ダンジョンに出会いとボッチを添えて   作:テクロス

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タイトルに深い意味はありません


#34 詐欺師

「も、申し訳ありません!?」

 

目の前で狐人の少女が土下座で頭を下げる。ベルも俺もチェイスで疲れ果てたからここに暫く身を置かせてもらうことになった。ていうか別に謝る事なんて何一つないのに。むしろ我々の業界ではごほうびです。

 

「わ、私、春姫、と申します。貴方達は…」

 

「ご、ご丁寧にどうも…僕はベル・クラネルです」

 

「俺はハチマン・ヒキガヤっす…」

 

ひとしきりの自己紹介を済ませてここまでの経緯を説明する。仲間を追ってきたこと、アマゾネスに連れてかれたこと……襲われかけた事。

 

「そ、それは大変でしたね」

 

同情的な眼差しを向けられる。

 

「アマゾネスの方々と言いますとアイシャさんの事でしょうか?」

 

「えぇ、まぁ、知り合いなんですか?」

 

「はい。私はアイシャさんによく面倒を見てもらってます」

 

少し申し訳なさそうに、けれど彼女は裏表なく微笑んだ。彼女に追い回された身としては想像できないが案外良い人なのかもしれない、但し春姫さんに対しては、だ。

 

「約束のお時間が来るまで…私と、お話をしませんか?」

 

てなわけで始まった彼女との会話。一応コミュ障を患っている俺はそんなに話が長く続くことは不可能だ。生まれついた無愛想がここまで響くなんてな。

 

「クラネル様のご出身は、どちらなのですか?」

 

「僕は大陸の、えっと、このオラリオの北の方にある遠い山奥で……」

 

『クラネル様』なんて呼ばれて小っ恥ずかしくしているが君、ベル様って呼ばれてるじゃないか。

 

「そうなんですか、ヒキガヤ様にもお尋ねしても宜しいですか?」

 

「俺は…千葉っていう極東にある場所なんですけど前人未到の地でして…未だ嘗てそこを見た人は居ないんですよ。ベルとか仲間たち以外に」

 

前人未到という言葉に惹かれたのか彼女にそこに住むのはヒューマンなのか、どんな景色が広がっているのか、なんてことの無い事柄を尋ねられる。聞いては喜び驚く彼女を俺は『箱入り娘』なんて言葉が浮かんだ。

 

「やはり、このオラリオには冒険者になるために来られたのですか?」

 

「そう、ですね…夢みたいなのがあって、それにお金もなかったですし……あれ?ハチマンって…」

 

「俺か?俺は…気が付いたらダンジョンに居たんだよ」

 

「あ…も、申し訳ありませんっ。私ばかり聞いてしまって」

 

照れ恥じる彼女に俺は苦笑することしか出来なかった。

 

「えっと、それじゃあ…春姫さんは、どこの出身なんですか?」

 

話を聞く限りどうやら彼女は命と同じ極東の出身らしい。そこから話は展開され、彼女がここに至るまでを聞くことができた。

 

5年前、当時11歳の彼女は神への贈り物である神饌を()()()()食べてしまったという。当時彼女の家にはパルゥムが良く出入りしては春姫をべた褒めしていたとの事。親に殺されそうになった所をそのパルゥムによって一命を取り留めたがその代わりに勘当されてパルゥムにその身柄を引き渡されたのこと。モンスターに襲われて見捨てられた後山賊に拾われ生娘である事を確認された後オラリオに娼婦として売り払われたらしい。なんとも腹の立つ話だ。

 

「あっ……で、でもっ、島国育ちの私は大陸に興味がございました。叶うなら、ぜひ来てみたかったのです」

 

茫然と自失するベルに気を使って彼女は慌てて取り繕った。微笑んで明るく喋るその姿が、今はもう痛々しく見えてしまう。

 

「それに……極東にも沢山の物語が伝わっている、このオラリオには憧れていました」

 

「『迷宮神聖譚』、ですか?」

 

「はいっ」

 

