ダンジョンに出会いとボッチを添えて   作:テクロス

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冒険者失格

 

こんにちは、比企谷八幡です。

ただ今よく分からない飲食店で正座させられています。

目の前には巨漢のおばちゃんが腕を組んで見下してくるのがかれこれ30分です。一体どうしてでしょう、朝の買い出しをしていただけなのに…。

 

「………」

 

「………」

 

ウェイトレスが厨房からチラチラと見てくる。そしてヒソヒソ話している。まるで…まるで、あれ?いつもなら出るはずの黒歴史が思い出せない。特にあのエルフの人、気迫が他の人と段違いだ。

 

「ウンウン唸ってないで何か言ったらどうだい?」

 

「…帰りたいです」

 

刹那、奇跡的に彼の目で捉えられた最後の光景は巨漢のおばちゃんから繰り出される隕石の如き拳骨だった。

 

 

ろくな記憶も思い出せず彼の意識は刈り取られる。

 

*******

 

「…………」

 

声も出さずに目を開ける。最低限音を出さないように周りを見ると誰もいない一室に寝かされていた。

 

「いッ……」

 

頭に巻かれた包帯があの拳骨の威力を物語っている。

 

(に、逃げなきゃ…殺される!!)

 

痛む体をゆっくり起こして窓の外を眺める。

建物の2階、下はまぁまぁ忙しそうな音がする。

ちょうど下は花壇の土がある為落ちても音は響かなさそうだ。

 

(や、やるしかない…!)

 

窓を開けて身を乗り出す。恩恵もない体では2階からの落下は運が悪ければ死に繋がる。

 

(五点接地転回法…見よう見まねだが…できるか?)

 

地上最強の男を目指す漫画で見た時はなんじゃこりゃ、と思っていたがまさかこんな時に役立つなんてジャパニーズカルチャーには感謝しかない。

 

(なんとかなれ!!)

 

先ずは足裏で着地、次にふくらはぎを地面に着けて太もも、尻、背中の順で転がる。

 

「うおお、痛くねぇ…!」

 

後は真っ直ぐロキ・ファミリアのホームに戻れば脱出成功だ。

 

(きっとあの人達も『亡影』に引っ張られてるんだろうけど、残念だったな、ここにいるのは比企谷八幡なのだ…そんな地味にかっちょいい2つ名なんてないのだ)

 

「どこに行くんだい…?」

 

デデンデンデデン!!

どこぞのT-8000も裸足で逃げるような鬼迫を放つそれは颯爽と逃げようとする俺の後ろに立っていた。

 

(あぁホント、神の恩恵ってクソd)

 

本日二度目の気絶カットは開始から約600字で訪れました。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「で、説明してもらおうか…?」

 

「はい…」

 

ロープで縛られ、正座させられている男は取り囲むように座っているウェイトレス達に見下されながら今自身が把握しうる情報をこぼしていく。

 

「えーと、俺の知りうる限りの時系列順に話させてもらいます。辻褄が合わないなら俺も分かんないのでご了承ください…

 

①日本の千葉出身の俺はよく分からんがオラリオにやって来た。

②俺は知らないけどヘスティア・ファミリアに在籍して目まぐるしい活躍をしたらしい。

③よく分からないけど路地裏で倒れていた俺はとある神に保護される。

④②で得た恩恵の力も記憶も無くしてた。

⑤朝の買い出しに出掛けてたらよく分からん人達に拉致監禁された←今ココ

 

とまぁ、こんな感じです」

 

1人を除いてアイズやヘファイストスさんまでとはいかないが愕然としていた。

 

(この人達もお世話になっていたのか…あれ?記憶喪失前の俺って意外と活発だったの?)

