一応民主主義に則って『チート魔法』をハチマンに与えたいと思います。
「ゴァァァァァァッ!」
「うぉラァァァァァッ!」
激しい戦闘が繰り広げられていた。
アルゴサクスの炎の剣とハチマンのフォースエッジの激しいぶつかり合い。
ハチマンの背後にいる魔人も彼の行動に合わせて攻撃をするも流石『覇王』。フォースエッジを左手の剣で、魔人の攻撃を右手の剣で捌いていた。
ヒュン…
更には瞬間移動すら使うアルゴサクス。攻撃しては離れるヒットアンドアウェイである。
「ちぃ…ッ!」
ガガガガガガガッ!
すぐさま二丁拳銃に持ち替えてアルゴサクスを乱れ打つハチマン。全弾命中するもそのダメージは覇王故に微々たるものだった。もしこれが無強化の銃だったら着弾する前に蒸発していた所だろう。
「オオッ!」
そして太陽のような翼をはためかせると熱光弾がハチマンに向かって飛んできた。そしてそれを横に転がりながら躱す。その際に両手の銃に力を溜める。
「これならどうだ…!!」
魔力を込めた射撃、チャージショットと後方に控えさせていた幻影剣を同時に発射するも翼でガードされる。
「ガードしたって事はダメージが通じるのか…?」
そう考察しているうちにアルゴサクスは両手の剣をハチマンに向けてその体を高速回転させながら突撃してくる。それもローリングで躱すも厄介な事に瞬間移動で回避した先に飛びその攻撃を強制的に当ててくる。
「ぐおおおおおおおッ!!」
ギルガメスを眼前に展開するもその威力と熱波によって押されてその体は宙を浮き、オラリオ外まで押し出される。
「ハチマンッ!」
辛うじて聞こえたベルの声に返事をする余裕はなく防御に専念するしかない。
ミシッ…ピシッ…
いや音が聞こえたハチマンは咄嗟にクイック・シルバーで時を止める。止まった時間の中でも重力は働き、ハチマンだけが落ちる。
「ヒーロー着地ッ!」
鉄の男宜しくカッコをつけて着地するも両膝と拳に痛みを感じて『やるんじゃなかった』と後悔する。
「やるな…人間」
真っ赤な光を発しながらソレは確かに喋った。
「喋れんのかよ、アンタ…。てか操られてなかった?」
「神風情に操られるなど悪魔の恥晒しである。この程度の演技、朝飯前だ」
「演技派悪魔とか笑えねーよ…」
「人間、俄然貴様に興味が沸いた。その出で立ちは人間のそれだが身に秘めているのは我らに近しい」
「……………」
「このまま操り人形であるのは私も遺憾だ…故に人間、私をモノにして見せろ」
「は……?」
突然何を言ってるんだ…コイツは。
「本気でかかって来い…そして奪い取れ」
「………分かった」
だがきっとやるしかないのだろう。
奴も本気だ。
ならばこっちもそれ相応の態度で望まなくては。
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「ふぅ、やっと終わりましたか…」
【豊饒の女主人】、そこに働くエルフのウェイトレスのリュー・リオンは最後の団体客を見送り一息つく。
「ん?」
ゴォォォォォ……!!
ふと空を見上げると空に走る炎があった。その炎はオラリオの壁を越えて外に出るとすぐ近くに降り立ったように見えた。
「一体あれは……」
元冒険者としての嫌な予感がする。嘗て仲間を失った時のようなとてつもない程の嫌な予感が彼女の神経に走った。
タッタッタッタッ…
「クラネルさん…?」
激しい足音のする方を見ると【豊饒の女主人】常連客のベル・クラネルが滅多に見せない表情で南門まで走っているのを見掛けた。
(いない…)
いつも彼の隣に居るはずの彼が居ない。最近どこかぼーっとしている節があったが何をするにも近くにいたはずだと彼女は認識している。
そして嫌な予感は更に加速していった。ベルのあの表情はハチマンが拷問を受けた時に必死で探していた時と似た様な顔をしていた。
「まさか……」
ベルを追うリュー。レベル3である彼に追いつくのは容易い筈だが中々追いつくのに時間を要したのは彼の【俊敏】のステータスが高い事とそれ程焦る要件なのを表していた。
「クラネルさん!」
「リューさん!?」
「何かあったんですか?」
「ハチマンが!!」
それだけで彼女がベルについて行き彼の安否を確認する必要が出来た。
(どうかご無事で…)
今はそう祈るしかない。
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「ハチマン…?」
「ハチマンさん……」
門番のバン・モンさんに事情を説明して快く門を通らせてもらい、激しい爆音と熱光を発していた場所に向かう。