それからはベルと春姫さんのオタク話だ。俺の出る幕ではなかった。日本に伝わる物語と少しだけ似ていたり文字ったりしているその物語を彼と彼女は語り合った。

 

「私も本の世界のように、英雄様に手を引かれ、憧れた世界に連れ出されてみたい…そう思っていた時もありました」

 

その言葉にベルは口を閉ざした。寝ながら両手を頭の後ろで組んで目を閉じていた俺はうっすらと片目を開ける。

 

「なんて…ただのはしたない夢物語でございます。連れ出してもらえる資格は、私にはございません」

 

「英雄は、春姫さんみたいな人を見捨てない!資格がないなんて、あるわけない!」

 

「私は、娼婦です」

 

「!!」

 

思わず声を荒らげたベルは絶句した。

 

「未熟ではありますが、私は多くの殿方に体を委ね、床を共にしています」

 

鎖骨見て気絶するのに?

 

「そんな卑しい私を…どうして英雄が救いだしてくれるのでしょうか?」

 

「英雄にとって娼婦は()()の対象です」

 

「…もう、刻限ですね」

 

連ねられる彼女の言葉にベルは口を閉ざす事しか出来なかった。彼女はもう何もかもを諦めている、そんな目をしていた。俺の昔の目と一緒だ。家族というものに絶望して何にも期待しなくなった俺と。

 

「とても、楽しい時間でございました…ありがとうございます」

 

彼女に道順を教わり俺達はホームへと帰った。

 

「ベル…分かってるな…?」

「うん…」

 

あの子を絶対に救い出そう。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「で?説明をしてもらおうか」

 

平たく言えば俺達は説教を受けた。歓楽街に行って朝帰りになれば怒られるのも頷けるだろう。

 

「ご、誤解です!兎に角僕達は何もやましい事はしていません!」

 

「ほう?じゃあ2人のポケットに入ってたこれはなんだい?」

 

神様の手には同じ小瓶が2つ握られていた。あれ?一つは俺のだけど…と思いベルの方を向くと汗をダラダラと流していた。

 

(お前もかーーーーー!!)

 

「どうします?ヘスティア様」

 

「嘘は言ってないけど歓楽街に行ったのは事実だからね、二人には罰を命じるよ!」

 

俺達は近所への挨拶回りや手伝いをしていた。屋根の修理や荷物運び。淡々とこなしていくうちにやがて俺達は【豊饒の女主人】の手伝いをする事になった。

 

「手伝わせてしまってすみません、ヒキガヤさん」

 

「いえ、別にいいんですよ。これが仕事なので」

 

「ではお昼はここで食べていかれるといいです」

 

誘いを断るのも気が引けるのでベルと一緒にトマトソースパスタを食べることになった。皿に山盛りになったそれを俺達は無言で食べる。きっとベルも春姫さんの事を考えているのだろう。あんな別れ方をしてはモヤモヤするのも頷ける。

 

「白髪頭と半端頭はどーしてそんなに元気じゃないのかにゃ?」

 

「え、いや…大丈夫ですよ!ね、ハチマン」

 

眉を下げながら愛想笑いを浮かべるベル。ていうか俺の事半端頭って…まぁいいけどさ。

 

「あぁ、ギルドに払わなきゃいけない税金の事を考えてたら憂鬱になっただけだ」

 

まぁ、シャワーのサービスとか医療とかは助かってんだけど今までとは比較にもならないくらい納める税金が膨らんだからな。リリルカが叫んでたのを思い出す。

 

「あれ?2人の匂い…」

 

「!ッ、じゃあ僕仕事があるのでー!」

 

シルさんが鼻をスンスンとさせると顔を青くしたベルは急いでパスタを口に詰め込み俺を置いて外に飛び出した。

 

「ヒキガヤさん、香水とか付けてましたか?」

 

成程、そういう訳か…ベルめ、後で激辛じゃが丸くんを食わせてやろう。

 

「ベルとアラルん所で馬の世話してたら匂いがアレだったんでシャワー浴びて適当に香水付けただけですよ」

 

