『メッター!!!』
その日、一つの都市が滅ぼされた。
メタモンの手によって。手はないが。
街が大きく壊された訳ではない。しかし、人命は多く失われようとしていた。
しかし、国も黙っていなかった。
すぐに警察を出動させ、鎮圧に向かわせた。
―――普通ならば。
これが人間によるストライキやデモならば、ヒートアップして、怪我人が出るのを防ぐ。
テロならば、首謀者の国籍等によるが、警察・自衛隊などの部隊が躊躇なく鎮圧する。
そのような目的で出動していただろう。
しかし、それがポケモンだったら?
それが今まで飼い慣らしていたメタモンによるいきなりの反逆だったら?
ここで日本のトップは困惑し、後悔した。
ポケモンに関して日本の法整備はまだまだ未熟だ。
豚や牛が人を頻繁に襲ったりしないように。
ポケモンが無関係の人間を襲う事例は数少ない。
いや、皆無と言ってもいい。
その数少ない例外も実はチンピラがわざと巣に突っ込んで攻撃されたのを誤魔化したり等の虚偽申請だった。
故に思っていた。ポケモンは安全だと。
人間と共生していける動物は数居れど、ポケモンはそれらを置き去りにするほどの安全種だと。
そう思い込んでいた。
だからこそ、この事態はマズかった。
ポケモンを拘束、および罰する法律が日本にはない。
ただ、その一言に全ては集約される。
しかし、日本は不準備ではあったが、決して無能ではない。
先進国として名を轟かせているのは伊達ではない。
特別措置法という法律の元、対ポケモン用の法律を用意するのではなく、『非常事態につき、人命救助のための行動を行う』という名目を得て、警察と、さらに自衛隊を投入した。
―――これはメタモン鎮圧に駆り出された自衛隊隊員の証言だ。
『あそこはまさに地獄だった。あそこでは人は人としての尊厳を保てなかった。
―――人が襲ってきた。メタモンじゃない。人だ。
少なくとも僕らを殺そうとしてきた相手は人の姿をしていた。僕らは驚き、抵抗した。自慢じゃないけれど、僕らはいつも訓練していたからね。彼を押さえ込むことができた。
けれど、彼は抵抗を続けた。僕らは驚いた。彼には僕らの捕縛術が効かなかった。気絶しなかったんだ。
仕方なく携行していた災害救助用ロープで僕らは彼を縛った。あのときは何をしているんだ、と思ったね。メタモンを退治しに行ったのに人を縛ってるんだから。
彼は何も喋らなかった。それが不気味ではあったよ。
僕らは彼を乗ってきた自衛隊トレーラーに運ぶことにしたよ。
そのままにはできないからね。でも、人命救助を目的としていた僕らは一刻も早く行動しなければならなかった。マニュアル通り、仲間の二人が彼を担いで運んでいった。
―――今さらだけど、僕らはあのとき全員行動を徹底するべきだった。
けれど、僕らは、彼を緊急事態に混乱して暴走してしまった一般人として処理した。一応、本隊に連絡はしたけど、それだけだ。
その後からは分かりやすい地獄が続いたよ。言い方が悪いかな?
………でも、僕らからすれば、その光景はある程度予想できていたし、過去の東日本大震災で経験していたからね。それほど衝撃はなかった。でも、悲しかった。
人がたくさん死んでいたよ。一目で死んでるとわかる人。そうは見えないけど死んでる人。苦しみながらも生きてる人。無傷の人。―――そして、死んでる人に泣いてすがっている人。
まさしく東日本大震災の再現だったよ。建物は壊れていないだけ、アンバランスではあったけれど。
それらの人たちを僕らが保護していると、僕らに襲いかかってきた人をトレーラーに連行した仲間の二人が帰ってきた。
僕らは協力して保護を再開した。
――ここまでが君たちが放送しても映像倫理委員会に睨まれないラインだ。ここからはそのラインに引っ掛かる。
それでも聞くかい?