そこは地獄だった。辺りの地面には夥しい量の血が撒き散らされ、事態の深刻さを物語っている。恐らくハチマンが防御に使ったのか地面から生えたままのギルガメスの壁が乱立していたり倒れたりしている。
「よぉ……待ったか…?」
その中央に立つハチマン。髪の毛はやはり銀色に染まりきり、コートは所々焦げ付いているし穴が幾つか空いている。吐血したのか彼の口の周りには血がべっとりと付いている。体からは魔力を纏っていたのか黒くおぞましい魔力の闇、否、深淵が漂っていた。
「あのモンスターは?」
「………」V
ただ黙って左手でVサインを作るのは勝利か平和を意味していた。
「ハチマン…その剣は?」
彼の手に握られていたのはフォースエッジでも閻魔刃でもリベリオンでもなかった。人の身の丈程ある刃には剣と言うには余りにも禍々しい肉が付いていて謎の宝玉が埋め込まれていた。
「これは…俺の魂だよ」
そう言うと剣は光り輝いた。光が収まる頃にはその剣は消えて無くなり、フォースエッジとハチマンが常に身に付けていたネックレスがその手に握られていた。
「リューさんが居ることに敢えて突っ込まないけど…つかれた〜」
そう言い残してハチマンは地面に思い切り倒れ込んだ。
(いつものハチマンだ…)
どこか悲しそうにしていたのはベルの勘違いだったのだろうか。
「そんな所に寝てては首を痛めますよ」
そう言うと彼女は彼の頭元に座りハチマンの頭を強引に自分の膝に乗っけた。
「皆が来るまで時間があるので待ちましょう」
「はい」
軽く返事を返したリューは既に寝静まったハチマンの頭を撫でる。
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あれから2日が経った。
気が付けば入院させられていたハチマンはベルと共に2日も寝てしまっていた様だ。
「なぁベル…大切な話がある…」
「た、大切な話?何?」
ベッドから起き上がりドアの方にひたひたと歩いていく。
「誰にも聞かれたくない話だし…」
「!!」
カチャリ
入院中故にか手袋を外している彼の手を見るベルは何故か顔を赤らめていた。
「誰にも見られたくない」
シャッ、とカーテンを閉める。そして部屋の隅から隅を魔力で結び結界を張る。その余りにも厳重すぎる警戒にベルはやっと見当違いの期待をしていた事に気付く。
「この前のアルゴサクスとの戦闘で俺の体がおかしくなったんだ」
「え?」
ハチマンが目を閉じると彼の体から紫の魔力ではなく黒い霧のような深淵が彼の身体から溢れ出る。千葉での暴走した時とは違い彼がコントロールしているようだ。
「わぁ……」
「ッ!!」
その深淵は彼の体を包む。
暫くするとその闇は晴れ、姿を変えたハチマンが姿を現した。
人の形はしているもののその正体がハチマンだという事は誰にも予想すると事は不可能だ。
真っ黒な体に二本の角、背中には大きな二対の翼。頬まで裂けた口に真っ赤な目。その姿は悪魔のそれだった。
「ハチマン…それって…」
「あの時、アルゴサクスとの戦闘で成れるようになった。でもまぁだけ、なれるのは3分だけなんだけどな」
淡い深淵と共に人の姿に戻る彼。ベルは彼のあの姿に瞳をキラキラとさせていた。
「カッコイイよ!ハチマン!!」
「ふつーそこはもっとこう…いや、お前に普通のリアクションを期待してた俺がバカだった」
コメカミに手を当てるハチマン。別に非難してほしかった訳ではなかったが余りの予想外のリアクションだったからだ。
今までは自身を強くする為の
「さて、そろそろ退院するぞ」
「うん!」
全快した趣旨をこの病院を経営する【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッド女医に話して軽く検査した後に退院を言い渡された。
「シャバの空気がうまいな」
「刑務所にいた訳じゃないんだから…」
タハハ、と笑うベルを連れて歩く。アルゴサクスとの戦いでダメになってしまったコートを新調する為だ。
「あ!ハチマンさん!待ってました!」
「すみません、何度もダメにしてしまって…」
「いいんですよ、最後まで着てもらった服達も本望でしょう。クローゼットに入れられっぱなしの方が嫌がると思いますからね」
「そう言ってくれると助かります…新しいコートなんですけど、これを参考にできませんか?」
そう言い手渡したのはアルゴサクス戦でボロボロになったネロのコートだ。
「これは…見た事のないコートですね」
「これを参考に新しいコートって作って頂けませんか?前回のデザインを上手くこれにトレースするような感じで…」
