「らっしゃい…」
チリンチリン…と鈴の音が来客の合図だ。俺はカウンターに座り万が一客が粗相をしないか目を見張る。
そう、俺は今バイトをしている。働いたら負けを掲げる俺が何故働いているかというと………
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ーカフェ【ポレポレ】ー
『代金1万5000ヴァリスだよ』
『はいはい…やべ、金ねぇ…』
ヤバい…コートと手袋代で財布の中が氷河期だ。家にはまだ貯蓄が…あ、ベルにイタズラでプレゼントしたんだった。
『アンタ…食い逃げは許さないよ』
『…………』
『アタシが立て替えてやるよ』
するとやって来たのはエルフの女性だった。
『助かりました…ありがとうございます』
『そんじゃ1万5000ヴァリス分働いてもらうよ、『亡影』さん』
『………うす』
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てなワケでその女性が営む【魔女の隠れ家】で働くことになった。
チリンチリン…
「らっしゃせー…」
手元にある本を捲り読書に耽ける。どうせこの客も何も見ないで帰るんだ。
「ふむ、やはりここは品揃えが良いな」
聡明そうなお客が来たな、と思いながらまたページをめくる。すると目の前のカウンターに他の客がやって来た。
「すんません、これ下さい」
「はい…合計2万ヴァリスです」
「ちょいとまけてくれませんかね〜」
「びた一文値下げする気は無い…悪いね、店長からの言いつけで俺の一存じゃ値引きできないんだよ」
「ちっ…ほらよ!」
「ありがとうございました〜」
乱暴に金をテーブルに叩きつけて店を出る態度の悪い客。
「これとこれください…」
「ポケットに入れてる奴も出しな…5000ヴァリスだ」
「ごっ!5000!?3500ヴァリスじゃないの!?」
「口止め料だ、なんならガネーシャ・ファミリアに突き出してやってもいいんだぞ?」
「ぐぬぬぬ〜、やられた!!」
「まいど〜」
獣人の女の子はプンスカとした様子で店を出ていった。店に残るのは俺とふむ、とか言ってたお客だろう。
「アルベラ商会…」
「!!」
「先日何者かにより襲撃されたらしい」
「それは…大変でしたネ…」
「前々から闇派閥との関わりがあると疑惑があったが確証が無くてギルドが燻っていたらしくてな」
「そう…だったんですか」
「被害者は商会メンバー全員漏れなく病院送り。重鎮に近づく程その重症度は増していき一番酷い者は五感全てが奪われていたらしい」
「……………」
「キミだったんだな」
緑色の髪をしたそのエルフは俺に詰め寄ってくる。
「確かに俺ですよ…でも喧嘩ふっかけてきたのはあっちなんですよ?その件に着いて問い詰めようとしたら手を出してきて…だから仕方ないんですよ」
「だとしてもやりすぎでは無いのか?」
「俺は兎も角、家族に手ぇ出すのがいけないんですよ」
「…………」
何故か黙るその女性、【ロキ・ファミリア】の幹部であるリヴェリア・リヨス・アールヴ、その人だった。
「家族を守る為か…ならば仕方ないな」
「そうでしょ?だったら「だが」……」
「コレは余りにもやり過ぎだ」
「…………」
「店主、このバイト君を借りてもいいか?」
すると店の奥に引っ込んでた店主はドタドタと走ってやってきた。
「リ、リヴェリア様!どーぞどーぞ一日中貸しますよ!」
悲報、俺、貸し借りできる物だった。
てなワケで俺はリヴェリアさんに連れ出される事になった。
「俺ガネーシャ・ファミリアに突き出されるんですか?」
「いや、結果的に君がした事はいい事だ。突き出すことはしないよ」
取り敢えず首の皮一枚は繋がった様だ。
「少し君と話がしたくてね」
適当なカフェに立ち寄り端っこの人目に触れないような席に座る。
「私はカフェオレを、君は?」
「俺は今手持ちが無いんでいいですよ」
「そういう訳にもいかない、奢るぞ?」
「俺は養われる気はあるが、施しを受ける気はありません」
「何が違うのか理解に苦しむが…彼にはカプチーノを」