 

過去の自身が持つ謎のコミュニティに戦慄しつつその後の展開に備える。戻れと強制されるか、そのままでいいと許容されるのか。

 

「ヒキガヤさん…これからどうされるんですか?」

 

「これから…故郷には帰れそうにないですし、このままのんびりスローライフでも送ろうかな、と」

 

「…冒険には行かれないんですか」

 

リューは数少なく心を開いていたハチマンに問い掛けるも返ってきた答えは期待に反するものだった。

 

「別に名声、力、この世の全てを欲しいわけじゃないですし」

 

(ていうかこの緑髪エルフの姉ちゃんを見てると何故かブルマの事が頭に浮かんでくるんだよなぁ…)

 

「何故そこに富がないのか気になるニャ…」

 

「…だって、死にたくありませんし。寧ろ今までがおかしいんですよ、【ファミリア】と銘打っても所詮はクラスメイトとか、部活仲間みたいな感じでしょ?それに背中を預けて命掛けて戦わなくちゃいけないって…俺には無理ですよ」

 

言葉を捲し立てる八幡の胸ぐらをリューは掴む。その表情はとても辛そうだ。

 

「それ以上は…やめてください…」

 

「だったらこの手を離して俺を解放してくださいよ。勝手に拉致って勝手にボコって勝手に期待して勝手に落ち込んで…俺なんぞに時間割くなら店の支度をした方がいいですよ…」

 

俯いたリューは震える手で八幡を放すと服を正して買った食料を持って出口へと向かって行った。

 

「俺の戦場はダンジョンではなく台所なのだから…」

 

そう言い残して彼は【豊饒の女主人】を後にした。

 

「リュー…」

 

「いいんです…私はまた彼を死地に向かわせようとした…ハチマンさんの反応は当然です…でもッ…」

 

ポタリ、ポタリと床に小さな水滴が落ちる。

 

「リュー、アンタの部屋から水漏れだよ…直したら今日は休みな」

 

「…すみません」

 

リューの背中を見送ったミアはもう誰もいない出口を眺める。

 

「戦場は台所…ね」

 

「そういえばハチマンは料理が上手いって聞いた事があるよ。こういう生き方もあるんじゃないのかな…」

 

「そういえばここ最近【ロキ・ファミリア】が来ないから早目にお店を開けないと売上に響くニャ!」

 

「!?、ロキ・ファミリアが来なくなったタイミングって、あの子が居なくなったのと同時期じゃない?もしかして…」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「まったく…災難な日だな…」

 

喉に魚の骨が突っかかったようなもどかしさを覚えながら彼は新しいホームへと戻る。

 

「おいコラ、メシはまだかよ」

 

ベートにゲシっと尻を蹴られる八幡。冒険者としてかなり上位の彼の蹴りを食らっても平気なのは彼がじゃれ合うつもりで放った一撃であってそれが不器用な表現であるのを八幡は知っていた。

 

「蹴ったからオカズマイナス1品…」

 

「ふ、ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!」

 

2度目の蹴りは寸止めで止まりベートはズカズカと食堂に入っていく。配膳の時にヤケにソワソワしていたのはまた別の話だ。

 

「いつも悪いね」

 

パルゥムの団長であるフィンが配膳に勤しむ八幡に話し掛ける。

 

「まぁ、ここに置かせて貰ってるんで…なんかしないと悪いでしょ」

 

「そうだね、君が食堂に立ってから外食用の経費も黒字になってきたし皆の交流の時間も増えて士気も上がってるよ」

 

「煽ててもデザートしか出てきませんよ…」

 

配膳も終わりファミリア全員で同じ釜の飯を食う。

 

(今までの生活では考えられないな…小町にも成長したって言って貰えるのだろうか)

 

かわいい妹の事を思い出し少しセンチな気分になりながら箸は進む。

食後の食器洗いを済ませたら風呂の時間となる。遅い時間の為一人だけしかいない時間に八幡も服を脱ぎ浴場に入っていく。

 

「ふい〜」

 

お湯の温かさが身体の芯に染み渡り疲れが緩和されていく。

暫くして湯から出て身体を洗う。

水で泡を流して自分の身体を見つめる。

 