「ふむふむ…分かりました。結構時間を取らせてしまうので2、3時間したらまたいらしてください」
分かりました、と告げて店を出る。
「ベルも何か揃えたいのあるか?」
「ううん、僕は特にないけど…そうだ、ポーチを新しくしたいから【へファイストス・ファミリア】のお店に行かない?」
「分かった、俺も手袋ダメになったしな…」
ボロボロの手を忌まわしそうに見るハチマン。努力の証であるはずのその手はあまり人前に出さないのは何故だろうか、とベルは不思議に思っていた。
「いらっしゃいませー」
気の抜けた挨拶に迎えられてベルとハチマンはバベルにてへファイストス・ファミリアの営んでいる装備品店に入った。
「どんな手袋がいいか…」
ポーチを選んでいるベルを他所にハチマンは新しい手袋を選んでいた。
「やっぱり頑丈な革の手袋がいいんだよな…」
今まで使っていたのはバベルの受付嬢であるエイナ・チュールからプレゼントされたのを修繕に修繕を重ねて使っていたが今回の戦闘で溶けてしまい使い物にならなくなってしまったのだ。
(エイナさんには悪いことしたな…)
内側が柔らかくなっていて剣を振っても手に痛みを感じない黒い革の手袋を手に会計に進む。
「4万ヴァリスになります〜」
「ほい…」
「丁度ですね〜ありがとうございました〜」
新しい手袋を手にはめて満足した様子のハチマン。そんな彼に向かう影が一つあった。
「よっ!小僧」
「アラル…どうしたんだ?」
「アイツを殺った祝いだ、プレゼントしてやんよ」
そう言いハチマンに渡したのは1冊の古びた本だった。表紙には『激熱!隣の奥様〜愛・おぼえていますか〜』と書かれている。
「官能小説じゃねーかよ…!」
「オラリオに来て溜まってんだろ?オカズを提供しただけだ。これに入れてけ」
「紙袋…はぁ、どうすりゃいいんだよ…」
「絶対部屋で読めよ!捨てるんじゃねーからな!…それと、ダンジョンに異変がある…気ぃつけろヨ」
んじゃ、と残してアラストルは去っていった。
「ハチマーン!手袋買えた?あれ?その紙袋は?」
「いや、気にしないでくれ。ベルの方は大丈夫か?」
「うん、バッチリ買えたよ!そろそろ時間だしコートを取りに行かない?」
「あぁ」
今後の探索や戦術とかを話し合って彼等は新しいコートを取りに行った。
「ハチマンさん!出来上がりましたよ!」
濃い紫を基本に血管を彷彿とさせる赤い刺繍、肩にはお馴染みと化した白いオオアマナの刺繍。黒のシャツとズボンの上にそれを羽織る。
「うん、似合ってるよ!」
「最高です!!」
「あ、ありがとう…」
代金を支払いベルとホームに向かう。
「「ただいまーー」」
『『おかえりなさーい!』』
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ーepisode of supada
「はぁッ!」
「やあッ!」
「…………」
双子である息子二人が私に向かって木刀を振るう。それを軽くいなして両者に足を引っ掛ける。
「「うわぁ!!」」
「中々…良くなったな」
転んで汚れた息子二人を抱えて家の中に入る。廊下を歩き風呂場に向かい洗濯カゴに汚れた服を入れて風呂に入らせる。
「ダンテの神は母さんに似たんだな」
「へっへー、サラサラだぜ!」
シャンプーを泡たてガシャガシャと頭を洗う息子を見ているともう一人がやって来る。
「お父さん…俺は?」
「バージルは私に似たな」
「そ、そう?やたッ…」
偶にワックスで私の髪型を真似しているのを微笑ましく思い出しながら3人で身を清めてリビングに向かう。
「母さ〜ん!俺の髪って母さんに似てるんだって!」
「そう、良かったじゃない!」
ダンテを抱き上げる妻。引っ込み思案なバージルは甘えるのが苦手だからその意図を汲んで私もバージルを抱き上げる。
「俺はお父さんと似てるんだよ!」
「そうね、バージルは本当にお父さんと似てるわね」
優しくバージルの頭を撫でる。
食卓に並べられた料理に2人は目を輝かせ椅子に座る。
「この子達の将来が楽しみだ」
「ダンテはどんな人と結婚するのかしらね…」
「意外とだらしないからしっかり者の人だといいんだけどな」
「バージルは引っ込み思案だからグイグイ引っ張るお姉さんみたいな人がいいわね」
残された私達も席につき料理に手をつけ始める。
「そうなると孫はどんな性格になるんだろうか」
「貴方と似て紳士な人になるのかもしれないわ。人に誤解されやすいけど心はちゃんと温かい人に…」
「そうなるといいな」
今日も4人の平和を噛み締める。
悪魔の身だがこんな日が続けばいいな、とつくづく思う。
前書きであぁは言ったもののどんな魔法にしようかな〜