

 

「借金2億もあるファミリアに入りたい冒険者がいますか?」

 

「「あっ……(察し)」」

 

「それに偵察もしてきましたがヘスティア・ファミリアは借金が2億もある爆弾ファミリアとして都市中に広まっていました。今後入団希望者がくる見込みは…ゼロです」

 

「うちに金が無いと分かった途端手のひら返しか…どうしよう、グーで殴りたい」

 

「わーっ!ハチマン早まらないでー!」

 

ベオウルフを装着し街中の冒険者の頭にカボチャサイズのタンコブを作ってやろうとしてるところをベルに止められる。ペッ、命拾いしたな。

 

(ま、募集で本物が来る訳ないよな……)

 

そういえばコイツらと出会ったのって殆ど奇跡みたいな感じだよな。

 

ーベルはダンジョンで

ーリリルカはカモにされ

ーヴェルフはベルの装備を作ってて

ー命さんはダンジョンで襲われてる時

 

まぁ、こういう出会いをそうそう繰り返す訳ないよな。

 

長考してる間に考えは纏まったらしく、神様は借金を自分だけで返すらしく、俺達は日銭をダンジョンで稼ごうか、という方針に決まった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「じ、自分はお先に就寝させてもらいます」

 

うーむ、命さんの様子がおかしい。引越しの用意をしてる時にタケミカヅチ・ファミリアの千草さんが訪ねてきてから命さんが挙動不審だ。そしてヴェルフとリリルカはその様子に気付いているようだ。俺?俺は皿洗いしてんだよ。

 

ガチャ…

 

音から察するに自室ではなく外に出た命さん。そしてそれを追うヴェルフとリリルカとベル。やはり放っておけないのだろう。

 

「仕方ない…」

 

《アラルの所に行ってきます》

 

と書き置きを残してエプロンからネロさんのお下がりのコートを着て外に繰り出す。黒もいいけど今度紫に染め直そうかな?

 

屋根から屋根を伝いヴェルフ達を尾行する。少し距離が開いた所に歩いている命さんと千草さんは合流して南東の方角に向かって歩いて行く。その方角の先を見てみるとそこはより一層キラキラしている場所だった。カジノはあると聞いていたがこんな所エイナさんも教えてくれなかったな。

 

「人目が多くなってきたな…」

 

こっそり地上に降りてベル達を見失わないように4、5m離れて歩く。

 

「ここって…あぁ…」

 

様々な香水の香りが鼻腔を擽る。周りには肌面積の多い衣装を纏った女性が男を誘惑して時代劇で見た吉原のような建物の中に消えていく。ここは歓楽街だ。所謂エッチなお店が沢山ある場所だ。それならエイナさんが教えない訳だ。

 

自体の不味さに気が付いたのかヴェルフとリリルカがベルを返そうとするが命さんを見失ってしまう為不本意ながらベルを連れて行ってしまう。

 

犬人、猫人、ドワーフ、はたまたエルフまでもが店先で男を誘惑している。やはりエロは人を繋げるのか…(呆れ)。

 

下卑な人達にナンパされてる命さんと千草さんをヴェルフとリリルカが救いの手を差し伸べる為に駆け寄るが周りに目を奪われて気が付いていないベルは置いてかれる。

 

『今からサービスターイム!』

 

ナニをサービスするのか、そんな時間に入り人通りが多くなってきた。更に人の波に揉みくちゃにされるベル。なんとか救出して家に返そうと思ってる矢先俺の周りにも人が増えてきた。

 

「ぜェ…ぜェ…」

 

なんとか人混みから抜け出し移動を再開する。

 

「ねぇ、おにーさん…アタシとイイ事シない?」

 

エルフのお姉さんに声を掛けられる。

 

「ッ! い、いや、大丈夫です!」

 

手を振り払い先に進む。歩いていると羽を着けた帽子を被った見覚えのある男神に出会った。

 

「あれ?ハチマン君も奇遇だねー!君もやっぱり男なんだね」

 

「変な勘違いしないで下さいよヘルメス様…そんな事よりもここら辺にベル来ませんでした?」

 

「さっき見掛けたよ、極東のお店に向かって行ったね。隅に置けない君にもはいこれ、餞別だ」

 

「これは?」

 

「精力剤さ☆」

 

「ぶっ!!あー、もう!」

 

あまり時間を取られてもアレだから聞いた極東のお店に向かって走る。すると案の定アマゾネスに囲まれて揉みくちゃにされてるベルがいた。

 

「ベル…」

 

「ハチマァァァン!!助けてぇぇぇぇ!!」

 

バッ!と俺のたった一言の呟きに反応する女性達。背筋に悪寒が走る。蛇に睨まれたカエルの気持ちがよく分かる。しかしベルよ、そんなに泣くなよ。

 

「アンタ…亡影かい?」

 

後ろから声がした。振り返るとそこにもアマゾネスの女性がいた。

 

「アタシはアイシャ。あんた私の一晩を買わないかい?」

 