平静を装いながら嘘をつく。別にこの人達に歓楽街に行った事を話す必要なんてないだろう。

 

「嘘…ですよね」

 

「…ですよね……………」

 

やっぱりバレた。この娘怖くない?ポーカーフェイスに定評のある俺でもビックリなんだけど。さぁ、どう言い訳しようか…。

 

「ここに坊主がいると聞いたが…いたか」

 

すると巨漢の漢、戦争遊戯で世話になった悪魔のベリアル改めてベルさんが扉をくぐってやってきた。悪魔でも救世の天使に見えてしまうのは何故だろうか。

 

「ベルさん、どうかしたんすか」

 

それでもあまり人前に顔を出さない彼が来るのは不思議だ。何かあったのだろうか。

 

「用事のアラル先輩からの手紙だ、マキャヴェリ先輩は外に出たくないらしいから俺が来た。受け取れ」

 

確かに渡したぞ、と言い残してベルさんは立ち去った。そっか、あの悪魔、人が大嫌いなんだっけ。

 

「どんな内容なんですか?」

 

シルさんが覗き込むようにして尋ねてくる。

 

「『3人目が見つかった』…としか書かれてませんよ」

 

「3人目?何か知ってるんですか?」

 

「まぁ、貴方達には関係ありませんよ、と。俺も仕事の方に戻らせてもらいます」

 

席を立ち【豊饒の女主人】を後にする。見つかっちまったのか…いつでも大丈夫なように準備はしとかないとな。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ハチマン君、君に指名の仕事だよ。クライアントが来るまで中央噴水の近くで待っててね」

 

「うっす…」

 

僕達は僕が神様に恩恵を授かった本屋に来ていたけどハチマンの元に舞い込んだ突然の仕事で彼は席を外すことになった。

 

「さ、リリ達も仕事を続けましょう」

 

嫌な予感がすると言っているヴェルフを他所に作業を進める。ヴェルフ、リリ、命さんが木箱に書物を詰めたり、本棚に向き合って本を並び替える。神様は別の部屋で店主のお爺さんと作業をしている。

 

僕は迷っていた。命さんに春姫さんの事を聞いてみるべきか…もし話してしまったら命さんが危険な目に合わないか、と心配していた。そうして迷っている内に既に空はオレンジ色に染まってきた。

 

「あの、命さん…」

 

「どうかしましたか、ベル殿?」

 

本棚から振り返った彼女に…今朝からずっと気になっていたことをやっと勇気をしぼって尋ねた。

 

「春姫さんっていう狐人を、知ってますか?」

 

「どっ___とこでその名前を!?」

 

僕の質問に命さんは身を乗り出して大きく反応した。リリとヴェルフもこちらに振り向く中、彼女達が知人である事を確認する為に僕は昨夜あった事を打ち明ける。遊郭にいたこと、このオラリオにやってきた経緯を。

 

「もしよかったら…命さん達と春姫さんの関係も、教えてくれませんか?」

 

遡る事十年ほど前、屋敷から出れなかった彼女をタケミカヅチ様主導の元彼女を裏山に連れ出して遊んでいたそうだ。野山を駆け、田畑を巡り、川辺ではしゃいで、と幸せな時間を過ごしていたらしい。ただ一度バレてしまった事があり、警邏との攻防は熾烈を極めたらしい。春姫さんの父親も激怒していたらしく、その度にタケミカヅチ様が土下座をして許してもらっていたらしい。

 

しかしそれも長くは続かず、貧困に苦しんでいた命さん達は日銭を稼ぐようになって疎遠になった中、久しぶりに屋敷に窺ったら春姫さんは勘当されていた。

 

その言葉の数々には春姫さんへの想いと悔悟が滲み出ていて…目の前にいる僕も胸が切なくなるほど苦しくなる。

 

「わかってると思いますが…その狐人の方を助けようなんて考えないでください」

 

「!!」

 

ばっと顔を振り上げた僕と命さんに、リリは冷静な表情で淡々と話す。

 