俺の渾身の決めゼリフを無視されて施されてしまった。
「君はアイズとはどの様な関係なんだ?」
「どの様なって聞かれましても…よく分かりませんよ、他所のファミリアですから余り親しく接する事は出来ませんししませんし、かと言って無視する程関係がないと言えば嘘になります……結論よく分かりません」
言い終えるとリヴェリアさんは俺の瞳をじっと見つめてきた。まるで心を見透かす様に。
「そもそも人との関係はそう簡単に呼称出来ませんよ。同じファミリアだったら家族で済むかもしれませんけど、自分が友達だと思ってたらそうじゃなかったってケースがあるんですから。ソースは俺」
「……………」
少し気不味くなり、置かれたカプチーノをその視線から逃げるように飲む。
「君は人との関係に予防線を張るんだね。それ以上踏み込ませないために、その予防線を互いの距離の中央線にする為に」
「………………」
「図星かな…まぁそれを咎める気はサラサラないよ。アイズとは
「……ゑ?」
「頼まれてくれないか?君に私の恋人になって欲しいんだ」
「………ゑェ?」
拝啓ベルよ。俺の心の声が聞こえてますか?今俺はオラリオで1番の魔法使いに『恋人になって欲しいんだ』と言われました。俺はリヴェリアさんの事を何も知らないのに。
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『愛』と『恋』は何が違うのだろう。
得意分野である自問自答を繰り返していたら一つの屁理屈が生まれた。『恋』には下に心、即ち下心があり『愛』は中心に心がある為、その違いは相手に欲情しているか思っているかの違いだ。
しかし恋人も愛人も情交はするだろう。よってこの屁理屈は屁理屈足り得ない。
女神イシュタルは気に入った男を魅了して力尽くで物にしていた。ならば彼女と同じく『愛』を司る女神フレイヤは?その眷属達は真剣に彼女を想い、彼女も彼等彼女等を想っているのだろう。
そこで一つ疑問が浮かぶ。
果たして皆に等しく与えるのは『愛』と呼べるのだろうか。その体を様々な神に委ねたのを『愛』と呼べるのだろうか。
ー人それぞれの『愛』があるんだよ。
なんて頭がお花畑の人は言いそうだがそのそれぞれの『愛』がベストマッチするなんて虚数の彼方を探しても見つからないのではないのか?
「何を考えているんだ?」
「いや、『愛』って何なんだろうな〜って思いまして」
馬車に揺られながら目の前に座る俺の『恋人』のリヴェリアさんは俺の顔を眺める。
「それは…私にもよく分からないな」
顎に手を当てて考えるリヴェリアさん。すると何を思ったのか彼女の額を俺の額にコツンと当てた。
「恥ずかしいか?」
「いや…急すぎてよく分かりませんよ」
「そうか、レフィーヤがよく読んでいると言う本には恋人達のこういったシーンがあって両者共に赤面するのが定石だと記してあったんだがな」
「フィクションとリアルを混合したらマズイでしょ…」
レフィーヤさんも何を読んでるんだか…まぁ、個人の読書にあれこれ言う筋合いはないんだけどな。
「ていうか一々それで判断してたら俺は兎も角世の中の男子が卒倒しますよ」
「分かってる、こういうのは君にしかしないよ、
「はいはい、そうしてくれると助かりますよ…は、は、は、
「もうそろそろ緊張を解したらどうだ?」
「エルフの高名なお姫様と表面的にとは言え『恋人』になっちゃったんですから緊張しない訳ありませんよ。ていうか俺じゃなくても良かったんでは?フィンさんとか居るじゃないですか」
「フィンはパルゥムの女性にしか興味が無い。それに私はフィンを
「あくまで仲間は仲間止まりだと…」
パルゥムにしか興味無いのか…こりゃティオネさんの勝ち目がない気がする。というか家のリリルカが彼の毒牙にかからないか心配だ。
「じゃあベートとかは…」
「アイツにこれが務められると思ってるのか?」
「無理っすね」
あの人口悪いから何処でボロ出すか分かったもんじゃない。
「あとどれ位なんですか?リヴェリアさんの