(他の奴らとそんなに体格変わらんのにどこにそんな力があるんだか)

 

最初はそんな理由だった。

軽く腕を曲げて筋肉を硬くさせて触ったりしていると視界にノイズが走る。

 

「っ!!」

 

一瞬だがその目には鏡に映った自分の身体中に剣や槍、弓矢が刺さり見るも無惨な姿になっていたのだ。普通では生存がありえないその姿に吐き気や嫌悪感が沸き上がる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

鏡に手を付き呼吸が乱れるも力は抜けて膝を床につけて体制を崩す。

ゆっくりと立ち上がる彼の顔は青白くなっていた。

 

「そうだ…もうこんな姿になる必要なんてないんだ…」

 

(ここの人達はオラリオでもトップクラスのファミリア俺が戦わなくても生き残れる…)

 

そんな自分の考えに疑念を抱きながら風呂を後にする。

 

「ん?」

 

ふと見た外から微かな光が見える。

訓練所の方からだ。

 

「まだまだっ!もっと早く!!」

 

訓練所の影からこっそり見てみるとリヴェリアの後釜を期待されているレフィーヤが詠唱時間の短縮に精を出していた。

 

「こんなんじゃ!…皆さんの足を引っ張っちゃう…そんなのっ!」

 

「……」

 

「誰ですかッ!!」

 

「ひぇっ…俺だよ…」

 

顔の脇に光の矢が当たりビビり散らかした八幡はバツの悪そうな顔でレフィーヤの前に姿を現す。

 

「比企谷さんでしたか…覗き見なんて褒められませんよ?」

 

「すまん、頑張ってる所に水を差したくなくてな」

 

「なんだか、そう言われると怒るに怒れません…」

 

変にモジモジするレフィーヤに彼はポケットから取り出した小瓶を渡す。

 

「魔力っての?使ってるんだろ?ポケットに入ってたから飲んだらどうだ。俺が飲んでも効果は無いだろうから」

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

近くに寄ってきたレフィーヤは小瓶を受け取りそれに口を付ける。その視線は彼と小瓶を行ったり来たりとウロウロしている。

 

「そんなに意外か?」

 

「ふえ?」

 

「俺が台所に立つのもここにいてこうして話すのも…」

 

「…そういう訳じゃありません、ビックリしてるのは比企谷さんがこういう一面があったのにビックリしただけです。記憶を無くされる前はなんだか『強くなる』って事にガムシャラで何かが欠けている感じがしてたので」

 

「俺をそこまで思わせたヘスティア・ファミリアって一体どんな所なんだろうなぁ…」

 

「それはオラリオでも有名な謎ですよ…」

 

暫し沈黙が流れる。

レフィーヤは飲み干した小瓶を手の中で転がしてる。

 

「悪いな、時間取っちまって…」

 

「あ、ちょっと…話しませんか?」

 

そう言い去ろうとする八幡をレフィーヤが呼び止める。

 

「比企谷さん、何か悩んでませんか?」

 

「まぁ、な…」

 

「良ければ聞かせてくれませんか?」

 

「まぁいいが、オフで頼むぞ…」

 

青白い月明かりの元2人はベンチに座り目を合わせず思いの丈を語る。

 

「今日は思う事が多かった。風呂で自分の身体を見た時傷だらけの昔の体を見た。人として機能するのが奇跡というか、本当に人なのか疑わしかった」

 

「それは…」

 

レフィーヤは『そんな事ない』という言葉に詰まった。いくら恩恵を持っていてもそんな重症を負えば治ったとしても後遺症が残るはずなのだから。遠い所にいた彼の悩みを隣で聞くとやはりどうも彼女にも感じる所がある。

 

「その反応だとやっぱり普通の事じゃないんだよな…」

 

「はい…」

 

(あれ?どうして私、驚いてないんだろう…)

 