「当然です。戦争遊戯を終えたばかりだと言うのに、また抗争をするおつもりですか?」

 

そして手痛い正論を叩きつけてきた。

 

「戦争遊戯で【ヘスティア・ファミリア】は丸裸にされたと同然です。観戦していた者達にはベル様達の魔法、攻撃、武装やアイテム、手の内を知られています」

 

全てを出し切って掴んだあの戦争の勝利には、代償が伴ったと、リリはそう告げる。

 

「何より、ヘスティア様に膨大な負担をかけることになるでしょう。能天気過ぎてまだ自覚はないかもしれませんが、都市の勢力図に頭を食い込ませたあの方は、少なくない神様達に疎まれている筈ですから」

 

「おい、一人で悪者にならなくてもいいぞ」

 

本の背表紙で、リリの頭をトントンと叩く。

 

「わ、悪者なんてっ!」

 

そうか、リリは敢えて心を鬼にして、悪者__『嫌な奴』を演じていた。赤らめた顔を背けるリリの隣で、ヴェルフはみんなをまとめる長兄のように笑った。

 

「【ファミリア】の一員としてはリリスケに賛成だ」

 

だがな、と僕と命さんの顔を見回して、言葉を続ける。

 

「お前達が何かしたいっていうなら、俺は手伝ってやる。最後まで付き合ってやるさ」

 

それにな、とまた言葉を続けたヴェルフは顎で窓の外を指す。窓の外には見覚えのある黒いコートの端っこ側が見え隠れしていた。ハチマンだ。仕事が終わり帰ってきたら僕達の話が聞こえたものだから途中で参加するのも気まずくて外で聞いていたのだろう。

 

「…………」

 

そして、どこか安心したのか何かを決心したような表情で彼は書店には戻らずどこかに向かって歩き出した。

 

「あいつ何しようってんだ?」

 

「昨日の今日で歓楽街に向かうとは考えにくいですけどもしかしたら……」

 

リリが心配の声を出すがその続きのセリフはノック音によって遮られた。皆が一斉に音のした方を向くと神様や書店のお爺さんではなく、白髪で紺色のコートを着た切れ目で初老の男が立っていた。

 

「アラル神父…」

 

「よっ」

 

軽く手を挙げて挨拶をする彼はフラフラと歩いて適当な本を手に取りパラパラと読み、ため息を付いた。

 

「アイツには追加で依頼させてもらってな、その報告をお前達にもって思ってな」

 

本を読みながら話している為全く僕達と目を合わせようとしていないアラル神父。リリもヴェルフも彼に苦手感を抱いている為、少し怪訝な顔をしている。

 

「前々から思っていましたが貴方はハチマン様をどうして気にかけているのですか?」

 

ふむ、と一息置いて彼はまた新しい本に手を出した。

 

「気にかける訳……か、」

 

本をパタンと閉じて視線を僕達に向ける。何時もの陽気なイメージとはうってかわり重い雰囲気が空気を漂う。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

イシュタル・ファミリアの地下

 

そこは地上の華やかさとは真反対に暗い石畳が敷かれ、3m先が見えるかどうかも怪しい間隔で蝋燭が寂しく置かれていた。壁や床には極東の札や何かしらの効果を発する魔法陣が幾つも施されるていた。

 

「…………」

 

闇の中で蠢く繭にはモンスターとは似ても似つかないパーツが乱雑に融合されていた。この世の物とは思えない翼や蠍にしては大きすぎる尾、黒く変色している溶けた剛腕。

 

「随分と成長しているが大人しくしているな…ふっ、悪魔にも通ずる我が魅了はやはりフレイヤのそれとは比べ物にもならないな」

 

その雰囲気とは天と地の差はある妖艶な女神がその繭の前に立っている。目の前に鎮座する悪魔の繭に通った自分の能力を褒め散らかしている。

 

「これで忌まわしいフレイヤを…いや、世界を我が手中に…クッフフフ…アッハハハハハハハ!!」

 