………そうか、わかった。はは、実は話したくなかっただけなんだ。
―――あれは思い出すには辛すぎる。
保護を再開した僕らだけど、三人一班になって救助を行っていた。これもマニュアル通りだ。僕らは9人だったから三班だね。
三班の内、一班がいなくなった。
トランシーバーによる連絡が途絶えたんだ。
僕らは失踪班を探す捜索班と保護した人たちを連れ帰る保護班に別れた。
僕の班は捜索班だった。
失踪班はすぐに見つかったよ。これならもう少し全員で探していたら良かったと思ったよ。
仲間の二人がもう一人を殴っていた。
何の話かって? 失踪班の話だよ。
僕らはその二人をすぐに止めたよ。こっちは三人。向こうは二人。負けはしないさ。
取り押さえられた二人は抵抗しなかった。
―――けれど、その身体は変形した。
手足がスライムみたいにぐにゃぐにゃになって、色も赤っぽくなった。
意味が分からなかったね。でも、近くにいた捜索班の一人がその触手みたいな物に取り込まれそうになったときに気づいたんだ。
あ、こいつメタモンだって。
僕はすぐにメタモン捕獲用に携行していた
二人―――いや、二匹のメタモンの内、一匹がもう一匹を庇って捕まった。もう一匹はすぐに人間に『へんしん』してそのマスターボールを拾って逃げた。
あれには本当に驚いたね。
もちろん、逃がすわけにはいかない。僕は逃げる擬態メタモンに目掛けてマスターボールを投げて、それは当たった。
―――けれど、捕獲は出来なかった。
マスターボールを使ってもメタモンは捕獲出来なかったんだ。
やつらは僕らに謎だけを与えて逃げてしまった。
擬態メタモンどもに取り込まれかけていた一人は無事だった。
けれど、最初に殴られていた方の仲間は手遅れだった。
おそらく苦しんで死んだと思う。無茶苦茶にされていたよ。手足も変な方向いて、なぜかプラモデルを連想したよ。
奴らには武器の概念はないらしい。
そこで終わりだったら良かった。
でも、話は続く。
保護した人たちをトレーラーに連れていった保護班が帰ってきたんだ。僕らの絶望はここからだったんだ。
そこからはまさに絵に描いたような疑心暗鬼だったよ。
僕たちは人間に、人間の形をしたものに襲われた。
帰ってきた三人の保護班は人間なのか。それとも道中で襲われてメタモンになってしまったのか。
残っていたのは6人。僕を含めた捜索班の三人は一度も仲間の元を離れていないし、すでに惨劇を目にしている。故に白。安全だというわけさ。
といっても面と向かって帰ってきた保護班の三人にこんなことは言えなかったよ。だって人数は3対3。
向こうからすれば、僕らの方こそ擬態メタモンじゃないかって思われるからね。
―――今思えば、バカだね。擬態メタモンがわざわざ自分のことについて話す訳がないって主張すればよかったのに。
帰ってきた三人は擬態メタモンについて何も知らないようだったし。
でも、よく考えれば、それすらも意味がないね。擬態メタモンがわざと自分のことを話して安全圏に入ろうとしていると思われたかもしれない。
結局は証明なんてできないのさ。悪魔の証明ではなく、人間の証明ってやつさ。
悩んだ挙げ句、僕ら三人は帰ってきた三人に素直に何が起きたのか話したよ。そうするしかなかった。
それでどうなるのか、僕はビクビクしていた。
でも、案外、良い策が出てきたんだ。
本隊に連絡して助けを求めるっていうね。
情けないことだけど、僕らは精神的に疲労していた。
仲間を殺されて、未知の生物となったメタモンと出会って、仲間を疑う状況に陥る。
まさにB級ホラー映画みたいだったよ。
疲労した僕らはその策とも言えない案にすがりついた。
けれど、そんな希望はあっさりと散っていった。
無線機がなかったんだ。
各救助隊は合計9人三班となるように人数配置されていて、無線は各班1つ。つまり、僕らには3つの無線があった。
けれど、その全てがなかった。
一つ目は擬態メタモンが化けていた隊員の物だった。当然残っているわけもない。
二つ目は擬態メタモンが襲った隊員の物だった。けれど、擬態メタモンの触手に捕まれたときに壊されてしまったらしいようで使用は不可。
三つ目は帰ってきた保護班の内の一人の物だった。そして、ここで問題が起こった。
なくした、と言ったんだ、その隊員は。
最初に襲ってきた一般人のときか、人々を保護したときか、いつかは分からないが、なくしたと。
そう言ってきたんだ。
さあ、この状況でこんなことを言ったらどうなると思う?