レフィーヤは八幡の問いに受け答えできた。八幡とそこまで接点を持たないハズの彼の悩みをある程度理解出来た。その理由に必死に頭を回転させる。

 

「アイズさんだ…」

 

「は?」

 

幼少期のアイズは『人形姫』と呼ばれる程モンスターを狩る事に尽くしていた。そして力を誰よりも欲していた。少し前に聞いた彼女についての話と八幡の話は求める強さのベクトルは違えど似ていたからだ。『家族』を守る為に強さを求めてその先でここに行き着いたのは偶然なんかじゃなかったのだろう。

 

「本当だ…」

 

「ふえ?」

 

八幡の目線を追うと影からジトーと見ているアイズを見つけた。2人の視線に気付くとノコノコとやって来た…リヴェリアと共に。

 

「んっんっ…2人がとても仲良さそうにしていたから見ていたのだがアイズが目立つ真似をしてしまってすまない」

 

「リヴェリアが最初に覗いてtムグッ!」

 

リヴェリアにじゃが丸くんを口に詰められて咀嚼するアイズ。4人で訓練場で屯してるが訓練所を囲む屋根の上にいるフードを被ったエルフに一瞬だけ八幡は目線を向ける。

 

「冒険者は神から授かった恩恵の力をベースに強くなってくんだろ?俺ってもしかしたら強くなる為の土台が恩恵じゃなかったんじゃないのか?」

 

「いや、そんな事は無いよ…比企谷」

 

アイズとリヴェリアが一斉に警戒する。その視線の先は暗闇に包まれておりその声はロキ・ファミリアの団員の声ではなかったが八幡には声の主が分かった。

 

「葉山…?」

 

「久しぶりだね、君の記憶だと僕はまだ『みんなの葉山隼人』なのかな」

 

「どういう事だ…?」

 

「僕はかつての君の強さの秘訣と動機を知っている。それを君に話す代わりにここにいる人達に話してもいいよね?」

 

「…あぁ、構わない、教えてくれ」

 

「君の力は神の恩恵が君の歪みと同居していた魂が作用して変化したものだ。過去に同居していた悪魔の魂と契約して君の成長にブーストを得ていたんだよ。更に言えばアラル…いや、アラストルが君の中の悪魔を顕現させる為に君を人間離れさせて耐えれる器にする為に育て上げた」

 

「…………」

 

「君は君の中の悪魔が顕現するだけの器に成長した。後は君が歪んで壊れるのを待った…その結果が今だよ…」

 

冷たい風が頬を撫でる。

まるでボーッとしてないで話を理解しなさいと言わんばかりに意識を葉山に向けさせる。

 

「そうか…俺の歪みというのは?」

 

「………君の黒歴史なる思い出は詳細に思い出せるかい?」

 

「いんや全く。あったという事実は分かるんだが詳細が思い出せない」

 

頭をポリポリと搔く八幡に葉山は1つ気になる質問を問いかける。

 

「…雪乃ちゃんや結衣の事も、忘れた?」

 

「雪ノ下…由比ヶ浜…あの二人が1番分からない…記憶が飛び飛びなんだ…文化祭辺りも…修学旅行も…」

 

「そうか…その点についてはここのノートに書いておいたよ…向き合う覚悟が決まった時に見るといい、お土産の中に入れておくよ」

 

葉山に大きめの紙袋とダンボール1箱を渡される。

 

「こ、これはッ!!」

 

ダンボールにはMAX COFFEE それは、全てを癒す甘さを持った完全飲料。感極まる八幡を見た葉山は「それじゃ、また今度」と言い残し闇の中に消えてった。

 

「…それじゃ、夜も冷えるし戻るか」

 

「八幡…大丈夫?」

 

「平気だ、いきさつが分かって何かスッキリしたな」

 

3人に背を向けて部屋まで戻る八幡の苦虫を噛み潰したような表情を屋根に潜んでいたリューは見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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