「この速度だと後3、4時間のはずだ」
事の始まりは一通の手紙だ。リヴェリアさんの親父さんから『恋人は出来ないのか』という趣旨の手紙を貰ったらしいのだが主神のロキがイタズラで『結婚の予定がある人がいる』と書いて出してしまったらしく、それを受け取ったリヴェリアさんの親父さんが紹介する席を設けてしまったと言う。バックレたいと言っていたが各国のお偉いエルフが集まるらしく引こうにも引けないらしい。因みにロキは酒を根こそぎ没収されたらしい。
「今更なんですけど俺ヒューマンなんですよ?大丈夫なんですか?エルフは排他的って聞きましたし、実際一部のエルフはそういう傾向がありますし」
「公衆の面前で差別をする様なエルフは居ないはずだ、ただでさえ他種族と共存していかなくてはいけない時代なのだから、もしそういった事をしようものならソイツの品性が知れる訳だ」
「つまり陰口言われ放題じゃないですか…や、慣れてますけど」
思い返せば消しゴムを貸してくれた女子に勘違いをしてしまい新品の消しゴムをプレゼントしたらガチで引かれたんだっけ。はは…はぁ。
「着きました」
間者対策でカーテンが閉められていた馬車の中に光が指す。外には森が広がり小鳥がチチチ…と囀っていた。
「マイナスイオンってこういう事か…」
「何をしてるんだ?行くぞダーリン」
今まで無視していたが俺達を出迎えたエルフ達に一礼してリヴェリアさんに着いていく。何故無視していたのかというと公衆の面前で差別やらなんやらはしないと言っていたがその視線に全ては込められていた。
「よくぞおいで下さいましたリヴェリア様」
「歓迎はいらないと言ったんだが…」
「そういう訳にもいきません、皆リヴェリア様のお帰りを待っていたのですから」
俺は完全に無視なんですね、聞いてた以上に陰湿なのでは?ここにベリアル呼んでやってもいいんだぞ?呼ばないけど。
「そしてこのヒューマンが……」
「あぁ、私の彼だ」
「ハチマン・ヒキガヤです」
「……かしこまりました。部屋まで案内させてもらいます」
嫌悪感の篭った目で見られるもリヴェリアさんと部屋まで連れていかれる豪華なスイートルームのようなそこに俺達は案内された。
「では、2、3時間後にお呼び致しますのでそれまでお待ちください」
綺麗なカーテン、豪華そうなテーブル、大きいダブルサイズベッド。最早歓迎されてるのかされてないのかが分からなくなる。
「どうだった?君から見たエルフは」
「別に、なんとも思いませんよ」
「そうか…少し外に出ないか?ここ辺りを案内したい」
「いいんですか?」
「あぁ、じっとしてても落ち着かないのは性分なんでな」
という訳でリヴェリアさんと共に外に繰り出す。森に囲まれているがその生活様式はオラリオとそう変わらず、貧困に苦しんでいる様子はない。
「私のペットのユニコーンだ少々気性が荒いが懐くと可愛いぞ」
「おぉ、ユニコーン…かっけー」
スマホがあったなら、と酷く悔やむ。
「ぶるるるるる…」
「よぉしよしよし……いい子だな〜」
「驚いた、この子がこんなに懐くのも私を除いてそういないんだぞ。君は動物が好きなのか?」
「好きというか…アラルん所の教会に馬が居るのでよく世話してたりしてるんでどこ撫でればいいのかが分かるんですよ」
それにニンテンドッグスもやり込みまくったから撫でスキルには自信がある。
「変形とかは…」
「する筈ないだろ…何を言ってるんだ」
「デスヨネー」
オラリオだからもしかしたら、とは思ったんだがな…
「これはこれはリヴェリア様」
「貴方は…オシタランナ卿」
振り向くとそこには帰属風のイケメンが立っていた。その表情の裏にはとんでもない事を考えていそうな気がする。
「小鳥も囀る貴方をお目にかかれて光栄です。そこのうす汚いヒューマンは何なのです?」
「私の恋人だ、余り悪く言うのは辞めてもらいたい」
「こ、恋人ッ!?貴方ともあろう方がこんな男と!?」
「私の目に狂いがあるとでも?」
「め、滅相も御座いません。失礼します」
カツカツ、と早歩きで去っていくオシタランナ卿。ド直球で批判するもんだからビックリしたよぼかぁ。