「へ?」

 

突然のお誘いに戸惑っているとアイシャと名乗る女性は蠱惑的に微笑みながらゆっくり近づき腰に手を回してくる。

 

「ちょ、俺は…そんなつもりじゃ…」

 

「じゃあこれはなんだい?」

 

コートのポケットに適当に突っ込んだ精力剤を見せびらかされる。周りの反応を見るにベルも同じのを持っていたらしい。

 

(ヘルメスぅぅぅぅううう!!様)

 

頭の中のヘルメスが親指を立てているのを振り払い現実を見る。今俺達は大量の娼婦に捕まっている。しかもヤル気満々だと勘違いもされている。しかもこの女性、力が強い。普通に抵抗してても振り解けない。

 

「大人しく天井のシミでも数えてるんだね」

 

俺達は彼女のホームに連れ込まれた。ホームに部外者を入れてもいいのかと聞いたが彼女達からしたら日常茶飯事らしい。無防備なのかそれとも襲われても勝てる自信があるのだろうか。

 

「ハチマン…僕達どうなっちゃうんだろ」

「安心しろ、俺もこんな形で純潔を散らせたくはない」

「何か考えが?」

「……」コクリ

 

希望が見つかったのかベルの目に涙が浮かぶ。きっと捕まってなかったら抱きついてきただろうな。

 

「ここは私達のホーム、女主の神娼殿。この建物だけじゃない、ここらへん一帯は私達の島……イシュタル様の私有地さ」

 

お城のようなそのホームの管理者、もとい彼女達の主神はイシュタルという名前らしい。

 

「なんだ、お前達。ぞろぞろと集まって」

 

吹き抜けになった上階から投げかけられた声の方を見ると。そこに女神がこちらを見下ろしていた。情欲をそそる衣装に身を包んだ女神。僅かもない衣で張りのある乳房や妖艶な腰を覆い、褐色の肌を大胆に惜しみなく晒している。編み込まれた長い黒髪は艶があり、紫の色にも見える。煙管を片手に持ちながら、彼女は悠然とこちらを見下ろしていた。

 

ベルは彼女に見とれているようだ。

 

「イシュタル様を見ちゃダメーー!」

 

「みんな骨抜きにしてっ、また奪われたら堪ったもんじゃないよ!」

 

するとアマゾネス達が見るもの全てを魅了してしまうと言う彼女の力を危うんで、団員達が一斉に俺達を庇う。しかしベルにだけ…どうやら俺は目付きが危なっかすぎてあんまり見向きされない様だ。悔しくなんかない…断じて。

 

「?、アンタ…イシュタル様を見ても平気なのかい?」

 

「え?別に…なんとも…」

 

ピシッと周りの空気が固まる音がした。ベルの周りにいたアマゾネス達は信じられないといった目で見てきた。魅了がどうとか言っているがそんな色仕掛けに引っ掛かるのもどうかと思うけど。アイシャさんに至っては腕を組んでほぉ、と声を漏らしている。

 

「ふん、これから来客故、青い子供にかまける時間はない」

 

なんかそれはそれで腐りきった尊厳を踏み躙られた気がするんだがあんな香水臭い女神を抱かずに済んだんだから良かった。

 

ズシン…ズシン…

 

「やばいアイシャ!フリュネが来る!!」

 

急にアイシャさん含むアマゾネス達の目の色が変わった。こっちに来い!とか、隠れろ!とか強引に連れてかれそうになるが時間とは時に残酷でソレの訪れの方が速かった。

 

「若い男の匂いがするよォ〜〜!」

 

「「ゑ?」」

 

地響きと共に奥の闇から現れた2mを超える、巨女。しかし短い手足は太く文字通り筋肉の塊だった。横にも縦にも太く、彼女ホントに娼婦?というくらい醜かった。ギョロギョロと蠢く目玉と横に裂けた口は、まさにヒキガエル━━━━━

 

「ゲゲゲゲッ!男を捕まえてきたんだって、アイシャ〜?」

 

「ちっ、何しに来たんだ、フリュネ」

 

「お前達が寄ってたかってガキ2人を連れてきたって耳に挟んでね、興味がわいたのさぁ〜」

 

アタイにも見せなよ、と続けのっしのっしと歩いて来た。俺にはそれが死刑を待つ囚人のような気分になった。

 

「【ヘスティア・ファミリア】の『兎』と『影』じゃないか!まだまだ青臭いけど…アタイの好みだよ!!押し倒した体に跨って、その可愛い顔を滅茶苦茶にして…そそられるじゃないか〜〜!!」

 

ゲゲゲゲ!!??と笑う彼女の涎が俺のズボンに落ちそうになった途端防衛本能が働きクイックシルバーを発動させた。時が止まった途端俺は涙と鼻水を流しながらベルを抱えて一目散に走った。

 

10秒、時が経った頃にクイックシルバーは解けた。

 

「あれ!?ハチマン?」

「うぐっ…えぐっ、ベルぅ…」

 

『『『『逃げたぞ!追えーー!』』』』

 

狩の合図に気を失いかける。

 

「しっかりして!」

ピシャン!