その笑い声に同乗するかのように蠢く繭のは淡く暗い色を放っている。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

夜空に浮かぶ金色の月。

通りに面する張見世の中で、春姫は夜空を見上げる。宵闇と望月に近付いていく月影を一頻り眺めた後、視線を下ろせば遊郭には昨夜に負けない人通りがある。

 

(いないかな、いないかな)

 

昨夜会った二人の少年を想う、特に黒髪の目が特徴的な少年の姿を想像してしまう。春姫の視線の動きに合わせ、臀部から伸びる太い狐の尾が、ぱたり、ぱたり、と揺れる。

 

(昨日は本当に…)

 

楽しかった。夢のような時間だった。

あの少年は温かな気持ちと優しい一時を春姫に分けてくれた。闇に染まった目が綺麗だった。どこか希望に満ちた目が素敵だった。彼との会話を思い出すと唇に笑みが、胸には温もりが宿る。

 

通り側、格子窓の前に張見世の中から何かを探し出そうとしているその人物と目が会った。

 

「春姫殿!自分ですっ──命です!」

 

瞬間、春姫の呼吸が止まった。

遠く離れている故郷の幼馴染──男装した命だ。

 

(恥ずかし!恥ずかし!恥ずかし!)

 

手を取り笑い合った幼馴染が、過去の美しい思い出が、娼婦に身を堕とした今の自分を見つめてくる。

 

全身を焼き焦がす羞恥の心。

 

「…他人の、空似でしょう。私は貴方のような方を存じません」

 

拒絶の言葉に目を見開いた命は泣きそうな表情を浮かべる。

 

「春姫、お呼びだ」

 

「はい…」

 

いつも以上に心を暗く染め上げながら、はい、と返す春姫は、男が待っているであろう部屋へ静かに向かった。

 

シャッシャッシャッシャッシャッ…

 

「ども」

 

部屋の奥で待ち構えていたのは昨日見知ったばかりの少年だ。布団の上でカードをきりながら春姫を待っていた。

 

「な、なんで貴方様が…」

 

「ま、同じ穴のムジナだった訳ですよ…ベクトルは違くとも俺も身を汚してるんでね」

 

そう答えた彼は脇目も振らずにカードをきっていく。そして春姫が座るであろう場所との間にカードを丁寧に並べる。

 

「ま、フルタイムで遊べるようにしといたからとことんゲームしようぜ」

 

「!……はいっ」

 

娼婦の作法を忘れて慌てて座る春姫、その姿はまるで今は遠いあの日の子供のようだった。

 

「残り1枚ですっ」

 

UN〇(うんまる)って言ってないぞ、ほれドロー4」

 

「こんっ!?」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ごちそうさまでした……」

 

次の日の朝、ホームの食堂。小さなパンを一つ食べ終えた命が、皿を片付け始める。スープも野菜も食べず、碌に食べ物が喉を通らないといった様子だ。

 

「なぁ、命君、どうしたんだい?」

 

「昨日遅くまで出かけていた様ですが…ハチマン様も」

 

リリルカの移った視線の先には少し眠そうにしているがしっかり朝ご飯を食べているハチマンがいた。

 

「アラルの野郎が教会の管理を押し付けやがったんだよ…墓の管理さえすれば後は何してもいいって言ってたけどよ…何個あると思ってんだよ…ったく…洗剤だってタダじゃねぇってのに…今日も明日も行かなきゃいけないのに…」

 

段々小声になっていくハチマンの気苦労を察してリリルカは目を逸らした。

 

「ハチマン…最近動きすぎだよ…少し休んだ方がいいんじゃないの?」

 

「それもそうだな……少し休む」

 

身の回りの環境が変わった事と春姫の事で知らなくちゃいけない事が山積みだが休みを選ぶハチマン。

 

「1時間くらい寝るから部屋に来るなよ」

 

「あっ…(察し)」

 

「違うからな」

 

そんな多忙の身なハチマンは大き目のバッグに何やらジャラジャラとした物を大量に詰め込んで自室に入っていった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「やるか…」