「オシタランナ卿は少し離れた地の王子らしい。余りいい噂は聞かないがこの国にもある程度は輸出しているらしい」
「へぇ……」
「殺るなよ?オラリオにも多少は口が聞くらしいから君がどうなるかは計り知れない」
「勿論ですよ…家族に迷惑が掛かりますもんね」
別に小馬鹿にされたからといって怒りはしない。逆上すれば相手の思うつぼであり同じ土俵に立つことだからだ。
「リヴェリア様…国王様がお呼びです」
「分かった今向かう」
「ヒキガヤ様はヒューマン故、王室には立ち入れられません。申し訳ありませんがお待ちください」
「分かりました、じゃあリヴェリアさん、また後で」
「……分かった、気を付けて」
王室とやらに向かうリヴェリアさんを尻目にこれから何をしようかと考える。部屋にいるにしろ刺客とかに狙われたら逃げられないしな…。
「失礼ですがヒキガヤ様はリヴェリア様とどこで知り合ったんですか?」
「ダンジョンですよ。思わぬアクシデントで死にかけた時に助けてもらいまして」
「そこから今の関係に発展したと?」
「そう捉えて頂ければ助かります」
「最後になりますが貴方はリヴェリア様の事を愛していますか?」
「…………」
「…愛していられないと?」
「言わせないで下さいよ…恥ずかしいんですから」
「奥手なのですね…ありがとうございました」
残った伝令は足早に戻り、やはり俺一人残された。
「ぶるるるるるるるる……」
「分かってるよ…分かってる…」
ユニコーンの目と鼻の間をカリカリと撫でる。
「探索…してみるか」
街を歩けば怪訝な目では見られるがオシタランナ卿とは違い声には出されない分精神ダメージは少なく済む。
街を少し離れると10軒位の規模の村があった。少し古めだが貧困ではなさそうだ。
「この木…爪痕がある。ここにも…モンスターか?」
その家の近くの木には深い爪痕が沢山付いていた。まるでナワバリだとアピールするかのように。
「お兄さん…誰?」
「?」
玄関から顔を覗かせていたのはエルフの少女だった。
「怪しい人じゃないよ…って言っても信じないか」
「ううん、目は怖いけどお兄さん優しそう」
トテトテとやって来る少女。金髪の似合う様子だが少し服に汚れが目立つようだ。
「この爪痕が気になってて…何か分かるか?」
「ここ辺りの村はレッドメイルのナワバリなの…」
「やっぱりモンスター…避難とかはしないのか?」
「大丈夫なの、オシタランナ卿が食べ物とか置物とかを運んでくれるから皆生活していける…少し足りなかったりするけどね」
「そっか……」
オシタランナ卿がね…意外といい所あったりするんだな。
「ここだけじゃなくてあっちの村にも寄付してるってお母さんが言ってたよ」
「へー…ありがとうな、取り敢えずここは危ないから家に戻りなさい」
「はーい!」
いい子だったな…と感想を抱きながら興味本位でその村へと向かってみる。そこもさっきの村と同じ規模で同じ状態だった。
「ここにも爪痕…」
爪痕の形が違う事から別のモンスターなのだろうか。結構近い所にナワバリがある為村がモンスター同士の抗争に巻き込まれないか心配だ。
「ごめんくださーい」
コンコン、と目に付いた家を訪ねる。すると玄関から用心深く覗いてくるのは老いたエルフだった。
「なんだ…ヒューマン」
「ここ辺りの事を聞きたくて…」
「……入れ」
「お邪魔します」
気前のいいエルフなのだろうか、快く家に入れてくれる。オシタランナ卿の給付により水や食料はやはり潤沢しているらしい。
「ここら辺か…ヴァルスのナワバリになっていてな、下手に動くと近くにあるレッドメイルからヴァルスだと思われて襲われるかヴァルスがレッドメイルだと思って襲われるかの二択だ」
「ここにもやはりオシタランナ卿が?」
「あぁ、水に食料、偶に変な置物を押し付けてくるけどな、助かってる」
「置物?どんなのなんです?」
これだ、と渡されたのは粗く彫られたマトリョーシカのような置物だ。手のひらサイズで振るとカラカラと音を立てる。
ーどうして置物を?