皆がみんなを疑っている状況で一人だけ怪しい人物が出てきたら。
僕たちは吊ることにした、その隊員を。
人狼ゲームっていうのがあってね。
村人のなかに潜む人狼を見つけて殺すってゲームなんだけど、見つけないと毎晩毎晩、村人が人狼に殺されていくんだ。
人狼を殺す方法は―――多数決。
一番多くの人が怪しいと思った人物を投票して殺す。
所謂、吊るってことだね。
そして、僕らは人狼ゲームをした。
現実とゲームの違いは人狼を全滅させれば、村人の勝ちだけど、村人は嬉しくともなんともないし、命は一つしかないこと。
そして、吊られる人間は―――必ず抵抗すること。
その隊員は抵抗した。それこそ全力で。
その時点で僕は思ったんだ。
あ、こいつ人間だな、って。
たぶん、他の隊員も気付いてたと思うよ。
でも、言い出せなかった。言ったら他の四人が敵になるから。
決着はその隊員が拳銃を取り出したところで着いた。
死因は銃殺だった。
撃ったのは捜索班の三人の内の一人だった。
そして、彼は続けて保護班の残り二人の隊員を撃ったんだ。
彼曰く、こいつらを殺せば俺たちは安全圏だから問題は解決した、らしい。
僕はあそこまで人間に恐怖を覚えたのは初めてだった。
そしてら、パアンって聞き慣れたような音がしてね。
その後、三人の隊員を殺した隊員が倒れたんだ。
横を向くともう僕と二人しかいなくなってしまった隊員が拳銃を構えていた。
もしかして、こいつも僕と一緒でこの隊員に恐怖を覚えて、それで殺してしまったのかと思ったけど、違った。
そいつは狂ったように笑っているわけでもなければ、恐ろしさに顔を歪ませているわけでもなかった。
微笑。
例えるならば、分からなかった問題が解けた小学生みたいな顔をしていたんだ。
こいつは人間じゃない。
そう思ったら驚くほど早く拳銃が抜けた。
そして、撃てた。相手よりも早く。
目の前の隊員に化けていた擬態メタモンは倒れたけど、すぐにスライムみたいになってどこかへ逃げてしまった。
逃げるメタモンに向かってマスターボールを投げる気力は僕には残っていなかった。
死んだはずの隊員で何人かいなくなっていたから、そいつらは全員擬態メタモンだったんだと思う。
こうして、僕は一人になって帰還した。
最後に見た擬態メタモンの微笑は忘れられなかった。
今思えば、あれはきっと拳銃の使い方が分かって楽しかったんだと思う。
学習能力でもあるのかな?』
この自衛隊隊員は今、精神病棟に入院している。
現代ではありえない戦争による
そして、彼自身がメタモンでないかをチェックするためだ。
後にこの証言は映像倫理委員会によって発禁を喰らった。
あまりにも衝撃が強すぎるからだと。
子供たちに悪影響を及ぼしかねないと。
ポケモンに対する偏見ができてしまうと。
そういう理由だった。
もし、この証言が世に出回っていたら、人類は強くなれただろう。しかし、そのチャンスを潰したのもまた、人類だ。
メタモンの反撃はまだまだ序の口だ。
だいぶダークな話にしてみました。
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