 

超ウルトラスーパー賢い俺は春姫さんの所に開店から閉店まで毎日通うことにした。推測だが男の鎖骨を見て気絶するような彼女は恐らく生娘…所謂処女って奴だろう。本人はそうは思っていないが…今の所は気絶して萎えた客が帰るという流れが出来ていると彼女の先輩娼婦が言っていた。今の所確認されていないが寝ている所を無理やり…なんて事もこの先考えうる。故に俺が独占するという考えに至ったのだが金が無い。パフェとパスタとピザでおじゃんになっている俺はなんとかして金を稼がねばと考えた結果、一つだけ短時間で大金を稼ぐ方法が見つかった。決して褒められる訳じゃないが致し方ない。

 

「ストレートフラッシュ」

 

SOカジノ!!

カジノ浸りのバカ共から毟って金を稼ぐ。

ん?『完全運なのにどうやって勝つの?』だって?ふむ、その答えはこうだ。

 

「『クイックシルバー』…」

 

止まった10秒をフルに使って己の手札を良い物にすり替える。デッキをパラパラ見て望むカードを手に入れる。相手がイカサマしていようとも手札を交換すればいいだけの事だ。つまりディーラーとその他の相手が組んでイカサマしていようとも俺が勝つ。

 

「フルハウス」

 

「つ、ツーペア…」

 

こうして俺のチップはあっという間に山を形成する。これを両替すれば手持ち50万が200万になった。

 

「ごっつぁんでした、と」

 

そして大量の金を持ってトイレとか人気の無い所に行って誰にも見られてない事を確認したら閻魔刃で部屋まで次元を繋ぐ。

 

「完璧だっ」

 

小銭を持って悦に浸りながらルンルン気分で外に出向くと門の前に皆が集まっていた。馬車が止まっていたようだが走り出してしまった。

 

「どうしたんだ?」

 

「ハチマンか、来てくれ!」

 

呼ばれるまでもなく皆の元に向かう。

 

「依頼?」

 

「あぁ、アルベラ商会って所からだ、パントリーで石英を取ってこい、って書いてある」

 

「報酬がおかしなくらい依頼内容と釣り合ってないな」

 

「これからもご贔屓にしてくださいって事だろう」

 

するかバカめ、と唾を飛ばしたいが相手も生きる為に必死なのだろうからその位は目を瞑ってやろう。

 

「で、報酬は?」

 

「100万ヴァリス」

 

「「ひゃ、100万…!!」」

 

余りの金額に息を飲むベルと命。

リリルカならまだしもこの2人の組み合わせは珍しい。

 

「どう思いますか?ハチマン様…」

 

「直接会って話した訳じゃないが…本格的な取り引きはしないで、今回限りのお付き合い…ってことにしようか」

 

「言い方が誤解しか招きませんよ…」

 

「バカヤロー、ホントはもっと冷たいぞ?ちょっと話しかけただけで『もうやめて』なんて言われんだからな、アイツらキャラ捨てても俺が嫌だったのかよ…」

 

「ハチマン様…強く、生きてください…」

 

「俺の事はいいんだよ…さ、本業の時間だ」

 

紆余曲折あったが俺達は100万ヴァリスの為に楽チンなクエストを受けてダンジョンに潜った。

 

「やっぱこの感じだよな〜」

 

バン!!

 

新しく貰った3連リボルバーのケルベロスも一発でモンスターを粉砕した。少し腕が痺れるな…鍛え足りないな。

 

「凄まじい武器ですね…人に撃ってしまったらどうなるんです?」

 

「ん?晩飯がハンバーグになる」

 

うっ…と軽くえずいたベルに冗談だ、と諭す。

どうやらベルと命さんは春姫さんを身請けしようとしていたらしい。その為にお金を稼ぐ方法を探していたらしい。後でこっそりベルの財布に200万入れてやろう、どんな顔するんだろうな。

 

「止まってください」

 

同じく先頭を歩いていた命さんが意識を切り替え、鋭く振り返る。

 