物資ならまだ分かるが別に必要ないだろう。例えるなら被災地に千羽鶴を贈るのと一緒だ。食料だと思って箱を開けたらこれなんだからショックだろうな。
「オシタランナ卿の国の子供達が私達を思いやって掘ってくれたらしい。捨てようにも捨てられんよ、外は危険だからな」
「…………」
「リヴェリア様が恋人を連れて来たと聞いたがこれじゃ拝められそうにないな…」
「…これ、頂いても?」
「構わないぞ…ていうか持ってってくれ」
家を後にして部屋まで向かおうとすると後ろから殺気を感じた為身をそらすと鋭い爪が髪を掠めそうになった。
「あっぶね…」
茶色の体毛に覆われたビッグフットのようなそのモンスターが真っ赤な目で俺を見つめてくる。
「ヴァルスって奴か」
吠えて威嚇しようとした隙にフォースエッジでその喉元を突き刺し仲間を呼べないようにする。念の為に幻影剣も何本か刺しておく。
魔石を回収して再び部屋に戻ろうとすると草むらから赤い影が飛び出してきた。赤いウォーシャドウのようなそれは三本の爪をカチカチと鳴らしている。
「赤い体…レッドメイルだな」
コイツもまた仲間を呼ばない内に頭に幻影剣を何本も飛ばし剣山のようにする。
「エンカ率高いな…」
今まで両陣営とも緊張状態にあって迂闊に行動出来なかった筈なのにこの変わり様…ここら辺を歩いている時と今を比べて変わった物といえば時間帯…は30分でここまで変わるのもおかしい。だとすると…心当たりは一つだけだった。
「まさか、コイツか…」
マトリョーシカのようなそれを眺める。一応魔力で包みその効果が発しないように気を付ける。
「ふぅ…」
ベッドに腰掛けて落ち着く。まだ魔力で包んでいるそのマトリョーシカを机に置いて懐から暇潰し…というか成り行きで入ってしまったそれを取り出す。
『激熱!隣の奥様〜愛・おぼえていますか〜』
「…………リヴェリアさんが帰ってくるまでだ」
ズボンも下ろさずティッシュも横に置かず読んでみる。すぐそこのドアが開かないうちに…zzz…
━━━━━━━━━━━━━━━
深い闇の中、俺は俺と瓜二つの自分と対面していた。
『俺にとっての魔法とは?』
ー強い力、弱い自分を強い自分にする為のバネ。
予想されたら対応される。対応されたら攻略されるからだ
『俺にとって魔法はどんな物?』
ー闇、暗い過去も辛い記憶も全部包んでくれる。…俺の身の丈に合ってるものだろう。
人を殺す選択肢がある俺に光だのなんだのは似合わない
『魔法に何を求める?』
ー学習し、変化し、自分に見合った物に変換する
予想されにくくされてもそれを上回る力が欲しい
『それで終わりか?』
ーもし叶うなら……俺は人を守る悪魔で在りたい。この身が人でなくなってるのならヒトではなく人を守れる悪魔になりたい。家族も親しい人も知ってる人もこの手が届く範囲にいる人も纏めて助けられるモノで在りたい。
『それが答えなのかもな』
━━━━━━━━━━━━━━━
「zzz〜zzz〜うあ?」
いつの間にか眠ってしまってたらしく、顔の上に乗っかっていた官能小説をどけると目の前に腕を組み此方を見下すリヴェリアさんがいた。
「随分な物を読んでいたらしいな」
それは二重の意味で見下していた。蔑視と位置的な関係でだ。
「違うんですよ…これ読んだ瞬間急に眠くなって…」
「よんだら眠く?少し貸してくれ」
パラパラと官能小説のような本を読むリヴェリアさん。うーむ、なんか新鮮な光景だ。
「これは…魔導書!?どこで手に入れた?」
「アラル神父からある事の記念に…」
「ある事?」
「まぁ、強敵というか怨敵を倒した記念ですよ…」
成程、と息を着くリヴェリアさん。因みに魔導書の残骸は燃やされた。どうやら内容はしっかりしてたらしい。勿体ないなぁ。
「そういえば【ロキ・ファミリア】とアラル神父って仲悪いんですか?なんか険悪そうでしたけど」
「探索で死者というのはどうしても出てしまう。アラル神父はその亡骸を回収しては自身の墓地で供養する。そうしてる内に何故か一方的に嫌われてな」
「アイツ考えてる事分かんないですから仕方ないですよ。俺に教会の管理を任せて姿はくらましますし…」
「それは大変だな、暇があったら手伝うよ」