「はっ!!ここは…地獄か…」

 

ベルのビンタでなんとか意識を取り戻したがここが地獄だということに再び絶望する。

 

「見つけたぞーー!」

 

「「〜〜〜〜〜ッ!!??」」

 

お互い声にならない悲鳴を上げながら逃げ回る。基本このアマゾネス達はあまり戦闘力が高くなくlevel3となった俺達の速さに追いつく人物はそう多くなかった。一人を除いて。

 

「ぎゃあああああ!!」

 

隕石のように落ちて来た『ソレ』は舌なめずりをしながらこちらを睨む。フリュネと呼ばれていたモンスターは動きで分かる…俺達よりレベルが上だ。

 

「ゲゲゲゲッ、逃がさないよォ〜?」

 

その巨体に似合わない速さで拳が繰り出される。『逃げろ!!』と叫ぶ本能のまま回避行動を取る。空振りで終わったその一撃は凄まじく風圧で頬に波ができる程だ。それだけではなくフリュネは他の娼婦を掴んだかと思えば南斗人間砲弾宜しく投げ飛ばしてくる。

 

「あ、有り得ない…」

 

その力量に頬が痙攣する。

 

「あんの、ヒキガエル…!」

 

視線の先でアイシャさんが舌打ちをする。彼女を尻目に俺達は逃げ惑う。アイシャさんも追ってくるが俺たちの方が速い。

 

「リーシャ、イライザ!三番通りに入ったよ!」

 

今度こそ逃げ切れると勘違いしていた。外に出ようとここは歓楽街、イシュタル・ファミリアが管轄しているのはそこら中の娼館の看板にそのエンブレムが掛けてあるので理解できた。

 

「ベル!あそこだ!」

 

「うん!」

 

歓楽街の区画の端っこに位置する店に入る。ただ入るだけではバレるのがオチだから例に習ってクイックシルバーの出番だ。ベルも止まるため引っ張って連れていく。

 

そして時は動き出し、俺達は一般客を装いたまたま目に付いた部屋に身を潜めようと襖に手をかける。娼婦が騒いだ時用に麻酔モジュールをルーチェに付けていつでも撃てるようにスタンバる。

 

「お初にお目にかかります、旦那様。今宵、夜伽をさせて頂きます、春姫と申します」

 

襖の先には、三指を着いて頭を下げる一人の獣人の少女が座していた。きらやかな金の長髪に、同じ毛並みの耳と尻尾。あまり見かけない亜人の為、少しばかり見とれてしまう。

 

「あら…今日は御二人なのですね…あまり心得はありませんが精一杯頑張りたいと思います。さ、どうぞこちらへ」

 

その亜人は固まる俺の手を引き敷かれている布団へと導く。

 

「その、ちがくてッ…うお」

 

「キャッ…」

 

いきなりの展開に動転したのと長い事必死に走った疲労により俺は彼女と共にベッドに倒れてしまった。彼女が俺に覆い被さるように。

 

「あわわわわ…///」

 

「むぐぐぐ…むっ?むぅぅ…」

 

「す、すみません!?私ったら…」

 

体を起こした彼女、その際に顔に当たっていたたわわは離れていった。べ、別に悔しくなんか無いんだからねっ!……

 

どうするか思案してある間にも彼女は服を脱ぎ下着姿になり俺の服も脱がそうとする。

 

「私が、旦那様に、ご奉仕を…………!」

 

「うわああああ〜〜〜〜///」

 

「…………とっ、」

 

そこで彼女は突然、固まった。ビンッ!と尾を立てて、耳まで赤くしながら、呆然とこちらの首もとを直視する。ベルは俺の初舞台になるかもしれないのに顔を真っ赤にしながらこっちを凝視している。ちょっと!俺の尻尾もスタンドアップしそうだから早く助けて!!

 

「とっ、殿方のっ、鎖骨~~っ!?」

 

急に赤面した彼女は意識を手放した。その際こちらに倒れて込んでしまう。おっしゃ!ヘブンイズカミング!!

 

再び到来した天国に内心歓喜する。

 

「春姫っ!ここにヒューマンが来なかった…か…」

 

「あっ...(察し)お取り込み中でしたか…すんせんした」

 

マズイッ!と思ったが何かを察した空気の読める団員は襖を閉めた。

 

「だ、大丈夫だね、ハチマン!」

 

「すぅ…はぁ…すぅ…はふへへ」

 

息が出来ない為深ーく深呼吸をしてから彼女を退かす。さて、四畳位の部屋に男2人と気絶した女一人、しかし外には追っ手が山ほどいるマズイな…。

 

(神様、今日帰れるか怪しいです)

 

鼻から垂れてきた鼻血を拭いながら俺はファミリアに思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




改めて巫山戯てすんませんでした。

それでも面白いと思って下さったら感想と高評価を付けてくださると嬉しいです。

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