「ライガーファングが2体…」

 

「探知系の『スキル』か、便利だな」

 

「いえ、一度遭遇したモンスターでなければ感知できませんし…自分の心身の状況によって効果も左右されます。過度に期待しないでください」

 

後方の横穴から現れたのは下層から上がってきたと思われるモンスターだった。リリルカの判断だとイレギュラー、逃げがオススメだろうが…

 

「やるか」

 

「うん」

 

ベオウルフを構えてベルと並ぶ俺達に気付いたのか2体のライガーファングは咆哮をあげる。

 

「うぉらァっ!!」

 

「ぜぇやっ!!」

 

更に集まって来たモンスター達との戦闘に俺達は入った。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「足音…モンスターと、人です」

 

こっちに向かって来る趣旨を命さんは小さく呟いた。ピタ…ピタ…と髪から滴る血を忌まわしく思いながら俺はため息をついた。

 

「ライガーファングの口の中に入るからこうなるんですよ!」

 

「腹を突き破ってきた時は心臓が止まるかと思ったぞ…」

 

「ハチマンは先頭の時はバーサーカーだからね」

 

意外とやる事えげつないし、と補足するベル。

 

「仕方ないだろ、なんか、戦うのを楽しむ自分がいるんだから」

 

「足音…近付いてきます」

 

「「「「!!」」」」

 

またパスパレードか…と思いながら迎撃体制をとる。最近出番の少なかったベオウルフのつま先をトントンと鳴らして準備する。

 

「引きましょう!」

 

戦う気満々だったがリリルカに出鼻をくじかれる。

もと来た道を逆走するが詰まってくる後ろの距離を肩越しに確認する。

 

広い十字路に出て一息つく。が、本当に一回呼吸するだけで終わってしまった。なぜなら俺達を挟むように他の冒険者達がモンスターを引き連れてきたからだ。

 

「二方向!?」

 

リリルカの悲鳴が響く。

 

「う、おおおおおおおおっ!?」

 

「み、みなさん!?」

 

あまりにも多すぎる数のモンスターが雪崩込み、俺達は一緒にいたにも関わらず離れ離れになった。

 

しかも厄介なのはモンスターだけではなく冒険者達ですら俺達に牙を剥いたのだから。

 

「なんだ、コイツら!」

 

色違いの外套を纏う冒険者はモンスター達を飛び越えて俺達に攻撃を仕掛けてきた。

 

「付き合ってもらうよ…」

 

その言葉と共に蹴り上げられた俺はモンスターの檻から弾き飛ばされた。

 

(分断された…)

 

通路に空いていた横穴の奥に蹴りこまれた俺の他にいるのは追撃者と同じ格好をした外套の冒険者だった。

 

「アイシャさん…」

 

外套を脱いだその冒険者はこの前に歓楽街で襲ってきた戦える娼婦のアイシャさんだった。

 

「恨みを買った覚えは無いんだけどな…」

 

「アイシャ…!アイツだよ!カイシル達をやったのは!」

 

どうやらあったようだ。記憶を辿って身の覚えがないか探ってみると一つだけあった。

 

「あぁ、あの夜のか…」

 

「お前のせいでな…!カイシルはっ!二度と立てなくなったんだぞ!」

 

「え……」

 

確かにボコボコにした記憶はあるがそこまでやった覚えはない。しかし相手は涙目だ。もしかしたら後遺症とか残ってしまったのかもしれない…。

 

「ガッ…!」

 

思考の海に溺れていると後ろからとんでもない打撃を受ける。

 

「騙されたなッ!バカめ!」

 

「テメェ…つら覚えたからな…!」

 

後頭部にクリーンヒットした為、意識が朦朧とするが一矢報いる為に1発殴ろうと近付くがさせまいと拳や蹴りのリンチに会う。

 

(気絶オチなんて…サイテー…)

 

暗転、それから先何があったのか俺に知る術は無かった。

 




ほんと、最近の俺って気絶オチしか書いてない気がします。
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