「まぁ、その時は有難く甘えさせて貰いますよ」
隣でベッドに腰掛けるリヴェリアさん。意識してなかったが近いな…。
「そういえばこれは?」
「あぁ、里を歩いていたら貰ったんですよ。何かのマジックアイテムらしいから一応魔力で包んでるんですけどね。所で王室で何か言われませんでした?」
「一通り予想してた事は言われたよ」
「あんな目が腐ったヒューマンなんぞ追い出してしまえ!とかですかね」
「オシタランナ卿が言ってたよ…全く、だからエルフのこういった一面は嫌いなんだ」
聞けば彼女は自分の知らない世界を見て回りたくて親友とこの里を飛び出したらしい。その親友の娘が俺とベルの担当アドバイザーであるエイナさんらしい。オラリオについたら半ば強引にロキにファミリアに加えられたらしいがいずれオラリオも出るつもりらしい。その後継者として教育されているのがレフィーヤさんとの事。
「世界…か」
そういえば俺はオラリオ位しか外は行ったことないな…ここが初めての遠出先か。
「旅も中々悪くないですね」
「それが分かってもらえて嬉しい」
難しい事とか考えなくて済むし。
でも今は謎の置物と2種類のモンスターのナワバリ争いとオシタランナ卿の関係について考えなくてはいけない。
「そういえば今後の予定は?」
「明日の昼に君を含めた会食の予定だよ。気を引き締めた方がいい」
うっす、と返事してベッドに寝転がろうと思ったが近くのソファに寝転がる。
「私が無理矢理連れてきてしまったんだ、私がソファで寝るよ」
「いえ、俺ソファ以外で寝ると死ぬ病を患わってて…」
「さっきまで寝てたじゃないか…」
聞こえないふりしてリヴェリアさんに背を向けて寝る。魔導書を読んで寝ていたせいか眠りに入れない。2、30分寝ようと努力するもの全然眠れない。
「スー、スー、スー」
「少し出掛けます、昼までには戻りますっと…」
書き置きを残して窓から外に出る。
静まった森は薄気味悪くてちょいとばかし恐怖心を煽られる。
「行くか……」
取り敢えず辺りを見渡して王室以外で豪華そうな建物を探す。ここに来てる重鎮達が寝泊まりしてる場所がそこだろう。
「あれか…」
屋根から屋根を飛び移りそこに向かう。ある程度警備が厳重だがクイック・シルバーを多用して警備をやり過ごし建物の敷地内に潜入する。
淡い光を放つ窓に近づき、中をこっそりと覗く。
「首尾は?」
「上々です、配給も完了しました」
「よし、これでこの国にある程度の恩が売れたな」
声の主はオシタランナ卿だった。ベッドに腰を下ろして部下と会話しているようだ。
「ナワバリ争いを利用して恩を売りつけこの国に付け入る計画、感服です」
「褒めるな、分かりきってる。それにこのままいけばあのリヴェリアと結ばれるのも間違いなしだ」
「それにしてもあのヒューマンが気がかりです」
「はん、どうせオラリオの汚い冒険者だ。私に強く出れんよ。出たとしてもその瞬間… 」
指で首を掻き切る仕草をする。
奴が何かしらの悪行をしているのなら突き出せば勝てるが今はそんな事が出来ない。何故なら証拠が無いからだ。
「……………」
取り敢えず情報が足らなすぎる。
オシタランナ卿が何かを企んでいる…リヴェリアさんを手に入れるのが目的なのだろうか。それともこの国を乗っ取るか。
リヴェリアさんに案内された図書館に忍び込みモンスター図鑑的な奴を見る。
「レッドメイル…西の地に群生するモンスター、繁殖力が高い。ヴァルスとは敵対関係にある。知能は低く、屋内には入れない。ヴァルス、東の地に群生するモンスター、繁殖力が高い。レッドメイルとは敵対関係にある。知能は低く、屋内には入れない」
何故だ?何故それぞれ別の地にいるモンスターがここに集まってるんだ?
ー種族単位の移動があったからか?
否、それだったらヴァルスと合間見えるのはそれぞれの元のナワバリの中心点、ここは有り得ない。
ー連れてこられたから?
有り得る。
ーその目的は?
この国の乗っ取りか。
けれどこれは全て憶測だ。
やはり鍵を握るのはこれしかないらしい。
「謎のマトリョーシカ…」
さて、どうしたものか…。
このニセもののコイ人作戦は何故か急展開を迎えた。
なんでこういう展開になったのか…